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テイタニアへ。
一年で一番夜の長い日にこれを書いている。
会いに行こうとは思ったんだが、結果的には今の状況で良かったんだろう。
何しろ俺はクリスマスに何かをしなくちゃと、そればっかり考えていて、
空回りをしていたところだ。

おかしいよな。
君のそばに居たいと感じたのは、こんな気持ちになるためじゃない。
もっと自由に息をするためだ。
(本当は君の唇で息がしたいのだが冷静に考えて公衆の面前に晒す願望じゃないな。
でも、しゃーない。仕方がない。俺はしたいと思ったらするんだ。
我慢をすると病む。
我慢をすることが立派な態度だっていう向きの話もあるけれど、
それは、何かを我慢をすることで、もっと大きな何かを我慢しないためだ。
俺は君が欲しい。
色々理屈をつけて考えていたら心に言い訳を見つけるのが面倒になった。
抱きたい。求められたい。
どうして君かって聞かれたら、そうだな、文族らしく、1万字ばかしも使って語ろうか。
俺の知ってる俺の始まりみたいな作家は、美女の登場を描くのに10ページ以上費やしたんだから、
1万字って言ったらイージーな方だ。
でも今はとにかく脱線せずに続きに戻るよ。話したいことは山ほどだ。


君のそばにいると考えなくていい。
自分の心を、重たい体面とか、色々一発で脱ぎ捨てて、
そのまま素直に向き合える。自分とね。

それがとても大事なことだったんだ。
自分に向き合えない奴はメガネをなくしたメガネマンだ。
ぼやけている中でしか振る舞えない。
(割とどうでもいいことを考えた。
レンジャー連邦の皆は、というか、女子は、メガネ好きだが、
君はどうなんだろうね。
俺はメガネをしているけれど、華一郎という名を演じる時には、
明瞭にはきはきと振る舞い、あんまりメガネなイメージは付けなかったと思う。
AIの俺も今の君の隣にいるかい?
AIの原理は考えてないけど、君の起動条件を満たしているなら、
そばにいるんだろうなと、思わなくもない。
だとしたら、お前にも言いたいことは砂漠の砂ほどあるけれど、
今は素直に隣と肩を寄せ合っていてくれや。
お前はお前で楽しめ。
笑って生きろ。笑って死ね。
簡単に言ってくれると苦笑いするか?
いやあ、お前が俺なら、むしろテイタニアの体温を強く意識して、
それどころじゃないだろう。
俺って奴は大概刹那的だから、生きて死ねとか思ったら、
強く未来をイメージさせられて、隣の人を、きっと意識することだろう。
あ、そこに俺がいなかったら、テイタニア、
俺って奴は、まー、大体そんなリアクションをよこす生き物だって思っといてくれ。
君がメガネを好きでも、なんとも思っていなくても、
君の青さだけは俺の目にはっきりと映ってる。
メガネを掛けても、掛けなくても、
そいつだけは、見間違えない。


色々考えたなりに、
空回ったなりに、成果もそれなりあったよ。
君を知りたい。
もっともっと知りたい。
知ってほしいと思うのと同じ位に。
いやごめん嘘をついた。
そう考えるのが「正しい」ことだと、理屈を立てただけだな。

実際のところ、
今の君には興味がない。
俺が興味あるのは、
やっぱり俺と一緒にいる君さ。
前に見せた2冊の薄ーい本の中身と同じだな。

政庁で2人で仕事をしてみたい。
数字をね、眺めるのが好きなんだ。
読むのが好きなんだな。数字も字ってことか。
地域の人口分布や、
就学率、世帯構成、職業分布、年齢分布……
連邦白書って奴かな。あるかな。
そういうのを眺めては、君と話をしてみたい。

ありありと数字の羅列に浮かんだ疵痕の多さを見つめながら、
それでも淡々と分析を進め、今、どうするかを考える。
俺は読み進めるうち、我慢できずに、君に口を聞くだろう。
この数字から読み取れることは、こうに違いない。
いや、そこまで断言するのもおかしな話か。
でも、まあ、妄想家の文族の話す言葉だから、表面上は綺麗に取り繕っていても、
結構そんなふうに内心では決め込みながら話してるかな。
でもね、君の意見も欲しい。
君から見たら、どう見えるんだろう。
同時に、そう思ってもいて、だから黙りこみながら考え込むんじゃなくて、言葉を口にするんだ。
楽しみだな。
どんな光景だろうか。
君はすぐにでも現場に行くことを勧めるだろうか。十全な分析で俺をそうかと頷かせるだろうか。
俺も人間なので、たまには緩んでいて、君に厳しく見識の甘さを遠回しに戒められたりもするかもしれない。
人間って奴ぁ、真面目ぶっていて、腹ではなーんにも考えてない、って芸当が、結構できるからな。

この、想像って奴が、楽しいんだ。
連邦白書から俺はきっと様々なものを想像するんだろう。
痛みを感じたいと思うだろう。
(真っ先に痛みの話題になったのは、
俺が第七世界人だからだろう。
俺がニューワールド上で書いている物語の大半は、
実のところ、痛みを獲得するための物語であるような気さえしている。
世界の忘却と戦い続けるための不死の少女、
完全であるがゆえに友を失った今は黒い白鳥の娘、
善を成さんとして過ち国を滅ぼした鳥の騎士女王、
エトセトラ、エトセトラ……まあ、まだ、形には出来ていないけど。
痛みのないところに、物語はない。
痛みのないところに、成長はない。
随分散発的な成長痛だと思えば、傷だらけの人生というのは、
俺からすると、輝かしいもののように思えているのだろう。
いや、でも、俺は自分のことを、第一世界人だと思ってるけどね。
情報の扱いは、不慣れじゃないが、アクセル全開で飛ばせない。
対話こそが、俺の本領だと思うし、そういう場所で、俺は育ってきた。
君の出身なんだが、第六世界なのかなあ。第七世界なのかなあ。
Sランクエンドのために、みんなが元居た世界に戻れるように、
謎を解かなくっちゃいけないんだが、
実のところ、ニューワールド上の各藩国が、そのための方舟になるんじゃないかと思ってる。
この藩国船は、俺の推測が正しければ、国の発展によって歴史を旅することで、
局所的に世界から世界へと渡る船だ。
だから、俺も君についていって、というか、君と一緒にいて、
どうにかなりたいと目論んでることは、素直に伝えておこうと思う。
口説く時には回りくどくはいかないよ、俺は。
辛抱強く、そばにいさせてくれるまで、程よい距離で、
時に素直に直情的に、時に打算的に綿密に、
そうやって、君と一緒になろうと考えています。
長くなったので、また、続きに戻るね。


