ペットアライさんとの付き合い方

700 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/11/29(木) 21:48:34.82 ID:sXfUp9cpO
~通勤電車の中~

飼い主男「…」パラリ

朝の通勤電車の中で、飼い主男はひとつの小冊子を読んでいた。

小冊子のタイトルは『アライちゃんの飼い方』。

ペットショップでアライちゃんを購入した時、無料で貰える簡素な小冊子である。

飼い主男「…」パラリ

飼い主男は、ペットショップで店員に簡単に解説してもらった事を思い出していた。


701 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/11/29(木) 21:58:05.72 ID:sXfUp9cpO

~ペットショップ、アラ助購入時~

店員「では、アライちゃんの飼い方を簡単にご説明します」

飼い主男「お願いします」ペコリ

店員「では、小冊子の1ページ目を開いてください」

飼い主男はページを開いた。

店員「アライちゃんは、犬や猫よりも飼うのが難しく、手間がかかります」

店員「その分、一緒に話してくれたり、芸を覚えたり、甘えてくれたり…様々な反応を返してくれます」

飼い主男「…」ペラッ

店員「次…。アライちゃんは好奇心旺盛で、退屈を嫌います。毎日お散歩に連れていってあげましょう」

飼い主男「…はい」

店員「次…。アライちゃんは、人の言葉を深読みするのが物凄く苦手です。『言わなくてもわかるでしょ』と言っても理解できません。覚えてほしいことは、しっかり言葉に出して教えましょう」

飼い主男「…」ペラッ

店員の説明は、小冊子の内容を補足しつつ、相手によって話のレベルを変えているようだ。

真面目そうな飼い主男には、真面目そうな雰囲気で解説をしている。


702 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/11/29(木) 22:07:56.96 ID:sXfUp9cpO
店員「次です。『アライちゃんは赤ちゃんなので、時に間違いをしたり、悪気がなくても悪いことをすることがあります』」

飼い主男「例えば…?」

店員「部屋で放し飼いにすると、電化製品のケーブルを噛ったり、棚のおやつを勝手に食べたり、カーペットの毛をむしったり、柱をひっかいたり…。そういう悪戯をすることがあります」

飼い主男「…」

まるで害獣のようだ。

店員「そういうときは、甘やかさずにしっかりと躾をしましょう。ただし、叩いたり、怒鳴ったりといった体罰をしてはいけません。反抗心が強くなります」

飼い主男「反抗心…」

店員「アライちゃんへの躾は、『何がダメだったか』『どうすればいいか』を教えましょう。そして、その日のご飯を抜きましょう」

飼い主男「ご、ご飯抜き!?虐待っていうか…ネグレクトでは…!?」

店員「いえいえ。人間の赤ちゃんにやったら虐待ですが、アライちゃんならご飯抜きはごく当たり前に行われている躾ですよ」

飼い主男「…大丈夫なんですか?その、さっき言ってた反抗心とかは…」


703 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/11/29(木) 22:17:42.29 ID:sXfUp9cpO
店員「体罰とは体の大きさと強さで相手を支配し、言うことを聞かせる行為です。体罰を与えると、アライちゃんは『いつか大きくなったら仕返ししてやる』という恨みを抱きます」

飼い主男「ぺ…ペットが、恨みを?やはり飼うの大変なんですね…」

店員「その一方で、ご飯を減らしたり、抜いたりする行為。これはアライちゃんの動物的本能を利用した躾です」

飼い主男「動物的本能…」

飼い主男が受けている説明は『上級編』。

もっと簡単な内容の説明もあったのだが、あえて一番難しい説明を受けている。

そのせいで、今にも頭がパンクしそうになっている。

店員「動物が本能的に常日頃から考えていることは、『どうすれば効率的に餌を手に入れられるか?』です。それはアライちゃんも同じです」

店員「餌を多く手に入れるには、良いことをすればいい。餌を減らされないためには、悪いことをしなければいい。…それをしっかり覚えさせるのが躾のコツです」

飼い主男「…な、なんか俗ですね。もっとこう、思いやりの気持ちを持たせるとか…ないんですか?」

店員「お気持ちは分かりますが、不可能です。アライちゃんは自分の損得以上のこと…『誰かのために』という利他的な思考ができない生き物なんです。人間ほど社会性が高くないんです」

