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巣立ちの空

●妃烏に託くす想い


 

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理想としての存在だった燕姫を、
リアルという観点で見直したら、色んな事が見えてきた。
あの人と仲間と作った娘が 変わってしまうのは寂しいけれど
だけどそれがリアル
私たちは戦争と動乱のNWを生きているのを忘れてはいけない。

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「なんか凄い事になってますね…」
技術研究所の一室、レンジャー連邦に2人しかいないエンジニアの片割れへと差し入れのコーヒーを渡しながら、一人の大柄なフィクションノートの青年が呟いた。
コーヒーを渡した相手、彼女…むつきが作業の為に借りた部屋は、研究者が寝泊まりする用に作られた簡素な作りのもので、朝日の入る窓際に置かれたデスクの他には、衣類を仕舞う小さなクローゼットだけである。
そんな所で毎日作業をしていたものだから、徐々に増えていく資料と素材サンプルがデスクの上だけでは間に合わず、備え付けのベッドの上をも占領しているという状態に彼は思わず顔をしかめた。
「体に良くないですよ、ちゃんと寝て下さい」
「あー、ありがとう真さん。一応寝てる、というか気づいたら寝て…ゲフンゲフン」
双樹の小言に一つにまとめられた銀の髪を誤魔化す様にかきかき、えへーと彼女は笑う。
良く見るとデスクに突っ伏していたのだろう額の辺りが赤く、それに気付いた青年は肩を落とした後、
「寝落ちしてるだけじゃないですかー!」
と拳を振り上げ声を上げた。
「あはは、…でもまあ今日はちゃんと寝るよ、改修プランが出来上がったんだ」
むつきはけろりと返事を返すと、ノートパソコンに繋がれたプリンターの出力用トレイに出された紙の束を取り、データを納めたCD-Rと共にファイルケースへと丁寧に入れた。
「あ、じゃあベットの上片すの手伝いますよ」
青年…いや改修に関して彼女の手伝いをする事が決まっていた双樹真は、そう言いながら働き過ぎの仲間の為に笑顔で腕をまくり、ダンボールで塞がったベッドを開けようと体の向きを変える。
「いやいや、向こうで宿でも取るし」
「へ?」
が、背後で彼女の立ち上がる気配とその言葉に固まり、ぎぎぎと首だけを彼女の方に向けた。
昨日用意したのだろうか、小さな旅行カバンに図面や必要なサンプルが詰まったケース、そしてプランの納められたファイルケースをカバンに突っ込んでいるのが見え、彼は口を開けたまま目を点にする。
「え、あ、むつきさん!?」
「ちょっと、無名騎士藩国と、宰相府に行ってくるね☆」
前に…ちょっとそのへん散歩してきまーす、と言った時と同じ口調だった。
「はい、っていやいやそんなに急がなくても、一休みしてから…」
双樹は普通の反応として、このところ働き詰めの彼女を心配して言うのだが、技術屋の彼女にはその常識は通じない。
「GENZ王忙しい方だから会える時にお話聞いておきたいし、宰相府にはうちの人が良くしてもらった整備士長さん達がいるんだ」
「はい…」
「今回、前の様な摂政と夫からのサポートが無いから、私が水面下で独自で動く事になるのだけど。」
もちろん逐一藩王と摂政に報告しながらね、と間に言葉を繋げてむつきは腕を組む。
「私、エンジニアとして一人立ちするには、まだまだ勉強が足りなくてね…」
「はい……」

「向こうでも、この件内密に動いてくれるそうだから、プラン見てもらいながらこの際勉強もしてくるよ」
しょぼしょぼとなる彼と対照的に、どこか楽しそうなむつき。

それもそのはず。滅亡寸前からの自国の復興に追われながらも、鋼の王とその仲間達のメカへかける情熱と造詣の深さを彼女は尊敬していたし。航空機にかけて先端を行く宰相府で、技術を学ぶ事は彼女に取ってとても良い機会になるからだ。
これは以前なら出来なかった事であったが、現在整備士達の全国を上げた技術向上が行われ、国境の無い交流を推奨している事を幸いとばかりの行動であるが、非常に有益な事なので
青年が止める理由も無く…。

「ええと、気を付けてくださいねー…」
双樹はやっとそれだけなんとか言い、だったらせめて彼女の荷物を空港まで運ぼうと顔を上げると、資料を収めたカバンをむつきの手から取って、ため息つきつき先を歩き出したのだった。


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立ち上る火葬の煙を見たあの日、大切なものと引き換えに、
ようやくNWの地に両の足が着いた気がした。
私に足りなかったものってなんだろう?
本当に守りたいものは何だったのだろう?
私は独り考える。

