(三)
絵斗は自宅の近くにあるオアシスの前に座って居た。膝に顔を伏せている。彼女は夜になると、ここにこうして一人でいる事が多いのを西薙は知っていた。
「泣いてるのかい?」
「泣くか!」
「おっと、失礼」
西薙は歩いて絵斗の後ろまで近づいていった。
「帰れ!貴様も説教言いに来たのであろう!」
「説教は好きじゃないな」
そう言うと西薙は背中合わせに座った。背中が触れた瞬間びくっと体を振るわせる絵斗。
「なっ・・・!」
「そのまま聞いてくれないか?イヅル」
後頭部をゴンと付ける。
「悪は成敗、悪は死ななきゃ治らない、か。イヅルはそれを体現してる訳だ」
「・・・誰かが、誰かがやらねばならぬのだ!」
「違うだろう?」
「!?」
「それでしているとは思えない。復讐かい?」
ハッとなり少し後ろを振り向く。そしてまた膝に顔を伏せて身を堅くする。脳裏に浮かぶは幼き頃のあの惨状。怒りで肩が震える。
許せぬ。あやつらだけは許せぬ。あやつらに纏わる全ての者も。
「言いたくなければ言わなくていいさ。アスミさんも村雲君もイヅルに昔何があったかは知らないよ。
ただね、ただイヅルには人殺しになって欲しくないだけなんだと思うよ。もちろん僕もね」
「・・・」
「僕らはまた同じところに遭遇したら、きっとまたイヅルを止めるよ。何度でも」
「何故だ?何故そこまで・・」
「仲間だから。"大切"なね。それに、僕個人としては、イヅルがそれだけの為に生きているなんてもったいないと思うんだなー」
「エンさん・・」
夜空を見上げる絵斗。星達はいつもと変わらず綺麗に瞬いていた。
「私は、私はやはりあやつらを目の前にしたら殺そうとするだろう」
「付き合うよ。みんな。
取りあえずはそれでいいかい?」
「・・・わかった」
さてと、っと西薙は立ち上がる。夜は冷えるからほどほどにね、っと言って帰ろうとした。
「エンさん!・・その・・・、すまなかっ・・・いや、ありが・・・・か、感謝を」
頭から湯気が出ている。気の毒なくらい顔が真っ赤だ。
「あはは(笑)可愛いねぇイヅル君~!」
「茶化すでない!」
「いやー」
チャラララ♪チャララーラーラ♪
不意に西薙の携帯が鳴る。西薙の顔が夫の顔になった。
「もしもし。うん。こっちは大丈夫。うん、うん。ん?そっか、わかった、すぐに帰るよ」
切った後ににへらーっと笑う。
幸せそうな奴。
「奥方からか?」
「うん。今夜はシチューだそうだよ」
また心の中で、幸せそうな奴っと思った。同時に寂しさののような気持ちも出てくる。しかし、それがなんなのかはまだわからない。それはまた別のお話。
(空馬)
最終更新:2010年04月25日 16:54