銃に斃れ

88 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/02/19(月) 19:50:42.27 ID:57Q+sySAo

成体のアライさんとは、どんな生き物なのであろうか。

一言で端的に表すなら…
『怒らせるとマジで危険な生き物』である。

成体のアライさんは、見た目こそ中学生女子くらいの大きさだが…

高い木へ、軽々とすいすい登る運動神経。

人間の2~3倍はあろうかという怪我の治癒力。

病原体や寄生虫が効かないため、栄養失調や寿命でもない限り病死しないという驚異の生命力。

ペーパーナイフのように鋭い爪と牙。

その身体能力たるや、脅威と言わざるを得ない。

森で出会って怒らせたら、怪我で済めば優しい方である。


では、アライさんは一斉駆除しなくてはならないか?というと…
そこまででもない。


まず第一に、多くのアライさんは積極的に人を攻撃しない。

攻撃は最終手段として、威嚇により我を通そうとしてくる。

故に、ただ出会っただけならば、交戦を回避することは可能なのである。


89 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/02/19(月) 19:57:16.62 ID:57Q+sySAo
第二に、森へ来てアライさんへ餌付けする人間がいるため、
『人間は必ずしも敵ではない』と思っている。

人間と仲良くする気こそないが、かといって積極的に排除したり喧嘩を売ったりするべき敵ではないと思っている。

だったら畑の作物を荒らすなと言いたいところだが、アライさんは自分が気に入らないことは大抵受け入れず、
気に入ったことだけ受け入れる性格の個体が殆どであるため、
説得の余地はほぼ無いといえる。


そして第三の理由…。

『アライさんを殺そうとして取り逃がすと滅茶苦茶ヤバい』。

アライさんは基本的に群れを作らず、単独で生活する。

他のアライさんと会っても、大したコミュニケーションはしない。

だが…

『共通の敵』を見つけたアライさんは、団結して共通の敵を排除しようとする。

それ故に、もしもアライさんを殺そうとして取り逃がした場合…

近隣住民にどんな被害が生じるか分からない。

それ故に、素人が半端な準備で半端な駆除をしようと森へ行くと、
かえって大きな被害をもたらすことになる。


90 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/02/19(月) 20:05:32.40 ID:57Q+sySAo
さて…

そんな成体アライさんが、川の水際にいる。

ツライさん「はぁ~…ツライのだ…」バシャバシャ

…なんだか、目が眉間側につり上がっており、元気がない。

ツライさん「ようやく大人になって森に来たのに…食べ物があんまり見つからないのだ」バシャバシャ

ツライさん「かといって、人里に降りたら降りたで、この体の大きさじゃ…。人間に追いかけ回されるのだ」バシャバシャ

ツライさん「はぁ~…ツライのだ…。アライさんが可哀想なのだ…」バシャバシャ

…何か独り言を言いながら、水際で手をバシャバシャしている。

ザリガニでも探しているのであろうか。


91 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/02/19(月) 20:10:39.81 ID:57Q+sySAo
すると、バシャバシャという音が重なって聞こえてきた。

ツライさん2「はぁ~…ツライのだ…」バシャバシャ

ツライさん1「のだ?」ピタッ

…なんと、隣にもう一匹のアライさんがいるではないか。

こちらのアライさんも、なんか元気がない。

ツライさん2「森に来て子供産んだはいいものの…。子育てがツライのだ…疲れるのだ…」バシャバシャ

こちらのアライさんも、独り言を言っている。

ツライさん1「何がツラいのだ、そんなに…。子供がいるなんて羨ましい限りなのだ。アライさんにはいないのだ…」ハァ…

ツライさん1はため息をついた。


92 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/02/19(月) 20:17:51.51 ID:57Q+sySAo
ツライさん1「アライさんの方がツラいのだ。昨日は畑から持ってきた野菜を巣に入れてたら、いつの間にかなくなってたのだ。盗まれたのだ。アライさんが可哀想なのだ…」ハァ…

