これまでの『[[LYLICAL RIDER WARS]] EPISODE:ユーノ編』は―― <<KAMEN RIDE DECADE>> ――近頃、妙な夢が続く。 奇妙な出土品が出たとの知らせを受け、とある管理世界の発掘現場に向かったユーノは道中、またしても奇妙な夢を見た。 「妙ですよね。我々もこれまで相当長い間発掘と調査を続けてきましたが、こんなものが出てきたのは初めてで――」 何故、これがここにある。 脳裏を支配する、疑問の渦。答えなど浮かぶはずもなく、それでも彼はその奇妙な出土品、"夢"に現れた若い男の持っていた白い大きなバックルに眼を離せないでいた。 付け加えられるように同じく出土した銀の箱、その中から取り出した一枚のカードを見て、呟く。 「ディケイド、か」 疑念をよそに、幼馴染からの通信。 「こんばんわー。お久しぶり、ユーノくん」 「あ……なのは?」 久しぶりに声を聞いた彼女、高町なのはの顔はどこかウキウキと楽しそうで、嬉しそう。曰く、重大発表があるとのことだった。 「なんと、ドラマに出ることになりましたー!」 「……ドラマ? え、どういうこと?」 それは、唐突な報告。広報部より寄せられた人気ドラマへの出演依頼、彼女はわざわざ自分に知らせてきてくれたのだ。 「良かったら見に来てね。ひょっとしたらサインとか、もらえるかも」 「"高町なのは"役の人からはもらえないの?」 ぷ、と幼馴染は吹き出す。互いに笑い合って、何でもない会話を交わす。それがユーノにとって、どれほどの安らぎだったか。 通信を終える頃には、すっかりバックルの持つ力のことなど、頭の片隅に追いやられていた。 しかし、夢の中で出会ったあの男は決して、ユーノから眼を離さない。 男はいったい、何者なのか。仮に問いかけることが出来るとすれば、彼は不敵な笑みと共に口にするだろう。自分が何者であるか。 「俺は、通りすがりの――」 まるで待ち構えていたかのように、その日の夢にも男は現れた。相変わらず持ち物は二眼レフのカメラ、そして白いバックルに銀の箱のみ。 また君か? と怪訝な表情で男を見ていると、彼は何の断りもなく、数少ない持ち物、首からぶら下げていたカメラを手に持ち、シャッターを切った。被写体は、ユーノ。いき なり写真を撮られて眉をひそめてしまったが、カメラを覗き込む顔は大して悪ぶれた様子もない。 何なんだ、こいつ。男の横柄な態度に、ユーノの表情はますます険しくなる。写真を撮るのは構わないが、被写体が見知らぬ赤の他人ならば、一声かけて然るべきではないか。 「――?」 突然、目の前に写真を突きつけられる。たった今撮ったユーノの写真、しかしいつの間に現像したのか。二眼レフのカメラは通常のフィルム式で、インスタントカメラではな いはずなのだが。疑問をよそに、彼は差し出された写真を受け取った。 瞬間、一見女性的なユーノの顔が大きく歪む。手渡されたそれには確かに自分が写っていたのだが、酷く歪んでいたのだ。ピンボケなんてものじゃない、どう考えても撮影に 失敗している。やっぱりな、と彼の反応を見ていた男は、あたかも自分の撮った写真がこうなるのを予測していたかのよう。 「どうやら、俺はどう足掻いても"破壊者"らしい。だから俺の撮った写真はみんなそうなる。世界が俺を、拒絶してるんだ」 どういう意味だい? 思わず聞き返そうとして、顔を上げる。緑色の瞳が映したのは、どこか悲しげな、それでいて自嘲気味な笑顔を浮かべる男の顔。 もちろん、男は答えなかった。無言のままカメラを手放し、今度はバックルをユーノに向けて差し出す。受け取れ、と言わんばかりの動作。 彼が戸惑うのも、無理はなかった。以前見た夢によれば、バックルは男の身体を人間から別のもの、『ある存在』へと変える力を持つ。決して、手放せるようなものではない はずなのだ。それなのに、男はユーノが受け取ろうとするまでずっと、バックルを差し出したまま。 「受け取れ」 「……いや、でも」 それは、君にとって大事なもののはず。だけども、男はあくまでも彼に言った。受け取れ、と。近いうちに必ず、その力を必要とする時が来るはずだとも。 「大丈夫だ」 それでも受け取りを拒むユーノに、男はさらに付け加える。 「お前なら、お前のその優しさがあれば、破壊者にはならない。お前なら、"ディケイド"の力に呑まれることもない」 「君は……僕を、知っているのか? だとしたら、君はいったい」 疑問、疑問、疑問。夢の中では、そればかりだ。何度目かになる問いかけ、男は今度は答えてみせる。 ――まずい、と。不意に、脳裏で警告が響く。確かな根拠があった訳ではないが、頭の中で何かがひたすら訴えているのだ。その質問は、してはいけない。まだ他に、聞くべ きことがある。その質問は、夢の終わりを意味するのだと。 しかし、警告もむなしく。