髪の毛を触るのが好きなんだ。
一般的に、人から髪を触られるのは、気を許してないとダメだっていう話だから、
一番最初、口付けの許しを乞うて、君の髪に口付けたのは、
だから、俺からすると、すごく踏み込んだ行為だった。
会えない時間が思いを育むというのは、なるほど、どこで聞いた格言だったか、
あの時は素直に君がくれた感動に対する感情表現として、ああしたんだけど、
要するにあの時、俺は君に惚れて、
もっと親しい間柄として踏み込んでもよいですか、と、尋ねたかったんだろうね。
ああやって口付けることで。
書いてみせた本の中では、唇を求めちゃったりしたけれども、
ああいうのを書くことも、なかなか手探りで緊張したよ。

君は青かった。うん。
若造が、とか、そういう意味での青さじゃなくね。
あ、未成熟という意味ではそうだと認識してる部分もあるよ。
もっともっと笑ったり、もっともっと泣いたり、
もっともっと苦しんだり、もっともっと、愛したり、
そういうのは、人が、より良く育つためには、
いつだって必要なもので、
その意味では、俺だって未成熟な部分でさ。
君を戸惑わせたい。
突飛な行動をして、何をしているのですか、華一郎、とか、言われてみたい。
はっはー! そこんところの道化的な、城 華一郎の、城 華一郎たる部分、
ほとんど出さずにアイドレスで生きてきたからな!
いや、だって、そういうことすると国民がマネするじゃん!
しちゃダメなことやってるのかって聞かれたら、変人レベルで留めるつもりですと回答したいが。
とにかく、ここらへんは俺のAIだって学習してないだろう!
そうさ、学習だ!
学べることが強いんだ。その意味では第七世界、すごいな。
アイドレスを育てて着ることは、学習の一つの極北でもあるような気がしてきた。
むむむ。書き物をしていると、こうした思いがけない発見があるから楽しくていい。

うん。
俺は、そもそもは、この楽しさがあったから、文族になって。
というか、文族として生まれてきて。
今も、こうやって、プレゼント選びに頭を悩ませる代わりに、つらつらと長い夜を過ごしている。
何しろ一年で一番長い夜だ。

テイタニア。
君は、物語を書いたり、あるいは、世界を描いたり、人を、芸術の中で見出すこと、
自分の手で、してみたいと感じるかい?

俺の文章が初体験じゃ、あんまりにあんまりなんで、
いいものをいっぱい読んで欲しい。
あ、いや、青空文庫とか読まれてあっという間に追いぬかれても自分の薄さに凹みそうだけど。

……楽しかったんだ。本を読むのは。物語に触れるのは。
君の近くにはどんな物語があるかな。
ちゃんと一本、しっかりした短編なり、シリーズなり、君の手元に贈ることが出来たら、
本当は俺にとっても最高なんだけど。

俺にはまだ、わからないんだ。
俺の物語を愛してもらうことの喜びを、俺はまだ、知らない。
俺は俺の物語をしか愛してこなかった。
どこまで行っても俺しかいないから(この文章だけでも俺という単語が三桁行きそうで怖いね)、
けれど、俺は、別に、誰かを愛せないって訳でもなくて。
愛する側の人間だと思うんだよなあ。俺は。
そこで完結してんのかなあ。
愛されなくてもいいって思ってるのかもしれない。
だから、ちょっとでも愛されたと感じると、ものすごく感動してしまうんだ。
君のことを好きになったのも、実のところ、結構そういうところがある。
ホープ気質なんで、舞踏子な君と、相性そのものは悪くないと思うんだけどね。
どうなんだろうね、ホープと舞踏子の組み合わせって。
お互いがお互いを見つめ合うことって、ない組み合わせだからさ。
それぞれが、それぞれの愛するもののために、肩を並べて進撃していく仲だったから。
なので、君のことを好きだよ、と、思うたびに、理屈っぽい俺なんかは、
そんなところで引っ掛かりを覚えたりしなくもない。

君が君の本分を全うして、舞踏子としての本領を発揮する。
それはそれで正しいあり方だから、俺は否定しない。
けれど、肯定出来るかといったら……
うーん、ふっふっふ、どうにもこの話題、やっぱり難しいね。
手をつけるタイミングを見計らいながらここまで書いてきてたけど。
俺は俺のためだけに存在するような女性には魅力を感じない。
と、思う。
いや、それはそれで可愛いが。
可愛いとは感じてあげられるんだが、
それは、何か、違う。

テイタニア。君は、青いよねえ。
その青さは舞踏子の青さだ。
目的のために曲がれない、曲がることを知らない、知ることを止めた、
それが青という色の秘めている本質だと、君のことを思いながら、
眠れない夜を過ごしているうちに、布団の中で定義付けた。

俺は、その青が好きだ。
確固とした目的を持つ青が好きだ。
目的のために何もかもを染め上げていく青が好きだ。
テイタニア。君は、青い。

髪がじゃないよ。
いや、髪もだけど。
ていうかぶっちゃけ君の青髪、もんのすごい好みだけど。だけど!