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「GENZ王、ラスターチカの改修で望む事ってありますか?」
無名騎士藩国の王城、謁見の間らしき部屋に通されたむつきは、お土産の菓子折を渡して挨拶を済ませた後に、示されたテーブルの席に着くなり開口一番そう言った。
下手な変化球は持っていないので、直球である。
ターバンを巻いた下にある王の顔はたいそう疲れを滲ませてはいたが、彼女のその言葉に目を輝かせると身を乗り出した。
「攻撃力ですね。対空の能力に問題はないので近~遠の何らかの攻撃力」
普段の彼はというと、共和国大統領の下ARパズルやら試算などに頭を悩ませ、戦術に関る事を彼の友人達と共にやっているが、本来はメカを愛する技術屋の魂を持つ男であって、ありがたい事に燕姫を好いてくれている一人でもあった。
「あとはエンジンのチューンとかですかねえ…エンジン強くなれば、その分をあらゆる性能向上にまわせるので、エンジンが最重要です」
「エンジンは大事ですからね、後はどうでしょう…」
「他は…そうですね…」
がりがりと次から次へと摂政が出して来る自国と共和国の仕事をやりながら、バージョンアップするラスターチカの事を楽しそうに話す彼の様子にむつきは嬉しくて笑みを浮かべた。
このお礼は、自分がこの国の大学で航空機関連の技術指導を行う事でしっかり返そう、と彼女は思いながら、ファイルケースから持ってきた図面とプラン、素材サンプルを幅広のテーブルに広げると本格的に話し込む事に。
そうして足りない部分を話し合いで埋めながら、これでおおよそいけるだろうという所まで持って行った所で鋼の王との長い謁見は終ったのだった。


「うわー、凄い夕焼け…」

王城の外へでたむつきは思わず声を上げる。

時刻はいつの間にか茜さす夕暮れ時になっていて、門の向こう側を見ればひっそりとした夜の帳が徐々に街へと降り、街灯が灯り始めているのが見えた。
午前中にレンジャー連邦の空港を出て、王と謁見できたのは午後のお茶の時間ごろ。それからずっと話し込んでいたのか、とむつきは苦笑いながら王城の門を潜り、一人歩きは心配だからという配慮で付けてくれた寡黙な護衛と共に、宿泊先へと向かう道を足早に歩く。

そうして感慨深く思いながら、むつきは「綺麗だなあー」とつぶやいた。
赤い、赤い夕焼けの空…あの人もこの空を見ているのだろうか…。

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この空の下には大切なものがたくさんあるのに
全部をこの手ですくい上げる事はかなわないことだった
だけど何もできない訳じゃない
私は風を切り飛ぶ鋼の翼に想いを託し
愛する人の命と 大切な人達の笑顔を守ろう…そう思った

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「元が小型機なんで、結構厳しい、と?」
「はい」
宰相府空軍空港の整備士長フジオカ・ヒロシ氏は、航空機仲間の奥さんの来訪に仕事を部下に押し付…託して人の出払った詰所にやってきて、彼女が持ってきた手土産を早くももぐもぐさせながら渡された図面をじっと眺めていた。
ちなみにお菓子はレンジャー連邦特産のオレンジと干しナツメの入りの焼き菓子である。
「まあ確かに、ラスターチカは宇宙機としては小型ですからね」
「エンジン部分に関して、小型化して搭載兵器スペースを確保したかったけど…燃費が悪くなって航続距離が落ちるし、かえって性能が悪くなってしまうんですよね」
「ご主人はなんと?」
むつきは整備長の問いかけに肩を竦め、出されたコーヒーを口にする。
「…今回は助力無しです」
難しい、と言ったのは、国のもう一人のエンジニアであるむつきの夫なのだが、彼の方はというと現在スクランブル部隊訓練指導官の任に着いていて、忙しい日々を贈っていた。
「…色々事情はありますが、いつまでも彼に甘えてばかりじゃ技術者として駄目ですし…」
「まあ、そうでしょうね」
「はい」
彼女は頷くと、摂政が見せてくれた彼の部隊指導報告書の陳情部分を思い出す。
今の任で必要とするもの項目に丁寧な文字で書かれていたのは「燃料搭載量の増大」。
現行飛ばしているのは燕姫の方だから、これは改修への遠回しな助言…なのだろうか?と首を捻ったが、丁度エンジン周りで悩んでいた時だったので、ありがたく感謝しながらプランの中に組み込ませてもらっていたのだ。
「エンジンは性能が上がった分燃料を消費するので、胴体ちょっと伸ばして燃料タンクの容量を増やし、増槽をオプション装備できるようにします」
「それが良いでしょう」
整備士長は彼女の言葉に頷いた後、笑顔を見せた。
「さて…そろそろ自分は現場に戻らないといけないんで」
「あ、長々とすみません!」
多くの整備士達を束ねる彼は多忙のひとである。

