「はぁ…」
ラスターチカのドックの隅で双樹は盛大なため息とともにごろごろしていた。
「こら!馬鹿!離せ!」
双樹のその右手にしっかりと捕まれた黒い尻尾の持ち主、猫士の夜星がげしげしと双樹を蹴りながら暴れている。
整備の邪魔をされて不機嫌なようだ。
「夜星~夜星~」
「煩い。うざい。キモい」
「… ぐぅ。お前なんか最近きつくない?」
「ヘタレを甘やかすつもりはない」
「それに最近は喋り方もみんなが居るときと違うじゃ無いかよぅ…」
ぐいぐい尻尾を引っ張る双樹。
「ヘタレに使う気も持ち合わせちゃいないからな」
猫パンチで双樹を吹き飛ばし夜星は尻尾を毛繕う。
「で、一体何をぼやきに来たんだ?」
毛繕いをしたまま双樹を見ずに言う。
「あーそのー」
「はっきりしろ。うざい」
「うざいうざいゆーなよー。凹むぞ?驚くほどべこべこと凹むぞ?」
「やってみろ」
数秒の沈黙。
「……べこべこ」
呟く双樹。
「で、一体何を…」
「スルー!?無視!?ツッコミも無いの!?」
「で、一体何を…」
「うぅ…姫ー姫ー夜星がいじめるよぅ…」
しくしくしくとラスターチカに倒れ込む双樹。
「女性にすがるな馬鹿野郎。とゆーかお前は一体こんな所で何をしている」
「整備ー」
猫パンチ。
吹き飛ぶ双樹。
「貴様の言う整備はアレか?わざわざドックで点検整備をしている勤勉な猫士の邪魔をしたりごろごろする事か?」
「ぶったね…親父にもぶだぁ!?」
猫パンチ。
吹き飛ぶ双樹。
「いぃから手伝え」
「…はい…」
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無言でラスターチカの整備を続ける二人。
先の戦闘での出撃は無かったとはいえラスターチカは超音速機だ。
ほんの少し。
ほんの少しの整備の不備が大事故を引き起こしかねない。
「…よし。全機体チェック終了っと」
伸びをする双樹。
「お前が邪魔しなけりゃもう少し早く終わったんだけどなぁ」
双樹の頭に飛び乗りぺしぺしと頬を叩く。
「うぅ…悪かったよ…ただ蒼仮面楽団が狙撃犯のせいで使えなくなってから暇でさぁ…」
「なんでだ?別に正体を明かせば良いだろうに」
夜星を頭に載せたまま双樹は歩きだす。
「明かせる訳無いだろう。よかれと思ってやった事とはいえ、結果的には国民のみんなを騙していた訳だし…」
「そんなもんかねぇ」
「そんなもんだよ」
「めんどくさい奴」
「性分だからね」
食堂にたどり着く双樹。
「で、どうするんだよ」
いつのまにか双樹の頭から降りてトレイを受け取る夜星。
今日は塩サバ定食らしい。
「うーん…とりあえずは治安も安定したみたいだしなぁ…」
適当な席に腰を下ろす。
「狙撃犯の件もあるしこのまま活動は無理だろうねぇ」
双樹は塩サバをつつきつつため息をついた。
「だから正体を明かせば…」
「それは駄目だ。例えどんな嘘だろうと嘘は嘘だからね」
「隠すのが誠実さだとでも思っているのか?」
「つきとおすのが道理だと思うだけだよ」
「気づかれてるかもしれないぞ?」
「気づかれていても、だよ」
呆れ顔でため息をつく夜星。
「答え出てるんじゃないか。俺に愚痴るまでもなく」
「誰かに聞いてほしかったんだよ。ヘタレだからね」
「偽善者め」
ニヤリと笑い夜星が言う。
「知ってるよ」
そう言って双樹は手にしたお茶を一気に飲み干した。
(双樹真)
最終更新:2010年04月25日 16:01