男が口を開き、発せられた言葉を全て聞き取れないうちに、世界は白い光に包まれ、何も見えなくなっていく。 「俺は、通りすがりの――」 世界の破壊者、ディケイド。いくつもの世界を巡り、その瞳は何を見る。 【LYLICAL RIDER WARS】 EPISODE:ユーノ編 中編 「――はい、GACKTさんの歌う"Journey through the Decade"でしたー。続いてペンネーム、金色の王の微笑みさんからのリクエスト、"BURRY"です。これは有名フライトシュ ーティングゲームの主題歌にも選ばれた曲で……」 行きのタクシーの中で聞いたラジオは、音楽番組を垂れ流していた。後部座席に座るユーノは、あまり興味を示さない。緑色の瞳は眼鏡越しに映る、窓の外を流れていくクラ ナガン市街地の光景を、ぼんやりと眺めていた。 連日深夜にまで及んだ無限書庫の業務は、過酷そのものであった。食事すらも適当に済ます羽目になり、睡眠時間はガリガリと削られていく。それでも、もぎ取った休暇はそ れだけの価値があった。幼馴染と久しぶりに会えるばかりか、ドラマに出演する場面を生で見れられる。撮影が終われば彼女もそのままオフになるそうだから、さっさと厄介 事を片付けて一緒に食事でも、と言うのが本日の彼の行動計画である。 ただし――厄介事。バッグに入れてきたあの白いバックルと銀の箱。今朝見た夢にまで出てきたこれらは、いったい何なのだろうか。あの若い男、二眼レフのカメラを持った 青年は自分に受け取るよう言っていたが、ユーノはそんなつもりはさらさら無かった。だから、これから休暇ついでに管理局の技術部に調査を依頼すると言う名目で、預けて しまうつもりでさえいた。 気にはならないと言えば嘘になるが、受け取ったところでどうしろと言うのだ。世間は確かに騒がしい。大量の無人兵器が無差別な破壊活動を繰り返し、管理局はその対応に 追われている。風の噂では、魔法を打ち消してしまう謎の粒子がテロリストたちに流れ、魔導師たちは苦戦を余儀なくされているとも聞いた。 そして、噂には続きがある。魔法が通用しない敵に対して、一人の魔導師は『ある存在』へと"変身"して立ち向かっている、らしい。噂に聞いた『ある存在』と、夢に出てき たあのマゼンタの男。片方は噂、片方は夢と言うあやふやなものでしかないが、共通する外見的特徴がいくつかあった。 すなわち、大きな複眼。 すなわち、人並み外れたパワーとスピード。 すなわち、人間ならば致命傷であっても平然と耐え抜く防御力。 すなわち、顔を覆い隠す、仮面。 偶然にしては、出来過ぎている。さらに、その事実こそがユーノの現在の思考の発端でもあった。 彼は、恐れていた。『ある存在』へと姿を変えること。人ではない強力な"力"を得ることに。力を得れば、戦いに駆り出されるのではないか。 そうか、と彼は自嘲の苦笑い。なんだかんだで、僕は気に入っているんだ。無限書庫と言う忙しくも、少なくとも戦うことはない空間を。極端な言い方をすれば、指をくわえ て後ろで見ていると言う立場に。 「どうかしましたか?」 「……いえ、何も」 いきなり苦笑いするユーノを見て、タクシーの運転手は怪訝な表情を浮かべていた。何でもない風に装うと、運転手はそうですか、とそれ以上追及することはなかった。ハン ドルを握ったまま、彼は「もうすぐ着きますよ」と付け加える。 途端に、三日前にディスプレイ越しに見た彼女の笑顔が脳裏をよぎった。そうか、もうすぐ会えるのか。自然と自嘲の意味を込めた苦笑いは形を変え、期待と喜びを持った緩 く自然な笑みへと変わる。 キッと、突然タクシーがブレーキを踏んで停車。出来上がったばかりの笑みは崩れ、疑念がユーノの顔に宿った。見上げれば、フロントガラスの向こうで装甲車を中心に道路 にバリケードが築かれていた。見ただけで分かる物々しい雰囲気、武装した陸士たちの姿が拍車をかける。 「ここから先は通行禁止です」 「何があったんです?」 「お答えできません――誘導しますから、Uターンを」 駆け寄ってきた陸士に、運転手が問いかける。答えが返ってきた直後、後部座席にいたユーノは間に割り込んだ。併せて、管理局の身分証も見せ付ける。 「あなたは……っ」 「無限書庫司書長のユーノ・スクライアです。教えてください、何があったのか」 相手の正体を知った陸士は、一瞬躊躇うような仕草を見せた。部署が違うとは言え、階級はユーノの方が圧倒的に上。近場にいた上官らしき仲間に声をかけ、相談した上で渋 々、説明するから降りるよう伝えてきた。 代金を払ってタクシーから降りたユーノは陸士に案内されて、バリケード内に設置された司令部へ。司令部とは言っても時間がなかったのか即席らしく、テントの中に大型の 通信機がある他は何もない。せいぜい、クラナガン市街地の地図が張り出されているだけだ。