LYLICAL RIDER WARS_02後編

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LYLICAL RIDER WARS_02後編 - (2010/05/23 (日) 19:07:24) のソース

これまでの『[[LYLICAL RIDER WARS]] EPISODE:ユーノ編』は――



「どうやら、俺はどう足掻いても"破壊者"らしい。だから俺の撮った写真はみんなそうなる。世界が俺を、拒絶してるんだ」

夢の中で、男は語る。どうあっても被写体が歪んでしまう、己が撮影した写真を手に。
戸惑う夢の主に、彼は自分の数少ない持ち物を手渡す。白い、バックル。人を人ならざる存在へと変える、その力を。
無論、差し出された方は受け取ることに躊躇した。それは、君にとって大事なもののはず、と――否。本当は、それだけではない。
怖かった。力を得ることが。無限書庫と言う忙しくも前線に出ることはない現在の立場に、自分は安住の地を見出していた。
しかし、男は差し出したバックルを戻そうとはしない。

「お前なら、お前のその優しさがあれば、破壊者にはならない。お前なら、"ディケイド"の力に呑まれることもない」

夢はそこで、一度終わりを告げる。
言葉の意味も理解出来ぬまま、夢の主、ユーノ・スクライアは幼馴染との再会に向けて歩みを進ませる。
だが、そこに立ちはだかるバリケード。

「司書長、よろしいですか? 実は現在、局員からの通報でクラナガン中央公園にテロリストが現れたとの報告が――」

いても立っても、いられなくなった。だって、中央公園には彼女が。なのはがいるのだ。
彼は陸士に頼み、幼馴染の元へと急ぐ。

「高町なのは、と言うのは貴方でよろしいかな」
「はい、そうですけど……」

その間にも迫る、邪悪なる影。ドラマへの出演依頼など、嘘に過ぎなかったのだ。
"大ショッカー"を名乗った彼らの目的は、ただ一つ。

「民衆からの認知度が高く、管理局を支持する要因の一つにもなっている教導隊のエースオブエース。我々の、大ショッカーの計画にとって、迷惑な存在――高町なのは。そ
の命、貰い受ける」

無論、彼女とて空戦魔導師。それどころか、エースオブエースの異名すら取る。
自分を罠にはめた敵に対して、彼女は一切怯まず、戦う姿勢を見せた。

「レイジングハート、セットアップ!」

一方で、幼馴染の元へと急ぐユーノの前に立ちふさがる影――異形の姿を持った、怪人たち。
護衛の陸士を軽々と跳ね除けた奴らは、残る彼を獲物に定める。戦う力を持ち合わせていない、彼を。

だから、忘れるなよ。使え。

いや、"力"ならあった。ただ、恐れていたのだ。力を得てしまうことに。それによって組み込まれるであろう、戦いの連鎖に。
だけども、そんなユーノをあの男は肯定してくれた。
臆病とは、優しさの裏返しだ。その優しさがあれば、力に呑み込まれることもない。惚れた女を、守ることだって出来る。
意を決して、バックルを装着。恐れ、不安、戸惑い、躊躇い。全てを振り切って、彼は叫ぶ。

「変身!」

<<KAMEN RIDE DECADE>>

纏ったのは、マゼンタの装甲。手に入れたのは、人ならざる力。与えられた名前は、ディケイド。
戦いの場に立つなど、いったい何年ぶりのことか。それでも彼は、ディケイドは襲い来る異形の撃破に成功する。
それでも、戦いはまだ終わっていない。この先には、自分のすべきこと、やらなければならないことが待っていた。
無事でいてくれ――脳裏に幼馴染の顔を浮かべ、ユーノは先を急ぐ。


世界の破壊者、ディケイド。いくつもの世界を巡り、その瞳は何を見る。

【LYLICAL RIDER WARS】

EPISODE:ユーノ編 後編



空戦魔導師が他の魔導師に対して、もっとも勝る点は何か。
間違いなく、飛行能力である。大空を自由に舞い、三次元機動を可能とする機能はそれだけで非常に大きなアドバンテージと成り得るはずだ。
ならば、飛べない空戦魔導師にいかほどの価値があるだろうか。
皆無。飛べない翼など、単なるデッドウェイト。鳥は地面に降りた瞬間、地べたを這う猛獣に食い殺されるだけだろう。
――ただし、どこにでも例外は存在する。

「レイジングハート!」
<<All lights>>

黒い戦闘員の繰り出した拳が、あっけなく魔法の壁に弾かれる。攻撃したはずなのに怯む羽目になった覆面に向け、あらかじめ詠唱しておいたアクセルシューターを放つ。
直撃、光の弾丸をもろに食らって戦闘員はダウンへと追い込まれた。非殺傷設定なので気絶したのかと思いきや、その身体は泡となって大地に吸い込まれるように消えていく。
どうやら普通の人間が覆面をしている訳でもないらしい。一種の不気味さを覚えながら、"例外"こと高町なのはは戦闘態勢を決して解かない。
背後に感じた敵意。振り返って確認するまでもなく、イッーと言う特徴的な鳴き声が聴覚を刺激する。後ろに回りこんだ黒い影が二つ、奇襲のつもりらしいがそうはいかない。

