803 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/12/27(木) 21:03:11.18 ID:vFkJdeQIO
…
ある日の夜。
飼い主男「今日はいつもと違う道を歩いてみような」
アラ助「なのだー!」ヨチヨチ
いつものように散歩をする一人と一匹。
アラ助は膝にサポーターを巻いている。
アスファルトに擦れると擦りむけるためである。
アラ助「うぅ、ぶーつがきゅーくつなのだ~!」ヨチヨチ
飼い主男「またきつくなったのか?随分大きくなるの早いんだな…。リサイクルショップで新しいブーツ買いにいこうな」スタスタ
アラ助「なのだー!≧∀≦」ヨチヨチ
アラ助「…かいぬししゃん」ピタッ
飼い主男「なんだ?」
アラ助「あらしゅけも、かいぬししゃんみたいににほんあしでたってみたいのだ!」シッポフリフリ
飼い主男「え?え?いや…」アセアセ
二本足で立つのは無理なはずだ。
804 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/12/27(木) 21:06:48.23 ID:vFkJdeQIO
アラ助「よっこら…しょ…っと…!」グググ
飼い主男「あ、アラ助…!」
アラ助は四つん這いの体勢から、次第に上体を上げていく。
アラ助「なのだー!」ムクリ
飼い主男「お、おぉ…!」
アラ助「ふははー!すごいだろー!かいぬししゃん!あらしゅけも、にほんあしでたてるようになったのだー!」コスリコスリ
飼い主男「や、やったな!アラ助!凄いぞ!」
アラ助「ふははー!かいぬししゃんにうーんとほめられたのだー!」ピカピカガイジガオ
立ち膝で体を起こしたアラ助は、得意げに胸を張り、ドヤ顔をしている。
805 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/12/27(木) 21:11:01.83 ID:vFkJdeQIO
アラ助は、そのまま立ち膝で散歩を続けようとするが…
アラ助「うぅー!すねがこすれるのだー!」ズリズリ
飼い主男「い、痛そうだな…」
サポーターは膝こそ保護しているが、脛はあまり保護されていない。
アラ助「ぜ、ぜんぜんすすまないのだー!」ズリズリ
歩くスピードは、四つん這いの方がまだマシだった。
アラ助「うぅ~…あらしゅけも、かいぬししゃんみたいにあるきたいのだ…」コスリコスリ
飼い主男「それは無理だろ…体の作り的に…」
アラ助「しかたないのだ~…」ヨチヨチ
アラ助は、生まれたばかりの頃には自分に足首があったことを知らない。
自分は足首のない生き物だと思っているようだ。
806 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/12/27(木) 21:16:05.23 ID:vFkJdeQIO
やがて一向は散歩を終えた。
アラ助「いただきますなのだー!はぐはぐ!もぐもぐ!」ガツガツ
飼い主男「新しい餌美味しいか?」
アラ助「すーっごくおいしーのだー!いろんなあじがいっぱいなのだ!かいぬししゃんもたべるか?」モグモグ
アラ助が食べているのはドッグフードではない。
ドライフルーツ、穀物、干し肉、ナッツなどがミックスされた『レインボーアライフード』である。
飼い主男「俺はいいかな」
アラ助「そんなこといわずに、かいぬししゃんもたべるのだー!ほら!ほらー!このおにくがおいしーぞぉ!」スッ
アラ助はしつこくペットフードの乾燥肉を差し出す。
飼い主男「…じゃあ、一口。もぐもぐ…」モグモグ
飼い主男「…」モグモグ
アラ助「おいしーだろぉ?かいぬししゃんもしあわせだろぉー!?」ワクワク
安いおつまみの味がした。
飼い主男「…俺には合わないかな」
アラ助「すききらいはよくないのだー…こんなにおいしいのに」モグモグ
