世界は戦いに満ち溢れている。
それは、このアイドレスにおいても然り。
犬と猫の果て無き戦い。
無名世界観においても、幻獣、竜、人と人。
様々戦いが繰り返されたが、その中でも最古の戦いがこのレンジャー連邦の地において繰り返される。
/*/
畳に襖、囲炉裏に掛け軸。
砂漠には似つかわしい日本風の家屋。
玄関の板には荒々しく墨で書かれた『舞竜庵』の文字。
そこは藩国に逗留するカール・T・ドランジを歓迎して作られた家であった。
その中で、押入れの衣装棚をあさる影。
「イイイィィィ!!!この芳しい匂い。まさしく彼のものです」
その靴下に、直接顔をつけおいおい匂いを嗅ぎながら泣き出す影。
「ついに、ついに見つけましたよ。レンジャー連邦に来て苦節2年、ついにACEの靴下が俺のものに」
恍惚とした表情で一人ごちていた影が、ふいに真顔になる。
「誰だ・・・」
「娘ラブ」
合言葉なのだろうか、その言葉をつぶやきつつ柱の影から現れる一つの影。
「ソックスクロヤリか。首尾はどうだ?」
「問題ない、主力は出撃中。残った面子も念のために会議室に集めておいたでござる」
「上出来だ、これで遠慮なく狩りができる。問題は連絡の取れない数名か」
「そちらに関しても保険があるでござる」
「保険?」
ソックスクロヤリの指差す柱の奥からはむーむーとうめく声。
「ソックススウィートにソックスドラゴンか。、確かにこいつらなら風紀委員の手も鈍るというもの、よくやった」
む~む~
(僕は靴下に興味はないんですってば~)
(ドラゴンはともかくソックスはやめて~)
うめく2人の言葉を聞きうれしそうにくねくねと数回転し、手を掲げるソックスクロヤリ。
新手の敬礼だろうか。
「すべてはソックスのためにでござる」
にやりと笑い、同じようにくねくねと回り手を掲げるもう一つの影、ソックスブルージャスティス。
「すべてはソックスのために」
/*/
むーむー、ばたんばたん。
靴下について語り合う後ろで暴れる音。
「ふむ、それにしてもこの格好で猿轡をかまされて暴れる少年。こう、ぐっと来るものがあるでござるな」
『・・・』
それを聞いて暴れる音は消え、部屋の中に沈黙が広がる。
「・・・さすがはソックスクロヤリ。何でもありか」
「拙者が進むべきは茨の道、自らの証明のためなら何でもやるでござるよ」
「自らの証明のためなら、ソックスハンターになるのもいとわないか。それは人からは蔑まれる外道の道、覚悟はあるのか」
「望むところでござる」
これ以上はないというくらいに澄んだ笑顔で答えるソックスクロヤリ。
その笑顔を見て仕方ないなと微笑むソックスブルージャスティス。
「靴下のためにではなく、変態の証明のためにハンターになるか。時代は変わったな」
昔はよかったと、過去に思いを馳せるブルージャスティス。
「そういえば、同士の気配を最近国に訪れた女子から感じたでござるよ。」
「ふむ、新しいハンターの到来か。忙しくなりそうだな」
「今は国外の騎士団を戦場に頑張ってるようなので、帰ってきたら接触を取ってみるでござる」
『ピピピーーーー!!』
話す2人の後ろから響く大きい笛の音。
「グリーンか、久しいな。」
部屋の手入れに来たのか舞龍庵の入り口には、ぷるぷると震える女性が一人。
「あ、あなたたちはドランジさんの部屋で何をしているのですか」
「知れたこと、俺たちが行動する理由はただ一つだろう。靴下を狩るためだ。」
女性の右手にはいつの間に巻いたのか風紀委員の腕章。
「靴下を狩るためだ・・・じゃなーーーい!」
言葉と共に取り出すのは、バズーカである。
グリーンと呼ばれた女性は、躊躇せずそのバズーカをぶっ放す。
2人はバズーカが構えられるのを見るや左右に別れ、柱の後ろに隠れる。
「ブルージャスティス、いい加減に決着をつけましょうか」
クロヤリの隠れた柱にも注意しつつ、ブルージャスティスの方に照準を合わせる女性。
「ふっ、お前だけじゃ役不足だ」
その言葉と共に柱から飛び出してくる影。
「もらった、覚悟」
飛び出した影に向かって引き金を引こうとする、女性。
しかし、その飛び出してきた影は彼女にとって予想外のものだった。
「えっ・・・ハニー君に、てっしー君って。ええー!?」
そこに転がるのは、無残にも上着を剥ぎ取られ下着と靴下のみの状態で、縛られ猿轡をかまされた2人の少年。