<<Accel Shooter>>

手中の相棒、レイジングハートの反応は速かった。詠唱を代行して、魔力弾を二発用意。主が振り返って敵を見上げると同時に――視覚と連動したロックオンシステム、相手
の位置を把握するのは結局のところなのは自身――照準、発射。飛び掛らんとした戦闘員は各々魔力弾を浴びて、地面に叩きつけられ泡と帰す。
じゃり、と地を踏み込む。決して退かない、不退転の構え。数では未だ圧倒的な戦闘員が、攻撃に踏み込めない。突っ込めば先にくたばった仲間のようになるし、何より彼女
の醸し出す雰囲気が彼らの足を止めた。金色の杖を構える魔女は、まだ一度も飛翔していない。それなのに。
ふん、と覆面たちの戦いを観察していた男が鼻を鳴らす。おそらくは彼らの指揮官、アポロガイスト。最初の一撃を彼女に浴びせてから、この男はずっと後方で見ているだけ
だった。キッと、戦う少女の視線は戦闘員からアポロガイストへ向けられる。まるで、卑怯者を見るような眼で。
睨まれた方はと言うと、大して動揺した素振りを見せなかった。ただ、白いマントの下からバッと手を出し、何かの合図を部下たちに送る。
指揮官の命を受けた戦闘員たちは一旦後退し、高々と跳躍してみせた――違う、となのはは脳裏の奥で否定の言葉。"跳んだ"のではない、"飛んだ"のだ。打ち上げられたロケ
ットの如く白煙を噴きながら、黒い覆面の男たちは天高く上昇し、反転、急降下。目標は、白いバリアジャケットの少女。
何あれ、と思わず叫んでしまった。驚愕で表情を染めながら、なのははここで初めて動く。アクセルフィン起動、魔法の翼が羽ばたき背後に向けて飛ぶ。
しかし、驚きはそれだけに留まらなかった。急降下してきた戦闘員たちは殴りかかろうともせず、彼女が回避の直前にまで立っていた大地に向けて"着弾"。あろうことか、爆
発すらしてみせた。
広がる爆炎、巻き上がる土煙。焼けるように熱い火炎が、これが現実であることを少女に思い知らせる。敵は、特攻を仕掛けてきたのだ。それも、何の躊躇いもなく。

<<Warning, 12 o'clock high!>>

驚愕している間に、デバイスから警告が飛ぶ。正面、上から再び敵影。今度も同じ、白煙を引きながら突っ込んでくる覆面の男たち。しかも今度は多数、避けきれない。文字
通り必死の形相に、たまらずなのはは恐怖心を抱いてしまう。死ぬのが怖くないのか、こいつらは。
それでも、金色の杖を構える腕は動いてくれた。迫る人間爆弾に対し、レイジングハートを突きつける。詠唱開始、術式展開。ミッドチルダ式の魔方陣を足元に浮かべ、彼女
は天を睨む。複雑な詠唱や術式とは裏腹に、思考は至って単純だった。すなわち、回避が無理なら迎撃してしまえばいい。
放つのは、得意とする砲撃魔法。

「ディバイン――」

照準セット。金色の杖の先端に桜色の光が集中し、それを見た迫る覆面たちの顔が歪む。無論、もう遅い。

「バスタァー!!」

どっと、桜色の光の渦が放たれる。自ら光の津波に突っ込んだ戦闘員たちは、むなしくもその場で爆散。文字通り木っ端微塵に吹き飛ばされ、跡形もなく消え去ってしまった。
ふぅ、とわずかにため息を漏らす。人間ではないとは言え、どうにもやりきれない気分を抱えたまま、なのはは一旦大地へと舞い降りた。これで、戦闘員は全滅した。
――だと言うのに、この男は。
パチ、パチ、パチと。特攻を命じた張本人、アポロガイストはテンポの遅い拍手を持って彼女を出迎えた。部下が一人残らずいなくなったと言うのに、危機感もなければ死ん
だ仲間を惜しむ様子もまったくない。たまらずなのははレイジングハートを突きつけ、少なからず怒りを込めた視線で彼を睨む。

「あなたは、部下に命令を出しておいて――!」
「所詮大量生産品だ。また作ればいい」

ギリッと歯を噛み鳴らす。整った顔立ちに怒りの炎を宿し、いよいよ彼女は前に出ようとした。
アポロガイストはそんな相手を見てようやくやる気になったのか、マントの内側よりライフルを持ち出す。左手に持った盾は、しかし構えようとしない。飾りのつもりか、な
ら何故ライフルを抜いた。