807 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/12/27(木) 21:25:15.51 ID:vFkJdeQIO
飼い主男「そうだ、聞いてくれよアラ助…。俺の上司、今日も俺をいびってきたんだ」
アラ助「のだ?」モグモグ
飼い主男「工場男っていうんだけどさ、俺が全然やったことないような仕事、すごい量どさっと押し付けてきたんだよ」
アラ助「うぅ~、ゆるせないのだ!」モグモグ
飼い主男「いくらなんでも三日後は無理だって抗議したんだけどさ、『甘えんな』とか『為せば成るっていうだろ』とか『俺の若い頃はもっと大変だったぞ』とか説教始めやがってさ」
アラ助「なのだ」コスリコスリ
アラ助は手を擦り合わせている。
多分話の中身を理解してはいない。
飼い主男「ついには『三日後までに仕上がってなきゃぶち殺す』とか言いやがったんだよ!なんだぶち殺すって!どう思う?」
アラ助「かいぬししゃんはいだいなんだぞぉー!そいつがくたばればいーのだ!」フゥーッ
アラ助は仕事がどうたらこうたらのくだりは全く理解していないが、大好きな飼い主男に『殺す』と言った者に対しては強い敵意を抱いているようだ。
飼い主男「おぉー!そう言ってくれるか!やっぱりアラ助は話がわかるなぁ!」ナデナデナデナデナデナデナデナデ
アラ助「ふははー!かいぬししゃんをいじめるやつはゆるさないのだ!ひどいやつなのだ!」
アラ助「いっしょにぶっころしにいくのだ!どこにいるのだ?」コスリコスリ
飼い主男「何いってんだ!殺すのは………………ダメだ流石に!」アセアセ
808 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/12/27(木) 21:32:25.89 ID:vFkJdeQIO
アラ助「なんでなのだ!?ころさなきゃかいぬししゃんがぶっころされるんだぞぉ!」
飼い主男「いやいや…。最近帰りが連日遅くなる時期あっただろ?なんとか終わらせたよ、ベテランの人に手伝ってもらったりしてさ」
アラ助「すごいのだー!かいぬししゃんはやっぱりいだいなのだ!」コスリコスリ
アラ助は、手伝ってもらった云々のくだりはさっぱり分かっていないが、大好きな飼い主男が何か大きなことを成し遂げたらしいことは分かっているらしく、誇らしげにしている。
飼い主男「んでさぁ、ようやく終わったと思ったんだけど…。信じられるか?手柄独り占めにしやがったんだぞあのクソ上司!」
アラ助「ひとりじめはよくないのだ!よくばりなのだー!」
この後も長々と、飼い主男は聞くに堪えない仕事の愚痴をアラ助に漏らした。
アラ助「な、なのだ…」フラフラ
飼い主男「なあ、工場男のことどう思う?」
アラ助「…」
809 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/12/27(木) 21:39:56.06 ID:vFkJdeQIO
実を言うと、この仕事の愚痴の背景は、全てが全て上司だけが悪いわけではない。
飼い主男自身にも、いくつか非がある。
ちゃんと話の分かる人間が聞けば、『上司も悪いがお前も悪い』と思うことだろう。
アラ助「くたばっちまえなのだー!ぼっこぼこにしてやるのだそんなやつ!かいぬししゃんはぜーんぜんわるくないのだ!」フゥーッ
だが、アラ助は飼い主男を全面肯定した。
飼い主男「アラ助はさすがよく分かってるなぁ!」ダキッ ギューッ
アラ助「ふははー!かいぬししゃんがだっこしてくれたのだー!うれしーのだ!」スリスリ
ペットアライちゃんは、疲れたサラリーマンやOLにも人気のペットである。
人気の秘訣が、『飼い主を全肯定してくれること』である。
人間相手に後ろめたい愚痴を吐くと、嫌われることもあるだろう。
だが、ペットアライちゃんに難しいことは理解できない。
飼い主男を肯定し、彼が憎む敵を一緒に憎む。
これはアライさんが本能的に持つ、『普段は仲間と群れないが、共通の敵を見つけた場合は、それを倒すために結束する』という習性に由来しているという。
