1960年代に,主として観光目的で地元産ゲンジを補うために,膨大な数のゲンジが他県業者などからの購入や譲渡によって繰り返し放流された井口豊(2003)全国ホタル研究会誌,36: 13-14.。この事実は意外と知られていない。最近の研究によって,松尾峡のゲンジは,すっかり移入ゲンジに入れ替わってしまい,ここに元々いた天然のゲンジとは系統も発光周期も異なることがわかってきた井口豊(2006)全国ホタル研究会誌,39: 37-39.<ref name="Hiyori2007"> 日和佳政・水野剛志・草桶秀夫(2007)全国ホタル研究会誌,40: 25-27.<ref name="Iguchi2009">Iguchi, Y. (2009) Biodiversity and. Conservation, 18: 2119-2126.。
つまり,人為的移入種が在来種を駆逐し,生物多様性が損なわれてしまった典型的な地域となっている。
ウィキペディアの天然記念物の項目でも指摘されている通り,「天然記念物」という概念は,厳密に言うと一般の人には理解しにくいものとなっている。松尾峡のゲンジについても,ホタル自体が天然記念物とか,保護した自然のホタルが増えてきたとか誤解されることがある。しかしながら,上述のように,生息地(環境)が天然記念物なのであり,他県からの移入養殖によって個体数が増えたのである。生息地指定の天然記念物であるため,過去における他県からのゲンジの移入放流事業も問題とはならなかった。しかしその結果,天然記念物指定地でありながら,天然ではない移入放流され養殖されたホタルが生息しているという,一見奇妙な状態が続いていることは知っておきたい。
http://www.town.tatsuno.nagano.jp/reiki/reiki_honbun/ae74405011.html によって保護されている。
しかし、もともとこのホタル保護条例は、その前文に書かれたとおり、辰野町環境基本条例(平成10年3月24日条例第1号)辰野町環境基本条例http://www.town.tatsuno.nagano.jp/reiki/reiki_honbun/ae74403491.html の理念を基にして成立したものである。そして、この辰野町環境基本条例には、生物多様性の確保や野生生物の種の保存(第7条(2))が明記されている。したがって、松尾峡の移入ホタル養殖は、辰野町環境基本条例違反になる可能性があり、今後議論となる可能性がある。
松尾峡のホタル保護を訴えるとき、辰野町環境基本条例の内容を忘れがちである。