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法を守るものと、法から民を守るもの、法官と護民官。

その合格率は3割程度とされており、現在のペースでいけば採用者は4~5人であろうと推定されている。我がレンジャー連邦からは藩王を含む4人が受験を既に志願していた。

情報を泳ぐフィクショノートたちにとって互いを参考にし、より高度に解答を洗練させることは容易いはずであった。だがそれをするものに法も民も守る資格はない。受験者達は、それぞれが誇りをもってこれに挑んだ。


 * * *


 「こりゃ落ちたな」


自己採点後、男は頬杖ついて諦め顔で呟いた。しゃっぽを脱ぐ、である。くるくると指先でトレードマークの黒いつば広帽子を回して、同時に藩王への敬意を改めて深める。俺が試験官なら絶対藩王は採る。たとえそのI_Dressが舞踏子であろうが、絶対この資格だけは持たせておく。ある意味安心だ。上に戴くのにこれ以上ない人材の1人と、確実に今、接していられるのだ。

まあ、不合格は痛いが、自分以上の人材に任を任せることには何の異論もないどころかむしろ大歓迎。

他国の解答案を見回す。詩歌藩国、冬の京、世界忍者国、え~藩国……いずれ劣らぬ立派な解答ばかりである。というか、見ててちょっとへこんだ。

みんなの答えと比べて自分の答えに抜けてるところがある。公開試験とは残酷なものだな。はう。

この男、混戦になるとすぐ諦める癖があった。それゆえ今も、ドランジ祭りの取材をほっぽって1人落ちこんでいた。

そして数瞬後に、ドランジ祭りの取材をするため、受験したことをあっさり忘れることにした。復習が終わったならそれ以上やることはない。とっとと忘れて切り替えちまおうという腹である。

情報には旬の移り変わりがある。今が、それだ。

さいわいこの祭り、国内での目玉になりそうな最初の記事の中身は誰が見ても決まっていた。しんなり寝ていた耳と尻尾が、やる気でまたぴょこんと立ち、それから淡く黒い光の粒子になって消える。

受験用にまとっていた職業用I_Dressデータをすっ飛ばし、文族としての最低限の身軽な姿に立ち戻ったのだ。

男は一気に試験会場の裏手から飛び立った。


 「さーて、まずは摂政殿からインタビューでも引き出すかね…!」


 * * *


 『皆様、ようこそいらっしゃいませ。この度、「ようこそドランジさん祭り」の指揮を執らせて頂きます、レンジャー連邦摂政の砂浜ミサゴです』

 「おっと、始まっちまってるな……」


王都で開かれていた開会式の会場裏に、すべりこむようにして降り立つと、飛ばされないよう抑えていた帽子から手を離し、さっそくスピーチの様子を文でスケッチし始める。

会場にひしめくのはどれもドランジファンのにゃんこ(ないしわんこ)ばかりである。壇上に立つ摂政も含めてみな、お祭り騒ぎに乗じて浮かれているだけのわんにゃんとは一線を画した「おもてなすぞオーラ」でむんむんと沸き立っていた。ファンの熱気は、熱い。この焼き付けるような陽射しより、熱いんじゃなかろうか。

行商から、食糧増産計画の時に新開発された萌えオレンジジュースを買って、くぴくぴ飲みながら会場を見回した。

西国特有の砂塵避けをわざわざ買って身にまとい、じっと『時』を待っている他国のフィクショノートたちの姿を見ているのは、なかなかに新鮮で心地いいものがあった。エースユニット獲得は国家の枠を超えた交流の醍醐味をも生む。いいことだ。

今回のエースユニット獲得国は他に、詩歌藩国の森精華、FEGの原素子、芥辺境藩国の瀧川陽平、世界忍者国のロジャー、玄霧藩国と鍋の国の岩田裕。

このうち、世界忍者国がロジャー来国の記念祝賀会を開催している。他にも『森さんと原さんはセットで考えよう』運動や、鍋の国と玄霧藩国のどっちに今は岩田がいるのかしらという確率的な問題までをも含めて、フィクショノートたちの関心は尽きない。

キャラ愛あってのゲームか。自身も、どこかでなっこちゃんこと斎藤奈津子が登場した時のことを考えると落ち着いてはいられない。というかそもそも前回の出撃ってそのなっこちゃん防衛戦だったような気もするがどういう理屈だったんだろう。

気になることが、まだまだあった。つい、文族としての分を超えてしまいそうになる。


 『…皆が楽しめる――また、第一にドランジさんが楽しめるような祭りにすることを考えてゆきましょう。』


おっと。
男がよそごとを考えているうちに、開催スピーチはいつの間にかまとめに入っていた。

摂政の様子は同じファンたちを前に堂々たるもので、後ろで見守る藩王もにこにこと微笑ましそうにしている。この藩王、摂政を可愛がることしきりであり、自身の不在時において全権を委ねる相手ととても仲がよい。

その藩王の口が、進行が最後のしめの段に入るにいたって、楽しそうに口パクで動き出した。


 ( ミサゴちゃん、
   が ん ば れ !)


ゆったりとした足取り。

周りを行き交い、足を止めて彼を見上げる国民達とは明らかに異なる服装、長身、彫り深くだが穏やかな落ち着きを湛えたその面立ち。

そうこう描写している間にも、男の傍らを通り過ぎ、通り過ぎようとして、


 「失礼」


目の前を通る際の会釈を交わしていく。ずるんと壇上から音。見れば摂政が明らかに動揺した様子で、慌てて体勢を直しながらスピーチを締めていた。わたふた表情が平静を装いきれてない。あ、こっち見た。

藩王を見る。にこり、立てられている親指。タイミングもばっちりに、こちらに向かって「してやったり」と意気溌剌に親指を立てて見せていた。

なるほど…ちょっとしたサプライズってわけか。

にやりとする男。親指を立て返す。現場に張り付いている他の国民たちも、すごくいい笑顔でみな一様に藩王へとサムズアップ。ある意味とてもヤな団結力だ。きっとこの様子をあとで見た摂政はじだんだを踏むことだろう。それとも、舞い上がっててそれどころではないかもしれないが。


 * * *


さて。

ここはもういいだろう。インタビューこそ出来なかったが、ネタはしっかりもらった。まだまだ書くべきところはいっぱいある。

あとはみんなに任せて、次のネタを確保しに行くとするか―――!

 * * *

男は飛ぶ。一路夜の星見祭りの現場へと向かって、時間という名の情報を泳ぎ―――

 * * *

-The undersigned:Joker as a Liar:城 華一郎

※ちなみにこのあと摂政とドランジがどうなったかは、さらなる続報が待たれている。
最終更新:2007年01月29日 04:51