すでにいくらか書き込まれており、ここ以外にもバリケードが設置されているこ とが理解できる。その中央、おそらくは民間人を入れてはいけない場所に赤い×印があった――クラナガン中央公園。 緑の瞳が、大きく見開かれる。脳裏に響く彼女の声、なんと言っていた。三日後にドラマの撮影がある。場所は、クラナガン中央公園。 「司書長、よろしいですか? 実は現在、局員からの通報でクラナガン中央公園にテロリストが現れたとの報告が――」 "良かったら見に来てね。ひょっとしたらサインとか、もらえるかも" 陸士の言葉は、最後の方はほとんど彼の耳に届いていなかった。ただ、嫌な予感がユーノの身体を突き動かす。 「連れて行ってくれ」 「……はい?」 「案内してくれ! なのはが――"友達"がいるんだ、あそこに!」 もちろん、彼女の強さは百も承知だ。だけど、嫌な予感は消えない。心臓が浮くような、気色の悪い感覚が彼の思考を埋め尽くす。 急げ、急げ、急げ。何かが急かす。自分を。身体を。心を。早くしないと、間に合わないぞ。間に合わない、何に? 彼女を失いたくはないだろう? 信じたくはなかったが、事実だ。頭の中で響いた言葉は、夢で出会ったあの若い男の声によるものだった。 いくらか、時間は遡る。 クラナガン中央公園は、その名の通りミッドチルダの首都クラナガンの中央にある。見た目は至って普通、噴水やベンチ、自動販売機のある公園だが、クラナガンの中央に存 在するだけあって、敷地はかなり広い。周囲の人口の多さもあって、イベント会場になることがしばしばあった。ドラマの撮影なども時折行われているので、特に怪しいと感 じるようなこともない。 「おっかしいなぁ……?」 だけども。キョロキョロと周囲を見渡し、暖かい風に揺れるサイドポニーの少女の顔は怪訝な様子。撮影場所はここだと聞いたのだが、話に聞いた共演予定の有名俳優もいな ければ、スタッフもいない。自分が間違えたのだろうかと思って首元の赤い宝石、相棒に尋ねる。返答は否定、確かにここで合っているとのことだった。相手が遅れた可能性 もあるが、それにしても連絡がない。こちらから確認しようかと思いきや、通知された番号に連絡を入れても無機質な女の声で、この番号は使われていない旨を知らされた。 どうしたものか。少女はとりあえず手近にあったベンチに腰を下ろし、首を上げて視線を空へ。出かける前に見た天気予報は当たっていた。文句なしの快晴、瞳に映るのは群 青一色の青空。日差しは暖かく、時折聞こえる鳥たちの鳴き声がのんびりとした空気を醸し出していた。 ふぅ、と息を漏らす。待ちぼうけを食らう羽目になったが、皮肉にもそのおかげで、久しぶりに何でもない時間を過ごせそうだ。 「んー……っと」 少女、高町なのはは大きく背伸び。太陽の光を全身でたっぷり浴びて、身体から力を抜く。日向ぼっこなんて何年ぶりだろうか? 少なくとも年齢に不相応な忙しい最近の日 々の中では、記憶にない。 背伸びを終えて、本日の持ち物を確認。事前に送られてきた台本、これは内容をしっかり把握済みである。職場の同僚、例えばヴィータにも他の役者の台詞を言ってもらって 演技も完璧にこなしてきた。付き合ってくれた友人曰く「気合入れすぎ」とのこと。そりゃそうである、何にでも全力全開で挑むのが彼女、高町なのはという人間なのだから。 ましてやドラマの出演なんて、夢のような話。気合が入るのも、当然な訳で。 あとは財布など普段の持ち物一式、それからサイン用色紙。これは共演する俳優の名前を教えたらヴィータが「サインもらってきてくれ! 特に藤山弘の!」と熱望してきたた めである。意外と特撮好きらしい彼女にとって、その俳優は神にも等しい存在だそうだ。と言うか、ヴィータが特撮好きだとは思いもしなかった。好きな変身ヒーローの劇場 版でエキストラを募集していると聞いた途端、休暇をもぎ取って参加したとも聞いた。ちなみに、エキストラは一万人も集まったとかなんとかかんとか。 「あの時のヴィータちゃんは楽しそうだったなぁ……」 クスクスと、思い出し笑い。それにしても件の俳優たちは一向に現れる様子を見せないのだが。 この日、なのはは広報部より依頼を受けて、ある人気ドラマへ出演することとなっていた。撮影場所は事前に連絡を受けたクラナガン中央公園、すなわち現在地である。 しかし、改めて周囲を見渡すが撮影を行っている様子はどこにもない。転んでも痛くないよう工夫された原っぱで子供がはしゃぎ回り、親御さんたちが暖かい眼でそれを見守 っている、至って普通ののどかな公園。出演すると聞く有名俳優たちがいるなら、もう少し人だかりや騒がしさがあってもいいはずなのだが。 「失礼、一つお尋ねするのだが」 唐突に、声をかけられた。はっとなって振り返ると、なのはの視線の先にいたのは、白いスーツを纏った壮年の男性。