41 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/05/26(土) 13:05:31.30 ID:TA/FKC86O
『インターンシップ』…
日本国内にいる野良アライさん達の間に広まっているルールである。
起源は不明だ。
誰が考えて、どうやって野良アライさん達へ流布したか?誰にも分からない。
だが唯一確実なのは、このインターンシップというルールを生み出した何者かは…
学者や学会ですら未知の部分が多いアライさんという生命体のことを、
習性や生態などほぼ完璧なまでに知り尽くしていたということだ。
42 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/05/26(土) 13:12:33.73 ID:TA/FKC86O
そのルールは、アライさんの個体数抑制と、厳しい環境で淘汰することによる、野良アライさんの品種改良が目的となっているようだ。
ルールの一例はこうだ。
育てているアライちゃんに乳歯が生えたら、簡単な狩りの訓練や生きる知恵を教え次第、両手に乗るサイズのうちに速やかに森から人里に放流しなくてはならない。
成体になるまでは、再び森に帰ってはいけない。
成体になったら、人間の畑から作物を獲ってはならない。
生きている人間は、赤ん坊でも老人でも襲って食ってはいけない。
森で親無しのアライちゃんを見つけたら、殺して食わなくてはいけない。
…などなど、色々とルールがある。
アライさんは人間の文字を勉強しないので、親から子への口伝てでしか引き継がれない。
そのため、アライさん達の間で完全なルールが抜け盛れなく広がっているわけではなく、
個体によって覚えているルールにばらつきがあるようだ。
もしもインターンシップのルールが無かったら…
アライちゃんは、森の中で高い運動能力を持ってから人里にやってくることになる。
また、大繁殖したアライさん達が森の恵みや野生動物を食いつくし、大規模な自然破壊につながる。
食べ物を求めて人里に今以上にたくさんのアライさん親子が押し寄せ、人間の作物にも人間の赤ん坊にも見境なく襲いかかる。
…等々、アライさんによる損害はさらに大きくなっていただろう。
…しかし、野良アライさん達の間で、律儀にインターンシップのルールが守られているのは何故だろうか?
何者かが全国の野良アライさん達を脅して無理矢理従わせているのであろうか?
あるいは、アライさんに自然を愛する善の心があり、自然環境を壊さないために律儀に守っているのだろうか?
43 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/05/26(土) 13:28:33.54 ID:TA/FKC86O
その理由は2つ。
1つ目は…
『親アライさんにとって都合がいいルール』だから。
人里での厳しいインターンシップを生き残り、森に戻った成体のアライさん達は、
身体能力が著しく低いヨチラー時代を生き残れるだけの生まれ持った優秀な知能がある。
それ故に、人間の怒りを買うことがどれだけ恐ろしいことか理解しているのである。
もしもインターンシップのルールを守らなかったら、
森の資源が無くなり、嫌でも人里に食べ物を探しに行かなくてはならなくなる。
そうなれば、人間の強い武器で駆除される可能性は今より遥かに高くなる。
腹がへって人間の赤ん坊を襲ったりしたら、人間達はアライさんを滅ぼしに森へ攻めいって来るだろう。
人間が困ろうが環境が破壊されようだ知ったことではないが、
自分自身が困ることになるのは避けたい、というのが成体アライさん達の本心だ。
また、アライちゃんの育成には手間がかかる。
手のひらサイズのうちは、親の言うことに従順に従い、可愛がられようと甘えてくるので、育てるのは楽だ。
しかし大きく成長してくると、自己主張やワガママが激しくなり、食べる量もどんどん増す。
インターンシップでは、そうなる前に、アライちゃんを人里に放流する。
つまり、人間がペットアライちゃんを『ちっちゃくて可愛いうちだけ育て、大きくて反抗的になったら捨てる』のと同じように…
野良アライさんもまた、我が子を『ちっちゃくて可愛いうちだけ育て、大きくて反抗的になったら捨てる』のである。
44 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/05/26(土) 14:03:46.86 ID:TA/FKC86O
そして2つめの理由。
それは…
『自分自身が、親にインターンシップを強制された』からである。
アライさんは、多産で、早熟で、長命だ。
そして産まれる子供はすべて雌だ。
それ故に、雄の野良アライグマが存在しない地域では、自力で繁殖することはできないが…
雄アライグマさえいれば、いち個体が一生の間に産む子供の個体数は、哺乳類では群を抜いてトップクラスといえる。
そのため、殖えすぎないようにするならば、
毎年産まれる子供のほとんどが厳しい環境の中で死ぬことになる。
しかし、アライさんにとって一番大事なものは自分の命である。
虫のようにウジャウジャ涌き出るアライちゃん達は、皆自分だけは死にたくないと思い、必死に生きている。
インターンシップに来たアライちゃんの多くは、最初の一ヶ月で餓死したり殺されたりする。
なぜなら、アライちゃんは親離れするには早すぎるほど、身体能力が未発達な状態で放流されるからだ。
アライちゃん達は、意気揚々と人里に来るものの、
そこで生きることの厳しさに苦しむことになる。
「母親がもっと大きく育ててくれれば、もっと速く逃げられるのに」
「母親が自分達を守ってくれれば、人間や野良猫に殺されないのに」
「自分はなんて不幸な生まれをしたんだ」
…そうやって、アライちゃん達は生きるには苦しすぎる自分の境遇を呪う。
45 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/05/26(土) 14:22:28.39 ID:TA/FKC86O
思考せず、知恵を磨かず、本能の赴くままに生きる多くのアライちゃんは…
身体能力の未熟さ故に、人里で生き残れずに野垂れ死んでいく。
しかし、先天的に優秀な知能と学習能力を持って産まれた個体だけは、死と隣り合わせの日常で、姉妹の死を見届け、何度も死線を越えながら…
身体能力を知能によってカバーして生きるようになる。
未成熟で生存能力が弱い肉体で、いかにして生き残るべきか?
