落第生

275 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/08/05(日) 10:07:17.21 ID:cgy0sJZTo

~森の中の湖~

湖の岸で、三匹のアライちゃんが手をバシャバシャしている。

大アライちゃん1「ふははー!」バシャバシャ

大アライちゃん2「おしゃかなさんとゆのだぁ~!たあ~!」バシャバシャ

小魚「」ピチピチ

大アライちゃん3「やったのだ~!ざにがにとれたのだぁ!」バシャア

ザリガニ1「」ワキワキ

大アライちゃん1「あらいしゃんもざにがにとれたのだ~!」バシャア

ザリガニ2「」ワキワキ

大アライちゃん2「ふはは~!それじゃー、しまいなかよくごはんたべゆのだぁ!≧∀≦」シッポフリフリ

大アライちゃん1~3「「「いただきますなのだ~!はぐがぶぅ!」」」ガブゥ

アライちゃん達は、湖から獲った魚やザリガニを一斉に食べる。

大アライちゃん1「あむあむあむあむあむあむあむあむ!!(≧'u(≦ )」クッチャクッチャ

大アライちゃん2「おいちーのだぁ!おしゃかなしゃんおいちーだ~!」クッチャクッチャ

大アライちゃん3「くっちゃくっちゃくっちゃくっちゃ!あぐあぐあぐ!(≧'u(≦ )」クッチャクッチャ

大アライちゃん1~3「「「おいち~のだぁ!≧∀≦」」」シッポフリフリ

このアライちゃん達は、体長が30センチ程ある。

もうすぐ二本足で立てるようになり、アライしゃんへ成長するだろう。


276 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/08/05(日) 10:20:35.06 ID:cgy0sJZTo
大アライちゃん1「げぇぷ!うぅ~!まだまだおなかへゆのだぁ!」

大アライちゃん2「もっともっとたくしゃんとゆのだぁ!」バシャバシャ

大アライちゃん3「いーっぱいごはんたべておーきくなゆのだぁ!」バシャバシャ

アライちゃん達は、再び湖から餌を探し始めた。

アライちゃん達はこの時期から、急速に食欲が増していき、一日中食べ物を探し続けるようになる。

アライさんという生き物(?)の成長速度は異常だ。

産まれてから半年かかって体長30センチ程へ成長し…

そこから1年半かかって、体長130~140センチまで一気に成長するのである。

それだけ異常なスピードで成長するのだから、体をつくるための栄養もたくさん必要になる。

大アライちゃん1「あむあむあむあむあむっ!」クッチャクッチャ

そのため、胃がパンパンになるまで餌を詰め込み、胃が空いたら再び餌を詰め込むというヘビーローテーションの食事を繰り返すのである。

大アライちゃん2「はぐはぐはぐはぐはぐはぐはぐはぐ!」クッチャクッチャ


277 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/08/05(日) 10:32:51.68 ID:cgy0sJZTo
大アライちゃん1「げぇ~ぷ!おなかい~っぱいになったのだぁ~!」オナカパンパン

大アライちゃん2「まちなかにいたころには、こんなにいっぱいおいちーものたべれなかったのだぁ!」オナカパンパン

大アライちゃん3「もりにきてせーかいだったのだ♪もうひとざとはこりごりなのだ!しまいなかよく、ここでずっとくらしてうーんとおーきくなゆのだぁ!」オナカパンパン

大アライちゃん1~3「「「なのだ~!」」」オナカパンパン

アライちゃん達は、とても幸せそうだ。


278 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/08/05(日) 10:42:24.15 ID:cgy0sJZTo
大アライちゃん1「うぅ~、いっぱいたべたらうんちしたくなってきたのだ」シッポフリフリ