固い表情のまま真っ直ぐ見つめてくる男を見て、彼女は もしかして例のドラマの関係者かと思った。 「高町なのは、と言うのは貴方でよろしいかな」 「はい、そうですけど……」 確認するような問いかけに、あぁやっぱり、と少女は自分の考えが当たっていたと実感する。よく見れば男のスーツは高級感が漂い、どこかの会社でそれなりの地位を持ってい るようにも見えた。となれば、番組のプロデューサーかもしれない。 なのはの回答を得た男は、固い表情のままなるほど、と呟く。 「あの、もしかしてドラマのスタッフの方ですか? 撮影、どこでやってるんでしょう?」 「安心しろ、撮影はもう行わない」 え? と思わず声に出てしまった。男の言葉の意味が、さっぱり分からない。ただ、首元の赤い宝石の姿をした相棒が突然叫んだ。 <<Master, caution!>> 「レイジングハート!?」 相棒、レイジングハートは続ける。次元跳躍の反応あり、間もなく目の前に現れます。警戒を。 警告に従うまま、なのははベンチから立ち上がって男に対し、身構える。ふん、と男はレイジングハートを一瞥し、「優秀なデバイスだな」と呟いた。その言葉が、ますます 彼女の警戒心を強めていく。こいつは、違う。只者じゃない。 「ドラマの撮影などと言うのは、もちろん嘘だ。これは貴様にとって、非常に迷惑な話なのだ」 全て、仕組まれていたもの。男の言葉を裏付けるようにして突如、彼の背後が、空間が歪む。淀んだ色の壁が現れ、そこを突き破るようにして現れたのは、黒い服の戦闘員た ち。どいつもこいつもマスクの下で眼を異様にギラギラさせて、隙あらば襲いかからんとする様子。イッー、イッーと特徴的な鳴き声、ひょっとしたら人の形はしていても人 間ではないのかもしれなかった。 「アポロチェンジ」 戦闘員を従えた男は両手を背中に回し、呟く。途端に赤い炎が彼の身体を中心に渦巻き、壮年の男性はその身を人ならざる者へと変える。左手には周囲に刃がいくつも付いた 丸い盾、右手には長い銃身のライフル、白いマントを羽織って、その下の身体は錆びた鉄のような赤い装甲。頭部はさながら、鳥の翼のような兜を纏っていた。 「あなたは――あなたたちは、いったい」 目の前の光景は、少なくともドラマの撮影の一環には見えなかった。最新の特撮技術を持ってしても再現不可能な異常事態の連発は、紛れもなく現実である。 なのはに素性を問われた男、異形と化した彼は答える。 「私は、アポロガイスト」 男、アポロガイストは右手に持っていたライフルを構える。銃口の先には、彼女の姿があった。 「民衆からの認知度が高く、管理局を支持する要因の一つにもなっている教導隊のエースオブエース。我々の、大ショッカーの計画にとって、迷惑な存在――高町なのは。そ の命、貰い受ける」 「!」 引き金を引く。異形と化した男のライフルは、やはりただの銃とは異なっていた。銃口より放たれた青白い閃光、しかし魔法によるものとはまた違う。標的にされたなのはが そのことを認知できたかは、分からない。あっと思った時には閃光が走り、少女の身体を射抜いているはずだった――着弾間際に、桜色の閃光が走る。光と光の衝突、相反す る力がぶつかり合って火花を散らし、炎と衝撃の波を生み出した。 爆炎と黒煙が晴れる。突然の爆発に恐怖した周囲の人々が、慌てて逃げ出すのを確認した後、ぬっと、彼女は黒いカーテンの向こうから姿を現した。足元には、ミッドチルダ 式の円状の魔方陣。防御魔法を発動した直後ゆえ、桜色に光るそれはなのはの精神と同調するかのように輝いていた。すなわち、騙まし討ちへの怒り。それも、民間人がいる 公園のど真ん中で。 「何がなんだか分からないけど、こんなところで一方的な言いがかりつけて……」 顔を上げ、異形の集団を睨む。瞳に宿るは闘志と言う名の光、怒りと言う名の炎。首元の赤い宝石、レイジングハートを掲げる。 風は空に。 星は天に。 輝く光はこの腕に。 不屈の心は、この胸に――胸のうちで呟く詠唱。今ある自分は、全てこの呪文から始まった。 最後に、彼女は付け加える。この手に魔法を、と。 「レイジングハート、セットアップ!」 それは、戦うための力。普通の少女が、エースオブエースと呼ばれる所以の源。不屈の心が宿ったその時、彼女の手には魔法が集う。 桜色の光の渦を破り、現れたのは私服から白いバリアジャケットへと姿を変えたなのは。左手に持つのは相棒にして魔法の杖、レイジングハート・エクセリオン。 エースオブエース、高町なのは、ここに見参。 「やはりそう来るか」 戦闘態勢に移行した標的を見て、しかしアポロガイストが怯んだ様子はない。むしろ予測していたかのような言葉を吐き、ライフルを仕舞って空になった右手を掲げる。同時 に、黒い戦闘員たちが身構えた。