「!?」

瞬間、なのはは信じがたいものを眼にした。いつでも飛び立てるように浮かべていた魔法の翼、足元のアクセルフィンが消えかかろうとしている。魔力のコントロールが乱れ
たのか。術式の再構築を図るも、結果は同じ。焦る思考とは裏腹に、魔法の翼はどんどん色褪せていく。
ガチャッと金属音。はっと顔を上げれば、アポロガイストの右手が上がっていた。手中にはライフル、銃口の先にいるのは、自分の姿。咄嗟に防御魔法を発動させ、攻撃を防
ごうとする。魔法の壁は、いかなる打撃にも耐えうるはずだった。
ライフルより放たれた青白い閃光が、桜色の防御魔法に達する。全てを防ぐはずだった壁は、あっけなく割れた。驚きより早く、肩に痛みが走る。情けなくも悲鳴を上げて、
彼女は地面に打ち倒されてしまった。

「そん、な……」
「貴様らがアレに弱いのは、すでに知っている」

何故、どうして。疑問の答えはあろうことか、敵対する男によって示された。芝居がかったオーバーな腕の動き、その指先に妙な円柱状のポッドが聳え立っている。
まさか、と彼女は口走る。ここ数年、魔導師たちを苦しめる奇妙な粒子が、テロリストたちの間に広まっていると言う話を耳にしたことがあったAMF――あのポッドはすなわ
ち、その発生装置なのだろうか。
異形の兜に覆われているはずなのに、男の顔がニヤリと笑ったような気がする。不気味な微笑み。何とかして立ち上がろうとするなのはの眼前に、銃口が突きつけられた。

「高町なのは。その命、貰い受ける」

やられる。死への恐怖が、彼女の脳裏を染め上げていった。つい昨日まで、幼馴染と久しぶりの会話をしていた、平和な時間を過ごしていたはずなのに。じわりと、涙が目尻
に浮かび上がってきて、情けない気持ちにもなってきた。
分かってはいた。助けを求めたところで、誰も来ないことに。だけども、恐怖に追い立てられた本能は叫んでしまう。助けて、と。
だから、気のせいだと思ってしまった。誰かが自分の名を叫び、異形の男に飛びかかったのを目の当たりにしても。

「なのは、立って!」

現実を認識するのに、時間がかかってしまった。幼馴染が、アポロガイストの腕を抑えていた。



居ても立ってもいられなくなった、とはこのことだろうし、誰だってそうするだろう。自分の大切な人が、殺されかけているとなれば。
負傷した陸士たちを後続の部隊に任せたユーノは一人、なのはを求めて公園内を駆け抜けていた。息を切らしながらようやく彼女の姿を見つけた時、彼の理性はすぐ飛んだ。
倒れた彼女に銃口を突きつける異形の男、アポロガイストに向けて、生身のまま飛び掛る。後から考えれば変身すべきだったが、身体の方が先に動いてしまっていた。

「なのは、立って!」

呆然とする幼馴染に向けて、彼は叫ぶ。生身の状態では、おそらく数秒と持たないだろう。

「邪魔をするな!」

悲しくも、結果は予想通り。異形の男はライフルを持った右手に絡みつくユーノを強引に振り解き、肘打ちをお見舞いする。邪魔者を弾き飛ばし、そのままライフルの銃口を
標的から乱入してきた少年へと向ける。
地面に叩きつけられたユーノはそれでも何とか立ち上がり、そこで敵が自分を狙っていることに気付かされた。防御魔法を、と詠唱しようとしたところで駄目だ、と先ほどの
記憶が脳裏をよぎる。魔法は使えない。
だったら、とバックルを持ち出したところで、行動に移るのが遅すぎた。突きつけられたライフルの銃口で光が煌き、青白い閃光が瞬く。
衝撃、そして爆発。土煙が舞い上がり、炎が踊り狂う。

「ああ……っ!」

悲鳴。それは、なのはのもの。煙のカーテンの向こうに、彼の姿は見えなかった。それでも諦めきれない彼女は逃げ出すことも忘れ、必死に幼馴染を探す。たった一パーセン
トでもいい。生きている、その可能性を信じて。
カチャッと、何かが手元に落ちてきた。視線を落として確認してみれば、ひび割れた眼鏡だった。見覚えがある。確か、いつもこのレンズ越しに優しげな緑色の瞳が見えてい
たはず――持ち主の姿は、ない。少女の顔が、絶望に染まる。否、絶望だけではない。怒り、憎しみ、悲しみ、悔やみ、ありとあらゆる負の感情が、彼女の脳裏をどす黒く塗
りたくっていく。

「愚か者めが」

予期せぬ乱入を排除したアポロガイストは、ゆっくりとライフルを元の位置へと戻す。銃口は再び、なのはの目前へと迫った。
だけども。彼女の瞳は、決して光を失っていなかった。
愚か者、とこいつは言った。生身のまま、自分を助けてくれようとした彼を。大事な幼馴染を。ユーノを。
キッと睨みつけるような視線を浴びて、異形の男は何だ、その眼はと怒りを見せる。

「……ユーノくんは、愚か者なんかじゃない」
「フン、よく言う。人間は皆、自分のために力を振るう。それを忘れるから、ああなるのだ。愚か者となるのだ」

銃口が、額に押し当てられる。なのははそれでも決して、アポロガイストから眼を離さない。
しかし、それだけだ。痛みを訴える身体は誰かに手を借りない限り立ち上がれなかったし、AMFの影響で魔力弾一発撃つことすら叶わない。バリアジャケットはかろうじて維
持出来ているが、撃ち抜かれた肩の部分からは出血し、白い羽衣を赤に染めていた。どの道、この距離で撃たれれば耐えられない。

