おもちゃの剣を使う正義の味方がいるらしい。
レンジャー連邦には今、こんな噂が流行っていた。
その剣は白く白く銀色に白く、ただのプラスチックであるはずなのに、完璧なすべやかさを保っており、しかし刃はなく、丸く。
「正義を成すのに本物の剣は必要ない。腕さえあれば、おもちゃでも、十分に力は発揮出来る」
そう吹聴するのでもない。
心を、断つ。
ゆえに物語魔法剣。
細身の長剣の両側を、一対の畸形の刃が浮かんでいた。いずれも片刃だが、峰にあたる部分がVの字に凹んでおり、そして、外側の刃部分は、日本刀でもこうはいくまいというほどくっきりと物打ちの部分が直線に折れ曲がって形成されていて、それぞれ刃としてみるにはあまりに不安定で脆い。
剣そのものには、金属としての物理的な耐久力と破壊力しか宿されていないようである。
『起動認証』
「愛ゆえに」
青い、蒸気にも似た光を吹き散らし、一対の畸形の刃が長剣の細身を両側から挟む。途端、それはまるで元からこうであったとでもいうかのように、一振りの大剣となった。表面には文字が浮かぶ。
失敗だ。
開発者はその剣を放り捨てた。剣としての機能を失わせたからこそ、その剣には魔法の力が宿らねばならない。これには力がある。立派な剣としての力が。その上に魔法を上乗せするなどという情報は通らない。
大槌を振るい、剣を叩き折る。
青い光が炸裂して、その剣は無様に折れ曲がった。
強度がありすぎる。側面の刃は折れ砕けたようだが、それが衝撃を吸収して、本体まで砕けていない。
さらなる剣を開発しなければ。
開発者はペンを取った。
情報が渦を巻いて現実化する。
読まれるほどにアイドレス世界を強化する物語。その試作は失敗に終わった。
架空のプレイヤーが架空のアイドレスで遊んだ物語を、あたかも本物であるかのように語り、認識させることで、その物語のラストにあった祈りを魔術にし、架空の物語が何度も何度も繰り返されやがて本物の物語となってさらに何度も何度も繰り返されたことにすることで、半永久的な情報追加機関を開発するつもりだったのだが、ただの情報では魔術を起こすことは出来ない。星の観測をさらに繰り返し、学習の必要がある。
次なる試作は物語魔法剣。
読まれるほどに情報が収束し、やがては七界の中に実在する、本物の魔法剣を物語によって生み出そうという計画である。愛ゆえにのスローガンで知られるレンジャー連邦の構成要素…プレイヤー名、キャラクター名、全イグドラシル要点…を物語中に練りこみ、一点に集約させることで魔術を起こそうとするものである。ただの情報では魔術を起こすことは出来ない。物理法則と七界の法則を知り尽くさねば、今回も失敗となるだろう。
人の心に青い光となって映る、その光のことを、リューン、あるいは情報子と呼ぶ。
このリューン(情報子)を操る技のことを絶技と呼ぶ。
物語魔法剣。
魔術じゃない
概念を打ち上げた
(城 華一郎)
最終更新:2010年04月25日 16:36