大アライちゃん2「はいせつすゆのだ!」シッポフリフリ

大アライちゃん3「うぅーっ!」ブリブリ

大アライちゃん1~3「「「うぅ~っ!」」」ブリブリブリブリ

大便「」モワァン

アライちゃん達はその場で排泄した。

アライさんは多くの四足歩行動物たちと同じく、排便時に肛門から腸の一部が裏返って外へ出る。

そのため排便後に尻を拭かなくても、肛門が汚れない体の仕組みになっているのである。

大アライちゃん1「すっごいいっぱいでたのだぁ~!≧∀≦」シッポフリフリ

大アライちゃん2「うげーくっさいのだぁ~!あはは、ざにがにのからまじってゆのだ!≧∀≦」ゲラゲラ

大アライちゃん3「おえ~すんげ~くっさいにおいなのだ!こんだけくさいためふんなら、あらいしゃんたちのつよさをあぴーゆできゆのだぁ!≧∀≦」シッポフリフリ


279 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/08/05(日) 10:50:52.84 ID:cgy0sJZTo
大アライちゃん1「ふぅ…」ノンビリ

大アライちゃん2「ひとざとにいたころは、こんなにのんびりできなかったのだ…」ノンビリ

大アライちゃん3「そうなのだ。ねこにいちばんしたのいもーとたべられたり…わゆいひとしゃんにいじめられたり…」

大アライちゃん1「いっつもおなかぺこぺこで、たべゆののもなくって…しんどかったのだ…」

大アライちゃん2「あんなとこでくらせなんてゆーおかーしゃんはがいじなのだ!ひとざとなんかでくらせゆわけないのだ!なにがいんたーちっぴなのだ!」

大アライちゃん3「もりにきてからは、たべものいーっぱいで、ひとしゃんもいないのだ!とってもくらしやすいのだ!」シッポフリフリ

大アライちゃん1~3「「「しあわせなのだ~…」」」 ウットリ

アライちゃん達は、湖の獲物を食べまくってパンパンに膨らんだお腹を上にして、ごろんと寝転んでいる。



281 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/05(日) 14:46:04.36 ID:aedbgo98O
ザリガニそのまま食ってるのか...

282 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/05(日) 14:50:03.70 ID:UKr7gXXco
そらそうでしょ、野生動物なんだから

283 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/05(日) 15:25:39.38 ID:PBZ4opiPO
いや煮たり焼いたりじゃなくて頭からバリバリ食ってるのか...と。
鳥は頭とか硬いのを残すから道路とかによく転がってるのを見る、って書いてて思ったんだけど食ってるのはアライちゃんだから納得。



284 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/08/05(日) 15:45:59.37 ID:cgy0sJZTo
アライちゃん達は、まだ体も知能も未発達なうちに、母親によって強制的に人里へ連れてこられる。

だが、別に四六時中監視されているわけではない。

自分たちの力では、もう人里で暮らしてはいけないと見切りをつけたら…

人のいない森の中へ逃げ隠れ、そこで自然の恵みを食べて生きること、それ自体は可能なのである。

その選択をするのも無理もない。
母親の言い付けなんかよりも、自分の命の方が大事だと考えるのは。

インターンシップを生き抜けるアライちゃんは20~10%といわれている。

それも、運に恵まれるだけではなく、先天的に知能が高い天才児ぐらいしか生き残れない。

天才じゃない凡才のアライちゃん達は、こうして森へ逃げ延びることがある。

いわゆる『インターンシップの落第』という行為だ。

もしも、すべての凡才アライちゃんが、こうして人里から森へ際限なく逃げ隠れたら…

アライちゃんの生存率は大きく向上し、瞬く間にアライさんの個体数は増加し…自然を破壊していくことだろう。


285 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/08/05(日) 15:53:23.29 ID:cgy0sJZTo
大アライちゃん1~3「「「のりゃあ…のりゃあ…」」」zzz

大アライちゃん達は、ごろんと仰向けに転がって昼寝を始めた。

人里へいたころは、睡眠をとることさえ一苦労。

睡眠中に猫や駆除業者に捕まって殺されるのではないかと、怯えながら寝ていた。

しかし、森の中にそんな脅威は(このアライちゃん達の知る限りは)いない。

このように無防備に、リラックスして寝ていても、野良猫や駆除業者に殺されることなどない。


287 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/08/05(日) 18:09:10.43 ID:P4WlXgtUO
大アライちゃん1~3「「「のりゃあ…のりゃあ…―∀―」」」スピースピー

???「ふん!」ドガァ

大アライちゃん3「びぎいぃいいーーーーーっ!?」

突然、大アライちゃん3は何者かに棒状の物体で頭を殴られた。

大アライちゃん1「≦∀≧」!?