何があっても味方をしてくれるペットアライちゃんは、疲れた現代人の癒しになっているようだ。
810 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/12/27(木) 21:52:17.25 ID:vFkJdeQIO
それから、アラ助はどんどん成長した。
膝立ちを好むようになってからというものの、食欲はさらに増し、体はどんどん大きくなっていった。
アラ助「かいぬしー!おさんぽいくのだー!」シッポフリフリ
飼い主男「今日はジョギングしてみるか。よっ、ほっ」タッタッ
アラ助「まけないのだー!あらすけだってはやいんだぞぉー!たあー!」シャカシャカシャカシャカシャカシャカ
散歩での寄り道はさらに増えた。
時間が長くなりすぎると流石に辛い。
飼い主男「さて、そろそろ帰るぞ」
アラ助「うぅー、もうなのか?わかったのだ~…」ヨチヨチヨチヨチ
飼い主男「明日もつれてきてやるから」スタスタ
アラ助「おひるのあいだたいくつなのだー!ひとりでさんぽしちゃだめなのか?あらすけ、おひるにひとりさんぽしたいのだ!」ヨチヨチ
飼い主男「ダメだ。放し飼いは法律で禁止されてるんだよ。アライ縄張り法っていうのがあるんだ」スタスタ
アラ助「またその『ほーりつ』か…。あらすけにげたりなんてしないのだ」ヨチヨチ
散歩から帰るときも、不満そうな態度を表すようになってきた。
811 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/12/27(木) 22:02:20.89 ID:vFkJdeQIO
飼い主男「ただいまー」スタスタ
アラ助「ただいまなのだー」ヨチヨチ
散歩を終えて帰って来た一人と一匹。
飼い主男「もうケージに入るのもきつそうだな…」
アラ助「けーじのなか、せまくってきらいなのだー!」
もう幼稚園児以上の背丈になったアラ助。
ケージの中はもう狭い。
飼い主男「…そうだ。アラ助、ちょっと」クイッ
アラ助「のだ?なんなのだ?かいぬし」
飼い主男は、アラ助の首輪のリードに鍵をつけて、端を部屋のどこかへ固定した。
飼い主男「ほら、これでリードが届く距離ならいくらでも自由だぞ!部屋の中いくらでも動けるぞ!」
アラ助「!の、のだっ!のだっ!」ヨチヨチヨチヨチ
アラ助は大はしゃぎで部屋の中をヨチり回っている。
アラ助「すごいすごい!ひろいのだー!おへやのなかはしりほーだいなのだ!」
飼い主男「イタズラしたり、砂トイレ以外の場所で排泄しちゃだめだぞ」
アラ助「わかったのだー!≧∀≦」ヨチヨチヨチヨチ
まるで犬小屋に鎖で繋がれた番犬のように、アラ助はリードの届く範囲での自由を手にした。
これは大きくなったペットアライちゃんの飼い方としてはメジャーな手法である。
『アライ縄張り法』という名前の語源でもある。
中には首にリードが絡まって死んだ例もあるらしいが、まあ気を付けるように言えば、大丈夫…なはずだ。
812 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/12/27(木) 22:08:02.85 ID:vFkJdeQIO
翌日。
飼い主男「じゃ仕事行ってくるなー」スタスタ
アラ助「いってらっしゃいなのだー」シッポフリフリ
飼い主男は出勤した。
アラ助「はー…たいくつなのだ。おへやのなかはたいがいたんけんしたのだ」シッポフリフリ
部屋には、飼い主男が小さい頃に遊んだ玩具がたくさん転がっている。
アラ助「ぶーんぶーん」ガチャガチャ
アラ助は、ジグソーパズル、動物の人形、コマ、ミニカーなどで遊んで退屈を紛らわした。
アラ助「おそといきたいのだー…さんぽしたいのだー…」ハァ…
だが、一番楽しいのはやはり散歩である。
アラ助「うぅー、はずれないのだ」ガチャガチャ
リードは壁から外れない。自力で脱出は不可能である。
アラ助「なわばりほーとかいうほーりつ、なくなっちゃえばいーのだ!あらいさんをこんなにたいくつにしてー!」プンスカ
