眼下に広がる藩国たちを、その少女は足をぶらぶらさせながら眺めていた。
網目状に広がるアイドレス世界には、上下の観念はない。あるのは自分がどこに立ち、どのようにものを見ているかという、認識だけ。
それでも彼女のいる藩国は、世界の中で、一際特別だった。
天領。
世界の中心にあるわけでも、世界の頂点にあるわけでもない、小さな小さなその藩国の、縁に腰掛け、その少女は眼下に広がる藩国たちを眺めていた。
長い、夏休みをしているという。
今頃どのような暮らしを、あの国々の上で皆は営んでいるのだろうか。
少女は目をつむる。
途端、すべての藩国は、彼女の頭上に感じられる。
天。
身を、後ろに投げ出して、背中を地面につけて寝そべると、周りに広がる全天に、藩国たちの存在が感じられる。
空は、広い。この空だけは誰も奪えない。地に足つけても視線を遮るものはいくらもある。
けれど、そうだ、寝そべるならば、
こんな空に何もないところがいい。
白を、呼吸する。吸い込んだ風が、雲か。
今、心に天と地の距離の差は何もない。
流星が見えた。
それは心によぎる夏の欠片だったろうか。
(城 華一郎)
最終更新:2010年04月25日 16:34