大アライちゃん2「≦∀≧」!?

大アライちゃん3「びぎいいぃいいーーーーっ!!いぢゃいぃいいーーーっ!いっぢゃあいのだあああーーーーっ!」シッポブンブン



大アライちゃん1「だ、だれなのりゃあ!」フゥーッ

大アライちゃん1は、末女を叩いた者の方を見た。

そこにいたのは…


288 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/08/05(日) 18:19:22.23 ID:P4WlXgtUO
野良アライさん「どこのどいつか知らないが、なんでここにいるのだ、チビ共!インターンシップで人里にいないとダメなのだ!」

そこにいたのは、なんと成体のアライさんであった。

その口ぶりからすると、大アライちゃん1~3との血縁関係はないようだ。

野良アライさん「落第した出来損ないが!アライさんの餌場を荒らすななのだぁーっ!」ブンッ

野良アライさんは、大きな動物の骨を振りかざし、大アライちゃん3の頭を再び強打した。

大アライちゃん3「ふぎゅ!」ベヂゴォッ

大アライちゃん2「いもーとぉっ!」

大アライちゃん3「」ビグッビググッジタバタジタバタタッビググンビビグン

大アライちゃん3は、頭から血を流しゴキガイジムーブしている。

大アライちゃん2「な…な…!」ブルブル


289 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/08/05(日) 18:24:07.66 ID:P4WlXgtUO
大アライちゃん2「おまえええーーーっ!なんであらいしゃんのだいじなだいじな!なかよしいもーとぶっこよちたのだあああっ!!」フゥーーッ

大アライちゃん1「いもーとはたいせちゅなかぞくだったのだああーーーっ!」フゥーーッ

野良アライさん「なんだお前…自分のお母さんから教わってないのか?インターンシップのルールを…」

大アライちゃん2&3「「…う、ぅっ…」」ブルブル

知っていた。
聞いていた。
母親に教わっていた。

インターンシップを落第して、森へ逃げたアライちゃん達は…

野良アライさん「出来損ないだから!処刑するのだあーーっ!」ダッ

野良アライさんは、大きな骨を持って大アライちゃん1&2へ襲いかかった。

大アライちゃん1&2「「ぴいいいぃいいーーーーーっ!にげゆのだあああーーーーーーっ!」」ヨチヨチヨチヨチ

大アライちゃん達は必死で逃げる。


290 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/08/05(日) 18:28:14.53 ID:P4WlXgtUO
野良アライさん「遅いのだぁーーっ!」ザザザザザザザ

大アライちゃん1&2「「ぴいいいぃいいーーーーーっ!?こないでえぇーーーーっ!!」」ヨチヨチヨチヨチ

だが、両者のスピードには差がありすぎた。

通常の野良アライさんが全速力で走るスピードは、奇妙な表現をするが…

『成体アライグマの全速力より速い』。

膝をついてヨチヨチするアライちゃん達との距離は、どんどん縮まっていく。

大アライちゃん1「ひぃ、ひいぃ!こっちににげゆのだ!」ヨチヨチヨチヨチ

大アライちゃん達は、草の生い茂る急な坂道を上ろうとしている。


293 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/08/05(日) 18:48:26.73 ID:P4WlXgtUO
だが…

大アライちゃん1&2「「わっちぇ!わっちぇ!」」ヨジ…ヨジ…

坂道を上る大アライちゃん達のスピードは、平地より明らかに遅い。

後ろ足をひっきり無しに動かしているが、膝と脛は草でつるつる滑っている。

大アライちゃん1「ぴいぃ!なんでなのだぁ!ちっちゃいころはもっとすいすいのぼれたのにぃー!」ヨジヨジ

大アライちゃん2「うぅーー!」ヨジヨジ

アライちゃんは、膝と脛をついてヨチヨチ四足歩行で移動する。

この状態で、滑りやすい草の生い茂る坂道を上ろうとするとどうなるか?