むつきは広げていたものを仕舞うと話し込んでしまった事を詫び、席を立つと「よろしくおねがいします」と頭を下げた。

実の所、彼女がここに来た目的は彼に会うだけでは無く、この国で腕と知識を磨く事にあった。
航空機に明るいこの国で学ぶ事は、彼女にとって大きな意味を持つ。
たとえ短い日数ではあっても、それは後々彼女が進めるMEIDEAの改修の中で生きて行くのだ。
「ここにいる間、多くを学んで行かれると良いですね。整備士同士の交流が盛んな今ならできる事なんで、前なら簡単にできる事では無かったですから」
「ええ、ありがたいことだと思います」
「しかし、熱心で良い事です」
「守りたいものがあるから、必死なだけです」
「ははは」
笑いながら二人並んで詰所を出る。
ふと、強い日差しがそそぐ窓の外へ視線を向ければ、見えるのは遥か先まで白い砂の世界…その奥そびえる水の塔の姿が水蒸気の雲の中幻のようだ、と彼女は思いながら砂の感触がする廊下をその足でしっかりと踏み締めた。

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パイロット達の命を乗せるのは 人が生み出した鋼のとり
巨大なエンジンが生み出す膨大なエネルギーと
緻密な計算で作り上げられたパーツの一つ一つが
地へとどめようとする重力を振り切り空を飛ぶ
それは一つの奇跡ではないだろうか

 

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夜明け前…
レンジャー連邦空軍基地の格納庫の中、シートをかぶせられた「ヴァローナ」は静かにその時を待つ。
国外どころか国内でもその機体の情報を知られることなく、ひっそりと一人のエンジニアと一部の関係者によって作られたため完成までに1年を超える長い時間を要したが、とうとう白き燕姫は黒の妃烏として巣立ちの時を迎えようとしていた。

むつきは1機のヴァローナに乗り込み、強く美しく成長したわが娘にほほ笑む。
機体を形作る無数のパーツ一つ一つに関わった人たちの想いが込められている気がしていた。
「おはようDama、調子はどう?」
『イエス、アイマム。問題ありません、すべてオールグリーン、バッジシステムとの連動も良好です』
「OK、いい子いい子ー」
親馬鹿なんだろうけど、いちいち可愛くて困るなあー、と彼女は思いながら笑うと操縦桿を愛おしく撫でる。
それから…意を決したように一つ深呼吸して、口を開いた。
「…ねえDama、この機体に私の夫が乗る事になるんだけど」
『ハイ、本日の搭乗パイロットとして登録されています』
「では、彼があなたに乗りこんだら…、一つ伝えてくれないかしら」
『了解しました、ドラケン氏へのメッセージを記録致します。10秒後にどうぞ』
「ええ、頼むねDama」
むつきはもう一つ深呼吸して、閉鎖型コックピットの天井を仰ぎ苦笑をこぼした。

 

これが改修最後の仕上げになるのは変な話だけどね…
 

「愛するカールへ
  あなたとレンジャー連邦の仲間達に、このヴァローナを託します。
  この子が空を飛ぶあなた達パイロットの命を守り、
  そして、NWの空の下で暮らす人達の笑顔を守る力となりますように…。
                               皆の無事を祈りながら、 むつき」


『記録完了、音声データは正常に保存されました』
「ありがとう、どうかこの国のパイロット達をよろしくね、Dama」
「イエス、マム。お任せ下さい。」

 

一人のエンジニアは最後の仕事を済ませると、ヴァローナに自身の想いを託して格納庫を後にする。
そして、長い夜を終え、明けゆく「巣立ちの空」を見上げながら、人気の少ない朝の滑走路をゆっくり、ゆっくりと歩いたのだった。

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白い翼を夜の黒に染めてもなお
その背に背負うは明日への希望
弛まぬ愛を 鋼に包まれしその身に宿し
戦いの空を舞い踊る


空の王よ わが君よ
この身と魂はあなたと共に
長き夜を越え 輝く夜明けの光を見るために
私はあなたと戦場を飛ぶのです


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巣立ちの空 完

 

 

サービスエピローグへ

 #携帯からは見れませんので、携帯用イラストギャラリーにてご覧下さい。

 

 

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#宰相府整備士長、フジオカ・ヒロシ氏、無名騎士藩国GENZ氏の出演許可を

#質疑回答にて芝村さんと、GENZさんご本人に頂いております。

#ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

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