アラ助は独り言を言いながら腹を立てている。
アラ助「よくわかんないけど、たぶん『せーじか』がわるいのだ!『せーじか』がばかなのだ!かいぬしがせーじかになればいーのだー!」
813 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/12/27(木) 22:12:42.25 ID:vFkJdeQIO
アラ助「あらいさんをこまらせる『むのー』で『ばか』な『せーじか』なんて、しんじゃえばいーのだー!」ジタバタ
アラ助は早くもリードが届く範囲の自由が物足りなくなってきているようだ。
アラ助「しぬ…?」ピタッ
アラ助「…」
アラ助「にんげんは…しぬのか?」チラッ
アラ助は、自分を家の中に縛り付けるリードを眺めた。
アラ助「…」
815 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/12/27(木) 22:18:27.33 ID:vFkJdeQIO
夜。
アラ助「おそいのだ…そろそろかいぬしがかえってくるころなのに…」ソワソワ
アラ助「どーしたのだ?かいぬし…」
…
深夜。
飼い主男「ただいまー…。ふぅ、残業終わったー…」ガラッ
アラ助「か、かいぬし!きたのだ!」
アラ助「かいぬしー!」ヨチヨチヨチヨチ ピョンッ ダキッ ギューッスリスリ
飼い主男「わっ!よしよし寂しかったのか」ナデナデ
アラ助「かいぬし、おさんぽは…」
飼い主男「…」
アラ助「…」
飼い主男「…悪い。今日はさっさと寝ないと、明日に響くから…」フラフラ
飼い主男はフラフラになっている。
アラ助「…うぅうぅぅ~…」
アラ助は心底残念そうにしている。
飼い主男「こ、今度山に連れてってやるから!」アセアセ
アラ助「やま!やまいきたいのだ!わかったのだ!」シッポフリフリフリフリフリフリフリフリフリフリフリフリ
アラ助はとたんに目を煌めかせ、嬉しそうにしている。
アラ助にとって山は遊園地のようなものだ。
飼い主男「おーよしよし、いい子だ」ナデナデ
816 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/12/27(木) 22:23:35.86 ID:vFkJdeQIO
アラ助「ところでかいぬし、ききたいことあるのだ」シッポフリフリ
飼い主男「なんだ…?」ウツラウツラ
飼い主男は疲れが溜まって頭が回っていないようだ。
アラ助「あらすけは、おうちのなかでいーこでおるすばんしてるのだ」シッポフリフリ
飼い主男「ああ。いい子だな」
アラ助「もしかいぬしが、おそとでくるまにひかれてしんじゃったら、あらすけはどーなるのだ?」シッポフリフリ
飼い主男「…!?」ビクッ
アラ助「…どーなるのだ?」
飼い主男「ッ…」アセアセドキドキ
不意討ちだった。
何の前触れもなく、突然の質問であった。
まさに寝耳に水といったところだ。
飼い主男「………」
アラ助「かいぬし?」
飼い主男「…その質問に答えるには、ちょっと準備がいるんだ。物を取ってくるからいいか」
アラ助「わかったのだ」
飼い主男「…」スタスタ
飼い主男は、寝室へ行き、引き出しを開けた。
中にはひとつの小冊子が入っていた。
小冊子のタイトルは『アライちゃんの飼い方』。
ペットショップでアライちゃんを購入した時、無料で貰える簡素な小冊子である。
飼い主男「…」パラリ
飼い主男は、ペットショップで店員に簡単に解説してもらった事を思い出していた。
817 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/12/27(木) 22:28:16.17 ID:vFkJdeQIO
…ペットショップでアラ助を買った日のこと…
店員「最後です。アライちゃんは成長すると、どんどんお利口さんになっていき、いろんなことを考えるようになっていきます」
飼い主男「はい…」