そう。

膝と脛は接地面積が大きいため、草の上でズルズル滑る。

そのため、坂道でヨチヨチすると、坂の下へズルズルとずり落ちていくのである。

幸い、体重の軽い小さなアライちゃんのうちは、坂道でも問題なくヨチヨチできる。

だが、アライしゃんに近い大きさまで育った大アライちゃん達は、ロッククライマーのように苦戦している。

大アライちゃん1&2「「わっちぇ!わっちぇ!」」ヨジヨジ

それでも、スイスイ木登りできる身体能力をもつ大アライちゃん達は、腕力を駆使して強引に坂道を上っていく。

まるでボルダリングか、ロッククライミングのように。


294 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/08/05(日) 18:52:42.74 ID:P4WlXgtUO
野良アライさん「遅いのだ!」スタスタ

大アライちゃん1&2「「ぴいいぃい!?」」ビクゥ

だが、二足歩行のアライさんは、難なく大アライちゃんに追い付いた。

というより…

アライさんは、この大きさのアライちゃんが坂道を上りづらいことを知っており、わざと斜面へ追い込んだようだ。

野良アライさん「ふん!」ボゴォ

大アライちゃん2「びぎぃっ!」グシャ

野良アライさんは、骨棍棒で大アライちゃん2の後頭部を全力で殴打した。

大アライちゃん2「びっぎぃいいい~…!」ゴロンゴロンゴロゴロゴロゴロ…

大アライちゃん2は、坂道をごろごろ転がり落ちていく。


295 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/08/05(日) 19:03:49.12 ID:P4WlXgtUO
野良アライさん「お前で最後なのだ…!」

大アライちゃん1「ひぃ…!た、たしゅけて…!」ブルブル

野良アライさん「ズルした奴は許さないのだ!お前みたいなオツムの足りない出来損ないが森でウジャウジャ殖えると、アライさんの食べ物が無くなるのだ…!」ザッザッ

大アライちゃん1「も…もっ…」ブルブル

野良アライさん「きちんとインターンシップを生き残った奴となら、ご近所付き合いしてやるが…お前みたいな甘ったれのガイジは駆除してやるのだ!」スッ

野良アライさんは、骨棍棒を掲げた。



大アライちゃん「もどゆぅーーーーっ!!いんたーちっぷもどゆからあーーーーっ!こよちゃないでなのだあーーーっ!!」



野良アライさん「…戻る?」ピタッ

たとえ今この状況で、インターンシップに戻るなどと発言したところで、
野良アライさんに大アライちゃん1を見逃す義務などない。


297 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/08/05(日) 20:04:16.72 ID:P4WlXgtUO
野良アライさん「…面白いこと言う奴なのだ」

大アライちゃん1「うっ…うゆぅっ…ぐしゅっ…りっぱに、いきゆから、こよさないでぇっ…」シクシク

野良アライさん「だったらお前、今転がっていった妹を、首を絞めて殺してみるのだ!」スッ

大アライちゃん1「うゆぅ!?」ビクゥ

野良アライさんは、坂の下でジタバタしている大アライちゃん2を指差した。

大アライちゃん2「ぴぃ…ぎぃ…!いっぢゃあああああいいいいぃっ!いぢゃあああああーーいいいいいいいっ!」ジタバタジタバタタ

大アライちゃん1「や…やなのだ…いもーとは、なかよしなのだ…いっしょじゃないと、いきてけないのだ…」ブルブル

大アライちゃん1の言うことは過言ではない。

これまでこの姉妹は、協力し合うことで何度も窮地を脱してきた。

一匹では死んでいたような場面でも、姉妹で助け合うことで生き延びてこれたのである。

そのかけがえのない姉妹を失い、一人でインターンシップに戻ることが、どれだけ無謀なことか…。

大アライちゃん1「だいじないもーと…こよちたくないのだぁ…!」シクシク

野良アライさん「従わないならいいのだ。ここで仲良く死ねばいいのだ!」スッ

野良アライさんは、再び骨棍棒を掲げる。


298 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/08/05(日) 20:10:45.80 ID:P4WlXgtUO