武器は持っていない、彼らは素手で、肉弾戦のみで戦うつもりなのか。 やれ、と振り下ろされる異形の手。特徴的な鳴き声を鳴らし、戦闘員は地を駆け、なのはへと襲い掛かった。 避難誘導を終えた公園周辺は、ここが首都の中央であることが嘘のように静かだった。響くのは複数の足音、それもかなり急いでいる様子。 バリケードの奥に入ったユーノは武装した陸士たちに連れられ、なのはの元に向かっていた。本来なら飛行魔法で一気に飛んでいくところなのだが、あいにく彼は幼馴染の居 場所の詳細を知らされていない。探知魔法を掛ければ一発で分かるにしても、バリケードより向こうはテロリストがいると言う話だ。飛べはしなくても攻撃魔法を熟知した陸 士たちが護衛に付かねば、飛行と探知の他は防御と治療しか知らない司書長には危険過ぎる。 「さぁ、こっちです。高町一尉の反応はこの先です」 急ぎましょう、と付け加える陸士に対して、ユーノは息を切らしながら頷く。正直なところ、ここまでずっとノンストップで走り抜けてきた。足が、悲鳴を上げている。大地 を踏みしめる度に足首に痛みが走り、もういいだろう、そんなに急ぐことはないと誰かが脳裏で囁きさえした。それが、デスクワークに慣れきっていた報いであることは気付 いていた。引きずるようにして、それでも足を前へ前へと踏み出す。 嫌な予感が、止まらないのだ。発信源は、成り行きからそのまま持ち出す羽目になった白いバックルからだろうか。 突然、前を行く陸士が足を止めた。手にしていた魔法の杖、レイジングハートに似た一般陸士用のデバイスを――と言うより、レイジングハートが似ていると言うべきかもし れない。ミッドチルダでは比較的ポピュラーな形状である――構え、ユーノを庇うようにして警戒態勢。 「おい、何だ君たちは。避難勧告は出されているはずだぞ」 何事か、と問いかけるまでもなかった。陸士たちの睨む方向には、二人の男が立ち塞がっていた。服装を見るに民間人のようだが、妙に落ち着き払っている。すでに先頭の陸 士の言うとおり、この辺り一帯には避難勧告が出され誘導も実施されたはずなのだが。 男たちは、ゆらりと立ち上がる。面倒くさそうに肩や首を回し、陸士たちに無言のまま歩み寄っていく。 何だ、こいつら――陸士の肩から覗き込むように男たちを見ていたユーノは、ただならぬ予感を覚えた。人の形はしているが、本当に人間なのだろうか。フラフラと不気味さ さえ感じさせる歩き方、焦点は定まっているが、異様なまでにギラギラとした眼光。陸士も違和感を覚えたのか、デバイスの先端を小銃のように構え、男たちに警告する。 「動くな、それ以上近付くと――!?」 思いのほか、男たちは言うことを聞いたように見えた。ピタッと立ち止まり、それでも視線は決して陸士たちから離れない――直後、彼らは自分の眼を疑った。二人の男は突 然ニタリと気色の悪い笑みを浮かべて、バッと身構える。 数瞬の後、二人はそれぞれ異形へと姿を変えた。片や、灰色主体のまるで死者のような異形。片や、虫を象ったような文字通りの化け物。 陸士たちは知る由もないが、前者は"オルフェノク"、後者は"ワーム"と言う。だが、名称と姿形こそ違えど、醸し出すピリピリとした空気はまったく同じ。すなわち、殺気。 『ヲオォォォ!!』 『ハァアアア!!』 およそ、人のものとは思えない雄叫び。天に向かって一鳴きした彼らは獲物を見つけた狩猟者の如く、陸士たちに向かって突進する。 「隊長……っ」 「撃て、撃て!」 人ならざる者の出現に本能的な恐怖を覚えた陸士たちは、一斉に射撃開始。速射性を優先した魔力弾の雨は二つの異形に襲い掛かり、着弾と同時に火花を散らす。オルフェノ クもワームも正面からまともに攻撃を受け、たまらず停止を余儀なくされる。手応えを感じた陸士たちはこの隙に、非戦闘要員のユーノを後方に下がらせようとした。 その隙が、彼らにとって命取りだった。一斉射撃を受けて止まったはずの怪人たちはしかし、それまでのダメージなどまるで嘘のように突撃を再開。咄嗟に迎撃しようとデバ イスを構えた陸士との距離を一気に詰めて、その凶暴な闘争本能を露にする。振り抜かれた異形の腕が、彼らを容赦なく薙ぎ払った。 「こ、こいつら――!?」 手応えは確かにあった。それなのに。信じられないものを見た陸士は、今度は至近距離で射撃を試みるも、怪人の動きははるかに速い。デバイスを人ではない手に掴まれ、そ のまま強引に奪われてしまう。武器を失った彼に代わって叩き込まれたのは、腕の一部となっていた鋭利な刃。舞い散る鮮血、朱色がアスファルトの地面を染める。悲鳴を上 げる間もなく絶命した仲間の姿が、陸士たちの本能に警告する。こいつは、無理だ。倒せない。 「司書長、後退を。ここは我々が」 「そんなっ」 それでも、彼らは自分だけ先に逃げるような真似はしなかった。