アラ助と同族仲間

577 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/10/28(日) 23:32:00.15 ID:2w7BuSI6o
飼い主男「お~よしよし、パン食うか」スッ

飼い主男はパンくずを差し出した。

アラ助「いただきましゅなのりゃあ~!はぐ!はぐ!あむあむあむあむっ!んん~!おいちいのりゃあ~っ!(≧'ω(≦ )」ムシャムシャモグモグ

アラ助はいつも通り口を閉じ、クチャクチャ音を鳴らさずに食べた。

ペットアライちゃん工場の職員が厳しく躾した成果の賜物である。

野良アライちゃん「うぅ…」グーギュルルー

茸取りアライちゃん1「きのこよりおいちそーなのりゃあ…」グーギュルルー

飼い主男「君たちも食べるかい?」スッ

野良アライちゃん2「い…いいのかあ!?」

飼い主男「よいしょ」ポイッ

飼い主男は、パンくずを入れた袋を投げた。

袋は地面に落ちた。

野良アライちゃん達「「「なのりゃああああ~~~~~~っ!!!!≧∀≦」」」ヨチヨチヨチヨチヨチヨチヨチヨチ

野良アライちゃん達は、パンくずの入った袋へ猪突猛進した。

野良アライちゃん「はぐっ!はぐっ!」ムシャムシャモグモグ

野良アライちゃん2「おいちーのりゃあ!いもむしよりおいっちーのりゃああ!」クッチャクッチャ

野良アライちゃん3「あぐあぐ、むふぅ、クチャクチャクチャクチャ」

野良アライちゃん4「あむあむあむあむあむあむっ!あむあむあむあむっ!」ムシャムシャモグモグ

一方の野良アライちゃん達は、パンくずを一心不乱にクチャクチャとむさぼっている。

別に野良アライさんの全てがクチャラーというわけではない。

だが、アライさん自身は他人のクチャラー音を全く気にしないため、この汚い咀嚼音を立てていることが良くないということにすら気付くことができない。


578 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/10/28(日) 23:44:50.62 ID:2w7BuSI6o
茸取りアライちゃん1「ありゃいしゃんのなのりゃあ!はぐがぶ!」クッチャクッチャ

茸取りアライちゃん2「ありゃいしゃんももっとたべゆのりゃあ!あむあむ!」クッチャクッチャ

飼い主男「…アラ助、帰るぞ」ガシィ ヒョイッ

アラ助「うゆぅ!?」

飼い主男「っ…」タタタタタタタ

飼い主男は走って自家用車のところへ向かう。

アラ助「うゆぅ…!」チラッチラッ

アラ助は、本当はまだまだ野良アライちゃん達と遊びたかった。

だが、わがままを言わないように、徹底的に教育…いや、『調教』…
…否、『洗脳』されている。

アラ助「…またここつれてきてほちーのりゃ」ギューッ

飼い主男「ああ。また連れてくるよ。またお友達を探すといい」スタスタ

飼い主男は、アラ助を助手席へ乗せ、車を走らせて蚕小屋から去っていった。


579 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/10/28(日) 23:49:48.69 ID:2w7BuSI6o
野良アライちゃん「げぷぅ、たべたのりゃ~」シッポフリフリ

野良アライちゃん2「そろそろおうちかえっておねむしゅゆのりゃ…」クルッ

野良アライちゃん2は、巣穴がある壁の方を向いた。

野良アライちゃん2「ぴぃ!?」ビクゥ

野良アライちゃん3「どーちたのりゃ?」

野良アライちゃん2「あ、ありいしゃんたちの、おうちが…」ユビサシ

アライちゃん達の棲み家である、壁の巣穴は…





…いつの間にか、コンクリートブロックが置かれて塞がれていた。


586 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/10/29(月) 20:27:59.91 ID:ik7hEZK8o
野良アライちゃん1「な…なんで…」