「貴様も同じだ、高町なのは。お前はその力を持って、名声を得て、名誉を得た。自分のために力を振るったから、今の自分があるのだ」

もっとも、それももうすぐ終わるがな。異形の男は、引き金に指をかける。
違う。私は今まで、自分のためになんて――思いを言葉に変えようとしたところで、それを遮るものがあった。聞き覚えのある声。
まさか、とは思う。でも、それでもはっきり聞き取れた今の声は。

「――違う!」

む、とアポロガイストが反応する。振り向いた先には、未だ晴れない土煙――否、いる。そう確信せざるを得ないほどの何かが、煙の向こうにいるのだ。
やがて、ボロボロの状態の彼が姿を見せる。




決して、万全の状態ではなかった。頬には擦り傷があったし、服には焦げた跡や破けた部分がちらほら見える。
生身で飛び出した代償――眼鏡だってないから、視力はだいぶ衰えていた。長く続いたデスクワークによって蝕まれた眼は、世界をはっきり見せてくれない。
しかし、である。土色のカーテンを突き破って現れた彼の表情からは、疲れや痛みなどは読み取れなかった。

「少なくとも彼女は、なのははいつだって、自分のためだけに力を振るったりなんかしてない。どんな時だって、自分じゃない誰かのため、自分のものじゃない何かのために
戦ってきた。僕には分かる。出会ってから、たった一〇年だけど――何も知らないお前が、とやかく言う資格はない!」

――そして、力強い意思は確実に存在した。
ほう、と異形の男の姿勢が変わる。ライフルを彼女から離し、今度は盾を構えてはっきりとした戦闘態勢。そうしなければならないほど、今の彼には、闘志と言う名の炎が宿
っていた。

「貴様、何者だ」

アポロガイストからの問いかけに、ユーノはすぐに答えない。先ほどは間に合わなかったバックルを装着し、一枚のカードを掲げる。"DECADE"と、銘打たれたカードを。
一連の動作を終えた後、彼は口を開く。
いつもの温厚な彼は、そこにいない。ただ、惚れた女を守ろうとする一人の男の姿だけがあった。
だから、あえて言おう。彼の名は、今は"ユーノ・スクライア"ではない。それでも名乗れと言うのならば――


「通りすがりの、仮面ライダーだ! 覚えておけ!」


変身! 
バックルにカードを差し込む。鳴り響く電子音。浮かび上がる九つの影。影が一つとなってユーノの身体に覆いかぶさり、その身を人間から異形へと変える。
現れたのは、マゼンタの仮面――仮面ライダーディケイド。
脳裏で、誰かが騒いでいる。自分に戦いを教えてくれた、男の声。おそらくは、本来"ディケイド"となるべきだった者。

お前、その台詞をどこで……っ。

「夢の中で君から」

さらっと答えて、ユーノは腰に手を回す。銀の箱、ライドブッカーを取り出して刃を展開。
剣士の如く構えるディケイドを見て――ただし、剣術など彼は知る由もない。"仮面ライダー"の力を持って強引かつ力任せに叩きつけるのみ――アポロガイストは、兜の内
側から動揺した様子を見せた。まるで、何かを知っているような。

「仮面ライダー、ディケイドだと……馬鹿な、死んだはずだ! くそ!」

死んだはず、だって?
仮面の中で怪訝な表情を浮かべるが、それも一瞬のこと。疑問を振り払うようにして、ダッとディケイドは地を駆ける。
異形の男は同じく動揺を振り払うように、なのはの元から一旦離れた。動くのに邪魔になると言う判断だったのか、人質に取ってまで戦うほど卑劣でもないのか。明確な答え
が説明されぬまま、彼は手にしていたライフルを跳ね上げた。迫るマゼンタの仮面に向け、引き金を引く。途端に銃口で走る、青白い閃光。
回避か、いや、このまま行く。放たれた破壊の光に向けて、仮面ライダーはまっすぐ突っ走った。手には刃、剣となった銀の箱。生身ならばたちまち吹き飛ばされてしまうで
あろう破壊と衝撃の渦を、文字通り切り裂きながら進んでいく。

「――っ、でぇい!」

正面突破。ライフルより放たれた閃光を全て切り開き、ライドブッカーの間合いに入る。ほんの一瞬強く地面を踏み込み、力任せに刃を振り抜いた。
手応えあり。緑色の大きな複眼が、空中高く放り投げられたライフルを見出す。く、とわずかに怯むアポロガイスト。隙を逃さず、二撃目の刃を赤い胴体目掛けて叩き込む。
ガンッと、手のひらに強い振動。これは、違う。予感はただちに確信へと変わった。異形の男は、まだ左手に盾を持っていたのだ。しかも、得物を失ったはずの右手にはいつ
の間にかサーベルが。
避けろ! 脳裏に響いた男の声が聞こえる頃には、アポロガイストの反撃が始まっていた。
繰り出されたサーベルによる一撃、ディケイドは剣を防御の構えに取って耐え凌ごうと試みる――駄目だ。胸のうちで、ユーノはどこか客観的な言葉を吐く。
刃と刃の衝突は、すぐに一方的な押し付けへと変貌する。マゼンタの装甲をサーベルが叩き、痛みが走り火花が散った。

