ネズミが水中に入ったり,板や箱を水中に召喚したりすると浮き上がる様子が観察される.これは現実世界と同様に浮力が働いているためであると理解される.本稿では,物理的に浮力を扱ってみる.
実際に水中にある自由受動運動体の運動の様子を観察すると,現実の浮力とは様子が違うことが分かる.すなわち,質量や体積には依存しない.しかし,重力値Ngには依存している.様々な重力下で運動を観察すると,Ng=15において等速で沈んでいくように見える.これは重力と浮力が釣り合っていることを示しているが,それならば初速度は0なのであるから静止し続けるはずである.最初に水中の床に載せておき,しばらくしてから床を取り外すと水中に静止する.これは,浮力の働き始めが遅れていることを意味する.すなわち,自由受動運動体が水中に入ってから浮力が働くまでには時間差があるということである.この時間差については議論しないとして,ここでは浮力の大きさについて考えよう.以下に,各重力値Ngに対して,水中で150pxを10往復するのに要する時間を計測した結果を示す.この際,前述の時間差の影響が入らないように次の工夫を行った.第一に,時限的に外れる床を設置し,浮力が働き始めるまでの間に沈むことを防いだこと,第二に,最初の往復時間にはその時間差が含まれるので2回目から11回目の合計10往復について時間を計測したことである.
| 重力値Ng | 10往復所要時間(s) | 平均時間(s) | (6)式による値 | ||||
| 1回目 | 2回目 | 3回目 | 4回目 | 5回目 | |||
| -10 | 13.09 | 12.67 | 12.83 | 13.03 | 12.55 | 0.64 | √10/5(≒0.632) |
| 0 | 16.55 | 16.62 | 16.39 | 16.44 | 16.46 | 0.82 | √6/3(≒0.816) |
| 5 | 19.99 | 19.93 | 20.29 | 20.16 | 19.54 | 1.00 | 1 |
| 10 | 29.2 | 28.25 | 28.73 | 28.15 | 28.76 | 1.43 | √2(≒1.414) |
さて,Ng=15において,質量に依らず重力と浮力が釣り合うのであった.このときに働く重力Fgは(1)式に示す重力の公式によれば-450Mであるから浮力Fbは(2)式で表される.ただし,Mは質量であり,鉛直上向きを正としている.
Fg=-30NgM …(1)
Fb=450M …(2)
これが正しいと仮定した場合,水中にある自由受動運動体に関する運動方程式は次式のようになる.
Mz''=Fg+Fb=30(15-Ng)M …(3)
これを積分してz'及びzを求めると(4),(5)式のようになる.但し,初期位置と初速度がともに0であるとして積分定数は既に定めてある.また,150pxだけ浮き上がるのに要する時間は(5)式でz=150としたときのtを求めればよいので(6)式で表される.
z'=30(15-Ng)t …(4)
z=15(15-Ng)t2 …(5)
t=√{10/(15-Ng)} …(6)
最初に行った実験で求めた平均時間は(6)式で予言されるものとよく一致しており,浮力が(2)式で与えられることが示された.なお,これは自由受動運動体に関する議論ではあったが,重力と同様,全ての運動体に対して働くと考えてよいであろう.運動の様子が異なるのは並進抵抗があるためである.
チーズを持ったネズミに働く浮力の大きさ
それでは次に,チーズを持ったネズミに働く浮力を求めてみよう.以下に,重力値10の場合の150px10往復に要する時間を計測した実験結果と,その結果から導かれる平均時間を記載する.
| 重力値Ng | 10往復所要時間(s) | 平均時間(s) | ||||
| 1回目 | 2回目 | 3回目 | 4回目 | 5回目 | ||
| 10 | 40.50 | 40.57 | 39.96 | 39.30 | 39.79 | 2.00 |
この場合のネズミに関する運動方程式は(7)式である.ここに,Mはチーズ持ちのネズミの質量,kMは浮力である.初期位置,初速度がともに0であるとして,zを求めると(8)式のようになる.150px降下するのに2秒要するのであるから,(8)式でz=-150,t=2としてkを求めるとk=225である.この結果によれば,チーズ持ちのネズミについてはNg=7.5において重力と浮力が釣り合うことになる.実際にNg=7でわずかに浮き,Ng=8では緩やかに沈むことから本結果は正しいと結論付けることができる.
Mz''=-300M+kM …(7)
z=(k-300)t2/2 …(8)
チーズを持たないネズミ及び運動体には水中において以下の浮力が働く.ここに,Mは質量である.なお,これは重力値Ng=10における重力の1.5倍の大きさである.
Fb=(0,450M)
チーズを持ったネズミには水中において以下の浮力が働く.なお,これは重力Ng=10における重力の0.75倍の大きさである.
Fb=(0,225M)