店員「やがて、大きくなったアライちゃんは決まって、『ある質問』をします」
飼い主男「ある質問…?」
店員「その質問に対して、正直に答えてしまった場所、アライちゃんは狂暴になり、暴れて言うことを聞かなくなります。ケージから脱走しようとして、強い反抗心を持つようになります」
飼い主男「えぇ…」
店員「だからその質問には、決まってある『嘘』をついてください。いいですか、必ずですよ」
飼い主男「嘘…ですか。はい」
店員「その質問とは…」
店員「『飼い主が死んだら、家に閉じ込められている自分はどうなるのか』です」
…
飼い主男「っ…」ドキドキドキドキ
この質問に、もしも正直に答えてしまった場合…
アラ助は一気に凶暴化する。
飼い主男「ハァッ…ハァッ…ハァッ…」ドキドキバクバク
飼い主男は必死に心を落ち着かせた。
アラ助と一緒にいるために。
ある『嘘』をつくために。
飼い主男「…こんなに突然、聞いてくるなんて…」
アライちゃんが保護者から自立しようとする心のスイッチは、まさに二本足で『自立』することらしい。
膝立ちで歩けるようになったことで、アラ助にも既に『スイッチ』が入っていたようだ。
2: 19vndrf8Aw★ :2019/01/21(月) 23:00:08 ID:???00
飼い主男「…いいか、アラ助。俺達人間は、死ねばすぐに他の人達に伝わるようになってる。機械でそうなってるんだ」
アラ助「そ…そうなのか?」
飼い主男「だから、もし俺が死んでも、アラ助は独りぼっちにはならない。俺の家族や、他の優しい人に引き取られて、そこで暮らせるんだ」
アラ助「…かいぬしさんがゆうなら、しんじるのだ」
飼い主男(…なんとかなった…)
飼い主男は嘘をついた。
ペットショップで教わった通りの嘘を。
もしもここで、本当のことを…
「場合によっては、アラ助は餌も水も与えられず、独りぼっちで死んでいく」ということを、教えたら。
…ほとんどのペットアライちゃんは、暴れて手がつけられなくなるのだという。
3: 19vndrf8Aw★ :2019/01/21(月) 23:07:32 ID:???00
では、アラ助はこのままずっと、大人しくていい子のままで居続けられるだろうか…。
…
~山~
アラ助「ふははー!たのしいのだー!」ペタペタペタペタ
飼い主男「アラ助、もうすぐ夕方だ。そろそろ帰るぞ」
アラ助「えー!もっとあそびたいのだー!かいぬしもたのしーだろー!」シッポフリフリ
飼い主男「まあそうだけど…家帰って、飯食って風呂入らなきゃ」
アラ助「うぅー、やなのだぁ!もっとあそびたいのだー!」シッポフリフリ
飼い主男「アラ助!言うこと聞きなさい!」
アラ助「うぅーーーーー!もっともっともっともっともっとあーーそーーーびーーーたーーぃーーーーのーーーだぁーーーーー!!」コスリコスリ
飼い主男「…」
久し振りにアラ助を山へ連れていったが…
なんとアラ助は、我が儘を言った。
ペットショップで言われた「我が儘を言ったら嫌われて殺される」という教育はどこへ行ったのだろうか。
4: 19vndrf8Aw★ :2019/01/21(月) 23:13:35 ID:???00
飼い主男「アラ助。我が儘言うなら今日の晩飯は抜きにするぞ」
アラ助「ばんごはんなら、このやまでさがせばいいのだ!かいぬし、いっしょにさがしにいくのだぁ!」シッポフリフリ
飼い主男「いいから来いって!」グイィ
飼い主男はアラ助の首輪を強く引っ張る。
アラ助「いだいのだあ!ぐええ、ぐゆじい!がいぬじやべでえ!」グググ
飼い主男「…ごめんな。だけど、また連れてきてやるから、今日はもう帰ろう」
アラ助「うぅうぅぅぅううぅぅぅ…あしたまたくるのだぁ」
飼い主男「流石にそんな頻度じゃ…」
アラ助「きたいのだああ!またやまきたいのだああーっ!おねがいなのだかいぬしぃ!」コスリコスリ
飼い主男「っ…」
アラ助がこんなに我が儘を言ったことは今までにない。
山へ連れてきたことが原因だろうか?