獲物を前に舌なめずりする狩人を前にしてなお、逃げ出したい恐怖心を抑えて非戦闘員を逃がそうとした。 躊躇するユーノを行け、と陸士が押し出す。迫る怪人にほとんどささやかと言ってもいいほどの抵抗の末、薙ぎ払われ、蹴飛ばされ、命を奪われていった。護衛は全滅、残る 人間はもはや彼一人のみ。 運の悪いことに、オルフェノクもワームも、最後の一人を逃がしてやるほど慈悲を持った生き物ではなかった。闘争本能を剥き出しにした瞳がユーノを捉え、ゆっくりと歩み 寄る。怪人たちはすでに、見抜いていた。彼が、攻撃魔法を一つも行使できないことを。ジリジリと後退を余儀なくされ、やがて背後に壁があることに気付く。 「っく……!」 防御魔法を展開。訓練された陸士たちを糸も簡単に薙ぎ払う奴らにどこまで通用するのかは疑問だったが、誰だって死にたくはなかった。光の幕がユーノの周囲を覆い、侵入 者を阻もうとする。効果は、あった。異形の怪物たちは文字通り魔法の壁に邪魔され、小癪な抵抗を繰り出す獲物に近付けない。力任せに叩き割ろうと試みるが、弾き返され るのみに終わった。これで当分は持つか。 しかしどうする、と防御魔法を維持する一方で、彼の並列思考が回転する。強固な防御を維持するには足を止め集中せねばならないが、ここでじっとしている訳にはいかない。 陸士たちの中にはまだ息がある者が見受けられたし、何よりその向こうにはなのはがいる。何とかして、助け出さねば。だがどうやって。 おいおい、忘れるなよ。 脳裏に、男の声が響く。バックの中に入れたままの、白いバックル、銀の箱。使えと言うのか、僕に。だけどそれは。 「あっ、何で――!?」 それは突然の出来事だった。集中力を切らした訳でもないのに、自らを守っていた防御魔法が足元の魔方陣諸共、いきなり消え去ってしまった。魔力が切れた訳でもない。も う一度素早く詠唱を繰り返すが、何も出ない。魔力はあるのに、それを形にすることが出来ないのだ。 何でだ、どうして――疑問をよそに、怪人たちは魔法の壁がなくなったことでユーノに歩み寄る。逃げ場はない。飛行魔法だって、もう間に合わない。 くそ、とらしくない悪態を吐き捨てる。何も出来ない。抵抗することも。拳を振りかざして、相手に立ち向かうことも。例え我武者羅に飛び込んだところで、怪人たちの力の 前には無力も同然だろう。 だから、忘れるなよ。使え。 やるしか、ないのだろうか。 脳裏に響く、男の声。夢で出会った若い二眼レフのカメラを持った男。夢の中で、男はバックルとカードを使い、自らも異形となって怪人たちを薙ぎ払っていた。 ええい、と。ほとんどヤケクソ気味に声を荒げて、バックから白い大きなバックルを取り出す。併せて銀の箱も持ち出し、中を開いて一枚のカードを取り出す――"DECADE"と 銘打たれたカードを。 使いこなす自信など、ある訳がない。胸のうちは、不安と恐怖でいっぱいだ。力を手にしたところで、自分に使うこなせるのか。 そうだ、それでいい。 それなのに。男の声は、自信のないユーノを肯定するかのような言葉を送る。 臆病ってのは、大事なことだ。お前は力を恐れることが出来る。だからこそ、正しい使い方が出来る。俺には出来なかった。力を恐れず手を出した結果、呑み込まれたんだ。 だが―― バックルを装着。装着者の意思を読み取ったそれはベルトを回し、ユーノの身体に絡みつく。迫る怪人たちの前に、カードを掲げる。 臆病とは、優しさの裏返しだ。お前なら、力に呑み込まれることもない。お前のその優しさがあれば、破壊者にはならない。惚れた女を、守ることだって出来る。 さぁ、用意は出来たな? 「僕に、力を貸してくれ――!」 いいだろう。戦い方は、俺が教えてやる。さぁ、俺と一緒に叫べ。行くぞ―― バックルに、カードを差し込む。途端に鳴り響く電子音、同時に彼自身の心拍数も上がっていく。 恐れ、不安、戸惑い、躊躇い。全てを振り切って、彼は叫ぶ。 「変身!」 <<KAMEN RIDE DECADE>> 瞬間、いくつもの影が浮かぶ。九つの影。それらはやがてユーノの身体へと重なり、一つの形となって彼の力になっていく。 やがて姿を見せる、大きな複眼、マゼンタの装甲。数多の世界を旅してきた存在――ディケイド。それが、力を得たユーノの新たな名だった。 おそるおそる、彼は自分の身体を見下ろす。分かっていたことのはずなのに、ゲッと悲鳴。 「ほ、ホントに変身しちゃった……」 ぼやっとするな。来るぞ。 「うわっ!?」 脳裏へと響く男の警告がなければ、いきなり直撃を食らったかもしれない。オルフェノクの灰色の腕が振り下ろされ、寸前で回避に成功。どうやら動体視力も上がるらしい。 ところが、飛び込んだ先はよりによってワームの目の前。咄嗟に両手をクロスさせてガードに入るが、叩き込まれた蹴りは予想以上に強いものだった。