その時。

???「ヴィィイイイイインィイイイインインインィイイイイインヴィイイイイイインッ!!!!」ギュィイイイイイイイ

突如、野良アライちゃん1の近くで機械の高速駆動音が鳴った。

野良アライちゃん1「ぴぃ!?」クルッ

振り返った野良アライちゃん1の目の前にあったのは、高速で回転する円盤だ。


それは…





588 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/10/29(月) 20:43:39.56 ID:ik7hEZK8o
絹男「だらぁ!」ヴィイイイン

それは、レインコートを着てバイク用ヘルメットを装着した絹男が持つ草刈機の刃であった。

ヘルメットはこんな↓感じで、目は透明なシールドで保護されている。



野良アライちゃん1「じびぎゅ!」ブヂャアアアグシャアアッ

野良アライちゃん1は、草刈機で一瞬のうちに首を切断された。

野良アライちゃん1の頭「」ドチャッ ゴロン

野良アライちゃん1の体「」ドサァ ビグンッビグググッジタバタジタバタビビグンビッタンバッタンシッポフリフリフリフリフリフリビビグンジタバタ

首を刎ねられた野良アライちゃん1の体は、小便を漏らしながら手足と尻尾をばたつかせ、魚のように地面を跳ねた。

野良アライちゃん2「≦∀≧」!?
野良アライちゃん3「≦∀≧」!?
野良アライちゃん4「≦∀≧」!?
茸取りアライちゃん1「≦∀≧」!?
茸取りアライちゃん2「≦∀≧」!?

野良アライちゃん達は、何が起こったのか理解できていないようだ。

だが、徐々に顔が青ざめ始め、仲間の死を理解したようだ。


589 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/10/29(月) 20:50:21.70 ID:ik7hEZK8o
絹男「ッ…!」タタタッ ヴィイイイン

絹男は死体には目もくれず、生きた野良アライちゃん達の方へ駆け寄る。

野良アライちゃん達「「「ぴ…ぴぃいいいい~~~~っ!!!にげゆのりゃああああ~~~っ!!」」」ヨチヨチシッポフリフリヨチヨチシッポフリフリヨチヨチシッポフリフリヨチヨチシッポフリフリ


インターンシップを始めて間もない野良アライちゃんの中には、自分は最強であり何でもやっつけられると勘違いする個体もいるらしい。

だが、そんな自信過剰な自惚れ屋は、1ヶ月以内に野良猫やカラスに戦いを挑み、捕食され命を落とす。

そんな無惨な姉妹の姿を見た生き残り達は、日々の厳しい生活の中で、自分達が貧弱極まりない生き物だと嫌でも実感する。

敵から生き残るために必要なのは、闘争でなく逃走なのだと心底理解する。

この野良アライちゃん達も同じだ。

仲間の首を一瞬で切断するような相手に、戦いを挑む者などいなかった。

野良アライちゃん2「やなああああああ!やああなああああああああっ!」ヨチヨチシッポフリフリヨチヨチシッポフリフリ

野良アライちゃん3「ごああいいいいいいいーーーっ!こっちくゆなああああーーーっ!」ヨチヨチシッポフリフリヨチヨチシッポフリフリ

野良アライちゃん4「おがーーしゃああああーーーんっ!」ヨチヨチシッポフリフリヨチヨチシッポフリフリ

茸取りアライちゃん1「ぴいぃいいい~~~っ!ぴぃいいいーーーっ!」ヨチヨチシッポフリフリヨチヨチシッポフリフリ

茸取りアライちゃん2「きちがいなのりゃああああっ!こっちくゆなああああーーーーっ!」ヨチヨチシッポフリフリヨチヨチシッポフリフリ

突然現れた敵から生き残るために、小さな命達は必死に逃げた。

尻尾を振り、短い手足をヨチヨチと動かし、四つん這いで必死に逃げた。


590 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/10/29(月) 21:03:18.36 ID:ik7hEZK8o
野良アライちゃん2「たかいとこにげゆのりゃあああっ!」ヨジヨジヨジヨジヨジヨジ