動転する女性の後ろに回り、靴下を嗅がせるブルージャスティス。
「ふ、おまえ自身の2年物だ。安らかに眠れ」
あまりもの刺激臭に一瞬で意識を奪われる女性。
「自らの靴下にて止めを刺すか、さぞかし屈辱でござろうな」
「む、来たか。インディゴ」
「よく分かったな」
にょろんという不可思議な効果音と共に、壁の絵を書いた風呂敷を持った男が部屋の隅に現れていた。
ぱちん。
指を鳴らすと、入り口から大勢の女性。
皆が皆、先ほどの女性と同じ風紀委員の腕章をつけている。
各々に重火器を構える女性たち。
ギャグSSで人は死なないとでも思っているのだろうか、洒落にならない対応である。
その光景を前にうれしそうな表情を浮かべる2人のハンター。
「ふ、始めようか。飽くなき戦いを」
その言葉を皮切りに一斉に火を吹く重火器の数々。
今、ここに古来よりの戦いが再現されたのであった。
/*/
迫りくる銃弾。
「これはさすがにやばいでござるか」
「なら、やるか」
「承知」
今日の戦利品であるACEの靴下を左手に、先ほどの女性からかつて奪った2年物の靴下を右手に。
それを躊躇せず直接顔に付け匂いを嗅ぐブルージャスティス。
「きたきたきた。むっふーーーーーー!!」
また一方では、かわいい子供用と思われる靴下を顔に近づけ、今までに見たことのないやさしい表情を上げるクロヤリ。
「この匂いが拙者をあらな舞台に引き上げてくれるでござるよ。ふうう、ふぉーーーーーー!!」
この2人いろいろな意味でぎりぎりである。
それは人類のなせる技なのか。
2人のハンターは迫りくる銃弾をかいくぐり、じわりじわりと風紀委員に近づいていく。
「埒が明かない、吹っ飛ばせ!」
インディゴと呼ばれた男の焦る声を受け、何人かの風紀委員がバズーカを構えぶっ放す。
すさまじい爆音と共に、家が崩れ煙が立ち昇る。
「しとめたか」
「いや、あれを」
「なにっ」
風紀委員が指差すのは、爆発の上。
爆風を利用して飛んだのか、ジャンプでは到底届かないであろう高さを飛ぶ2人の男。
ハンターの2人である。
「とうっ、むはあ!」
靴下を両手に、掛け声を上げ上半身をはだけるブルージャスティス。
「拙者今までの人生で一番輝いているでござるよ、ふぉー!」
可愛いミニサイズの靴下を手になにやら勘違いした台詞を上げつつ、こちらは上下はだけるクロヤリ。
その下には、見事な赤褌に靴下のみ。
紛れもない変態である。
くるくると新体操選手顔負けのきれいなひねりを入れつつ風紀委員の中に飛び込む2人のハンター。
「い、いやー」
あまりの事態に恐慌に陥る風紀委員の悲鳴だけが無常にも当たりに響き渡った。
/*/
部屋の隅で震える2人の少年が見たものは恐ろしい光景であった。
重火器を持った人を相手に半裸で靴下を武器に一人、また一人と昏倒させていくソックスハンター。
そして今、インディゴと呼ばれた最後の一人が昏倒させられたのであった。
「ふん、たわいもないない」
その光景に、呟くブルージャスティス。
「うわー、何があったんだよこれ。本当にこんなところにいるのかな。おーい、フェ猫さん、龍~」
壊れた瓦礫を乗り越えてやってきたのは、レンジャー連邦国民の冴木悠であった。
「お、こっちかな。フェ猫さん、さっきはありがと・・・って、え!?」
そこで彼が見たのは、苦悶の表情を上げて倒れる屍、もとい風紀委員。
半裸で縛られている少年に、半裸の男2人。
固まる冴木悠の前に歩いていき、ばふんと赤褌で顔を包むクロヤリ。
ぎゃーと包まれた褌の中声を上げるも、程なくしてぶっ倒れる冴木悠。
「ふん、たわいもないでござる」
先ほどのブルージャスティスと同じ台詞をはくクロヤリ。
ぶちん
それは、縄を引きちぎると共に何かが一緒に切れる音でもあった。
「このど変態どもがー」
尊敬する兄をを倒されるのを見て、怒りで震えつつ立ち上がる少年。
先ほどまでの温和な雰囲気は消え、どすの利いた声。
「そうは言うが、なあ」
少年を見て二人して頷き一言。
「下着に靴下姿で吼える姿は、おぬしも立派な変態でござるよ」
「ぶっ殺す」
第3ラウンド開始。
絢爛世界の狭間で命をかけて戦う人々の裏での、もう一つの戦い。
レンジャー連邦で起こった、そんな一幕。
(冴木悠)
最終更新:2010年04月25日 16:07