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光の薔薇伝記


【―この想いはいつか届くのだろうか…。】
修復士 エルレイス=グロウの墓に刻まれた言葉。
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「おい…エル。」
背中を丸め、出土した過去の遺産の数々が並べられた部屋で、少し白髪混じりの髪をゆらしながら、男は振り向きもせずに後ろに座る青年に声をかけた。
「はぁ………。」
エルと呼ばれた青年に反応はない。
「おい!エル!」
男は声を荒げる。
「………はぁ。」
エルの口から漏れるのはため息だけである。
男は我慢の限界に来たのか、立ち上がり、拳を振り上げ、思い切り打ち下ろした。
ゴスッ!
鈍い音が辺りに響き渡る。「っ~~~~~~!?」
声にならない声を上げてエルは床でのたうち回った。
「ったく!人がわざわざ修復術を教えてやろうってのにはぁはぁため息ばっかりつきやがって!あ?てめーはこれを学びにここに居るんじゃねーのか?ん?」
ただでさえ恐面の男の顔が般若のようになっている。
「す、すいません…教授…。」
頭を押さえ涙を浮かべながら耳ぺたんな感じである。
「どーせまたシスティーナの事でも考えてたんだろう?あいつの誕生日は来週だしな。」
教授の一言にエルの顔がこれでもかと朱に染まる。
「そ!そんな事は…まぁ確かにシスは美人だし優しいし明るいしそれに…。」
どんどん声は小さくなり、最後にはぼそぼそと何を言っているのか判らなくなる。
教授は額に青筋を浮かべ、拳に息を吐きつけ、大きく振りかぶって拳骨を……。
「教授~!頼まれていた資料お持ちしました~!」
溌剌とした声で一人の少女が書類を抱えてやってきた。
「おぉ。システィーナ。こっちだ。」
教授は手招きする。
エル、この時点でぐるぐるしている。
「はーい!…えっと、そこの机で良いですか?」
「あぁ構わん。ありがとうな。」
左手でそろりそろりと扉の方に逃亡を計るエルのマントを掴み、右手でシスティーナの頭をガシガシと撫でる教授。
エルの足はマントを捕まれている所為でつるつると空転している。
「あら、エルじゃない!」
エルの動きがぴたっと止まる。
ぎぎぎぎぎと油を差していないブリキのおもちゃの様に振り向いた。
顔面神経痛のような笑みがその顔には張りついていた。
「や、やぁシス。」
教授はため息を一つつく。
「システィーナ。すまんがこいつを連れて帰ってくれ。今日のこいつに何を教えても無駄だ。」
システィーナの頭上に浮かぶハテナまーく。
「どーしたの?エル。調子悪いの?」
座り込んだエルの目線に合わせてしゃがみ、首を傾げるシスティーナ。
思わず顔を背けるエル。
おそらく赤面で見せられない色になっている。
「い、いや何でもない。大丈夫だ。」
「うーん…でも耳まで真っ赤だよ?熱あるかも。よし!」
そう言って立ち上がるシスティーナ。
「すいません。教授。エル、連れて帰りますね。」
エルの手をむんずと掴むシスティーナ。
「にゃ!?」
「おう。さっさと連れて帰れ。」
「それでは失礼します。」
そのままエルを引っ張ってシスティーナは出ていった。
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「ダメだよ?エル。最近頑張りすぎだよ。」
大学の校内を二人は並んで歩いている。
この頃にはエルの顔の赤面は周りの目に耐えられる程度には引いていた。
「無理をしているわけじゃないんだ。あと少し。あと少しで完成するんだ。」
「光の薔薇?」
「あぁ。じいちゃんの代からの悲願だから。」
頷くエル。
「そっか…。でも無理はしないでね。幸い大学からの援助はまだ続いてるんだし時間もあるんだから。」
「あぁ。判ってる。」
いつのまにか商店街に二人は到着していた。
「ありがとうシス。ここで良いよ。あとは大丈夫だ。」
赤面の理由は体調不良にしておいた。
真実を知られたら俺は恥ずか死にしてしまう。
真面目にエルはそう思っている。
「うん。判った。それじゃあまたね。」
手を振るシスティーナに片手を上げることで返礼し、エルは自宅へと歩きだした。
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「くそっ!何が、何がいけないんだ。」
エルは砂の薔薇を前に頭を抱える。
そこには砂を除去されているが、黒く変色した砂の薔薇が並んでいる。
「じいちゃんが見たっていう透明な砂の薔薇。幻影の薔薇。それがあれば…。本物を見ることが出来れば…。」
エルは焦っていた。
システィーナの誕生日までは後五日。
それまでに…。
それまでに完成できれば…。
俺は、シスに…。