野良アライちゃん3「きのぼりしゅゆにりゃああ~っ!わっちぇ!わっちぇ!」ヨジヨジヨジヨジヨジヨジ

野良アライちゃん2&3「「わっちぇ!わっちぇ!」」ヨジヨジヨジヨジヨジヨジ…

野良アライちゃん2と3は、木の幹をすいすいと登った。

流石アライちゃん、木登りは大得意だ。
高いところへ逃げ切れば、猫はともかく犬やドブネズミ、素手の人間に殺されることはなくなる。

…時に、アライちゃんはなぜ四足歩行をするのだろうか。

骨格や筋肉が、四足歩行に適しているから…
…ではない。

アライちゃんの骨格や筋肉の付き方は、人間の赤ちゃんと同じ。

つまり、むしろ四足歩行は苦手なのである。

アライちゃんが四足歩行をする理由、それは単純な筋力不足である。

赤ちゃんであるが故に、重くてデカい頭を支えて二本足で立ちバランスをとるだけの筋力がないのである。

だが、これは科学的に矛盾している。

人間と同じ骨格であれば、どう考えても、二足歩行をするより木登りをする方が必要とする筋力は多いはずだ。

だが、二足歩行ができないほど筋力の弱いアライちゃんは、当たり前のようにスイスイと木登りをやってのけるのである。

一体なぜアライちゃんにこんな芸当ができるのか…
研究者達が解明のために頭をひねっているが、全く解明は進まず、頭を抱えるばかりだという。


591 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/10/29(月) 21:17:18.05 ID:ik7hEZK8o
だがまあ…
そんなことは、今この状況では至極どうでもいい。

絹男「よっと」グイイッ

なぜなら、長い棒の先端についている高速回転する刃は、木登りしているアライちゃんへ容易に届くのだから。

野良アライちゃん2「もーすこしでてっぺ…」ヨジヨジヨジヨジ

刃「ギュゥィイイイイイイイイイインッ」

野良アライちゃん2「びぎゅぅうう!!」ヨジヨジグシャアアブシャブヂャグチャアアア

野良アライちゃん3「≦∀≧」!?

絹男「二匹目…」ベチャベチャ

飛び散った野良アライちゃん2の血と肉片と臓物が、絹男のレインコートにへばりついた。

絹男が、草刈機を持ち出した理由。

それは草刈機が、高いところまで届き…

何より、DPS(ダメージ効率)が凄まじく優れているからである。

バットや刃物でアライちゃんを仕留める場合、それらを1匹へ振りかざし、当てる必要がある。

致命傷にならなかった場合、何度も何度も繰り返し攻撃しなければならない。

その間に、他のアライちゃんに物陰に隠れられたら、多くの取り逃がしをしてしまうことになる。

だが草刈機は、刃をアライちゃんにあてがうだけで即死級のダメージ、致命傷を与えることができる。

脳のつまった頭。
頭と胴をつなげる首。
脊椎の通った背中。
内臓のつまった腹。
一本でも欠けたら移動不可能になる手足。
ヨチヨチ歩きのバランサーとして必要不可欠な尻尾。

草刈機の前では、アライちゃんの身体中すべての部位が急所となるのである。

絹男「よいしょ」ヴィイイイン

野良アライちゃん3「う…うゆ…!」

絹男はそのまま、刃を縦に動かし、野良アライちゃん3も続けて仕留めようとした。


592 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/10/29(月) 21:24:41.84 ID:ik7hEZK8o
野良アライちゃん3「おまえがしぬのりゃああああ~~っ!たああ~っ!」ピョーン