「ぐぁ……っ」

たまらずユーノは、身体をくの字に折りそうになった。どうにか耐えて正面を睨み直そうとしたところに、さらに一撃。今度は防御すら間に合わず、振り下ろされた刃を正
面からもろに受けてしまう。切り裂かれる己が身体、悲鳴を上げても攻撃は止まない。二撃目、三撃目と容赦ない追撃をアポロガイストは繰り出し、最後にディケイドの腹
部目掛けて蹴りを叩き込む。跳ね飛ばされる仮面は、地面へと叩きつけられる。

「フン、驚かせおって――ディケイドと言えど、扱う人間がその様子ではな」

くそ、とユーノは屈辱に表情を歪めた。こいつは、アポロガイストは戦い慣れしている。それも口ぶりから察するに、過去に同じ"ディケイド"と言う存在と戦ったことがあ
るのかもしれない。
それでも、闘志は折れなかった。とどめを刺さんと迫る異形に向けて、倒れた姿勢のままディケイドは銀の箱を拳銃のように構え直す。ライドブッカーを、剣から銃へ。同
時にカードを一枚取り出し、バックルに差し込む。

<<ATTACK RIDE BLAST>>

銃となったライドブッカーの引き金を引く。放たれた弾丸、その先にはアポロガイストの赤い胴体がある――カンカンカン、とむなしい金属音。威力を強化したはずなのに
火花が飛び散るだけで、弾丸は全て盾によって阻まれてしまった。

「ディケイド。私がただ復活しただけだと思うなよ」

駄目だ、手の内を読まれてる。一旦逃げろ!

脳裏の声に従った方がいいのは、分かりきっていた。しかし、ユーノは動けない。先ほど叩き斬られたダメージが、彼にとって巨大な重りとなっていた。立ち上がろうにも、
身体に力が入らない。だからライドブッカーを倒れた姿勢のまま撃ったのだ。生じた隙によって離脱しようと思っていたが、アテは外れてしまった。
ひゅん、とその時何かが前を横切った。緑の複眼が目撃したそれは、たった一発の桜色をした魔力弾。されど、予期せぬ方向からの攻撃は迫るアポロガイストの頭部に直撃
し、パラパラと火花を散らす。短い悲鳴と共によろける異形、はっと振り返ればそこにいたのは幼馴染。肩の部分が赤く染まったバリアジャケットはそのままに、なのはが
レイジングハートを構えていた。まだ彼女は、戦うつもりなのだ。
とは言え、少女の繰り出した援護射撃は貴重な時間を生んだ。アポロガイストは前進停止を余儀なくされ、その隙にディケイドはフラフラとしかし、立ち上がる。

「――手の内を読まれてるって言ったね、どこまでだい?」

しっかりしない足取りに気合を入れて、ユーノは大地を踏みしめる。
闘志はもちろん折れていないが、それだけでは不十分だ。敵に勝つには、精神だけでは物足りない。
返答は、すぐに来た。おおむね予想通りの形で。

だいたいは知られてる。他のライダーになっても、同じだろうな。

「ってことは、打つ手無し……」

いや、そうでもない。

脳裏の声は、不敵に笑う。どうやら、まだ手はあるらしい。教えてくれ、と問いかけると、彼はすぐ答えた――今度は、ユーノにとって予想外の形で。
ちらっと、背後に眼をやる。複眼が捉えたのは、負傷してなお戦いへの構えを維持するなのはの姿。

「貴様ァ!」
「!」

そうだった、よそ見をする余裕など本来ないはず。はっと振り向いた時には、体勢を立て直したアポロガイストが突進をかけてきた。迫る赤い胴体に向けて、咄嗟にユーノはラ
イドブッカーの銃口を向ける。照準など適当の牽制射撃ではあったが、かえってそれがどこを狙っているのか不透明にさせた。
今度こそ、ディケイドの放った弾丸は異形を捉え、ダメージを与えることに成功する。着弾の証、舞い散る火花、仰け反るアポロガイスト。無論倒すには至らないが、今の彼に
はそれで充分だった。銃口を相手に突きつけたまま、ユーノは一度幼馴染の元へと下がる。

「なのは、怪我は」
「大丈夫、このくらい――ユーノくん、だよね?」

傍らにまでやって来たマゼンタの男に向けて、なのはは確認するような問いかけ。変身する瞬間を目撃してはいるが、異形となった幼馴染が自分の知っているユーノなのか不安
があったのかもしれない。