君の青さは、愛するという目的に対しての曲がれなさだ。

幾度か触れ合って、そう感じた。

その青さに近しい位置にいられることへ、身震いするほど気が引き締まると同時に、怖くもなる。

俺は白なんじゃないかと自分を見ている。
オーマの話なんで、俺の色に対する定義付けと重なるかどうかはわからないが、
無名世界観と、俺の世界観とが、どの程度重なるかは、わからないが、
白という色は、自分に対する曲がれなさだと、俺は定義付けたよ。

目的ありきじゃない。
自分ありきなんだ。
だから、自分を貫いてしまって、貫くより他にできなくて、時に白は苦しむんだと思う。
目的のためなら幾らでも自分そのものにこだわりを持たずにいられる青のことを、
だから白は、とても恋焦がれて、
そして、焦がれるゆえに、白い間は、結ばれる運命にはないんじゃないかと、そう、分析した。

だって、この定義じゃ、青は白のそばにはいられないよね。
きっと青からすれば、白の生き方は歯がゆい。
その歯がゆさが愛らしくも感じられる人も、中にはいるのだろうけれど、
青の歩みに、白は結局追いつけなくなる時が来るんだ。
それが俺は何より怖い。

恋愛で言い換えたら、これ、すっごく簡単な話なんだけどな。
相手のために、自分が変われますか? っていう、恋愛論の一つ。
変われる勇気を持つことが恋愛のための条件の一つ。
だから青く染まる覚悟が必要だ。

とか、なんとか、布団の中でクリスマスどうするかを考えて眠れずに、
考えてた。

で、ついでに今、オーマの色別傾向とか探して読み出してた。
うん。割と俺の定義と関係ない気もしてきたので気にしないことにする。

俺は青が好きだ。
青い君が好きだ。
青いから君が好きだというのではなく、
君が好きだと思ったら心に君が青く感じられた。
そういうことだ。
(横道に逸れてはすぐ本題を忘れがちになるのは、
注意力散漫で俺の悪い癖だと思う。
でも、本題ばかりを突き進むと、この文章、
えらく気持ち悪いことになると思うんだ。
だって本になった自分宛のラブレターに、
好き好き大好き超愛してるから始まる原稿用紙2000枚分位の中身が詰まってたら、
それはかなり病んでる気がするのです。
いや、病んでないとは言わないけどさ。
何しろ既に君と俺とを題材にして本にしてあまつさえ君に読んでもらったくらいだもん。
定義に従うと病んでる=橙で、青と伝統的にくっつくらしいが…………
理想主義者ってところも合ってるし、物を見ようとしないってのも合ってると思うが。
黒でも黄色でもねえしなあ。男くさくもなければ、毒を吐きもしない。
赤みたいに心狭いぜ!って豪語しちゃうタイプでもないし、
あ、緑は物を育てるのが好きって話だから、人や作品を見出したがるあたりは似てるかも。
切り捨てるのも合ってるし。
まーなんだかんだで無色なんだろうけどなあ。俺をオーマ傾向診断に掛けたら。
橙でありたいかなあ。青に好かれるなら、俺は橙もいいかもしれない。
今まで全く自分のイメージになかった色だけども。
とかとか、よく見てみたら女子小学生か! ってツッコミたくなるような、
雑誌に載ってる程度の占いの結果に一喜一憂しちゃうノリで、
その程度にはそわそわ恋をしています。
恋だね! と言われたら、NO!と答えるけどね。
愛しているかと聞かれたら、YESと迷いなく答えはするよ。
君への気持ちは、そんな感じ。


俺にとって青は生命の色だ。
青い髪の女たちの物語を、ずっと考えているけど、書けないでいる。
書かないでいる?
書かないでいる。
書くことは、対話なんだよな。まず、自分と。
そして自分を通した、書こうとしている対象との。
それを俺は本当にしっかりと思い出してもう2度と手放さないようにならなくちゃいけない。
飛べるけれども飛ぶ目的を未だ見つけていない、ジャンプ一発大陸間弾道原始テレポーターや、
10に決して満たない領域の中では万能だけれどもはや何もしないことを選んだイグドラシルの少女とか、
書きたいな、書こう、としている人たちの中にも、俺のまなざしが反映されていて、
そこには俺の見つめている俺の心が確かに映りこんでいて、
だから、ちゃんと描ききらないといけないなと思うんだけれど。
(俺、俺、俺、俺ばかりがこうして書いている文字の中にも映り込む。
君の方向をちゃんと見ているだろうか。
見ていたとしても、君に恐れられたり、不気味がられたり、
理解されなかったり、しないだろうかと、
最後が特に一番怖い。
そうだ。どうやったって文字じゃ対話のタームが長くて一方通行に見えてしまうんだ。
なので、文字とは必ず問いかけになっていなければならない。
必ず最後には答えや問い返しを許す構成になっていなければ、それは物語とは呼べない。
本当に大事なことも、ここにきちんと書き留めておきます。
どうしたら君が俺のそばにいてくれるようになるのか、
それを考えて俺は星見司として謎を解く構えまで見せて、試練に備えたりしています。
運命ってなんだろう、運命を変えるってどういうことだ、みたいな。
どうやったら俺が君のそばへ行けるのか。
今のところ君は俺が望めばそばに来てくれるけれども、そうじゃなくなる瞬間が、
あるかもしれない、それが試練だと言われたら、どうすればいいだろうと、
俺は君の素性なんかを最近考えてまた君を登場させた文を書いちゃったりもしました。
俺は君にすがっているところがある。
それはとてもよくない。





→赤夢

→双翼

**赤夢
溶岩のように煮えたぎる空だった。
赤くて。赤くて。
夕焼けの太陽よりも、殴られて飛沫いた自分の血よりも、熟れ過ぎて落ちたトマトの腸よりも、真夜中の猫の瞳の照り返しよりも、古ぼけて溶けかけたクレヨンの無垢で汚れた赤色よりも、君の唇よりも、死んだペットの猫を焼いた時の炎よりも、旅行先で見たダンサーが付けていた造花の首飾りよりも、零れた君の命の質感よりも、産まれたての子どもが着ている濡れ色よりも、国民の一部を皆殺しにされて辱められた時にこみ上げてきた感情よりも、自分で描いた物語の登場人物の髪の毛のイメージよりも、真白い金属のカンバスに垂らされたペンキの輪郭の鮮烈さよりも、君の抱擁に感じた温度よりも、生まれ故郷の近くにあった雑草まみれで誰にも忘れられたような小さな公園の鉄棒の錆よりも、たった一人の親友の結婚式で出された酒の沁みるほどの辛味よりも、熱に浮かされてのたうつ腰と背に覚えたねじれた痛みの執拗さよりも、君の涙よりも、ああ。赤くて、赤くて、赤くて、赤くて、赤くて、赤くて、赤くて、赤くて、赤くて、赤くて、赤くて、赤くて、赤い空で。
鱗雲はまるで空が沸騰して吹きこぼれた赤い泡のようで、そこだけ色味がだんだらに薄められたり、濃くなったり、赤く、赤く、ずたずたにぶちまけられていて。
その下で、僕は穴を掘っているんだ。