絹男「むっ!?」

なんと野良アライちゃん3は、木からジャンプして絹男の頭上へと飛びかかった。

野良アライちゃん達はインターンシップの掟により、自分から人間を攻撃することを固く禁じられている。

だが、自衛のためなら攻撃が許される、と教わっている。

中には拡大解釈によって、自分の縄張りに足を踏み入れた人間なら殺してよいと思っている野良アライちゃんもいるらしいが…。

ともかく、野良アライちゃん3は今、逃走よりも闘争を選んだ。

野良アライちゃん3「たああ~~っ!」ガバァ

野良アライちゃん3は果敢にも、絹男の急所である頭へとボディプレスを仕掛けたのである。

絹男「ッ…!」ヴィィイイン

草刈機は、縦に伸び縮みするものではない。

刃の先端以外に攻撃力はないのである。

完全に不意を突かれた絹男は、もはや野良アライちゃん3のダイビングプレスをかわすことは不可能である。


593 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/10/29(月) 21:29:38.97 ID:ik7hEZK8o
だが…



ヘルメット「」ガァン

野良アライちゃん3「ごぶうぅぅ!」ビタァーーーンッ

…絹男が被っているフルフェイスタイプの硬いヘルメットに、野良アライちゃん3の柔らかい腹が打ち付けられた。

野良アライちゃん3「ぐぶぇえええ!」ドサァ

絹男の頭の上でゴム毬のようび弾んだ野良アライちゃん3は、そのまま地面にぼとりと落ちた。

野良アライちゃん3「ごほっげほっ!ぴぎゅるるぅ!ぴぎいいいい!おながいぢゃああいいいーーーっ!いっぢゃああああーーいいいーーーっ!おがああああしゃあああーーんっ!」ピギイイイシッポブンブン

不意を突かれたからどうだというのだ。
あらかじめ不意打ちに備えた装備をすればいいだけのことである。

腹を打った野良アライちゃんは、苦しそうに絶叫して地面の上でごろごろと悶絶した。


594 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/10/29(月) 21:36:09.16 ID:ik7hEZK8o
野良アライちゃん3「のぉぁああーーーんっ!の゛ぉ゛ぁ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛ーーーーーぁ゛あ゛ん゛っ!」ピギイイイ

絹男「3匹目」グシャア

野良アライちゃん3「ぐぶふぅぅーーっ!」グチャボギメシャブヂャア

移動しない野良アライちゃん相手には、もはや間合いをとって草刈機を使う必要さえない。

絹男は70キロの体重を踵に集中させ、野良アライちゃん3の腹を踏み潰した。

野良アライちゃん3の口からは、水鉄砲のように血が吹き出し、絹男のレインコートを赤く染めた。

野良アライちゃん3「ご…びゅ…」ビグッ

絹男「次」タタタタタタタ

瀕死の状態で弱々しく痙攣する野良アライちゃん3に、絹男は興味すら示さず、次の敵へ駆け寄った。


595 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/10/29(月) 21:48:59.01 ID:ik7hEZK8o
茸取りアライちゃん1「ひぃ、ひぃぃ!ぜったいにげていきのびゆのりゃあ、いもーとぉ!」ヨチヨチヨチヨチヨチヨチ