飼い主男「…社会性が高くない…」

店員「アライちゃんは人間じゃないので、人間にできて当然のことができません。そこはそういう生き物だと割り切って飼った方が気楽ですよ」

飼い主男「なるほど…」


704 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/11/29(木) 22:22:58.07 ID:sXfUp9cpO
次に店員は、アライちゃんを虐めてはいけないという旨の説明をした。

小冊子にも、アライちゃんの虐待を禁じるような説明が記載されている。

このペットショップは良心的な方針のためか、きちんとその旨の説明をした。

尚、ペットショップによっては…

特に、評判の悪いペットアライちゃん工場から、安くアライちゃんを仕入れ、安く売っているようなペットショップは…

なんと意図的に、小冊子からこの『虐待禁止』のページを切り取ることがあるらしい。

その方が客の受けが良くなる場合があるとかなんとか…。

その情報は、この時点で飼い主男が知らないことであった。


705 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/11/29(木) 22:30:40.02 ID:sXfUp9cpO
店員「次のページです。アライちゃんは大きくなって大人になると、やがて一人で生きていこうとするようになります」

飼い主男「…!」

店員「人間の子供達がいつまでも学校の中にはいられないように、アライちゃんもいつまでも幼い赤ちゃんのままではいられません。アライさんになると、いずれ飼い主へ反抗するようになります」

飼い主男「どうすれば…?」

店員「そんなときは、別れは悲しいですが…。アライさんの楽園へ送りましょう」

飼い主男「アライさんの楽園!?何ですかそれは!?」

店員「簡潔に言うと…。人間にとっての学校がアライちゃんにとってのケージとするなら、人間にとっての自由な社会がアライさんの楽園です」

飼い主男「…どこにあるんですか?」

店員「企業秘密です。アライさんの楽園の場所は誰にも教えられません」

飼い主男「…そこには何があるんですか?」

店員「真の自由があります。アライさん達は、そこで誰にも縛られず、自分の力で、幸せに暮らします」

飼い主男「……………」

『胡散臭い』。
真っ先にそう思った。


ペットアライちゃんの飼い主なら、誰でも一度は抱く感想である。


706 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/11/29(木) 22:39:16.03 ID:sXfUp9cpO
飼い主男「…別れが来てしまうんですか…。最後まで飼うことは?」

店員「難しいですね。しかし、こう考えてはいかがでしょうか?飼い主の方は、アライちゃんが立派に一人で生きていけるように、大人に育ててあげたのだと」

飼い主男「…」

店員「学校の先生も、担当したクラスの生徒との別れは悲しく感じるものです。しかし、それは生徒達が新たな人生のステップに踏み出すためには仕方の無いことです」

店員「多くの飼い主さん方はそのようにお考えですよ。アライさんが反抗するのは、一人で立派に生きていける大人になった証。飼い主さんが一生懸命育てた証です」

飼い主男「…一人で立派に生きていけるようになった証…」

店員「はい。ですからアライさんを楽園に送るのは、アライさんに自由な人生を過ごして行けるようにする、立派な誇らしい行いなんです」

飼い主男「…本当ですか?」

店員「本当です。アライちゃんの飼い主の方たちは、みんなそのようにお考えですよ」

飼い主男「………………分かりました」

飼い主男は、いまだ煮え切らないモヤモヤを抱いていたが…

皆がそれを受け入れているのなら、仕方ないと納得した。


707 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/11/29(木) 22:45:07.92 ID:sXfUp9cpO
店員「最後です。アライちゃんは成長すると、どんどんお利口さんになっていき、いろんなことを考えるようになっていきます」

飼い主男「はい…」

店員「やがて、大きくなったアライちゃんは決まって、『ある質問』をします」

飼い主男「ある質問…?」

店員「その質問に対して、正直に答えてしまった場所、アライちゃんは狂暴になり、暴れて言うことを聞かなくなります。ケージから脱走しようとして、強い反抗心を持つようになります」