大アライちゃん1「わかったのだあああ!いもーとぶっこよちゅからゆるぢでえええっ!」シッポブンブン

野良アライさん「物分かりのいい奴なのだ」ピタッ

野良アライさんは、骨棍棒を大アライちゃん1の頭へ寸止めした。

野良アライさん「ほれ、ならとっとと仕留めてくるのだ!」ゲシィ

大アライちゃん1「ぴぎぃ!」ゴロンゴロン

野良アライさんに蹴られた大アライちゃん1は、坂道をごろごろ転がっていく。


299 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/08/05(日) 20:17:00.77 ID:P4WlXgtUO
大アライちゃん1「い、いもーと…」

大アライちゃん2「い…ぢゃい…いぢゃああいいぃ…!」ブルブル

大アライちゃん2は重篤なようだ。

大アライちゃん1「…う…」プルプルウルウル

野良アライさん「さっさとするのだ。アライさんがそっちに行くまでにやらなきゃ処刑なのだ」ザッザッ

大アライちゃん2「たしゅけ…て…おね、しゃ…」プルプル

大アライちゃん1「う…う…」



大アライちゃん1「ふしゃああああっ!」ガブゥ

大アライちゃん2「ふぎゅっ…!?」

大アライちゃん1は、妹の喉元に噛みついた。


302 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/08/05(日) 20:26:30.46 ID:P4WlXgtUO
大アライちゃん1「ふぎゅううううっ!うぎゅうう~~っ!」フゥフゥグググ

大アライちゃん2「おご…げ…!おね、しゃ…やべ…!」ジタバタ

大アライちゃん1「うぅ~っ!ふぐっ、うぅ~っ!」シクシクグググ

大アライちゃん1は、泣きながら妹の喉に噛みついていた。

まだ右も左も分からぬ幼い頃に、一緒に人里へ放り込まれて…

何度も何度も寝食を共にした、かけがえのない姉妹。

毎晩毎晩、母親に会いたい、森に戻りたいというホームシックにかられ、その度に励まし合ってきた姉妹。

時には、少ない食糧を誰が食べるか等で、喧嘩になったこともたくさんある。

何度も喧嘩して、仲直りして、何度も助け合って…
また喧嘩して、また仲直りして…。

そうして今まで生きてきた。

そうやって苦難を乗り越えてきた、かけがえのない姉妹に対して…

愛しさを感じない動物など、いるものであろうか。

大アライちゃん1「ふぅーっ!ふぐぐーーっ!」グググ

大アライちゃん2「ひ…ぎゅ…」ブクブク

大アライちゃん1は、涙と鼻水を流しながら、愛する妹の首を噛んで絞める。

妹の抵抗が次第に次第に弱くなっていくのを感じ、その命が自分のせいで失われつつあるのを感じている。


303 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/08/05(日) 20:33:33.46 ID:P4WlXgtUO
野良アライさん「どれ、こいつのとどめを刺しておく、かっ!」ブンッ

大アライちゃん3「」ドグシャ

野良アライさん「ふんっ!ふんっ!」ブンッ ブンッ

大アライちゃん3「」グシャッ ドグシャ

野良アライさんは、最初に殴り倒した大アライちゃん3にきっちりとどめを刺した。

大アライちゃん1「ううぅ、ぅううう!」グググ

大アライちゃん2「あ…ぎゅ…」ガクゥ

大アライちゃん2「」

大アライちゃん2はグッタリした。

大アライちゃん1「はぁ、はぁっ…」パッ

大アライちゃん1は、妹は喉から口を離した。


304 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/08/05(日) 20:37:36.08 ID:P4WlXgtUO
大アライちゃん2「…ぴいぃいいいぃいぃぃぃいい~~~~~っ!」ムクゥ ヨチヨチヨチヨチ