茸取りアライちゃん2「ぜーはー、ぜーはーっ!おねーしゃ!おねーしゃぁあっ!」ヨチヨチヨチヨチヨチヨチ

必死に逃げる茸取りアライちゃん1&2。
どうやらこの二匹は姉妹のようだ。

きっと以前はもっと姉妹がいたのだろう。

だが、猫に食われたか、罠にでもかかったか、毒物でも食べたか…

減りに減って、かけがえのない血を分けた姉妹の生き残りはこの二匹となったようだ。

茸取りアライちゃん1「ふぅーふぅー!いもーとがんばゆのりゃあああーーっ!」ヨチヨチシッポフリフリヨチヨチシッポフリフリヨチヨチシッポフリフリ

茸取りアライちゃん2「おねーしゃもがんばゆのりゃああーーーっ!」ヨチヨチシッポフリフリヨチヨチシッポフリフリヨチヨチシッポフリフリ

先を進む茸取りアライちゃん1と、その2メートル程後ろに続いてヨチる茸取りアライちゃん2は、互いを励ましあっている。

絹男「逃がすか」タタタタタタタ ギュィイイイイイイイ

茸取りアライちゃん1「ぴいいぃ!」ヨチヨチヨチヨチヨチヨチヨチヨチ

茸取りアライちゃん2「は、はやいのりゃああ!」ヨチヨチヨチヨチヨチヨチヨチヨチ

だが、距離はすぐに詰められていく。

茸取りアライちゃん1「ぴぃい!」ヨチヨチヨチポテッ

茸取りアライちゃん2「おねーしゃ!」ヨチヨチヨチヨチ

だが、姉の茸取りアライちゃん1は地面の小石につまづき、転んでしまった。


596 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/10/29(月) 21:57:57.70 ID:ik7hEZK8o
茸取りアライちゃん1の足首「」ボギィ

茸取りアライちゃん1「ふぎゅうぅ!?」ズキン

転んだせいで、茸取りアライちゃん1の足首は捻挫してしまったようだ。

茸取りアライちゃん1「ひぃ、ひぃ、にげ、れな、いぃ…!」ズキズキ

絹男「ッ…!」タタタタタタタ

絹男との距離はぐんぐん縮まっていく。

もはや自分が草刈機の刃から逃げられないことを悟ったようだ。

茸取りアライちゃん2「おねーしゃ!はやくよちよちしてにげゆのりゃあ!えっほ、えっほ!」ヨチヨチヨチヨチヨチヨチ

姉を追い抜き逃げようとする茸取りアライちゃん2。


597 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/10/29(月) 22:00:39.29 ID:ik7hEZK8o
だが、そのすれ違い様に…

茸取りアライちゃん1「たあ~!」ガシィイッ

茸取りアライちゃん2「ぴいぃい!?」ビターン

なんと姉は、妹に後ろから飛びかかって捕まえた。

茸取りアライちゃん2「な、なにしゅゆのりゃおねーしゃ!?」ジタバタ

茸取りアライちゃん1「ふぅーっ!ふぅーっ!くゆな!くゆなあああーーっ!」グイグイ

なんと茸取りアライちゃん1は、妹を羽交い締めにして、絹男の方へ向けている。

血を分けた妹を盾にして、刃を防ごうというのである。

茸取りアライちゃん2「はなちて!はんちてえええっ!ふぎゅるるるうる!ぴぎゅるるるるぅっ!はなぜえええええ!」ピギイイイジタバタシッポブンブンシッポブンブン

姉に羽交い締めにされている茸取りアライちゃん2は、脱出しようとして必死にもがき暴れている。


598 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/10/29(月) 22:10:16.94 ID:ik7hEZK8o
茸取りアライちゃん1「ふぅーふぅー!きたらぶっこよすぞぉお!ふぅーっ!」ガクガクブルブルグイグイ

足首を捻挫し逃げられなくなった茸取りアライちゃん1は、妹を盾にして、ついに草刈機の刃に立ち向かう。

果たして、茸取りアライちゃん1は、無事に刃を防ぐことが…

絹男「だらぁ!」ズガアァア

茸取りアライちゃん2「じびゅぅうう!」ズパァァアアッ
茸取りアライちゃん1「びぎゃあああああっ!」ズブグシャアアアアッ

…なんて言っている間に、姉妹は仲良く上半身と下半身を真っ二つにされた。

刃の回転で吹っ飛んだ上半身は、地面の上で重なりあった。

茸取りアライちゃん1「ッ…」ビグッビグッ

茸取りアライちゃん2「ッ…」パクパク

横隔膜が切断され、喋ることのできない姉妹は、互いを見つめあったままぱくぱくと口を動かしている。

果たして死にゆく二匹の血を分けた姉妹は、相方に何を伝えようとしているのか…

絹男「次で最後だ」タタタッ

…だが絹男は、そんな事にはまるで興味を示さず、最後の一匹を仕留めに向かった。


600 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/10/29(月) 22:24:38.42 ID:ik7hEZK8o
野良アライちゃん4「おうちににげゆのりゃあああっ!」ヨチヨチシッポフリフリヨチヨチシッポフリフリ