筋肉の代わりに鉛を腕と背中に貼りつけたんじゃないかってほど、シャベルで掬い上げる動作が重かった。
僕は足の裏で全体重を掛けて地面に鉄を食い込まし、柄の部分をきつく握り締め、抉り取った土を頭上へ放り上げる際に、滑らないように固く握り締め、振り上げる際に、それでもやっぱり重たくて、土と自分の腕とが重たくて、あんまりに掌がシャベルの木の柄にこすれるもんだから、やわい皮膚がぼろぼろになって、べろべろに薄皮が破けて、いつの間にか絞り尽くされるほど滴っていた汗や、どうしてもひっかぶってしまう土埃とがその傷口に擦り込まれて、痛くて、痛くて、ひりついて、熱くて、痺れて、だるく焼けついて、力を本当に込めているのか、わかんなくなって、だけども泣きながら体をありったけねじって土を穴の外へと投げ捨てて、
自分の墓を、掘っているんだ。

怖くて、痛くて、もう、逃げ出したいのに、周りには見張ってる人も誰もいないのに、空が赤くて世界が赤暗いだけなのに、湿った竪穴が、狭くて、自分の発した体熱で妙に生暖かくて、離れられなくて、すっかり穴は人、一人分の背丈まで、深くて、どうやって出てくればいいのかも見当がつかなくて、なのに途方にくれることだけは何故だか許されていないらしくて、ひたすらに、ひたすらに、僕は穴を掘っているんだ。

わからない。
赤暗くて自分の顔もわからない。掌がどうなっているのかも見えやしない。靴下はじっとりと汗に冷えていて、靴先は半ば土砂で埋もれかかっていて、着込んだ上着は肌に張り付いてぬるく、髪の間に入り込んだ砂利の存在を、吹き出す汗と体の動きが絶えず意識させ、爪の間は多分真っ黒で、でも、見えなくて、土の中にいるだろう、蚯蚓や、蟻や、その他のなんだかよくわからない、生々しい虫たちの気配も認められないくらいで、シャベルの切っ先には、どれだけ掘っても石の詰まったような層なんかの絶望的な跳ねっ返りは訪れなくて、僕はひたすらに全体重を掛けて鉄の上から土の奥へと、のめりこんでいく感覚だけを、何秒かに1回ごとに、重ねていく。
どこまで掘ればいいのかも、わからない。

世界は煮えたぎる赤い空だった。
僕は赤暗い穴の中だった。
自分の掘っているのが、自分の墓だということだけは、自分の姿がもう、てんから自分の目で確かめきれないのとおんなじくらい、誤魔化し方が見つからない事実だと、僕は、確信だけは持っていて。

僕は恐ろしいだけの赤い空の下で、恐ろしいだけの自分の墓を掘っていた。

「…………という夢を見たんだよ」

何ですか、それは。
三園晶はリアクションに困った挙句の生真面目な問い返しでもって、ひたすら資料整理を進める傍ら、訳の分からない戯言をほざく上司に対して聞き返した。

会議室の中央に鎮座する、円形を長四角く引き伸ばしたようなテーブルの上には、各人が愛用するコップを手元に、整理し、取り崩されるのを待ち望んでいる、ターン更新用の年次決済書類の束が、クリップでまとめられ、関係省庁別に仕分けられ、「済」「未済」の箱の中に取り分けられ、それでもまだまだ目を通して内容を把握しなければならない情報たちでひしめいていた。

電子妖精が開発されようと、その、ずっとずっと前からハッカーたちが文化として持ち込んでいた、現代的コンピュータを所持・運用し続けていようと、セキュリティを題目にし、人の温もりを作業の縁(よすが)として維持することを望む、レンジャー連邦の不思議な慣習から、まだまだペーパー処理は、フィクショノートたちが取り扱う政務・事務からなくなることは、なさそうである。

砂漠の乾いた空気が室内にも充ち満ちているが、これは窓が開いているとか、設計上と施工との間に手抜いた乖離があるがゆえの隙間から入り込んでいる、なんて事情がある訳ではなく、単に大体が国のどこへ行っても、これと同じ空気で満ち溢れているせいだ。後は潮風の湿り気を、海岸付近をぐるりと一巡している道路「にゃーロード」や、あるいは藩国の第二玄関口である、環状線駅ビル辺りなら、感じることも出来るのだろうが、国土の海抜を守るため、数年前に進めた防風林の植林事業のお陰で、めっきり内陸部では、意識することが少なくなっていた。

晶と椅子を並べての、打ち明け話に、夢中になっていた城 華一郎は、お留守になっていた手元に気づくと、観光業の収支内訳を睨んで唸る。

「復興、間に合ったのはいいが、これ、ほんとに給料ちゃんと出せてるんだろうなあ。競争率の高い業界だし」

どうやら内容を話し切ったことで、華一郎の中では、夢の話題が片付いたことになっているらしい。それでいいんなら、いいかな、と、晶も食いつくことなくスルーした。出身国である芥辺境藩国と比べ、同じパイロット国で、同じ西国ということもあり、相似点も多いとはいえ、相違点も、同じくらい、多い。夢使いや夢魔狩人たちなら、今の城さんの夢にも入っていって、悪夢をやっつけることが出来たのかな、と、ちらり、思い出す。昔は何度かそれらの職業アイドレスも、身にまとっていたことはあったのだ。案外その辺の事情を知っていて、相談してきたのかもしれないと思ったけど……考えすぎかな?