なんと大アライちゃん2は、起き上がって逃げ出した。

大アライちゃん1「…!」ハァハァ

大アライちゃん1は、妹が死んでいなかったことをホッとするが、しかしそれでは自分が野良アライさんに殺されてしまうことにも気づいた。

大アライちゃん2「ぴぃ!ぴぃ!ぴいぃいいいぃいぃぃぃいい~~~~~っ!!」ヨチヨチヨチヨチヨチヨチヨチヨチ

大アライちゃん2は首を絞められ続けたせいで意識が朦朧としているのか、体をガクガク揺らしながら、へとへとと逃げる。

大アライちゃん1「い…いもー…と…!うぅ~っ!」ヨチヨチヨチヨチ

大アライちゃん1は、愛する妹にとどめを刺すために追いかける。

大アライちゃん2「ぴぃ!ふみゅ!ふみゅぅううんっ!ふきゅぴきぃい~~~っ!」ヨチヨチガクガクヨチヨチガクガク

妹と姉の距離はすぐに縮まっていく。


305 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/08/05(日) 20:47:32.73 ID:P4WlXgtUO
大アライちゃん1「たあ~!」バッ

大アライちゃん2「ふぎゅ!」ビターン

大アライちゃん1「…!」アーン

大アライちゃん2「ふぎゅぅうううう!ぴぎゅうぅうううう!きゅうるるうるるるるるぅう~っ!」ジタバタバリバリ

大アライちゃん2は、先ほど首を噛み絞められ続けたせいで、意識が混濁しているようだが、それでも必死の抵抗をしてくる。

大アライちゃん1「…」

大アライちゃん1は、かつてこの妹と何度も喧嘩をし、取っ組み合いをしてきたことを思い出した。

大アライちゃん2は喧嘩が強く、何度も負かされたことを思い出した。

大アライちゃん2「ぴぎぅ!ぴぎゅ!ぴぎゅるるるぅ!」ブンッブンッ

だが…
後頭部に大ダメージを負い、酸欠で意識が混濁した大アライちゃん2の抵抗は、かつて取っ組み合いの喧嘩をしたときとは比べ物にならないほど弱々しかった。

大アライちゃん1「…う…ぅううう!」チラッ

大アライちゃん1は、後ろを振り返った。

野良アライさん「むしゃむしゃ…」ツカツカ

大アライちゃん3「」グチャグチャ

野良アライさんは、大アライちゃん3を持って肉を食い千切りながら近づいてくる。


306 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/08/05(日) 20:51:19.30 ID:P4WlXgtUO
大アライちゃん1「…はぁぐがぶぅっ!」ガブゥ

大アライちゃん2「びっ…」ビグゥ

大アライちゃん1は覚悟を決して、再び妹の喉に噛みついた。

大アライちゃん2「ピギー!ピギー!」ジタバタジタバタ

大アライちゃん1「っ…」グググ

大アライちゃん2「ピギー…ピギー…」ビグッビグッ

大アライちゃん2「」ガクッ

大アライちゃん1「…っ」メキメキメキメキ

大アライちゃん1は、妹が抵抗しなくなってからも、しばらく喉を噛み絞め続けた。


307 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/08/05(日) 20:53:31.13 ID:P4WlXgtUO
野良アライさん「もういいのだ。どいてるのだ」ゲシィ

大アライちゃん1「ぴぃ!」ゴロン

野良アライさんは、大アライちゃん1を蹴って横に転がした。

野良アライさん「ふんっ!」ブンッ

大アライちゃん2「」ドグシャ

野良アライさんは骨棍棒で大アライちゃん2の頭をぶん殴った。

大アライちゃん1「あ…ぁあ…」

野良アライさん「だぁ!たぁ!」ブンッブンッ

大アライちゃん2「」メシャボギィ

大アライちゃん1は、目の前で自分の妹が、頭を叩き潰されていくのを見届けた。


308 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/08/05(日) 21:09:46.54 ID:P4WlXgtUO
大アライちゃん1「…っ…」ブルブル

