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ただの言葉だよ。
見上げながら、ソラを想う。

ここには轟々と全身を内臓まで震わせる重低音が響き渡っていた。
大勢の誰かを乗せて、大量の熱を水蒸気に換えて吐き出しながら、
小さなアーチを直線に丸く描いているのは、
僕達が始めて、いつか皆が引き継いだ、僕達の翼だった。

君の手を引いて砂丘を下る。
刻まれる幾つもの有限で数え切れない足跡の、
隣をまた戻る道行きに、去年買った飛行機の、
本のことを思い出した。

重なる掌の間に篭もる汗。
乾いて厳しい日差しが、どうかすると、
瞳からも潤みを奪っていくけど、
そこだけは吹きつける砂塵の粒だって及ばない。

ここは砂漠だ。
どんな命も、いつかはこの微小な砂粒に還る。
積み上げればきっと、今、二人で越えている、
砂丘ほどの大きさにもなっただろうなと、
屍を数で勘定した。
姓を数で、感情した。

見失わないよう、指を絡めて強く彼女の手を握る。
市街から離れた地域では、目印が他にないせいで、
遠近感が、よく、狂うからだ。

砂丘も、振り返れば大きなものは数百m級にも届くのに、
その表面が平坦で、淡々として、大小もなく、特徴も色も他にないので、
考えて見つめなければ、そうとは気付けない。
生きていた頃の赤さは、砂塵の中には、微塵もない。

「一緒に、空を作りたかったな。」

今は、岬の墓標からの、報告の帰り道。
2人で持っていた花束は、もう、どちらの手の中にも、ない。

「はい、マスター。いいえ。」
「……?」

尋ね返すように覗き込んだ瞳は青く、
雲の少なく透明度の高い、ソラよりも、
冴え冴えと晴れやかにきらめいていた。

この瞳のことを思い起こすたびに、
胸の中には言葉が充ちる。

「私達は一緒にあります。
 思い出の宇宙は網の目のようにつながり生きていて、
 私達は、何一つ失われることなく全員で、レンジャー連邦です。
 華一郎。貴方の感じたこの国は、そのような処だったと、
 私は貴方の言葉で記憶しています。」
「……そうか。そうだな。」

そうだった。

ただの言葉だよと見上げながら、ソラを想う。
この言葉はただの文字で、本物の空じゃない。

ここはニューワールド。
ここはレンジャー連邦。
ここは砂漠。
ここは命の最果て。
ここは今。

君は本当に翼だな、テイタニア。
去年興した産業も、元をたどれば君につながる。
君を想うと、空も飛べる。

いつか僕達が失われようと、失われないものがあると、
君と過ごしたターンで知った。

心が飛べるなら、世界はいつでもそこにあるんだね。