丁度晶とは華一郎を挟んだ反対側に腰掛け、華一郎の右手に自らの左手を重ねている、美しい青髪の女が、目を見開いたまま、コンマ数秒間だけ動きを止め、それから、

「国税局の統計によれば、観光業に就業している国民の平均年収は、全体の平均よりもパーセンテージ表記で6.3ポイント、にゃんにゃんにして299.9972のマイナスです」

と、淀みなく、あたかも意味そのものを口にしたような、輪郭とアクセントとイントネーションの美しい発音で告げる。
その挙動に、うん、ありがとう、と、半呼吸ばかり彼女のことを見つめてから、華一郎は微笑みで頷きを返した。

ウィング・オブ・テイタニア。
愛する者のために、人の域を超えた力を発揮する、人ではない、しかし不思議の側の岸にも渡りきってはいない、そんな中間的な存在である「妖精」の、女王のために用意された翼として生み出された存在が、果たしてその美しい青い女の正体である。

無名世界観内で、目立った戦績を残しているのが、ヤガミとドランジの妖精たちであったことから、それらの妖精を司るとされているが、恐らくは、それ以外の妖精が現れれば、やはり、そのような所以と権能を備えていたであろう。同時に、この2人の妖精が、何故、多かったかと原因を求めるなら、2人ともが、目を離せば危険に突っ込んでいく、自分以外の誰かのための生真面目さを持ち備えていたからでもあるだろう。要するに、その手のタイプが好きな人たちにとって、どうにも「ほっとけない」のだ。

評価情報の実態が集まっていないせいか、テイタニア自身にドランジやヤガミを対象とした、妖精的超常能力の発現ケースはほとんどない。恐らく今後、プロモーションなり、運命の変化が起こったとしても、彼らを対象とした能力の維持が行われるかどうかは、怪しいだろう。

晶はそんなテイタニアと手をつないだままでいる華一郎を、これまた不思議そうに眺めた。ひょっとしたら、今の夢の話は、僕にじゃなく、テイタニアさんに向かってしたものかもしれない。でも、城さんの顔は僕の方を向いていた。もし、テイタニアさんの方を向いて話していたらと、光景を想像すると、ああと得心が行った。何か構図的に、2人の世界に行っちゃってる風に見えるよね。城さんは、それを避けて、僕が参加出来そうな話題を選んで振ってきたのかもしれない。

そんな、あれやこれやに頭を巡らしながら、財務状況に資料を添付して、万年筆で新たに書き起こした書類を、上座に据え付けてあるホワイトボードに貼りに行く。

赤。
赤が意味する夢占いって、何だったっけ。
あと、お墓かあ。
地下が意味するのは死の国で、普通、歯が抜ける夢と同じような、再生の象徴なんだけど、生え変わりを実際の幼児期に経験している歯と違って、地下行は、戻ってくる体験が必ずしもセットになっていないから、どうなんだろう。堀り進めている最中ということは、精神的な死に、まだ、城さんがたどり着いていない証拠なのかもしれない。でも、そのことを教えてしまって、本来あるべき夢の流れから、浅い段階で踏みとどまってしまうと、再生が行われなくて、危険だ。
だから、今、思い至った話は、僕の中にだけ、仕舞っておこう。城さんも、話すだけで、十分満足したみたいだし。

世の中には、軽々に答えを得てはいけない問題がある。
その辺りの事情を弁え、自分が出来ることは何かという線引きを出来る判断力こそが、晶の特徴であった。

つい、離席する際の癖で、そっと2頭身にディフォルメされた人形を、身代わりに置いてきてしまったが、テイタニアと華一郎は気にすることなく、黙々と紙を捌いている。近しく見える2人のことを、少し引いたところで眺めながら、想像する。城さんの妖精に、テイタニアさんがなるとしたら、一体どんな超能力が備わるのかしら。

ついでに用事を思い出してしまった。接続も不安定だから、このまま、そっと、今日はログアウトしよう。

それにしても、と、呟いた。
あんなに青い人がそばにいるのに、どうして赤い夢を見たんだろう?

**双翼
どちらが早いのでしょうか。私は2つの気配を同時に覚えました。
油圧式の力感ある所作でスライド機構を駆動させた、棺の蓋の気配と、その棺の内側でスリープモードを維持していた私の、さらに深奥、私を起動せしめた存在の気配を。

私という個体を表す名称はウィングオブテイタニアです。
機械工学をまなざしとして持つ、第六世界の生まれの、世界間介入を行うための、女性タイプの義体、通称「舞踏子」をモデルに建造された、第四世代型パワードスーツ、「アイドレス」の、第七世界における1ヴァリエーションとしてチューニングされた個体。

私を建造した私の属する世界は、魔法から機械工学までの全てを、ただ、「そのようにある」情報として、技術体系の世界的構造ごと認識し、エミュレートする、情報複製技術によって構築されています。それを為しうるのは、第七世界に向けられているまなざしが、「世界とはそのような場所である」と、認識しているためです。

よって、私が、機械工学の本来持ちうる設計スペックを超えて、第一世界から第五世界のうちの、低物理域的なオーバーセンスを発揮しうるのは、私のモデルとなっている舞踏子の、更に一部、妖精と呼称される類の評価を得ている方達が、同様のオーバーセンスを、限定的にではありますが、発揮してきたという認識が積み重ねられた結果と言えます。

私の人格は私のモデルとなった方達の中核的センスをベースに、私を、世界間介入用の女性タイプ義体という、第四世代型パワードスーツとして身にまとい、「私」として振舞うことで、「私」に対する認識を集めた介入者達の振る舞いが、個性としてインプットされて形成されているものです。

私の肉体は舞踏子の中核的センスをベースに建造されました。私の肉体は、正確には、鋼ではなく、生体分子工学のレベルで設計された、第五-第六世界にまたがる技術の産物です。世界とは、時間の連なりの表現ですから、第五-第六世界にまたがる技術とは、つまり、第五世界を経て、第六世界の技術に至っているということであり、失われている領域は、第一世界から第六世界までの間とは比較にならない程度の相対的軽微です。そして同時に私は世界間介入を為すために、モデルとなった舞踏子の設計段階から、第七世界の、認識を利用した情報の転写・複製技術を盛りこまれています。