間抜けな悲鳴を上げな がらユーノは、ディケイドは背後の壁を突き破って、奥に広がっていた原っぱをゴロゴロと転がる羽目になる。生身ならとっくの昔に死んでいるが、腕と背中の痛みは生きて いる証拠だ。 「痛っ……」 苦痛をこらえて、マゼンタの仮面は立ち上がる。崩れた壁を乗り越え、怪人たちは追撃の様子を見せていた。じっとしていたらやられる。 素手じゃお前には厳しいだろう、ライドブッカーを使え。剣にも銃にもなる。 「――え、何?」 銀の箱だ。カードが入っている奴。 これか、とユーノは腰に引っ掛けられていた銀の箱、男曰くライドブッカーを持ち出す。機械音を鳴らして、まずは刃を突き出させる。武器があれば、ひとまずは互角に戦え るか。剣となったライドブッカーを握り締め、ディケイドは迫る怪人に自分から立ち向かう。 「……っ、うぉおおお!」 剣術など、習ったこともない。身近に剣を扱う者はいるが、おそらく様になってないと笑われるだろう。それほどにまで、ユーノの繰り出した斬撃は力任せだった。ほとんど 刀身を叩きつけるような一撃は、しかし斬りかかられたオルフェノクにとって痛恨の一撃に等しかった。硬い皮膚を刃が切り裂き、火花が飛び散る。弾け飛ぶオルフェノク。 振り下ろしたライドブッカーを強引に引き上げ、今度は横にいたワームに向けて薙ぎ払う――間合いが足りない。振り抜いた剣先は、ぎりぎりのところで怪人を逃がしてしまう。 だったら! 刀身を元に戻し、代わりに銃口を出す。銀の箱は、剣から銃へ。右手だけでグリップを握り、引き金を引く。ライドブッカーより放たれた光の弾丸は逃げるワー ムに叩き込まれ、確かにダメージを与えた。怯む怪人、これならやれる。 後ろだ、避けろ! 声が聞こえた時にはもう遅い。ダメージから回復したオルフェノクが、ディケイドに背後より襲い掛かった。身体の一部だった刃が振り抜かれ、背中の装甲を容赦なく削る。 たまらず悲鳴を上げるユーノ、咄嗟に振り返ってライドブッカーの銃口を突きつけるも、引き金を引く頃には相手は射線より退避。目標を逃がした光弾が地面を叩き、土煙 を上げるだけ。 「くそ」 闇雲に暴れまわっても駄目だ。カードを使え。 「使えたって……!」 どれを使えばいいんだ。ライドブッカーを開くが、カードの数は意外に多い。適当に掴んだ一枚を、バックルへと差し込む。 <<ATTACK RIDE BLAST>> 結果は、当たりだった。ユーノが選んだカードは、ライドブッカー・ガンモードの攻撃力と連射力を大幅に向上させるものだったのである。 もちろん、本人はそのことを理解していない。ただ、襲い掛かってきた怪人たちに対して銃口を突きつけ、照準も適当なまま引き金を引いたに過ぎない。唸る銃声、強烈な弾 幕の前に、ワームもオルフェノクも吹き飛ばされたのはまったくの偶然だ。それでも、相手に隙が生じたのは変わりない。 今だ、止めを刺せ。"FINAL ATACK RIDE"のカードがあるはずだ。 これか! ライドブッカーを一旦腰に戻し、カードを取り出す。描かれているのは、ディケイドの頭部を模した紋章。男の声に従うまま、バックルへと差し込む。 狙うは灰色の怪人、オルフェノク。カードを差し込むなり、光の壁が敵に向かって連なって現れる。おそらくはこの壁を通り抜けて、攻撃するのだろう。 ヨロヨロとダメージを回復しきれないまま立ち上がる怪人に向け、ディケイドは大地を駆ける。ハッと短い雄叫びと共に、跳躍。飛行魔法でも行使したかのような高度にまで 昇り、眼下のオルフェノクへ向け狙いを定める。 <<FINAL ATACK RIDE DE DE DE DECADE>> 繰り出すのは右足、ディメンション・キック。導かれるようにして降下したマゼンタの仮面は、光の壁を突き破る度に速度を上げ、右足を光り輝かせていく。 耳をつんざくような咆哮。誰のものかと思いきや、それが自分のものだとユーノは後になって気付いた――激突。灰色の胴体にディケイドのキックが叩き込まれる。防御もま まならなかった怪人は容赦なく弾き飛ばされ、爆発。青白い炎を舞い散らせ、オルフェノクは灰へと還っていった。 「やれ、た……?」 着地し、確認するようにユーノは顔を上げる。陸士たちが傷一つ付けられなかったあの怪人を、自分が倒した。攻撃魔法の一つも覚えていなかった、この自分が。 妙な感覚だった。現実に倒したはずなのに、実感がない。雲を掴むような気分になりながら、それでも視界の影に映った殺気を見逃すことはない。繰り出された人のものとは 違う拳を、寸前でガードする。続いて襲い来る回し蹴りも、身を屈めてどうにか回避。そうだ、敵は一人じゃない。あと一体、この昆虫のような化け物が残っているのだ。 ぼやっとするな、構えろ。 「分かってる、けど!」 バックステップして、ユーノはワームと距離を取る。