照りつける太陽に青い空。
見渡す限り一面の木々。
人々の喧騒から離れた場所に位置する、レンジャー連邦西部果汁園。
太陽の光の差す木々の下で語るは、2つの光。
恋するものの傍らに現れ、その恋愛劇を見守るという妖精テタニア。
その妖精と共にあれば、幸せな恋が叶うというレンジャー連邦に伝わる御伽噺。
その伝説の存在が、今目の前で声を上げて楽しそうな声で笑う。

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「う~ん、美味しいの~」
人間なら小さなサイズの果物を、幸せそうに口一杯にほおばる妖精シュー。
「ほら、果汁がたれてるわよ。こっち向いて」
その様子を見て、笑いながら口元を拭くもう1匹の妖精ラヴ。
「う~、ラヴちゃん、なんかお母さんみたい」
「なっ、せめてお姉さんとかにしなさいよねー」
くすくすと笑いながら果物を食べ続けるシューに、毒気を抜かれて微笑むラヴ。
「そんなに食べたら夕飯が食べれなくなっちゃうわよ!」
「ふふん。自慢じゃないけど果物とシュークリームは別バラなの!」
ふんぞり返って自慢げに答えるシュー。
「ふ~ん、そう」
その言葉を聞いてにやりと笑い、続けるラヴ。
「ただね~、そんなに食べてると太っちゃうわよ」
「のっ・・・」
変な悲鳴を上げつつ、食べる手が止まるシュー。
妖精とはいえ女の子、その言葉は禁句であった。
「の~」
目の前の大好きな果実を見て悩むが、可愛いと言ってくれる大好きな人が頭をよぎる。
「ちょこちゃんっ!シューはもうおなか一杯だからあとは全部上げるな、の!のー!」
心残りがあるのか、興奮気味に叫び下にぽいぽいと果物を渡すシュー。
「みゅー」
その光景を見てうれしそうに声を上げて果物をかじる動物がいた。
つぶらな瞳に、大きな鼻、齧歯類にしては不自然なまでに大きい体格。
カピバラのちょこである。
「それにしても、こいつ見るたびに大きくなるわよね・・・って、はや」
地面に落とされた山のような量の果物を一瞬で平らげるちょこ。
「みゅ~ん」
かわいらしい仕草でおねだりをする。珍しい動物にかわいらしい仕草。
街では人気者であり、人々が際限なく上げる餌のおかげで今や立派な体格である。
「ちょっとは遠慮しなさいよねー、あんたのせいでうちのエンゲル係数80%超えてるのよ」
カピバラの飼い主は無職である、収入が少ないのもあるがエンゲル係数があがったのは間違いなく目の前のちょこが原因である。
以前は日々食べる分だけの収入を得ていたが、最近はちょこの食費稼ぎによくバイトをしている。
「みゅー・・・みゅ~ん」
悲しそうに声を上げるが、ふと何かに気づき嬉しそうにそちらに走っていく。
「帰ってきたみたいだね、あの人」
「ふ、ふ~ん、そうなんだ」
ちょこの走っていったほうを見つめるが、シューの言葉に顔を背け答えるラブ。
それでも気になるのか落ち着かない様子である。
「おーい、ラ~ヴ~、どこだー帰るぞー」
大きな声でラブを捜す男の声。
「ほら、呼んでるよ、ラヴちゃん」
その声に嬉しそうな表情を上げるが、シューが見ているのに気づいてその表情を隠そうとする。
「そ、そうね。そろそろ帰ろうかしら」
その姿を見て微笑みつつ答えるシュー。
「うん、大好きなあの人が読んでるんだから早く行ってあげなきゃね~」
「な、何いってるのよ、あいつはそんなんじゃ・・・」
否定しようとする声が大きな声にかき消される。
「お~い、俺のラブちゃんや~い、どこだ~」
「ば、ばっかじゃない。誰があんたのものよ、恥ずかしいからそういうこと言わないでって言ってるでしょう」
真っ赤な顔をして、ちょこを抱えた男に向かっていくラヴ。
その微笑ましい光景を見つつ、自分の大好きな人を思い浮かべるシュー。
今頃は、自分のためにおやつのシュークリームを焼いてるのだろうか。
その光景を想像して、会いたいという気持ちが膨れ上がる。
いてもたってもいられず、家路を目指し空に向かっていく妖精の姿。

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様々な事件が起こり激動するニューワールド。
平和なお国柄であるレンジャー連邦も、不安に包まれている。
だが、今この果汁園は平和な雰囲気に包まれていた。

(冴木悠)

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最終更新:2010年04月25日 16:06