ツライさん2「何言ってるのだ。自分で好きなだけ食えるなんて羨ましいのだ。うちのチビ達は乳離れして、いつもいつもご飯よこせーってうるさくて仕方ないのだ…」

ツライさん2「おかげで自分のごはんをたっぷり持ってきても、みんなチビにあげなきゃいけないのだ。アライさんが可哀想なのだ…」ハァ~…

ツライさん2「一人でゆったり食べれるなんて羨ましい限りなのだ…ツライのだ…」ハァ~…

ツライさん1「冗談じゃないのだ。独りぼっちでご飯食べてても寂しいのだ。チビと一緒にワイワイ食べれるなんて羨ましいのだ…。アライさんの方がツラいのだ…」ハァ~…


93 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/02/19(月) 20:22:21.32 ID:57Q+sySAo
ツライさん1「誰がどう見てもアライさんの方がツラいのだ…」ハァ~…

ツライさん2「いやいや、アライさんの方がツラいのだ…。世界一可哀想なのだ…」ハァ~…

ツライさん1「何言ってるのだ。子宝に恵まれてるお前が、アライさんより可哀想なわけないのだ。アライさんの方が世界一可哀想なのだ…ツライのだ…」ハァ~…

ツライさん2「こんな馬鹿にアライさんの苦悩は分からないのだ…。あーアライさんが可哀想なのだ…ツライのだ…」ハァ~…

ツライさん1「馬鹿とか言われたのだ。上から目線なのだ。こんな余裕たっぷりの奴がいる時点で、お前よりアライさんの方がツラくて可哀想なのだ…」ハァ~…


94 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/02/19(月) 20:27:39.76 ID:57Q+sySAo
ツライさん2「うぬぬ~!お前なあ!さっきからツライツラいうるさいのだ!うざったいのだ!」フゥーッ

ツライさん1「お前こそ!さっきから何なのだ!?自慢してるようにしか聞こえないのだ!嫌味も大概にするのだ!」フゥーッ

ツライさん2「アライさんの方がお前よりツラくて可哀想なのだ!」フゥーッ

ツライさん1「そんな訳ないのだ!アライさんの方がお前より百倍ツラくて可哀想なのだ!」フゥーッ

ツライさん2「だったらアライさんはお前の一億倍可哀想なのだ!」フゥーッ

ツライさん1「それならアライさんはお前の一億億億億億億億億億億倍ツラいのだ!」フゥーッ

学校で算数を習った訳でもないアライさんに、百とか億とかの数字の桁は理解できるのであろうか。

言葉を勝手に覚えるのだから、算数も勝手に覚える…という可能性は否めなくもないが…

…多分、『すごくいっぱいの』位の意味で使っているのであろう。


95 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/02/19(月) 20:30:36.05 ID:57Q+sySAo
ツライさん2「うぬぬ~!お前気に入らないのだ!子育てて苦労してるアライさんを苛つかせるなんてガイジなのだ!」コスリコスリ

ツライさん1「ガイジ!?ガイジって言った方がガイジなのだ!やーいガイジガイジ!こんなガイジに絡まれるアライさんが可哀想なのだあ!」コスリコスリ

ツライさん2「うぬぬ~!たあ~!」バッ

ツライさん1「たあ~!」バッ

ボカスカ!ボカスカ!ノダノダ!ノダノダ!

…なんと、アライさん同士で喧嘩を始めた。

なんてひどい動機の喧嘩だ。


96 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/02/19(月) 20:36:19.41 ID:57Q+sySAo
ツライさん2「のだっ!のだっ!」ボカスカ

ツライさん1「やったな~!この~!だあ~!」ボガァ

ツライさん2「痛いのだぁ!だりゃあ!」ザシュ

ツライさん1「ぎびゃあっ!?」ブシュッ

ツライさん2は、ツライさん1の額を引っ掻いた。

ツライさん1「痛いのだああああ!」ドクドク

ツライさん1の額から流れた血は、ツライさん1の目に入ったようだ。

ツライさん2「このぉ!」ガバッ

ツライさん1「のああっ!」ドサッ

ツライさん2は、ツライさん1の上に馬乗りなり、マウントを取った。

ツライさん2「ふははー!謝るのだ!アライさんより可哀想だなんて!ムカつく事いったのを謝るのだ!どうだー!ふっはははー!」ドガァボガァバリバリ

ツライさん1「ぎびゃあああああ!痛い痛いのだあああ!」

…喧嘩とはいえ、流石にやりすぎではないか。
しかもマウント取ってるツライさん2は、笑っている。

育児ストレスの解消でもしているのであろうか。


97 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/02/19(月) 20:40:57.25 ID:57Q+sySAo
ツライさん1「待つのだ!やめるのだ!お前の方がツラいって認めるからもうやめるのだああああっ!」ビエエエエン