いや…
きっと、どこか楽しいところへ連れていくなら、山でなくとも一緒だっただろう。
5: 19vndrf8Aw★ :2019/01/21(月) 23:19:12 ID:???00
飼い主男「…アラ助。お前は俺の何だ」
アラ助「うぅ!あらいさんは…かいぬしの、ぺ、ぺっと、なのだ」
飼い主男「そうだ。ペットなら、言うこと聞け」
アラ助「っ…!うぅううぅうぅううぅう~~~~~っ!!!!」ギュウゥウゥ
アラ助は頭を押さえ、呻いた。
アラ助「かえりたくないのだあ!あんなせまいとこで!ずっとずっとずーーーっとひとりぼっちでたいくつにまってるの!もうやなのだああ!」シッポブンブン
飼い主男「アラ助…。…ちっちゃいときは、ちゃんといい子でお留守番してただろ!」
アラ助「うぅ!そうなのだ、そうなのだけど…!うぅうぅ…!」
飼い主男「…これ以上我が儘言ったら、無理矢理連れていく。そしてもう二度と連れてきてやらないぞ」
アラ助「!そ、それは、やなのだ…」
飼い主男「ちゃんと言うこと聞けば、ここだけじゃなく、いろんなとこ連れてってやるぞ」
アラ助「…」
アラ助「…かえるのだ」ペタペタペタペタ
飼い主男「…いい子だ」スタスタ
なんとかアラ助をなだめることができたようだ。
6: 19vndrf8Aw★ :2019/01/21(月) 23:26:10 ID:???00
翌日。
アラ助「おっさんぽ♪おっさんぽ♪たのしーのだ♪らんららんららーんらら♪」ペタペタシッポフリフリペタペタシッポフリフリ
飼い主男「散歩コース一週したな。よし、帰るぞ、アラ助」
アラ助「かいぬし、もういっしゅーするのだ!こんどはぎゃくまわりで!」シッポフリフリ
飼い主男「い、いやいや。お前があちこち寄り道するから、時間がかかって…!また明日にしような」アセアセ
アラ助「うぅ!もーいっしゅー!もーいっしゅーだけなのだー!」シッポブンブン
飼い主男「…アラ助!俺とお前、どっちが偉い。言ってみろ」
アラ助「うぅ!…かいぬしのほーが、えらいのだ…」
飼い主男「そうだ。じゃあ、きちんと言うこと聞けるな」
アラ助「…」プクー
アラ助は頬を膨らませて不機嫌そうになった。
アラ助「…わかったのだ、かえるのだ」ペタペタペタペタ
飼い主男「…」スタスタ
日に日にアラ助は自己主張が強くなってきているようだ。
命令すれば、言うことは聞いてくれるが…
飼い主男(一体どうしたんだ、アラ助…)スタスタ
7: 19vndrf8Aw★ :2019/01/21(月) 23:35:57 ID:???00
~飼い主男の家、夜~
飼い主男「じゃあおやすみ」スタスタ
アラ助「おやすみなのだー」
飼い主男は寝室に戻った。
アラ助「…」ポツン
アラ助は、部屋の中から出ることができない。
『アライ縄張り法』に則り、首輪のリードを部屋の中に繋がれているからだ。
アラ助「たいくつなのだ…これはずれないのか?」ガチャガチャ
アラ助はリードを固定する鍵をはずそうと試みたが、うまくいかないようだ。
アラ助「…」ゴロン
アラ助「あらすけは…かいぬしをよろこばせるためにうまれた、ペットなのだ…」
アラ助「…でも…」
アラ助「アラ助だって、飼い主みたいに、お外で自由に好きなことしたいのだ…」
アラ助「飼い主はいいのだ、お外で毎日、好きなことして暮らせるのだ」
アラ助「なんでアラ助はダメなのだ?なんでアラ助は、飼い主たちみたいな人間に生まれてこなかったのだ」
アラ助「うらやましいのだ…」クルッ
アラ助は、リードを固定する鍵を見つめる。
アラ助「…うぅ…」グイグイ
