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某月某日。深夜。

レンジャー連邦の藩都の外れ。
一陣の風が舞ったかと思うと、そこに見慣れぬI=Dが現れた。
そのI=Dは膝をつくようにかがむと、機関を停止させた。
コックピットが開く。
そこから出てきたのは、ボサボサの髪と赤いふちの眼鏡が目立つ女。

「…ここか、噂の愛を奉じるにゃんにゃんの藩国は」

そう一人ごちる彼女は、豊国ミロ。
わんわん帝國のジェントルラット藩王以下の亡命に手を貸すために自国を脱藩した、正義を貫く騎士の鏡である。

しかしいま、ミロのまとう衣服は西国人のそれである。
ミロは、フードが風で捲れないよう何度も確認して深くかぶると、砂の大地へと飛び降りる。

「よっ・・・と、はっ!」

空中で体を捻り、手にもった布を大きく広げて、着地。
布はI=Dを覆い、その姿を隠した。

「これでしばらくは大丈夫。あとは、こっそりと…」
「あー君君、こんな遅くに何をやってるのかな?」
「・・・はい?」

ミロが振り返ると、そこには男が一人立っていた。

「俺は楠瀬藍。この国で護民官をしている。君は?」
「ええとその・・・豊国、ミロです」

反射的に名前を答えてしまい、しまった、偽名使うんだったと思うミロ。
今までいろいろ考えてきた言い訳の全てがこの一瞬で無に帰してしまった。

「えーと、ミロさん。見たところ一人のようですが、こんな夜遅くになにかありましたか?」

護民官を名乗った男、楠瀬藍は単なる親切心で質問をしていたのだが、わんわん帝國から亡命をしてきたミロにとっては、その質問は尋問に聞こえていた。

「ああぅ、えっと、その・・・」

視点が定まらない。
落ち着け、落ち着け。

とりあえずこの場を誤魔化すため、ミロが眼鏡をクイ、と直した瞬間だった。

「君!!」
「は、はい!?」

楠瀬は大声を上げると、ずんずんとミロに近付いてきた。

何だこいつ?
何かまずいことしたかな?
もしかして、こんなところまで手配書とか回ってないよね・・・!?
それとも、ただの悪漢?
どうしよう、カウンター当てれば倒れるかな・・・?

数瞬の間にいろんな可能性を考えるミロ。
しかしその可能性は、全て外れだった。

「君は、いい眼鏡をかけているね!」
「・・・は?」

脱力するミロ。
対照的に、楠瀬の顔はキラキラと輝きに満ちていた。

「うん、よしわかった。君の眼鏡は是非藩王に紹介せねば。何、藩都はすぐそこだ。ついてきたまえ」

がしっ、とミロの腕をつかんで引っ張ろうとする楠瀬。

「ちょっ、おま・・・!!何するんだよ!それに眼鏡って何だよ?わけわかんないよ!」
「大丈夫大丈夫。ほら俺って、眼鏡とか、好きだから」
「・・・へ?」
「よし、じゃあ行こうか」

あまりにもアレな回答のせいで腕を振りほどくタイミングを失ったミロは、楠瀬に引っ張られるがままついていくしかなかった。

『・・・ま、いいか。藩王に謁見させてもらえるならばあるいは・・・』

腕が痛いからと、ようやく楠瀬の手を振りほどいたミロはそう考えることにし、楠瀬の後に付いていくことにした。

しかしまあ、眼鏡ごときで態度を変える男は聞いたことがない。
そんな男が国民を守る職についている。
それで一体何が守れるのか。

そう考えたとき、ミロは伝え聞いたこの国の信条を思い出した。

『愛は!愛は正義の妻にして勇気の友!
 愛なき正義は飾り物の剣、正義なき愛は水中の鎧!
 愛は眠る勇気の朝日、勇気は迷う愛の灯火!
 愛こそは!そう、愛こそは!!』

そうか。
この男が眼鏡を愛していると考えれば。
この男は本気で眼鏡を、そして眼鏡をかけている人たちを守ろうとするだろう。
この男のように、他の国民もみんな何かを愛し、そのために動いているなら。
この国は、案外居心地がいいかもしれない。
そう感じたとき、ミロは胸につかえていた何かがとれた気がした。

「よーし!」
「何、どうかしたか?」
「ううん、なんでもないよ」
「そうかい?・・・ところでミロさん。君はどこから来たのかな?」
「・・・さて、どこでしょう?」
「秘密、か・・・まあいいや」
「え、いいの?」
「気にしてたら猫にはなれんよ。ところで、ウチの藩王も眼鏡が好きでな・・・」

変なやつ。変な国。
でも、いい人そうで、いい国だ。

「ねーねー、アイドレスに舞踏子ってある?ボク、一度なってみたくて」
「おお、舞踏子ならウチの最新型だ。藩王に直接掛け合えば回してくれるかもな」
「やったー♪」

よーし。ボク、決めた。
しばらく、ボクはこの国にいよう。
いつか胸を張って帰れる、その日まで。

こうして豊国ミロは、レンジャー連邦に籍を置くことになったのだ。

(文責:楠瀬藍)
最終更新:2007年07月17日 10:29