「ああ、僕だよ」

だから、仮面の奥から聞こえた声がいつもの優しげな彼のものだった時は、心の底から安心したような笑みを見せた。ほんの一瞬、束の間の安堵。
ユーノは彼女に笑みを返そうとして、あ、とそれが出来ないことに気付く。顔を覆い隠す、仮面。いくら笑っても、彼女と笑顔を交わすことは出来ない。少なくとも、今の姿、
仮面ライダーディケイドである限りは――いや。だったら、さっさと片付けよう。
わずかな安息を終えて、ディケイドは正面へと向き直る。すでに異形の男、アポロガイストはダメージから回復しつつあった。

「なのは、いける?」
「もちろん――と言いたいんだけど、"アレ"がちょっとね」

苦々しい表情を露にするなのはの視線を辿れば、はるか奥に円柱状のポッドがある。彼女の話によればそいつはAMF発生装置、全ての魔法を打ち消す厄介な代物。先ほど放った
魔力弾がたった一発だったのは、おそらくはこいつのせいだろう。いくらエースオブエースと言えど、これでは力を発揮できない。
そうか、だから僕の防御魔法も消えたのか――納得しつつライドブッカーを構え、狙いを定めようとして露骨な舌打ち。仮面ライダーの力ならAMFの影響はないが、今回は単純
に、目標が遠すぎた。完璧な弾道計算の下に命中させたとしても、威力が落ちて効果は期待できまい。

「ディケイド、高町なのは、まとめて倒してくれる!」

ならば近付くか? 単純な答えは、もちろん否定された。立ち上がるアポロガイスト。AMF発生装置への接近を許してくれるとは、到底思えない。どうあっても、長距離攻撃で
破壊しなければならないらしい。しかし、どうやって。得意の砲撃魔法を、彼女は今使えないのだ。

「下がってて、なのは」

ライドブッカーを銃から剣へ。飛び出した刀身を、幼馴染を庇うようにして構える。今のなのはは、戦えない。下した結論は、自分一人で戦うこと。
ポンッと、肩に手を置かれる。振り返れば、彼女が自分をまっすぐ見つめていた。曇りのない瞳に宿っていたのは、決して折れぬ不屈の心という光。

「一人で戦っちゃ駄目だよ、ユーノくん」
「でも」

なのはの言わんとすることは、分かる。しかし、彼女は肩を怪我しているのだ。平気そうな顔をしていても我慢しているのは分かったし、何よりこれ以上、危険に巻き込む訳
にはいかない。そのためなら、例え一人でも――

「私が今まで戦ってこれたのは、一人じゃなかったから。どんなに離れていても、心配してくれる、優しくしてくれる幼馴染がいたから――同じだよ、ユーノくんも」

あぁ、なるほど、と。仮面の内側で、彼は笑みを浮かべる。
一人で背負い込む必要なんて、どこにもない。僕には彼女がいる。一〇年間、離れても心はずっと、繋がっていた彼女が。
それでいい、と唐突に男の声。何が、と返事を仕掛けて突然、銀の箱が自動的に開いた。主の意図を完全に無視し、ライドブッカーはカードを二枚射出。咄嗟に掴んで、ユー
ノは眼を丸くした。カードに描かれていたものに、見覚えがある。

相手はちょっとくすぐったいぞ。

悪戯を覚えた悪ガキのように、男の声は笑っていた。同時に、付け加える。言ったろ、手はまだある。
わずかな逡巡――ユーノはカードと幼馴染を交互に見渡し、ついに意を決する。なのはだけが彼の行動を理解できず、きょとんとした表情。
ごめん、と胸のうちでひっそり謝っておいて、カードをバックルに差し込む。途端に鳴り響く電子音声。

<<FINAL FORM RAIDE LY LY LY LYRICAL>>

「なのは」
「?」
「ちょっと……くすぐったい、らしいよ」

へ? とやはり彼女はユーノの言葉の意味を理解出来ていない様子。仮に理解していたところで、何も出来なかっただろう。ディケイドはなのはの後ろに回り、拳を一発、どん
っと背中に押し付ける。
「にゃ!?」と悲鳴を上げて、少女は驚愕するほか無かった。自分が、白いバリアジャケットに覆われた身体があれよあれよと言う間にどんどん変貌していくではないか。

「え、え、え、え、えぇぇえええ!?」

手中にあった相棒さえもが、変わり果てた主の身体と合体する。出来上がったのは、白を基調としつつも、形はそのまま数倍に膨れ上がったレイジングハート・エクセリオン。
うわぁ、と思わずユーノは頭を抱えたくなった。カードに描かれていたものを見た瞬間、なんとなく嫌な予感はしていたのだが。
とは言え、これがあの男の言う"打つ手"らしい。ごめん、と再度胸のうちでひっそり謝り、彼は巨大な魔法の杖を掴む。