野良アライさん「さて…片付いたのだ。じゃ、さっさと人里へ戻るのだ」

大アライちゃん1「は、はいなのだ…」ヨチヨチ

野良アライさん「…」スタスタ

野良アライさんは、大アライちゃん1へついていく。

野良アライさん「人里まで見送ってやるのだ」スタスタ

大アライちゃん1「う、うゆうぅ…」ヨチヨチヨチヨチ

二匹は人里への道を進んでいく。

途中で、水溜まりを見つけた。

野良アライさん「水なのだ!ごくごく…」ゴクゴク

大アライちゃん1「ぺちゃぺちゃ…」ペチャペチャ

野良アライさん「ふぅ。さて行くのだ」スタスタ

大アライちゃん1「きゅるるる…」ヨチヨチシッポフリフリヨチヨチシッポフリフリ


309 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/08/05(日) 21:15:12.95 ID:P4WlXgtUO
日が暮れた頃、二匹は人里が見えるあたりまで来た。

野良アライさん「ここで夜を待つのだ」スクッ

大アライちゃん1「ぜぇ、はぁ…お、おなかしゅいたのだ…」グーギュルル

野良アライさん「もぐもぐ…」ムシャムシャ

野良アライさんは、大アライちゃん3の脚を一本おやつ代わりに持ってきていたようだ。

それをフライドチキンのように貪っている。

大アライちゃん1「…」グーギュルル

大アライちゃん1は、野良アライさんを上目遣いで見ている。

野良アライさん「お前も食いたいのか?」

大アライちゃん1「のだっ、のだっ!」ピョンピョン

野良アライさん「ダメなのだ。これはアライさんの食べ物なのだ。その辺で虫でも捕まえてろなのだ」

大アライちゃん1「うぅ~…」ガサガサ

ミミズ「」ウネウネ

大アライちゃん1は、土を掘ってミミズを捕まえた。

大アライちゃん1「もぐもぐ…」ムシャムシャ

大アライちゃん1「っ…!」モグモグ ウルウル

今まで、食事をするときはいつも姉妹がそばにいた。

姉妹で協力して食べ物を獲得し…

おいちーおいちーと喜びを分かち合ったり、食べ物を取り合って喧嘩したり…。

だが、その姉妹はもういない…。

大アライちゃん1「うっ…ひぐっ…ぐしゅっ…」クチャクチャ

大アライちゃん1は、泣きながらミミズを頬張った。


312 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/08/05(日) 21:23:16.25 ID:P4WlXgtUO
野良アライさん「どれ、そろそろ人がいなくなったのだ。ほれ、さっさと向こう行くのだ。しっしっ」

大アライちゃん1「の、のだぁ…」ヨチヨチ

野良アライさん「もうチビのうちに戻ってくるんじゃないぞぉ」

大アライちゃん1「なのだぁ…」ヨチヨチ

心細さが滲み出る、脅えたような足取りで、大アライちゃん1はヨチヨチと人里へ向かう。

野良アライさん「もし無事に生き残って、大人になって森に帰って来れたら、チビに言い聞かせるといいのだ。『アライさんは一度落第したけど、挫折を乗り越えて、インターンシップを成し遂げたのだ』って」

大アライちゃん1「のだ、のだあぁ…」ヨチヨチヨチヨチ…

大アライちゃんは、人里へ戻っていった。

野良アライさん「どれ、アライさんも見つからないうちに森へ戻るのだ」ガサガサ

野良アライさんも、森へ戻っていった。


313 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/08/05(日) 21:28:55.48 ID:P4WlXgtUO
大アライちゃん1「…」ヨチヨチヨチヨチ

久々に戻ってきた人里…。

大アライちゃん1「う…ぅう…」ヨチヨチヨチヨチ

だが、大アライちゃん1は…

もう人里では生きていけないと判断したからこそ、湖へ逃げてきたのである。

姉妹三匹で協力しても、その体たらくだ。

自分一匹で、前よりたくましく生きていけるはずもない…。

大アライちゃん1は、そう考えていた。

大アライちゃん1「うゆ…うゆぅううっ!」グスッ

大アライちゃん1「のぉおおーーーぁああああーーーんっ!のぁああーーんっ!のぁあああーーんっ!」ビエエエエン

大アライちゃん1は、押し潰されそうな不安に涙を流した。


314 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/08/05(日) 21:36:29.83 ID:P4WlXgtUO
大アライちゃん1「う、ぅ…」ガシィ