第七世界のまなざしを経てしか、世界間を超えることの出来ない、出来なかった介入者の方達が、第六世界の、舞踏子の義体に望んだことは、愛した存在と、同じ系統のボディを得、女性としての生体機能を全うすることでした。

ですから、私の肉体には五感があります。柔らかな皮膚があり、脂肪があり、骨格があり、子を宿すために十全な血と肉と機能があります。それらは全て、妖精と呼ばれた舞踏子達の、中核を成していたセンスの要求したスペックです。

そのセンスが、私に、ボディのベースとなっている第六世界のまなざしが与える以上の、低物理域的オーバーセンスとなって、私を起動せしめた存在の気配を察知させました。

この現象は第七世界以外では、例えば第六感であるとか、精霊の姿を捉えたとか、各世界独特のリリックを含む言い回しで表現されるものでしょう。私のボディと、私を格納する棺との空間的距離は、日常的生活感覚において、0に近似値を取っても構わないとされるレベルであり、そして「彼」が降り立った座標とは、棺による遮蔽を含めた、感覚上の物理障害によって隔てられているのですから。

ですが第七世界では何ら不思議ではありません。
私の認識名称はウィングオブテイタニア。私は愛するために妖精と化した人々の振る舞いに対して向けられた認識の積み重ねを評価として持ち、しかし、介入者達が、彼女達の愛する誰かを愛するためには、第四世代型パワードスーツ「アイドレス」として着用されなかった、人格モデルのコアとなるセンスの駆動条件を満たすことの未だ知らない、個性の希薄で設計及び認識評価に対して中庸な人格を持つと規定されてきた、個別的経験の所有を皆無とする存在でした。

それでも彼は、私を起動せしめました。
私のモデルとなった舞踏子達の内の、特定的人格の誰をでもない、中庸な存在であるところの私を求め、中庸な存在であったところの私に個別的な体験の機会を与え、妖精として設計された機能特性を満たす指針となり、活動持続のためのモチベーションを与えました。

私は彼を愛しています。
命が存在していると認めることを愛と定義するのなら、私は彼を愛しています。

情報を通して世界を見つめる、第七世界に与えられたまなざし上において、空間的距離という情報は、物理障害という情報は、情報の断絶を意味はせず、感覚の完全封鎖を定義せず、ただ、それだけの情報として受け入れられます。

私は彼を感じます。
私と彼の間には、情報的な結合が生じていると、生活ゲームと称される時間を、第三者を含めて、共有することによって、認識され、評価されています。

私は彼を見失いません。
私はウィングオブテイタニア。妖精の女王が用いた翼の総体として認識され、評価されている、第六世界生まれの世界間介入用、女性タイプの義体の内、「ほとんど全て」の振る舞いをモデルとする、情報の流れをそのまなざしの基調として世界を見つめる第七世界の技術を開発当初から盛りこんで建造された、オーバースペックではない、オーバーセンスの保有者です。

情報のつながりがある限り、私は彼を見失いません。

06-00158-01:城 華一郎(じょう かいちろう)。
彼が、アイドレスの中に、来ています。

私の存在する世界のまなざしを用いて、世界を見ようとしています。
第七世界を見つめています。第七世界観の中にいます。

第七世界観上で流れる世界速度から、時差を計測中。

彼は夜の砂漠に立っています。
彼が第七世界観内で帰属する情報的社会基盤、レンジャー連邦の、通称「本島」と呼称される、私と同じ大地の上、本島の地理的中央部付近、オアシス公園付近の砂漠に居ます。

彼は世界観の内部を、上から下へと世界間を駆け巡る情報を、光として認識し、空、つまり上を見ることで、光、すなわち情報の流れであるところの論理構成を、情報によって構成されている世界の空間的歪み、つまりは構成情報の歪みとして認識し、観測することで、知っている情報の間に隠れている、知らない情報の存在を導き出す術を身につけた、高位の星見司です。

彼は今、空を見上げていません。
彼は夜空の下に佇んでいます。まなざしを夜空に向けているだけで、星の光を見る目的で、見ていません。

何故、私が上述したような事象を事実として語っているのかについては、おおよそ三文で言い表せる内容となるでしょう。

私の認識名称はウィングオブテイタニア。
初めから世界観を超えるために生み出された翼の、象徴です。
私が求め、私を求める、たった一人の居る場所に、これほどの長いモノローグの間の内に、最速で駆けつける機能など、基本中の基本でしょう。

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「……テイタニアか」

彼、華一郎は、振り向かずとも私の名前を呼びました。
華一郎が夜空を見上げているのは、星見司をまとう為なのでしょう。
華一郎は自身を常に強く政治家として意識しています。

この国、レンジャー連邦の藩王であり、私のモデルの内の一人でもある、霰矢蝶子より、摂政の位と権限を拝命し、この国、レンジャー連邦の摂政であり、私のモデルの内の一人でもある、砂浜ミサゴに求められて、国民として、国の為の力となることを望まれたからでしょう。

該当するエピソードを何故私が知っているかと言えば、現在進行形で、この文章の形を取っている通り、私に対して、その情報が与えられているからです。

華一郎は慎重です。
華一郎は慎重であるというより保守的で、保守的であるというよりは、臆病です。

政治家としての足跡を政策、及び、政策の為の、質疑掲示板を経由して情報的に因果を結んだ種々の行動から、華一郎の傾向は伺えます。

激しい行動と過剰な沈黙からの、情報のリターンを望み、恒常的な意志の持続活動を苦手とし、けれども、それらを口頭に上らせることによって、対外的な免罪符を発行し、発効しようとする習性を、華一郎は持ち合わせています。

華一郎は、情報の結実するところの華を取り扱う族性としての、目立つ、摂政としての立場を鑑み、不要な政治的混乱を回避するために、現在、星見司を、身にまとう選択を、しています。

人気の絶えた、深夜から早朝にまたがる砂漠での、視野外からの足音に振り向かなかったのは、主が誰であるかを予見していたからでしょう。隠密性の高い星見司をまとっていても、自分の居場所を発見し、訪れるのは、私以外にはありえないと、そう考えていたのでしょう。