ツライさん2「はぁ…はぁ…。やっと思い知ったのか…」ハァハァ

ツライさん1「うぅ…」

喧嘩はツライさん2の勝利で終わったようだ。

ツライさん2「やったのだ…これでアライさんが世界で一番ツラくて可哀想なのだ…」ピカピカガイジガオ

ツライさん1「うぅ…。こんなガイジに絡まれるなんて…アライさんが可哀想なのだぁ…」シクシク

ツライさん2は馬乗りになったまま、ドヤ顔で自分の方が可哀想だと主張している。


98 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/02/19(月) 20:44:30.09 ID:57Q+sySAo
と、その時…

ツライさん2「のばっ!?」ドズゥ

ツライさんの眉間に、アライボウの矢が突き刺さった。

ツライさん2「」ガクガクビクビク

ツライさんは、後ろに倒れて痙攣している。

ツライさん1「ん?な…急にどうしたのだ?」

ツライさん1は、ツライさん2の異常に気付いたようだ。


99 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/02/19(月) 20:52:25.87 ID:57Q+sySAo
ツライさん2「」ビクビクガクガクビクビク

ツライさん1「あ、頭に何か突き刺さってるのだ!た、たぶん人間の武器なのだぁ!」アセアセ

ツライさん1「に、逃げるのだ…ふんぐぐう!お前さっさとどくのだ!邪魔なのだあ!」グイグイ

ツライさん1は、自分に馬乗りになったまま頭を射抜かれたツライさん2の下敷きになっており、
下から脱出するのに手間取っているようだ。

…と、そうしてる間に…

肉料理屋店主「はい、二発目装填」ジャキッ

オーナーは、アライボウに二発目の矢をセット完了していた。

肉料理屋店主「シュゥッ!」バシュゥ

ツライさん1「ぐばのだっ!」ドズゥッ

凄い!
脳天を貫通した!
お見事ですオーナー!

肉料理屋店主「さ、他のアライさんに見つかる前にさっさと袋に入れて持ち帰るぜ」タタタタッ

はい!
私達は、アライさん達のとこに駆け寄った。

ツライさん1「の、のだ、のだ」ズルズル

ひいぃ!
頭を射抜かれてるのに、まだ逃げようとしてるぅ!


100 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/02/19(月) 20:58:45.55 ID:57Q+sySAo
ツライさん1「ぎひー…ぎひー…し、処女のまま、死んでたまるかなのだ…!アライさんは、可愛い雄をはべらせて酒池肉林の…」

肉料理屋店主「ディスパッチだぜ!」ザシュ

ツライさん1「のだっ…」ブシュウウゥゥ バタッ

おお…。
オーナーが、ツライさん1の首の脈をぶったぎってトドメを刺した。

肉料理屋店主「アライさんは生命力が強いからな。こういうこともままあるんだぜ」

うぅむ…
なんか、すごく悲痛な叫びをして死にましたね。

肉料理屋店主「うんうん、感想はこいつらを運んでからにしような」ガサガサ

了解です、オーナー。


…私達は、アラジビ料理の材料を袋へ入れて担ぎ、そそくさと森を後にした。


101 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/02/19(月) 21:59:41.61 ID:57Q+sySAo
~その頃、ツライさん2の巣穴~

ツライさん2の巣穴では…

ツライちゃん1「うゆぅ…おかーしゃんこないのりゃ…」コスリコスリ

ツライちゃん2「ひがくれゆまでにかえってくゆっていってたのりゃ…」コスリコスリ

ツライちゃん3「ひもぢいのりゃ…ありゃいしゃんがかわいそーなのりゃ…」コスリコスリ

ツライちゃん4「うぅーおなかぺこぺこでつらいのりゃ…おかーしゃんはまだなのりゃあ…?」



乳離れして間もないアライちゃん達が母親の帰りを待っていた。

ツライちゃん1~4「「「ぴぃぃ~…つらいのりゃあ~…」」」メソメソ

…子は親に似るというが…
巣で親を待つアライちゃん達も、なんか辛気臭かった。


102 : ◆19vndrf8Aw [saga]:2018/02/19(月) 22:00:29.67 ID:57Q+sySAo
つづく


109 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/02/19(月) 23:33:51.32 ID:mehgGgqN0
ツライちゃんとか珍しいものを見た気がする





最終更新:2018年05月18日 22:15
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