突然だがレンジャー連邦は砂漠の国である。
そもそも砂漠とは、基本、人間を受け付けない所でありまだまだ未開の地に満ち溢れて……え、何だいきなりって?
いや、話し聞いたらとんでもない事ばっかりでさぁ。
―ある文士の会話より抜粋/*/
広い砂漠の真ん中を一人と一匹が駈けている。
後ろを奇怪な砂煙が追い掛けているように見えるのは置いといて、一人と一匹、全力疾走である。
「こんの馬鹿アレン!」
メガネをかけた青年の隣を走るマントを付けた白猫が叫ぶ。
「どーしてあそこでくしゃみなんか出来るにゃ!あんたには緊張感とかそーゆーものは無いのにゃ!?」
アレンと呼ばれたメガネの青年は少し眉を寄せる。
「うーん…出たものはしょうがなくないか?」
にゃんこは頭を掻き毟る。
「うぅーにゃー!!」
「まぁそう怒るなよフェイ。人生色々あるさ。」
「にゃー!!私は平凡な猫生が遅れれば良いのにゃー!」
じたばたと暴れながら走るフェイ。
器用なにゃんこである。
「にゃ!?」
暴れた拍子にフェイのマントから鰹節が飛び出る。
スローモーションになる鰹節(フェイ視点)。
鰹節がくるりくるりと周りながら二人の後方へと…。盛り上がる地面。
……盛り上がる?
刹那辺りの砂を巻き上げて巨大な影が出現する。
時間が元の速さに戻る。
「にゃー!!!」
「あちゃー。」
天に向かって伸び上がる高さは3メートル、直径1メートル程の柱。
レンジャー大砂みみず。
いわゆるサンドワームという奴である。
「にゃー!にゃー!にゃー!」
フェイ、涙目で大混乱である。
「まったく…よし!」
アレンは中指でメガネの位置を直すとフェイを抱えあげる。
「にゃ!?にゃにを!?」「まあ任せておけって。俺の眼鏡は伊達じゃないって事を見せてやる!」
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「まあ、確かに命が助かったのは認めてやるにゃ。」
レンジャー連邦、北都。
とある酒場の机の上でフェイは仁王立ちでアレンの前につめを突き付ける。
今日とゆー今日は引っ掻いてやるんだにゃ!
そう、心に決めていた。
「でも本当ならあんな想いする必要なかったのにゃ!」
そう。今回の依頼はサンドワームの生態調査。
大学の研究員であるフェイをサンドワームの巣まで連れていき、観察後、帰る。
それだけのはずだったのに……。
それも!これも!目の前に!座る!この!男が!
おとこ…が?
…男が居なくなっていた。
「うにゃー!」
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「よかったのか?置いてきて。」
人気の無い裏路地を男が並んで歩いている。
「問題ないさ。」
アレンは笑顔でそう告げる。
「たぶん次会ったら、ギタギタにされるぞ?」
アレンの隣に居る線のように細い目の青年が呆れたようにつげる。
彼の名前はエルレイス=ブライト。
修復士である。
アレンはにやりと笑う。
「なぁ親友。知ってるか?俺のメガネは伊達じゃないんだぜ?」
「意味が判らん。」
「まあ気にするなよ。それより、例の石碑どうだった?」
「修復は、すんだ。」
アレンの表情がぱぁっと輝く。
「それで…なんて書いてあったんだ?」
エルは呆れたようにため息を一つついた。
「…それを読んでもらいたくてフェイの依頼を受けたんじゃなかったのか?」
アレンの動きがぴたりと止まる。
ずれるメガネ。
「あ……。」
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「うーんやっぱりまずいよなぁ。」
酒場の入り口から覗くように中を伺うアレン。
「自業自得だ。」
エルは完全に他人事である。
フェイはカウンター席の上でごろごろしながら鰹節を噛り、凄いペースでまたたび酒をお代わりしていた。
周りの客にくだをまき、絡み、不意に笑いだしたりしている。
フェイ、大荒れである。
「ギタギタかな…俺。」
「まあ、ギタギタだろうな。」
アレンは酒場に入ろうとする。
「ぎゃー!」
中からマスターの悲鳴。
暴れ回るフェイを視認し一歩後ずさるアレン。
「なぁ、エル…。」
エルは中を覗いたまま、何だ?とだけ答えた。
「システィーナ辺りじゃ読めないかなぁ。あれ。」
「無理だったからフェイを紹介したんだろ?諦めて行ってこい。」
数瞬の間。
決意したようにアレンはメガネの位置を直すと酒場に入っていった。
静まる酒場内。
「ぎゃー!」
この後アレンは23回ゴメンなさいを繰り返すことになる。
…がここはアレンの名誉の為に深くは触れないでおくことにしよう。
~~~~~~~~つづく!
(文責:双樹真)
最終更新:2007年02月03日 02:13