「ひゃ、ちょ、ゆゆゆ、ユーノくん、どこ触ってぇぇぇ!?」
「ごめん、ちょっと我慢して……照準がブレる」

申し訳ない気分でいっぱいになりながら、巨大レイジングハートを構える。金の矛先をぶん回し、狙いをアポロガイストへ。

「な、なんだそれは!? ディケイドに、そんな武器は……っ」

さすがに予想外だったのだろう。得体の知れない武器を突きつけられて、異形の男は大きく狼狽していた。それでも何と、前へと踏み出しサーベルを掲げ、襲い掛かって来る。
AMF環境下では、魔法は使えない。使用できたとしても、効果は大きく減少する。魔力結合が、打ち消されてしまうのだ。
ならば、放たれるものが魔力を根源としなければ――照準セット。ディケイドの複眼が、迫る赤い異形を捉えた。魔法の杖の先端に、光が集中する。桜色とマゼンタが織り成
す幻想的なそれはやがて一つに収束し、破壊の力となって放たれる。

<<Divine Buster>>

「いっけぇぇぇ!!」

ごう、と大気が震えた。ディケイドの力を得たディバインバスターはAMFになど屈するはずもなく、強大な威力を秘めたまままっすぐアポロガイストに直撃する。寸前で盾を構
えたようだが耐え切れず、悲鳴と共に異形は大きく弾き飛ばされてしまった。
破壊の光は、止まらない。小癪にも立ちはだかった怪人を蹴散らした後も大気を飲み込み続け、ついにはるか後方にあったAMF発生装置に到達。まったく想定外の力を叩きつけ
られたポッドが耐えられる訳も無く、光の渦に飲み込まれてすぐに爆発、木っ端微塵に砕け散る。
やった、と思わずユーノは歓声を上げた。これで魔法が使えるようになる。ただちに魔法の杖を手放し、幼馴染を元の形へと解放。空中に放り投げられたなのははアワアワと
一瞬慌てたものの、すぐにアクセル・フィンを展開させた。復活した魔法の翼で、ふわりと着地。

「い、今の何? って、質問は後かな」
「あぁ、今はちょっと……」

疑問はもっともだったが、マゼンタの仮面が戦闘態勢を解除していないことに気付いたなのはは、すぐにレイジングハートを構える。AMF発生装置は壊したが、元凶は未だ倒れて
いない――アポロガイスト。ディバインバスターのダメージは決して少なくないはずだが、それでもなお彼は立ち上がり、戦う姿勢を崩さない。
見上げた根性だな、とユーノは呟きながら、銀の箱からカードを一枚取り出す。敵に余力はもうない、一気に畳み掛ける魂胆だった。

「ぐ、むぅ……ディケイドォォォ!!」

ふらつきながらも、人ならざる咆哮。ボロボロになった盾を捨て去り、異形の男はサーベル一本で二人に向かって突撃する。
やれるね? ディケイドの複眼が、なのはに向けられる。当然、と仮面の幼馴染に向かって、彼女は微笑んですらみせた。
金色の杖を、迫るアポロガイストへと突きつける。詠唱開始、術式展開。AMFと言う壁がない今、遮るものは何も無い。桜色の光を収束させ、今度は自分自身の魔力を持って、
己の魔法を撃ち放つ。

「ディバイン――バスタァー!」

ドンッと、光の渦が真正面から赤い胴体の怪人へとぶち当たる。
前進は無論止まり、それでもなおアポロガイストは下がらない。苦しみ呻き声を上げながら、押し寄せる破壊と衝撃の波に真っ向から立ち向かう。
ジリジリと続く力と力の衝突。その横から、無慈悲にも光の壁が連なる。

<<FINAL ATACK RIDE DE DE DE DECADE>>

「ハッ!」

空中高く、跳び上がるマゼンタの仮面。緑色の大きな複眼は、眼下の赤い異形を睨む。
右足を繰り出し、連なった光の壁に導かれるようにしてユーノは、急降下。壁を貫く度にディケイドは速度を上げ、右足を強く強く光り輝かせていく。
ディメンション・キック。渾身の力を込めて放たれた必殺の一撃は、ディバインバスターを浴びるアポロガイストへと直撃する。ドンッと轟音が響き渡り、体勢を崩した異形
はそのまま桜色の光によって大きく吹き飛ばされ、最終的に地面へと叩きつけられた。
スタッと着地したディケイドは、しかし気を許そうとしなかった。こいつの頑丈さはだいたい分かった。ひょっとしたらもう一撃、加える必要があるかもしれない。
予想通り、異形の怪人はなおも立ち上がろうとした――その身体に、青白い電撃が走っているのをユーノは見出した。直感的に見抜く、それがもう奴の限界であると。

「いつか、私は再び……」

ヨロヨロと立ち上がり、アポロガイストは天を睨む。届くはずもない空に向けて、手を伸ばす。それが、彼の取った最後の動きだった。

「宇宙一迷惑な奴として――甦るのだぁ!!」

爆発。異形の身体は炎と衝撃に生まれ変わって砕け散り、今度こそ消滅した。

二度と甦るな、迷惑な奴め。

「あぁ……同感」

最後に、アポロガイストの最期を見届けて。脳裏の奥で、男の声が吐き捨てられ、ユーノはそれに同調する。
バックルが開かれ、変身解除。仮面ライダーディケイドは、再びユーノ・スクライアへと戻り、戦いを終えた。