飼い主男「えぇ…」

店員「だからその質問には、決まってある『嘘』をついてください。いいですか、必ずですよ」

飼い主男「嘘…ですか。はい」

店員「その質問とは…」



『ドア、閉まります』

飼い主男「はッ!?まずいッ!」ダッ

ペットショップでの回想に入り浸っていたら、いつの間にか目的の駅に到着していた。

飼い主男は鞄を抱えて、急いでドアからホームへと出た。


708 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/11/29(木) 22:52:50.76 ID:sXfUp9cpO
飼い主男「アラ助も、いずれ『あの質問』をするんだろうか…」スタスタ

飼い主男は小冊子を鞄へ突っ込み、改札口を出た。

ペットショップでの説明は、若干(?)暗い雰囲気であった。

それは飼い主男が、暗い側面もしっかりと聞こうと意思表示したからこそ、店員もまたしっかりと話したのである。

この日本にたくさんいる飼い主には、明るい面にのみ目を向ける者も大勢存在している。

飼い主男「さて、今日も一日頑張るかな…」スタスタ


717 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/11/30(金) 22:39:56.71 ID:2ct/Az9zO

暗くなり人通りが少なくなり始めた頃。

飼い主男「…」フラフラ

飼い主男は、酒とつまみを入れたビニール袋を持ち、ふらふらと帰路についていた。

飼い主男「っ…」イライラ

どうやら、仕事でミスをしてしまい、凹んでいるようだ。

ミスをしない人間などいない。繰り返さないよう頑張ればいいだけだ。

別に飼い主男の勤め先はブラック企業ではないので、必要以上に責任追及をしたりはしない。

飼い主男「クソ…課長のやつ…」フラフラ

だが、ブラック企業でなくとも、ブラック上司はいる。

彼の上司は悪評うずまくパワハラ大好き人間。

部下のミスにつけこんで怒鳴り散らし、己のストレスを発散するタイプの上司であった。

貶され、人格否定され、大勢の社員の前に晒された。

そのイライラが今、飼い主男の頭の中にうずまいていた。

飼い主男「…くそが…っ」フラフラ

こんな日は、一人で酒を飲んで寝るに限る。
でなきゃやってられない。
誰かとお話しするような精神的余裕は無い。

飼い主男「…」ガラッ

飼い主男は家のドアを開け、居間に入った。


アラ助「かいぬししゃーん!おかえりなのりゃー!≧∀≦あしょんであしょんでぇー!のりゃ!のりゃ!」ガシャガシャ

大好きな飼い主の帰りを待ちわびたアラ助が、飼い主男にせわしく声をかけた。


718 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/11/30(金) 22:52:34.73 ID:2ct/Az9zO
アラ助「かいぬししゃーん!おしゃんぽ!おしゃんぽつれてってー!のりゃー!なのりゃー!≧∀≦」シッポフリフリフリフリ

飼い主男「…」

アライちゃんは癒し系ペットとして人気ではあるが、別に人間の精神を魔法のように回復するわけではない。

疲れはてヘトヘトの飼い主男には、正直アラ助の相手をしてやれる余裕はなかった。

アラ助「かーいぬーししゃーん!≧∀≦」

飼い主男「…」

今日だけは話しかけないでほしい。
今日だけは散歩を休ませてほしい。

…飼い主男は、疲れて困った顔をアラ助へ向けた。

もし人間なら、よほどのKYでもない限りは、今の飼い主男を見て『そっとしといてやろう』と思うことだろう。

アラ助「うゆー?どーしたのりゃ?ありゃしゅけとあそんではっぴーはっぷーになゆのりゃ!かーいぬーししゃーん♪≧∀≦だしてー!だしてなのりゃー!」ガシャガシャ

だが、アラ助は尚もしつこく飼い主男に話かけ続け、ケージをがしゃがしゃと鳴らす。

飼い主男「ッ………!!!!」イライライライライライライライライライラ

いつもは和ませてくれるその声が、今日は無性に飼い主男を苛立たせた。


719 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/11/30(金) 22:58:15.03 ID:2ct/Az9zO
飼い主男「…今日は疲れてるんだよ…」イライライライライライライライラ