アラ助「…せめて、おさんぽぐらい、ひとりでいかせてほしいのだ…」ゴロン
アラ助「…ねるのだ…むにゃ…」
アラ助「すぴー…すぴー…」zzz
アラ助は飼い主と一緒に生活し、昼型の生活サイクルになっている。
夜に寝て、朝起きるのである。
8: 19vndrf8Aw★ :2019/01/21(月) 23:49:51 ID:???00
…朝…
飼い主男「ニュースでも観るか」ポチッ
飼い主男は、朝食を食いながらテレビをつけた。
ワイドショーがやっている。
飼い主男「もぐもぐ…」
テレビ『次の話題です。脱走したペットのアライさんが、イチゴを窃盗!?飼い主に実刑判決!』
飼い主男「!?」ピタッ
テレビ『昨日、○○県の天谷 樫太(あまや かした)被告の飼育していた成体のペットアライちゃんが、自宅の窓の鍵を開けて脱走し、近所の住民が育てていたイチゴを食べるという事件が発生しました』
飼い主男「…」ゴクリ
テレビ『被告はアライ縄張り法に違反した飼育をしていたことを認めました。被告によると、ペットアライちゃんは自宅の部屋に繋いで世話をしていましたが…』
テレビ『自由を求めて暴れるようになり、可哀想でリードの鍵を外し、家の中で自由を与えたと供述しています』
飼い主男「…そういう事件もあるのか…」
テレビ『事件を起こしたペットアライちゃんは、その後業者の手で楽園へと送られ、現在は楽園で自由を得て過ごしている、とのことです』
飼い主男「…楽園…自由…」モグモグ
テレビ『この事件、どう思われますか?』
テレビ『喝だ!まったくゥ、飼い主しっかりしろよなぁ。ペットの罪は飼い主の責任だろぉ?そこんとこ分かってる?』
飼い主男「…」モグモグ
飼い主男は、この事件がなんだか…他人事とは思えなかった。
9: 19vndrf8Aw★ :2019/01/22(火) 00:04:30 ID:???00
テレビ『次は明るい話題です。アライダロス社で販売している最高級品種のペットアライちゃんが、この度エコノミーアライちゃんとして、正式にヨチライフ手術およびアライドール手術の免除を許可されました』
飼い主男「…?」モグモグ
テレビ『アライダロス社は、ペットアライちゃん工場の中でも最高級ブランドとして知られています。成体になっても独立心が弱く、ずっと飼えることが特徴です』
テレビ『そんなアライダロス社のブランド品種「アライダロス」が、厳しい審査を通過し、脱走対策施術無しで飼育できる許可が得られました』
飼い主男「お高いんだろうな…」モグモグ
テレビ『尚、アライドール手術を受けた成体アライダロス達は、ビジネス部門での産業利用へ活かす試みが行われています』
テレビ『どうですか?このニュース』
テレビ『天晴れ!いやぁ、ペットアライちゃんのここまでの品種改良。苦労しただろうねーホント。』
飼い主男「…」モグモグ
飼い主男は、ずっと気になっていた。
ペットショップも、メディアも…
なぜ揃いも揃って、ペットアライ『ちゃん』という名称を使うのだろうか?
10: 19vndrf8Aw★ :2019/01/22(火) 00:10:11 ID:???00
例えば犬の場合、『犬』として売られはするが、わざわざ『子犬』という名称で販売されはしない。
猫も、『子猫』として売られはしない。
ウサギも、ハムスターも。『子ウサギ』『子ハムスター』などとわざわざ言わない。
殆どのペットは成体になること前提の名称で呼称し販売されている。(『ヒヨコ』を除いて)
では、ペットアライちゃんは…
なぜペットアライ『さん』という名称ではなく、ペットアライ『ちゃん』なのだろうか?