その体重比20%を超える異様にデカい頭で、必死に生存戦略を考え、学習する。
…そうして、大分部の平凡なアライさんは幼獣のうちに自然淘汰によって間引きされ…
必死に頭を使って生き延びた個体だけが、森へ戻って親となり、子を産むのである。
さて、ではこの親アライさん…。
インターンシップによって、いかに地獄の苦しみを味わうことになるか…
人生経験の中で嫌というほど身に染みているはずだ。
我が子をインターンシップへ送り出すことが、地獄の入り口へ我が子を突き落とす行為だと理解しているはずだ。
さて、親アライさんは…
自分の子供へ、インターンシップを強制したがるであろうか?
47 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/05/26(土) 14:28:44.29 ID:TA/FKC86O
それが…
強制したがるのである。
アライさんの多くは、幼い我が子を本当に愛し、大切に育てる。
しかしながら、自分の子供が、自分より幸せになることを快く思わない。
『自分の子供を、自分より幸せに育てよう』と思わない。
自分は親にインターンシップを強制され、不幸な人生を送ってきた。
だから自分の子供といえど、同じようにインターンシップを強制しなくては、論理的にも感情的にも納得ができない。
『自分の子供には、自分と同じように不幸な人生で苦難を味わって貰わないと気が済まない』のである。
それ故に、親アライさんは何ら抵抗なく我が子をインターンシップへ送り出す。
たとえその先に、地獄が待ち受けていることになろうとも…。
48 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/05/26(土) 14:37:06.77 ID:TA/FKC86O
そして、森にいる成体アライさん達もまた、楽々と自由気ままに暮らしているわけではない。
自然の恵みが非常に豊富であれば、アライさん同士でご近所付き合いをしたり、仲良く遊んだりすることもあるようだが…
自然が減ってくれば、成体アライさん同士でも縄張りや雄アライグマを巡った争いが起こる。
そうして、より身体能力が高く、高い知恵をもったアライさんが縄張りや雄アライグマを獲得し…
弱いアライさんは、命までは取られないが、自然の恵みが少ないヨソへ追いやられる。
そうして、優秀なアライさんは縄張りの中でたくさん餌を食べて子供を産み…
劣ったアライさんは、ひもじい思いをしながら、子を作らずひっそりと育つのである。
49 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/05/26(土) 14:46:24.57 ID:TA/FKC86O
年々、人里にやってくるアライちゃん達は、少しずつ知能が狡猾になってきている、と言われている(別にそんなことないという声もある)。
たくさん産まれたアライちゃんのうち90%が死に、先天的に高い知能を持って産まれた才児だけが生き延びて子を産むのだから…
その連続で、さながら遺伝的アルゴリズムよろしく、
野良アライちゃんの知能は上がってきているのかもしれない。
ペットアライちゃん達が、『より甘えん坊で、成長が遅く、独立心が低い』…
いわば『独力での生存能力が低い』種へと人工的に品種改良されているのと同じように…
野良アライちゃん達もまた、『より狡猾で、成長が早く、独立心が強い』…
いわば『独力での生存能力が高い』種へと、自然淘汰の中で次第に『品種改良』されつつあるようだ…。
最終更新:2018年07月23日 23:02