飼い主男はイライラを堪えている。
人間ならば嫌でもその苛立ちを察することができるだろう。

アラ助「うゆ!つかれてゆのりゃ?じゃーありゃしゅけがおかたのまっさーじしてあげゆのりゃー!だーしてー!≧∀≦」ガシャガシャ

だがアラ助はそれを察していない。

飼い主男「ッ!!!!!」

なぜ察してくれないのか。
なんと空気の読めないことか。

飼い主男の苛立ちはピークに達しようとしていた。

飼い主男「…アラ…助…!お前…ッ」ワナワナ

鞄「」ボトッ バサッ

その時、飼い主男が抱えていた鞄が床に落ち、中身が散乱した。

小冊子「」バサァ

飼い主男「…!」ピタッ

『アライちゃんの飼い方』の小冊子が、飼い主男の目に入った。


720 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/11/30(金) 23:05:41.62 ID:2ct/Az9zO

~回想、ペットショップ内にて~

飼い主男「アライちゃんは、非言語のコミュニケーションが取れない?」

店員「はい。人間は言葉だけでなく、身振り手振りや表情、仕草、間の置き方など、様々な方法で感情表現をしています」

店員「それだけでなく、言葉に出さない『暗黙のコミュニケーション』というものがあります」

飼い主男「暗黙のコミュニケーション…。ああ、後ろから急いでる人が来たら道を開けるとか、そういうやつですね」

店員「そうです。『言葉には出さないけど察してください』というやつです。人間社会では必須のコミュニケーションスキルといえますね」

飼い主男「ええまあ…。社会を円滑に過ごすには、無くちゃいけませんね」

店員「アライちゃんやアライさんには、そういった非言語の、暗黙の、コミュニケーションがほとんどできないんです」

飼い主男「できない…?何故ですか?」


722 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/11/30(金) 23:13:50.80 ID:2ct/Az9zO
店員「ええっと…。私も詳しくは知らないので、本で説明しますね」ガサガサ

店員は、『解説!アライさんの生態 ~~東大学教授監修~』という分厚い本をテーブルに乗せ、ページを開いた。

店員「ええと…。人間は、大きくて複雑な群れを作って集団生活を営む生き物です。そのため、コミュニケーション能力が著しく発達してきました」パラリ

店員は本の文章を読み上げていく。

店員「その中で特に発達したのが『共感性』です。相手の考えていることを、言葉を介さずに、仕草や表情から『察し』、『共感する』脳機能が、長い進化の歴史の過程で少しずつ向上しました」

店員「我々が他者に共感し、気持ちを忖度できるのは、何万年という集団生活の歴史があったからこそ、進化し獲得し得たものです。人間以外で共感ができる動物はほとんど存在しません」パラリ

飼い主男「ふむふむ…」


723 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/11/30(金) 23:23:14.01 ID:2ct/Az9zO
店員「その一方で、アライさんという生き物は、基本的に群れを作らずに単独で生活をします。集団生活をするのは親子や姉妹関係程度です」

飼い主男「…」

店員「アライさんは人間と違い、助け合いをしません。他者に手助けをせず、他者に頼りません。自分の力で困難を解決しようとします」パラリ

飼い主男「一人で生きる生き物…ですか」

店員「なんか最近は、ご近所付き合いをする野良アライさんもいるっぽいですけどね。ええとなになに…」

店員「…そのため、人間のような高度な共感性が、日常生活の中では不要となります。他者の気持ちを推し量らずとも生きていけるからです」

店員「共感性がない代わりに、アライさんには幼児期の特異なほど高い学習能力が備わっています」

飼い主男「共感性の『代わりに』学習能力…ですか」

店員「はい。他者に頼らず自力で生きていくためだそうです。生後2ヶ月程度の赤ちゃんのうちに、インターンシップという複雑なルールを暗記できるのはその学習能力のためといわれています」