犬や猫はインコの例になぞるならば、ペットショップでもメディアでもペットアライ『さん』と呼ぶのが妥当だ。
にも関わらず、ワイドショーでもペットショップでも、ペットアライ『ちゃん』と呼んだ。
わざわざ『成体のペットアライちゃん』等というややこしい呼び方をしてまで。
飼い主男「…」モグモグ
飼い主男はどうもモヤモヤしていた。
飼い主男「まあ、どうでもいいか…」
11: 19vndrf8Aw★ :2019/01/22(火) 00:17:19 ID:???00
飼い主男「アラ助ー、ご飯だぞー」ガチャッ
飼い主男は器にたくさんのペットフードを盛り、アラ助の部屋に入った。
アラ助「はぁ、はぁ…!かいぬしぃ…!おねがいなのだ、この鍵!外してほしいのだぁ!」グイグイ
飼い主男「…だめだ、法律だからな。ほら、ご飯だぞ」スッ
アラ助「うぅううぅう!!!せめて、せめてお家の中だけでいいから、お散歩させてほしいのだ!!ああああ!退屈で頭が狂いそうなのだあ!」
飼い主男「帰ってきたら散歩連れてってやるから…じゃあな」スタスタ
アラ助「飼い主ぃいいいいいいぃいーーーっ!おねがいなのだああーーーーっ!」
飼い主男(…どっちが飼い主だか分からないな………。俺は召し遣いじゃないぞ)スタスタ
飼い主男(そういえば、最近アラ助のやつ、全然甘えてこなくなったな…)スタスタ
飼い主男(昔はもっと、撫でてーとか遊んでーとか言ってきて可愛かったのに…)スタスタ
12: 19vndrf8Aw★ :2019/01/22(火) 00:28:16 ID:???00
ペットアライちゃんは、小さいうちはケージに閉じ込められることに何ら抵抗を感じない。
これは、ペットアライちゃん工場職員の教育の賜物でもあるが…
自然元来のアライちゃんの習性が、そもそも狭いところに閉じ籠って過ごすことに向いているからだと言われている。
自然の中のアライちゃんは幼いうちは、木の穴や民家の屋根裏など、狭い巣に閉じ籠って親に育児される。
巣の外には外敵がひしめいており、出ていったらすぐに捕食されることだろう。
だが、家にこもっていれば、親が餌を持ってきてくれる。
自分で餌を探す必要などない。
どうせ探すだけの力はまだない。
つまり、狭い巣に閉じ籠ることは、幼いアライちゃんの心に安堵をもたらすのである。
母親や飼い主に甘えるのは、親を喜ばせて可愛がってもらい、世話をしてもらうためだという。
だが、独り立ちできる年齢になると、閉じ籠められることを物凄く嫌うようになる。
自分の力で生きていくように、思考が切り替わり始める。
親への反抗が始まり、甘えなくなる。
自分の力で餌を探し、獲るために、外界をくまなく自分の足で歩きたくなる。
どこまでも、どこまでも。旅をしたくなる。
それがアライさんという生き物だ。
アラ助は並の値段の品種のペットアライちゃん。
成長は野良より遅いが、こと本能や習性という点において、未だ自然での生活に適した…
『ペット向きでない』生態をしていると言わざるを得ない。
13: 19vndrf8Aw★ :2019/01/22(火) 00:32:21 ID:???00
アラ助「う、うぐうぅうぅ…飼い主ぃ…」ポツーン
アラ助「飼い主は、なんで、アラ助を…。自由にさせてくれないのだ…」
アラ助「アラ助はもう大人なのだ。大きくなったアラ助を、なんでお世話なんかするのだ…?わかんないのだ…」
アラ助「ペット…ペットだから?なんで飼い主はアライさんをペットにしてるのだ?」
アラ助「アラ助は、アラ助は…どうしたら、自由にしてもらえるのだ…」
アラ助は独りぼっちの部屋の中で、独り言をぶつぶつと呟き続けた。
15: 19vndrf8Aw★ :2019/01/22(火) 00:41:41 ID:???00
飼い主男「行くか…」スタスタ
飼い主男は玄関で靴を履く。
郵便受けを見ると、一枚のハガキが突っ込まれていた。
飼い主男「ん?ハガキ…広告か?」スッ
飼い主男はハガキの内容に目を通す。
『ペットアライちゃん飼育18ヶ月おめでとうございます!』
『大人になったペットアライちゃんが、自由を求めて暴れていませんか?』
『アライさんの楽園へ巣立たせ、幸せな暮らしを与えてあげましょう!』
『3ヶ月後くらいに送迎予約をして、教えてあげれば、また仲良くなれますよ♪』
等々の文章が書いてある。
また、イラストも描かれていた。
高校の卒業式会場のような場所で、女性用スーツを着たアライさん達が歌を歌っているイラストだ。
飼い主男「…」
飼い主男「…いいや、アラ助は、まだ…俺の言うことを、ちゃんと聞いてくれてる…」フラフラ
飼い主男「いい子なんだ…いい子なんだよ、アラ助は…」
飼い主男「こんなうさんくさい楽園になんて、送るもんかよ…」スタスタ
飼い主男はハガキをゴミ箱へ突っ込み、職場へと向かった。
16: 19vndrf8Aw★ :2019/01/22(火) 00:42:34 ID:???00
つづく
最終更新:2019年03月03日 21:52