大アライちゃん1は、並木に掴まった。

大アライちゃん1「うぅ、はぁ…ぜぇ、はぁ…!」グググ

そして、ゆっくりと、二本足で立ち上がっていく。

大アライちゃん1「ふぅ、ふぅ…!」ゼェハァ

大アライちゃん1は、並木に掴まりながら、膝を伸ばし二本足で立った。

大アライちゃん1「はぁ、はぁ…」ノソリノソリ

そして、並木に掴まりつつ、二本の足を交互に前に出し、二足歩行の練習を始めた。

大アライちゃん1「あらいしゃんは…ぜったい…ぜったい…!いきのびゆのだ~!」ハァハァヨロヨロ…


姉妹の協力があって尚、人里では生きていけなかった大アライちゃん1。

その幼獣が、姉妹さえ失った。

しかし、姉妹と共に過ごした日々は消えない。

湖でたくさんの獲物を捕まえてすくすく育ち、大きくしたその肉体だけが、大アライちゃん1の武器だ。

果たして、大アライちゃん1はやはり生きていくことはできないのか…

はたまや、生き延びることができるのか…

それは大アライちゃん1にしか分からない。


315 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/08/05(日) 21:39:27.06 ID:P4WlXgtUO
~湖~

野良アライさん「ふぅ…」ガサガサ

野良アライさんは、湖に戻ってきた。

大アライちゃん2「」

大アライちゃん3「」

野良アライさん「どれ…たくさん肉が手に入ったのだ」ガシィ

野良アライさん「冬籠もりのために、しっかり食べておかなきゃなのだ…」

野良アライさん「はぐはぐ、もぐもぐ…」ムシャムシャバリバリ

野良アライさんは、殺した二匹の大アライちゃんの死骸を貪り始めた。

そこには何ら躊躇はないようだ。


316 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/08/05(日) 21:44:58.62 ID:P4WlXgtUO
インターンシップを生き抜けるアライちゃんは20~10%といわれている。

天才じゃない凡才のアライちゃん達は、森へ逃げ延び、『落第』をすることがある。

もしも、すべての凡才アライちゃんが、こうして人里から森へ際限なく逃げ隠れたら…

アライちゃんの生存率は大きく向上し、瞬く間にアライさんの個体数は増加し…自然を破壊していくことだろう。

だが、そんなことは、森に暮らす成体アライさん達が許さない。

成体アライさん達は、幼少期の未発達な知能で地獄のインターンシップを生き抜き、成体まで育ったツワモノ揃い。

それ故に、能力のない落ちこぼれ共が自分の餌場を荒らし、限りある自然の恵みを減らすことを許さない。

加えて、自分が乗り越えた苦難の日々を踏みにじり、ズルをして生き延びようとする卑怯者を許さない。

凄まじい繁殖力をもつアライちゃん達は、その成体達によっても間引きされているのである。


317 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/08/05(日) 21:45:26.17 ID:P4WlXgtUO
続く


319 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/05(日) 21:59:29.38 ID:Ao24/kyzO
アライちゃん編のドキュメントおもしろかった。アライしゃん編のドキュメントも面白そう。


320 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/05(日) 22:08:14.42 ID:x8aAbS/HO
乙です。
ここまでして生き延びた強者でもピクニック感覚で来た人間のアライボウや毒入り菓子食べて死ぬんだよなぁ…
あの時でもアラ虐補正とかかけてたわけではないだろうし


321 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/05(日) 22:17:28.32 ID:Z4lvOCd3O

やっぱインターンシップってアライさんという種族にとって不自然に有益だよなぁ・・・


324 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/05(日) 22:44:38.37 ID:u8IqP1kt0

このパターンはありそうで今まで無かったね。
裏設定みたいのが見れた感じでよかった。


325 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/06(月) 00:10:25.51 ID:4Lp9pv7y0
インターンシップは本能的に親から子へ伝わってるのか、それとも文化として伝わってるのか謎だな…





最終更新:2019年02月10日 22:37
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