その手かざし触れればほら
幾つもの物語が
遠い遠いその世界
戸一つ隔てたその先
むかしむかしとつぶやいて
その手がふわり動き出す
その髪りりんと揺れる
そして広がる物語
むかしむかしの先に待つ
未だ見知らぬその世界
だけれどその話より
もっと──きになるものがある。
ついと頁をめくるたび
あなたのゆれるその空気
何処かへ 遠い何処かへ
いざいざなわれよう共に
しゃらら鈴を転がすよな
あなたの声があるならば──
そうきっと ぼくはあなたの
その声が聴きたいだけなんだ
だけれどふとそんなとき
あなたを見上げたのなら
あなたのその目の奥に 寂しそうなその光
こんな世界 きっとまやかしだと
そっと遠くを 見つめるそんな果てしなさ
きっとぼくの 思い過ごしと
あなたから目を逸らして
そんなぼくの 思いをよそに
物語は進んでいく
むかしむかしとつぶやいて
その手が今日も謡い出す
その髪ちりりと鳴らす
それが新たな物語
むかしむかしのその向こう
跨ぎ越えゆく世界へと
だけれどその話より
もっと──知りたいものがある。
薄闇響く息遣い
あなたのまとうその空気
遠くへ もっと遠くへ
だれがための物語か?
ころろ鈴を張ったような
あなたの目のその奥には──
そうきっと ぼくはあなたの
その目の意味を知りたいんだ。
そうしてまたこんなとき
あなたを見つめたのなら
あなたのその目の奥に つまらなそうなその光
こんな世界 あったらいいのにと
戸一つも 越えられぬ壁の如くに
きっとそれは 或いはそれは
誰にも向かぬ自己憐憫
閉ざされた 世界の限り
その手には本ばかり
おもいすずろに すずやかに すずならすよに
語る己の 物語 重ねるよに
いつか私だって 淡くも確たる憧憬
きっと明日こそは 何かが違うと願って?
どんな世界 あったらいいのだろう
あなたの その目が輝くのなら
きっとぼくが あなたをきっと
見知らぬ世界の果てへ
そんな言葉 届けられたら
どんなにかいいだろう!
きっとぼくは あなたがきっと
喉にも届かぬ言葉
交わらぬ 視線の先に
またひとつ物語