「でも幻影の薔薇なんて神話上でしか聞いた事無いからなぁ…。」
エルはため息をついた。

バターン!
「おい!エル!!ビッグニュースだ!」
扉を蹴り破ってメガネをかけた青年が飛び込んできた。
エルは別の理由で頭を押さえた。
「毎回…毎回…おまえは…扉を壊すなと何度言ったら判るんだぁぁぁぁぁああ!」
「黙れ。」
メガネの青年は華麗なハイキックでエルを黙らせる。
「やっと掴んだんだよ!幻影の薔薇の情報を!」
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レンジャー本島より船で三時間。
未だ未開発であり、危険な為立入禁止区域にも指定されているレンジャー諸島、E島。
そこの砂浜にエルとその親友である自称メガネ冒険家フレグル・アレンは立っていた。
「なぁ、本当にあるのか?こんな所に。」
不安そうに火山を見上げるエル。
昨日の一撃が効いたのか、しきりに首を撫でている。
「任せとけ。俺のメガネは伊達じゃない。」
メガネが輝く。
「まぁ…そうだろうな。…お前、重度の遠視だし。」はぁ…と自信満々のアレンにため息をつく。
「さぁ!出発だ!!」
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自信満々のアレンに、体力不足のエル。
二人は火山洞窟の奥深くに進んでゆく。
ただでさえ暑いレンジャー連邦の、しかも火山近くではその温度はかなりの物である。
蒸せかえる熱気は二人の体力、気力を容赦無く削っていった。
「おい。エル…大丈夫か?」
段差の上から手を伸ばすアレン。
「ま…まぁ…な…んとか……な……。」
息も絶え絶えにエルはその手を掴んだ。
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それから幾つかの難所と呼ばれる場所を何とかクリアーしていく二人。
「…ふぅ。後はこの崖を渡れば情報にあった場所何だが……。」
そう言ったアレンの見る先には細い足場にも見え無くはない道が続いている。
「こ…れは…い…今までに…比べれば、…楽……何じゃない……か?」
エルはへたりこむ。
「まぁそうかもしれないが…今のお前は猫にまたたびより最悪なんだから気を引き締めていけよ。」
もう声を出す気力も無いのか、エルは力なく頷いた。
「よし。先に言って確認する。俺が無事渡れたら呼ぶから。」
ゆっくりと慎重に、アレンは道を進んでいく。
たかだか1メートルかそこらの距離が数十の距離にも感じられる数瞬。
「おーい!エル!ここは見た目よりも丈夫だ!落ち着いて渡ってこい!」
後少しだ…後少しで幻影の薔薇がこの目で見られる。
ゆっくりゆっくり、慎重に細く、不安定な道を歩いてゆく。
後少し…後少し…あと…す………。
体力の限界かエルの意識が遠退いていく。
暗転する視界。
すべての感覚が閉じられ様としたその時。
「よし。よくやった。後は平坦な道のはずだ。ほれ。肩貸してやるよ。」
にやりとほほえむアレンに受けとめられてエルは何とか意識を回復する。
「すっ………げぇ………な……お……前…は…。」
息も絶え絶えに言うエル。
「まぁな。俺のメガネは伊達じゃないんだよ。さあ、そこを曲がれば見えてくるはずだ。」
二人はゆっくりと歩いていく。
そこに広がったのは何もない空間。
温度も落ち着いた広場のような場所。
そして…
「行き…止まり……。」
エルはその場でへたりこんだ。
「そ…ん……な……。」
「外れ…だったか。」
アレンも沈痛な面持ちで呟く。
「仕方ないな。ちょうど火山の熱も避けられる場所だったし、今日はここに止まって…。」
「まだだ!」
どこにそんな力が残っていたのか大声で叫ぶエル。
だがやはりそれが限界なのか這うようにじりじりと辺りを探しはじめる。
「もう止せ。エル。今回は俺のミスだ。それにお前はもう、限界じゃないか。捜索なら、ゆっくり休んでからでも良いだろ?だから」
「時間が……な…いんだ。……シス…に……約…束…した…んだ。二十……の誕……生日に…は…見せ…。」
その時エルの這う地面に罅が入るのをアレンは見た。
「まて!エル!そっちに行っちゃダメだ!」
エルの下に駆け寄ろうとするアレン。
しかし、遅かった。
エルは崩落に巻き込まれ落ちていった。
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「ふーんそれで死んじゃったから最初にお墓の事を書いたんだにゃ。」
双樹の頭の上で垂れながら夜星が口を挟む。
「え?あ、あぁ。そうか。そうも読めちゃうのか。」うーんと双樹はペンを置く。
「ちがうのかにゃ?」
双樹は苦笑する。
「まいったな。じゃあエピローグで判りやすい様にしよう。」
双樹はペンを再び持って筆をすすめる。
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エルが崩落で巻き込まれ、落ちた先は小さな空洞だった。
体は動かない。
死ぬのかな。
そう思った。
―まずいよな。なんか光が見える。
視界の端にかすかに移る淡い光。
まるで、薔薇のように折り重なった…!?
薔薇のように!?
動かない体に無理矢理鞭を入れそちらを向く。
幻影の…薔薇。
やっと、やっと見つけた。
「ぉーぃ。」
遠くからアレンの声がする。
「あ…ぁ。こっち…だ!」
辛うじて声を絞りだし、そこでエルの意識は完全に暗転した。
そこからのことはあまり覚えていない。
気が付けばあの場所に建てられたテントで目が覚めた。
後は下山して、それから…。
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二人の男女がとあるお墓の前で寄り添っている。
墓前には光り輝く結晶の薔薇が備えられていた。
「ねぇ、このお墓に書かれた言葉って何なの?」
「これが、光の薔薇を研究しはじめた動機なんだよ。」
「これが?」
「そう。この研究はじいちゃんの初恋の人のための物だったんだ。ただ、想像がつくだろうけど研究は完成せずにその人は死んでしまって…。」
「引き継がれてきた。とゆーわけか。」
少女がしゃがんで墓を見つめる。
「…届いた。かな?」
「届いたんじゃないかな。」
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「よし。コレで終わりっと。」
んーと双樹は伸びをする。
「最後にっと。」
さらさらと最後のスペースにこうしるす。
【光の薔薇伝記―エルレイス=ブライト編】完

(文責:双樹真)