飼い主男「…ええと、でも。共感性が薄いといっても…アライさんはけっこう大袈裟に感情表現するイメージがありますよ?」


724 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/11/30(金) 23:30:45.13 ID:2ct/Az9zO
店員「そうです、共感性が低いからこそ、アライさんは大袈裟に感情表現をします。なぜなら、そうしないと他の個体に自分の感情が伝わらないからです」

飼い主男「…なるほど」

店員「アライさんは自分の子供を叱るとき、『アライさんは怒ったのだ!』とか『アライさんは悲しいのだ…』など、表情を大袈裟に変えて、自分の気持ちを言葉に出して伝えます」

飼い主男「…人間社会でそんな大袈裟に感情を表現したら、非常識な変人扱いされそうですね…」

店員「はい。人間社会では非常識であっても、アライさん同士での間では、それくらい大袈裟に伝えるのが常識となっています」

飼い主男「……」

大きな群れに依存して生きる動物、『人間』同士のコミュニケーション。

群れを作らずに独力で生きる動物、『アライさん』同士のコミュニケーション。

生きていく環境が全く違うのだから、脳機能に差が出るのは当然だ…ということらしい。


725 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/11/30(金) 23:42:26.30 ID:2ct/Az9zO
飼い主男「さっき、アライさんは基本的に皆利己的であり、利他的行動ができないと言ってたのも…そういうところから来てるんでしょうか…」

店員「ええと…。なになに。一般的に、大きくて複雑な群れを作る生き物ほど、見返りを求めない無償の利他的行動をしやすい、と言われています」パラリ

店員「例えば、イルカや像が溺れた人を助けたり、狼が人間の子供を育てるといった現象が過去に報告されたケースがありますが…」

店員「それは知能の高さや低さによるものでなく、集団生活への依存度合いによるものだそうです」

店員「イルカや像、狼は複雑な集団生活を営み、助け合って生きるため、見返りを求めずに他者を助けるという行為が本能的に可能なのだそうです」

飼い主男「凄いんですね…」

店員「ちなみに、この世で最も多く、他種族への利他的行動ができる動物は…人間だそうです」

飼い主男「野性動物の保護なんて、人間以外好き好んでやりませんからね…」

店員「ええと。しかし、野良アライさんが見返りを求めずに人間を助けたというケースは未だかつて報告例はありません」パラリ

飼い主男「ええ…。利己的すぎるのでは…。…本当にそんな生き物、ペットにできるんですか?」

店員「可能です。何故なら…」




飼い主男「……」

アラ助「かーいーぬーしーしゃーん!は~やくおしゃんぽいくのりゃ~!」フリフリ

飼い主男は苛立ちが爆発する寸での所で、ペットショップで教わったことを思い出したようだ。


726 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/11/30(金) 23:49:31.60 ID:2ct/Az9zO
飼い主男「アラ助」

アラ助「うゆ!なんなのりゃ?おさんぽいかないのりゃ?」シッポフリフリ

飼い主男「俺は今日、疲れてヘトヘトだ。気分が悪くて遊んでやる気になれない。今日は一人でのんびりしたいんだ。悪いがアラ助に構うのは、明日にさせてくれ」

アラ助「うゆぅ!?」

飼い主男は、社会人になってから未だかつてないほど、はっきりと自分の感情を言葉に出して伝えた。

普段ならば周囲が察してくれるようなことを、堂々と言う。

それは気恥ずかしさを感じる行為であった。

飼い主男「餌と水差しとトイレの砂の交換は今やるから、散歩は明日にさせてくれ。いいな?」

アラ助「う、うゆぅぅぅっ…!おしゃん…ぽぉ…っ」ウルウル

アラ助は、飼い主男が会社に行っている間、退屈で退屈で仕方がない。

当然ストレスも溜まる。

故に飼い主と一緒に散歩に行くのは、一日の中で一番の楽しみであったし、ストレス解消にもなっていた。

そんな一日の楽しみが無くなるのは、アラ助にとって強い精神的負荷であった。


727 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/11/30(金) 23:56:36.47 ID:2ct/Az9zO
本質的に利己的な本能をもつアライちゃんが、自分が損するような言い付けに従えるのであろうか。