野良アライちゃん4は、巣穴の前へ到達した。

まあ、巣穴は今…

野良アライちゃん4「う、うゆうぅ!」



コンクリートブロックで塞がっているのだが。

野良アライちゃん4「これじゃまなのりゃああっ!ふんぬぐぐぐぐう!ふんぐぐぐぐぅ!」グイグイ

野良アライちゃん4は、コンクリートブロックを必死にどかそうとしている。

だが、自分よりはるかにでかくて重いコンクリートブロックをどかす筋力などないようだ。

野良アライちゃん4「おねーしゃたち!いっしょにこれどかしゅのりゃあ!おねーしゃたちぃ!」キョロキョロ

野良アライちゃん4は、声を張り上げて姉達を呼ぶが…

野良アライちゃん1の頭「」シーン
野良アライちゃん2「」シーン
野良アライちゃん3「」シーン

遠くに横たわっている死骸は何も答えない。

絹男「…」ザッザッ ヴィィイイン

絹男が近寄ってくる。

野良アライちゃん4「ぴいいぃい!」ヨチヨチヨチヨチ

野良アライちゃん4は、必死に壁に沿って逃げたが…

塀「」

野良アライちゃん4「うゆぅ!?」ヨチヨチヨチヨチ ピタッ

建物の壁と高い塀の角へ追い込まれた。

潜り込めそうな隙はなく、塀には登るために掴まれそうな突起もない。

絹男「…」ザッザッ

野良アライちゃん4「…ぴぃ…ぴいぃいい…!しにだぐないぃ…!こないでええぇ…!」ウルウルポロポロガクガクブルブル

…もはや、逃げ場はない。

追い詰められた野良アライちゃん4は、壁の角で震えながら泣いた。


601 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/10/29(月) 22:29:30.39 ID:ik7hEZK8o
野良アライちゃん4「そ、そーだ、と、とりひき、しゅゆのりゃ、ひとしゃんっ」ゴソゴソ スッ

野良アライちゃん4は、服の中から何かを取り出した。

蚕の幼虫「」ウニウニ

…それは蚕の幼虫であった。

野良アライちゃん4「あ、ありゃいしゃんは、かしこいのりゃ、きのこしまいにゆーこときかせゆために、い、いつも、いっこたべものもってゆのりゃ」ガクガクブルブル

絹男「…」ザッザッザッザッ ヴィィイイン

絹男は足を止めずに向かってくる。

野良アライちゃん4「あ、ありゃいしゃんを、みのがしてくれたら、こ、これ、おまえにやゆぞぉ!」ガクガクブルブル

絹男「…」ザッザッ ギュィイイイイイイイ

野良アライちゃん4「き、きのこしまいも、おねーしゃんたちも!みんなおいちーっていってゆぞぉ!お、おまえもたべてみろぉ!おいちぃぞぉ…!」ガクガクブルブル

野良アライちゃん4「これあげゆ!あげゆからあああ!たべていいからああ!ありゃいしゃんころさないでえええ!ぴいいいいい!ぴぃいいいいーーっ!」ガクガクブルブルチョロチョロ

追い詰められた野良アライちゃん4は、恐怖のあまり失禁した。


602 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/10/29(月) 22:38:57.41 ID:ik7hEZK8o
絹男「ラストだ」ズガァアッ

