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今ではないところにいる貴方たちへ。

私、城 華一郎の命は、いつか尽きます。
それが、いつかはわかりません。
だから、遺言を残しておきます。

私という個人は、摂政を務めてはいましたが、
遂に一度も使命感によっては、動くことはありませんでした。

すべてが私的感情によるものであり、
内実は、意味の存在しない物質だけの世界への絶望を、
情報という、意味そのものによって出来ている世界で、
どうやら必死に晴らそうと、もがいていたような気がするのです。

貴方たち藩国民は、私にとって、
何より強く「そうである」と、認識出来る人間であり、命であり、
それらとの絆を手放したくないから、守りたいと思ってきました。

貴方たち藩国民こそが、物語不在の世界の実情に気づいた、私にとり、
自らの存在する意味を支える証となっていました。

今代の王・蝶子王の、清廉への忠誠、
また、今代の摂政・ミサゴ嬢への私的忠誠から、
私はここに居続けています。

かけがえのない友・双樹真や、
幾人もの優れた友朋たちとの何気ない日々が、
私をここに縫い止めています。

もはや私が他国に赴くことも、
己の国を願うことも、ありえないでしょう。

私にとって、アイドレスとは、思い出そのものであり、
思い出のための、日常そのものでした。

私に続く命はそこにあるでしょうか。
私を知る命はそこにあるでしょうか。
今の私には、いずれも知り得ません。

多くに手を触れました。
今、貴方たちは、何を生業とし、何を文明とし、何を文化とし、暮らしているのでしょうか。
今の貴方たちの目の前に、私が見た風景と同じものは、いくつ残っているでしょうか。

友人たちの、歩みの痕跡は、今もありありとそこにあるでしょうか。

そしてテイタニアに伝えます。
俺よりも俺のことを理解していた、君に伝えます。

歌を、ありがとう。
意味を、ありがとう。
物語を、ありがとう。

命を、ありがとう。

永遠は、どこにも存在しないけれど、
望めばきっと、存在しないものでも、
この胸に、感じられる。

私がどこで朽ち果てるかは知らない。
私が何を成し、何を半ばにするかは、私は知らない。

ただ、同じ国民として生きた、
城 華一郎という存在がいたことを、
覚えていてくれなくてもいい、
世界が認めてくれたら、それでいい。

それ以上の幸いは、今の私には、ありません。

貴方たちと、この世界で生きられることが、
私にとって、最大の喜びでした。

愛しています。

多くの憎しみと、多くの絶望と、
多くの友情と、多くの喜びとを、
感じさせてくれた、この世界を、愛しています。

何もかもが信じられなくなっても、
何もかもが、意味を成さなくなっても、
それでも物質だけは、確かにある。
それだけは、信じていい。

それは、何の救いにもならないけど、
死んだ愛情の灰を噛むような、つらいだけの時間かも知れないけれど、
世界に意味などなかろうと、
愛という、実存そのものだけは、誰にも消せやしない。

もっと大きな愛を信じていいよ。
それにつける名前はいろいろあるけれど、
それを定める必要は、どこにもない。

私は文族でした。
私は士族でした。
私は華族でした。

私は文族として、大きな愛へと、祈りを捧げて生きるでしょう。
私は士族として、力に相応しい、恥づべきではない行動を望みます。
私は華族として、ただ、国の愛を、守りたい。

当代の文族よ。
当代の士族よ。
当代の華族よ。

貴方たちは、貴方たちの歩んできた道のままに、
絶望し、悲しみ、
愛し、喜び、
そして願わくば、大きな愛を信じてください。

私のすべては、ここに置いていきます。
私のすべてが、同じく大きな愛の一部なのだから。

Love be the withyou.

愛よ、そこに在れと私は唱える。

私が生きたことは、無駄ではなかったですよね?

(城 華一郎)

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最終更新:2010年06月22日 11:28