アラ助「…かいぬししゃん、おねがいあゆのりゃ」ウルウル

飼い主男「…なんだ」

アラ助「…きょーは、がまんしゅゆかりゃ…。ごはんいつもより、いっぱいほちーのりゃ」

飼い主男「…」

アラ助「それで、がまんできてえらいって、ありゃしゅけのあたまなでなでして、うんといっぱいほめてほちいのりゃ…」ウルウル

アラ助は目に涙を溜めながら懇願している。

飼い主男「…いいぞ。我慢してくれてありがとな」ナデナデ

飼い主男はケージに手を入れ、アラ助の頭を優しく撫でた。

アラ助「かいぬししゃん…かいぬししゃん…。あしたはいっぱいありゃいしゃんとあそんで、いっぱいさんぽしゅゆのりゃ…!」スリスリスリスリ

アラ助は飼い主男の手に頬擦りして甘えた。

飼い主男「…」ナデナデ

アラ助「…なーのりゃー…♪」スリスリ

飼い主男は、いつもより多目に餌を箱に入れると、水とトイレの砂を交換し、自室へ戻っていった。


728 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/12/01(土) 00:02:40.31 ID:ufcxnSBKO
飼い主が去った後、居間にはアラ助の入ったケージがぽつんと残っていた。

アラ助「…」

アラ助「う、うぅ…」ウルウル

アラ助「いきたい…おしゃんぽ…いぎだいいぃっ…!」グスングスン

アラ助「ううぅううーーーーーっ!おしゃんぽいぎだいいいいーーーーっ!いぎだいのりゃああああーーーーーっ!おしゃんぽぉーーーーーっ!」ビエエエン

アラ助「のぉおおおぉおおぉーーーーぁあああああーーーーーーんっ!の゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぁ゛あ゛あ゛ーーーーーんっ!!!」ビエエエン

アラ助は、独りぼっちの居間で大声で泣きわめいた。

アラ助「おしゃんぽたのちみにしてたのにぃいいーーーーーっ!!いっぱいあゆいて!おはなやむししゃんみたかったのにいぃいいーーーーっ!ぐしゅっ…!いろんなにおいいーーっぱいかぎたかったのにいいぃいいーーーーっ!!」ビエエエン

アラ助「のおおおおおおーーーぁあああああああーーーーーーんっ!のおおおおおおおーーーぁあああーーーんっ!かなちいのりゃあああーーーっ!さびちーのりゃーーーっ!」ビエエエン

アラ助「だいぐづなのりゃあああ!つまんないのりゃああーーーっ!がいぬじじゃあああーーんっ!」ピギイイイィイ

アラ助は一匹、己の感情のままに独り言を泣き叫んだ。


729 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/12/01(土) 00:07:13.43 ID:ufcxnSBKO
アラ助は結果的に、散歩を我慢するという、ある意味利他的な行動をとった。

しかしそれは、飼い主男に嫌われたくない、いい子だと褒めてもらいたい、ご褒美にご飯が欲しいという、本質的には利己的な欲求を満たすためである。

アライちゃんがいくら利己的な本性であろうとも…

その利己的行動の矛先を、人間にとって結果的に得になるように仕向けることさえできれば…

少なくとも表面的には、利他的行動と変わらない働きをさせることができる。

そしてそれこそが、ペットアライちゃん業界を支える根本的な考え方である。


730 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/12/01(土) 00:07:41.95 ID:ufcxnSBKO
つづく


731 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/12/01(土) 00:43:41.37 ID:GbkrKPwN0
乙でした
アラ助は暴力を振るわれてないからまだマシか

作品外のことですが、作者さんのいままでの作品の設定を一部お借りしてもよろしいでしょうか?


732 : ◆19vndrf8Aw [sage]:2018/12/01(土) 00:55:43.82 ID:ufcxnSBKO
731
OKですよ




最終更新:2019年02月12日 01:11