野良アライちゃん4「だがらだぢゅげぐびぶぐうぐぐぐぐぐぐぐ!」ドジュバズバグドバガガガガガ

野良アライちゃん4の顔面に、草刈機の刃が叩き込まれた。

野良アライちゃん4の頭「」ズパァアッ

下顎が吹き飛び、野良アライちゃん4の顔は上下に引き裂かれて吹き飛んだ。

だが…

野良アライちゃん4の歯「」ビュンッ

なんと、刃の回転によって勢いのついた一本の牙が、凄まじいスピードで絹男の顔面へ向かって飛んだ。

絹男「ッ…」

このスピードでは、絹男とて反応できない。

牙はまるで復讐の怨念が詰まった弾丸のように、絹男の右目へと真っ直ぐに飛んだ。


603 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/10/29(月) 22:40:43.16 ID:ik7hEZK8o
だが…





ヘルメットのシールド「」カキィン

絹男「うぉ!?あぶねえ!」ビクゥ

フルフェイスヘルメットのシールドが、牙をかきんと跳ね返した。


604 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/10/29(月) 22:47:14.47 ID:ik7hEZK8o
絹男「あぶねえ…。ヘルメットがなけりゃ失明してたな今の…」アセアセ

野良アライちゃんを駆除する上で、最も重要なこと。

それは『安全第一』である。

野良アライちゃんは、農作物への食害を出し、ゴミを荒らし、家屋へ侵入する、紛れもない害獣である。

だが、アライしゃんに成長しても、一匹が食う量は鹿や猪などの大型動物よりはずっと少ない。

加えて野良アライちゃんは、人間を襲って食ったりすることもない。

農作物は、農家にとってはそれこそ生命線ではあるものの、実際に直接命が奪われるわけではない。

そう。
野良アライちゃんは、命を危険に晒して、怪我を負ってまで駆除しなくてはならないほどの危険性はないのである。

その程度の相手を駆除するために怪我を負う必要などない。

十分な安全性が確保できる場合にのみ、怪我を負わない範疇で駆除すればいいのである。


605 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/10/29(月) 22:54:01.67 ID:ik7hEZK8o
絹男「…全員片付いたか…」ガシィ ヒョイッ

蚕の幼虫「」ワキワキ

絹男は、野良アライちゃん4から奪い返した蚕の幼虫を、優しく手に乗せた。

絹男「…」スタスタ

絹男はフルフェイスヘルメットの奥で心底不愉快そうな表情を浮かべ、蚕小屋へ向かった。

確かに蚕の幼虫達は、成虫になる前に、飼い主である絹男の手によって皆殺される。

だが、だとしても。
絹男は蚕達の飼い主である。

毎日一匹一匹様子を見て、病気になっていないのを確認し、ほっと胸を撫で下ろす。

病死した幼虫がいれば、ごく僅かではあるが胸を痛める。

手塩にかけて育てている蚕達の命を、虫のように軽んじているはずがない。

ましてやその命を奪うことに、楽しさなど雀の涙程も無い。

蚕の繭を殺すという行為は、絹男にとって、『やりたくないが、やらねばならない』行為なのである。


606 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/10/29(月) 23:00:28.94 ID:ik7hEZK8o
絹男「……片付けるか」スタスタ ガシッヒョイッ ガシッヒョイッ

トングで野良アライちゃん達の死骸をつまみ、ビニール袋へ詰める絹男。

絹男「…気分わりい…」ガシッヒョイッ ガシッヒョイッ

そう、絹男にとっては。
野良アライちゃんの駆除もまた、『やりたくないが、やらねばならない』行為なのである。

ジェノサアライドの狂人卍や、サディストのバイトであれば、野良アライちゃんを殺すことに楽しさを感じることだろう。

だが、そんな感性を持つ者は、この世界ではごくごく少数派である。

大多数の人物は、大きなドブネズミを殺すのに強い抵抗感を抱くのと同様に、野良アライちゃんを殺すことにも強い抵抗感を抱く。

蚊やゴキブリにように殺すべき命ではあっても、それなりに大きく、小人のような外見をして、人の言葉を喋る。

そんな生き物を殺すという行為は、大多数の人にとって、不愉快でありストレスが溜まる、『やりたくない』行為なのである。


607 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/10/29(月) 23:10:14.16 ID:ik7hEZK8o
絹男「…袋を縛って、と」ギュッギュッ