心なしか、仲間を倒された怪人は怒り狂っているようにも見えた。異形の存在にも、仲間意識はあると言うことか。 一度は戻したライドブッカーを、再び手元へ。刃を取り出し、威嚇するようにして突きつけた。追撃しようとしたワームは一瞬動きを止めて、次の瞬間、視界から消える。 気をつけろ、と脳裏に男の声。クロックアップだ。 言葉の意味を理解出来ないまま、複眼の向こうで何かが動くのを見出す。身構えた瞬間、ドッと身体に衝撃が走った。 「うわ!?」 痛覚を知覚する頃には、地面に叩きつけられる。何が起きた。ただちに立ち上がるが、やはり何かが動くのが見えた頃には再び、マゼンタの仮面は火花を散らして見えない衝 撃に弾き飛ばされてしまう。あの怪人の仕業だろうか、しかしどうやって姿を消している。 疑問の答えは、やはり男が教えてくれた。姿を消しているんじゃない、眼に見えないほど高速で動いてるんだ。 「……対抗手段は」 相手の攻撃パターンを見切ることが出来ればいいが、一番手っ取り早いのは眼には眼を、だ。"KABUTO"と"CLOCK UP"のカードを使うんだ。 言われるがまま、ユーノはライドブッカーを開く――その間にも攻撃。涙が出そうなほどの痛みを覚えるのと同時に視界がひっくり返り、それでも何とか姿勢を立て直す。 カードを抜き取り、バックルへ差し込む。マゼンタの仮面は緑の光に覆われ、代わりに現れたのは赤い大きな角。開放されしは、カブトの力。ディケイド、カブト変身体へ。 ほとんど間を置かず、二枚目を差し込む。 <<KAMEN RIDE KABUTO――ATTACK RIDE CLOCK UP>> 瞬間、世界が止まる。否、止まったように見えるだけ。舞い散る木の葉も、湧き上がる噴水の水も、全て"自分の方"が速い。 ガッと、叩きつけられた拳を止める。それまで一方的に攻撃していたワームはいきなり拳を受け止められ、露骨な戸惑いを見せた。驚きを隠しきれない虫のような顔に向かっ て、ディケイド・カブトの拳が叩き込まれる。油断を伴っていたのか、大きく怯む異形。ユーノは連撃を浴びせていく。 「ハッ! フッ! でぇい!」 拳と蹴りの殴打、殴打、殴打。無論全て力任せの攻撃だったが、それゆえに込められた威力は半端ではない。反撃もままならない異形に向けて最後に一発、腹部目掛けて蹴り を叩き込んで、後方へと吹き飛ばす。生じた隙を無駄にすることなく、ただちにライドブッカーを開く。取り出すカードは、カブトのファイナルアタックライド。 さんざん殴られたワームはそれでも、闘志まで折れることはなかった。人ならざる姿ゆえの咆哮を上げ、ディケイド・カブトに向かって突進する。 <<FINAL ATACK RIDE KA KA KA KABUTO>> 「……ハァ!」 迫るワームの頭部目掛けて、光り輝く回し蹴りをぶち込む。自ら相手の技に飛び込む羽目になった怪人は己の突進の力も合わさり、真横へと吹き飛ばされた。ドンッと大地に 叩きつけられ、原っぱの草がまとめて捲れあがる。 クロックアップは、まだ終わっていない。巻き上がった土煙もゆっくり、じわじわと広がっていくだけ――それより先に、爆散。ワームが消えた証、緑色の炎が大地を焦がし 直後に世界の速度が彼らに追いつく。クロックオーバー、ハイスピードからノーマルへ。 勝った。二人の怪人を相手に、自分は勝利してみせた――バックルを開いて、変身解除。ディケイド・カブトはそのまま眼鏡の青年とへ戻る。 確かに、自分は勝った。だが、とユーノは振り返る。捲れあがった公園の原っぱに、粉砕された壁。自分とあの怪人たちとの戦いの傷跡。そう。半分は自分でやったようなも のなのだ。およそ、人の成し得るものとは思えないほどの破壊を、この自分が。 その思いを、大事にしろ。 脳裏に、男の声。怖いと思えるのは、大事なことだと。だからこそ、彼はユーノに託したのだ。 「あぁ――分かってる。それより、陸士の人たちが。あと、なのはも」 無理やり自分を納得させてみせて、ともかくも駆け出す。敵は倒したが、それだけではいけない。まだ息のある者は助ければならないし、何より気がかりなのは彼女だ。怪人 たちは、行く手を阻むように現れた。つまり、その先には邪魔されては困ることが起きているのだろう。おおむね、察しは着く。テロリストの狙いは、おそらく―― 「無事でいてくれ」 先を急ぐ。まだ、自分には出来ることがある。やらなければいけないことがある。 次回 【LYLICAL RIDER WARS】 ユーノ編 後編 「貴様らがアレに弱いのは、すでに知っている」 「なのは、立って!」 「貴様、何者だ」 「通りすがりの、仮面ライダーだ!」 全てを破壊し、全てを繋げ! 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