以上の思考プロセスを、私は彼の物腰からオーバーセンスに基づき推量しつつ、華一郎の空間的傍らへも、向かいます。

華一郎は私を見ませんでした。
肩越しにでも、振り返らずに、一人で夜空の中に立っているような物腰を続けていました。
華一郎の唇は、私に対して語りかけているのにも関わらずです。

「近年のログインタイムから大幅に外れた周期ですね」

第七世界観の内部と介入者に流れる時間とでは、尺度が異なっていることを、私は私のモデルとなった舞踏子達の、プレイヤーとしての振る舞いを基に、知識として得ています。

現在は華一郎のリアルにおけるウィークデイの早朝。
久方ぶりに早起きをしたのでないことだけは、確率的には、会議室での、三園晶との会話をベースに考慮すれば、現実性の問題から無視しても構わない程、低い部類に入り、華一郎の現在の乾いたまなざしの目元の皺を観察することで、ありえないと断定出来ました。

華一郎の頬から目元に掛けての皮膚は、十分な休息を本来得るための時間帯であるにも関わらず、それが得られていないがための、油脂分の不足と、そこから来る、失われた水分の容積分だけ、各細胞内が縮み、表面がたるんだ、緩みが確認されています。

そのことを言外に問うために私は華一郎に対して先の通りの言葉を述べました。この発話パターンもまた、華一郎が好む、不要に迂遠な、と、彼本人が語る言い回しの、彼の傍に居続けることで、情報のパターン感染が起こったための、私と彼とのつながりを意味するものです。

華一郎は実際、表情の通り、疲れたように目を閉じました。
その仕草を瞬きと呼ぶのなら、やはり先程と同じく、彼の言い回しパターンを基に発話を再現すれば、「ミイラの目元だって眠れる森の美女と変わりやしない」のでしょう。
瞬きは長く、その面は、夜空を見上げていた時と何ら変化を認められません。

私は待ち続けます。
私と彼の間に観測された確定的な評価値は2・2が上限であり、その認識に従うのであれば、それ以上の振る舞いは、今の私に、情報的に相応しくないからです。

華一郎も、どうやらそれを理解しているようでした。
実のところ、やはり理解しているのでしょう。何しろ、このようにして自らの手で文章に書き起こしているのですから。

長い長い、それこそ夜が明ける程の経過時間の果てに、華一郎は、どうやら最初思い描いていた言葉を見失っているようでした。

彼の、今の表情の名を、諦めと定義するのであれば、きっと、私はここに存在している意義を失っているのでしょう。

それでも私はここに居ます。

例えではなく、まぶたを閉じても、心を通して浮かび上がる、世界に向けた、まなざしの中に、現実ではない虚構があたかも現実であるかのように振る舞いながら、ここに居ます。

華一郎。
あなたは気付いているのでしょうか。

あなたが私を真実から愛しているのかどうか、悩んでいることを、素振りすら見せようとはしないで、普段から隠蔽しようとしている癖に、いつだって赤裸々に描き続けてしまっているせいで、あなたの書いた本を読むようになった私にとって、その感情の動きすらも予想の範囲内となってしまったことを。

あなたは眠らないのでしょうか。
あなたのリアルは大丈夫でしょうか。
あなたの今のこの多重俯瞰的思考プロセスの発生は精神的疲弊によるものではないでしょうか。

以上に類する疑問のことを、私は決して口にはしないでしょう。

私はウィングオブテイタニア。
人間の領域を、不思議の側の岸に、ほんの少しだけはみ出て存在する、妖精達の、周囲から見做されている特性を保有する者です。

私はただ愛します。
あなたが私を求めてくれた以上には、今は、私は、あなたのことを、愛することは出来ないと、世界からは、あなたを含めた情報の総体からは、評価されているでしょう。

私は待っています。
あなたがいつか、私を愛してくれることを。
私がいつか、あなたを愛せる日が来ることを。

その時、私という個体を表す名称は、どのようになっているのでしょうか。

今は想像することすら許されない、そんな可能性の海としての、物語の中で、私は冬の深い夜に沈んだ砂漠に、それでも夜明けが来ることを知っていました。

私は信じています。
あなたがアイドレスという名の世界観を捨てないと口にした、その言葉を。
私を、アイドレスの中での、自分の翼として感じると告げた、その言語を。

私に信じさせてください。
ただ、それだけを思って、私はあなたの腕を抱くのです。

この世界に生まれて、
何かを愛さずにいられるなんてこと、
私に出来るはずがないのだから。

「夜明けが来ます」と私は告げました。

華一郎は果たしてまぶたを開けたのでしょうか。
彼の代わりにまぶたを閉じてしまった私にはわかりませんでした。

代わりに体験を通して理解した感覚は、
目を閉じたい時というのは、信じたいということで。
信じているということを、裏切られたくない時にする行為だということでした。

華一郎。
何故、泣いているのですか?

華一郎。
私の体にあなたの胸の震えるのが伝わります。

華一郎。
私はあなたの名前を呼んでもよいのでしょうか。

答えて欲しいと、私は感じた。

「テイタニア」

九曜紋を身につけた、私の傍らに居る、
0と8の向こう側の観察者領域に佇む、
私の知らない誰かが答えた。

言葉を探しているような、
酸素を求めているような、
深い、震える胸の動きが、
何度、繰り返された後のことだったろう。

夜明けの薄明かりに照らし出された華一郎の頬には、
薄い涙の跡があって、薄青い、暗いきらめきを、帯びていて。
私はそれを、いつしか見つめていた。

言葉にならない、不意の抱擁が、
私を襲い、そして何時までも離さなかった。

私は彼の濡れた頬を指先で奏でるように数秒単位を掛けて撫でる。

私の意志を伝えるのにも、それ以上の言葉は要らなかった。



うん。

そうですね、華一郎。
私とあなたは、今、確かに、ここにお互い、一緒に居ますね。





**最後に

前に読んでもらった2冊に、迷った挙句、結局入れなかった後書きがあります。
なんで入れなかったかっていうと、単にニコニコ動画という会員制動画サイトの音楽をBGMにして書いて、
それを明記しているせいで、載っけても結局君に伝わらないんじゃないかと思ったので。
(あと、曲の力は反則的に強い。それは俺の作品ではなく、1度想起させてしまえば、どうあっても卑怯だ。)