だが、やりたくないからといって、やらないわけにはいかない。

幸いにして、野良アライちゃん達はまだ人間の赤ちゃんよりも小さいが故に、『人間でない生き物』としてはっきり認識される。

人間でないとはっきり認識した生き物相手なら、不快感を我慢して殺せる人もいるだろう。
この絹男のように。

絹男「…なんでこんなに弱っちくてノロマな生き物が、大繁殖なんてできるんだか…不思議で仕方ねえ」スタスタ

絹男はビニール袋を背負って冷凍庫へ向かう。
燃えるゴミの火まで凍らせておくつもりだ。

絹男「…寄生虫や病原体が効かねえんだっけ?確か……」スタスタ

絹男は、死骸を肉片の一欠片も残さずに回収した。

アライちゃんは病原体が効かないため、腐り始めの肉ならば問題なく食える。

むしろ柔らかくなって食べやすい頃合いのため、腐り始めの死臭なら、『美味しそうな匂い』と感じるのである。

もっとも腐敗が著しく進むと、細菌が毒素を出し始める。
病原体は平気でも毒素を口にすると腹を壊すため、あまり腐りすぎた肉は食えないようだが。


608 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/10/29(月) 23:23:56.89 ID:ik7hEZK8o
絹男が死骸を片付け終わった後…

木「」ガサガサッ

10メートル程遠くの木のてっぺんで、何かが動いた。

野良アライしゃん「…」ジーッ

それは野良アライしゃんであった。

成長して二足歩行ができるようになり、アライちゃんよりも格段に運動能力と食べる量が増した、悪知恵のはたらく害獣である。

木登りのスピードも速くなり、体長1メートルを越す頃には成体のアライグマと同じか若干遅いくらいの猛スピードで走行できるようになるともいわれる、脅威的な生き物だ。

だが体が大きくなった代償として、アライちゃんほど狭い隙間に潜り込んだり、外敵から隠れることはできなくなっている。

野良アライしゃん「…」ジーッ

野良アライしゃんは、一連の殺戮現場を見ていたようだ。

この野良アライしゃんは、何を考えているのだろうか?

まさか、蚕の幼虫を狙うつもりだろうか。

あるいは、ここは危険だと思い、近付かない方がいいと思っているのだろうか。

野良アライしゃん「…かえるのだ」ザッ ザッ

野良アライしゃんは、木から木へと跳び移り、遠くへ去っていった。

果たしてこの野良アライしゃんが、この後絹男の敷地に入ってくることはあるのか…

…それは、語られない物語となることであろう。


609 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/10/29(月) 23:27:18.68 ID:ik7hEZK8o

~車内~

飼い主男「…」ブゥーン

アラ助「しゅぴ~…しゅぴ~…」zzz

アラ助は遊び疲れたのか、助手席のシートに寝転がって寝ていた。

飼い主男「…」ブゥーン

飼い主男は、車を走らせて自宅の方へと向かっている。

アラ助「むにゃ…えへへへ…おともだち…あそぶの…たのちーのりゃ…しゅぴ~…」zzz

飼い主男「…」キキッ

飼い主男は自宅のガレージへ車を停め、アラ助を抱いて帰宅した。


610 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/10/29(月) 23:27:47.05 ID:ik7hEZK8o
つづく


611 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/10/29(月) 23:34:38.08 ID:6E/jomU80

いくら人を襲わないって言っても
人型で喋るよく分からない生き物が山や森に住んでるって気持ち悪いですよね


620 : ◆19vndrf8Aw [sage]:2018/10/30(火) 12:52:33.25 ID:h85DXv6gO
※『殺したくない』っていう言葉の意味について、若干表現に語弊がありました

※近々、その辺作中でもうちょい掘り下げます




最終更新:2019年02月12日 01:00