後で聞いた話である。
もはや今更ではあるが、なのはへのドラマ出演の依頼と言うのは嘘だった。全ては管理局のエースオブエースを誘き出すための罠であり、それを仕組んだのは"大ショッカー"
なるテロ組織だ。事件後、ただちに調査が行われているが、その実態は依然として掴めていない。一説には、数多の次元世界の秘密結社が打倒管理局のため集結した複数組織
の連合体、と言う話もある。
決して簡単な事件ではない。調査に携わった誰もがそう感じていたし、現実として無人兵器による破壊行為も――管理局はこれを"ガジェット"と呼んだ――続いており、AMFへ
の対策も並行して行わなければならない。どこかの誰かは強力な戦力を集中し、独立して機動運用される部隊を設立すべき、とか言っていた。
――だけども。今は、そんなことは脳裏の片隅に追いやって。

「うーん……こんなもんかな」

買ったばかりの一眼レフカメラを構えて、ユーノは適当に被写体に選んだ花を捉える。
シャッターを切って、撮影。上手く撮れたかどうかは、現像してからのお楽しみだ。

「ユーノくーん」

おっと、お呼びだ。カメラをバックに戻し、立ち上がる。声のした方向を向けば、幼馴染が手を振ってこちらに歩いてくるのが見えた。教導隊の白い制服ではなく、華やかな
私服。眩しいくらいの笑顔も添えているから、写真に収めた方がよかったかもしれない。
ユーノはしかしあえて、彼女を撮らなかった。答えは簡単、撮影するより肉眼に焼き付けておきたいから。それも、一分一秒でも長く。いちいちカメラなど出していられるか。
やぁ、と手を上げてやって来たなのはと挨拶を交わす。出会ったのは久しぶりでもないが、こうして普通の時に顔を合わせるのは久しぶりだ。
図らずも、大ショッカーの罠によって休日は潰れてしまった。今日はその代休であり、二人はこれからクラナガン市街に出かける予定だった。この時ばかりはなかなか休暇申
請を通してくれない上に感謝である。

「でも、ビックリしちゃったなぁ」

並んで歩き出して、他愛もない会話の最中。唐突に、なのはが語り出す。何に? 彼が問いかけると、彼女は少し間を置いて答えた。

「ユーノくんが、"仮面ライダー"ってこと」
「あぁ……うん、まあ」

そりゃあ驚くよね、と。ユーノは苦笑いしながら、バックにカメラと一緒に入れてあるバックルを思い出す。
結局"ディケイド"が何なのかは、よく分かっていないままだ。上層部に報告を上げても、「取り扱いに注意しつつ厳重に保管せよ。指示は追って示す」とだけしか来ない。
ただ"仮面ライダー"と言う存在は、ミッドチルダではすでに噂されている。AMF環境下でも問題なく動ける、強力な戦力として。ひょっとしたらその辺の部分も含めて、上層部
はユーノを戦力として見なすか否か判断しようとしているのかもしれない。

「ふふっ」

なのはが、笑みを見せた。何さ、と気になったユーノは再び問いかけ。

「何でもないよ。ただ、カッコよかったかなーって。あの時のユーノくん」

ぼう、と彼女の言葉を聞いた途端、顔から火が出そうになった。そういえば、色々と自分らしくない言動をしてしまった気もする。
もちろんそれらは全て本心によるものだったのだが――振り返れば振り返るほど、彼は頭を抱えてその場でゴロゴロと転がりたくなる衝動に駆られた。恥ずかしい、思い出した
くない。でも思い出す。だって、だってなのはが「カッコいい」って。おーい、どうすりゃいいんだこれ。

「あ、でももう、あんな変なのはやだよ? ……色んなとこ、触られちゃった、し」

なのはからユーノへ、追い討ち。ただし、今度は罪悪感が込み上げて来る。
そうだった。ファイナルフォームライドさせたんだ。しかも、手に持った。引っ掴んだ。うら若き乙女の身体をこの手で。あぁもう誰か殺してくれ。このラッキースケベ殺して
くれ。と言うか書いてるこっちが殺したくなってきた。羨ましいぞ畜生。
ゴホンッ、と咳払い。色々あって立ち直ったユーノは話題を振り払うようにして、彼女の手を掴み、駆け出す。

「わ、ちょ、ユーノくん?」
「ほら、急ごう。休日は無限にある訳じゃないんだからさ――僕が、"仮面ライダーディケイド"がエスコートしてあげるよ」

不安は、今でもある。恐れは、今でもある。
"仮面ライダーディケイド"と言う力を得て、それに呑み込まれないか。
再び力を使う時、上手く使いこなせるのか。
失敗して、誰かを傷つけたりしないか。
だけど、と。そう考える度に、あの男の声が脳裏に響くのだ。

安心しろ。お前なら、力に呑まれることもない。お前は優しいし、一人じゃない。
胸を張って、生きていけ。ユーノ・スクライアとしても、仮面ライダーディケイドとしても。

あぁ、もちろんそうするさ。
未来は、理想にも絶望にも変わる。だから、自分の信じた道を走っていこう。
ユーノ・スクライアとして。
仮面ライダーディケイドとして。

END


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