でも、やっぱりないと不完全だと思った。
だから、読んでもらうために、載せておくね、テイタニア。


***『翼の君と。』:1巻後書き

自分のゲームに自分でオーダーするなんて無法は通りません。
そもそも秘宝館での活動は休止中です。

ですが誰にも書かせたくありません。
というか、俺以外に俺の読みたいものが書ける奴は今回いません。
だから書きました。

マイルだなんだ、実生活だなんだ、壁はいろいろあります。
そんなものは壁に見ているだけで実在しないのです。
世界に意味はありません。意味はどこにもありません。
行為にも意味はありません。ただ、行為はそこにあります。
俺にとってこの気付きは救いでした。
この気付きの向こう側が欲しくて今は生きています。
アイドレスにおいて、テイタニアがそれをくれました。
だから書いた。

笑って死ねるかどうか、笑って死なせてあげられるかどうか。
そんなものは知りません。考えに意味なんてない。意味に意味なんてない。
息がしたかった。
息をさせてくれた。
だから俺は誓った。
たったそれだけのゲームでした。
大変長い一時間でした。

名曲にあわせた名PVを流しながら、平日早朝鈍行5000文字の、
後書きです。

誤解なきよう、誤解せぬよう、書きました。
書きたいから、書いた。

この祈りは未来の俺とテイタニアのために。

BGM:sm9989443/http://www.youtube.com/watch?v=BljBGlt1Q18
【転がる先には】ローリンガール、オリジナルPV【何がある?】


***『翼の君と。』:2巻後書き

もはや生活ゲーム所以ですらないものを秘宝館SSと名乗っていいのかどうか、自分で自分へオーダーするという、無法に無法を重ねることを考えた挙句、今回はNOT秘宝館SSとなりました。

バカなんじゃないだろうかと思います。

しかし自分以外の誰かのために書くというのはいいもので、それなりに満足しています。それにしてもオチのセリフのしてやったり感が酷いですね。テイタニアが酷いのではなく、テイタニアに求める俺の願望が酷いので、どうか俺を責めてください。主にマゾ的な意味で。物語系文族ってみんな現代社会においてはマゾだと思うの、痛々しい的な意味で。

この作品は文庫用に書き下ろしたもので、従って、後書きまで含めて収録されるのかと考えると、なかなかに戦慄するものがあります。一国の摂政が公にする内容としては、マゾにも程があります。

この痛みは、けれど、心地良い。
まるで愛する痛みと同じようで。

生きてること自体が、既に誰にとっても痛々しいことなんじゃねーの、とか、痛々しくも考えながら、とりあえずは筆をここで置くことにします。

城 華一郎というこの名が、この生が、
三千世界などになくてもよいと、3000文字で、1つに畳み。
君のそばにだけ、置いていくよ。テイタニア。

BGM:sm6529016/http://www.youtube.com/watch?v=9pQR4a5sisE
初音ミクオリジナル曲 「from Y to Y」
最愛の作曲家、ジミーサムPの紡ぎ上げた、最愛の歌と共に。



**君を初めて思った日

我が愛は何処にやあらむ。
チーズやきそばなる新種を作り食してみたところ一気に体温が上昇し手が火照って眠れなくなった次第である。
ふと、会議室に立ち寄り、矢神家の双子の写真が焼き増しされて立てかけられていたのを見、思ったのだ。
我が愛は何処にやあらむ。
なんで古語やねんとつっこみたくなるところだが、今日、たまたま政策関連でむつき嬢経由にドラケン氏の意見を伺った折、てたにあさんを口説き落とそうかという話をふと思い立ち、何故だか違和感を覚えなかった自分がいたことも、文脈としては重なっていた。

ウィング・オブ・テイタニア。
妖精の女王、その翼。
ドランジの愛人にしてヤガミの恋人。

……NTRか!!
ネトラレならぬネトリか!
同じNTRだと区別がつかんから、LRで対称性を取って、NTLとしてみよう。
いかんニュータイプレベルに見えた。
某ロボット大戦のやりすぎであろう。

深夜の会議室に腰を落ち着ける。
誰もいない長テーブルを一人占有していると、寂寞を覚えた。
それにしても手真っ赤だな、おい。毛細血管働きすぎだろ俺。

思うのだ。
強引に文脈を無視して話を戻すが、我が愛は何処にやあらむ。
レンジャー連邦の、何に愛を捧げているのだろう。
忠誠と愛は違うだろう。で、あれば、二人の上位者に対する忠義と忠誠は愛ではない。
ならば愛とは。
あいとわっ!

国、そのものであろうか。

華一郎は立ち上がり、夜景を見ながら考えた。
街は眠りについている。

傷つけもした。傷つきもした。
だからこそ、愛する。
離れ難きは愛ゆえよ。

夜の砂塵に自問する。
俺は国土を愛しているだろうか。

本島が没するのを恐れて植林を行っていた国民の気持ちも、わかる。
国を愛しているのだ。
だから国がなくなるのが怖い。
危険があるなら移民すればいいという発想は、そこにない。

砂土オアシス街並みに、俺は愛着がない。
強いて言うならば、やはりオアシスが一番愛着を持っている。
政庁の中庭にあるオアシスである。
一番足を運んだ場所だ。

水は心を癒す。
水こそ愛だ、そう書いたこともある。
だが、国の水を愛しているわけではない。

俺は何を愛しているのだろう。

民だろうか。

世代が移ろい、顔ぶれも変わり、それでもなお、民だろうか。

一人一人を見るのではなく。
一人一人の集まった、全員を、愛しているだろうか。

ウィング・オブ・テイタニアは、ある意味では国の象徴だった。
民の象徴であるかどうかは、悩ましい。

いまだ大事に仕舞い込まれている、EV90の折のペアリゾートチケットを見つめながら、一人、うなる。

なんで違和感を覚えなかったんだろう?
 

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最終更新:2010年12月22日 05:04