友人の死
神代市久我山区。
藤田鈴花、佐々木操、坂井涼は共通の友人のホームパーティーに呼ばれていた。
その友人の名前は鵜沼孝志。
鈴花や坂井とは同じ大学の同じサークルで、先輩後輩の関係でもある。
その孝志と共に迎えてくれた人物がもう一人。
孝志の恋人でもある鏡島翠がいた。
ホームパーティーと言っても、何度も遊びに来た家なので翠が食事を作ってもてなしてくれて、DVDを見たりゲームをしたりして過ごした。
ある程度、落ち着いたところで、孝志が話を切り出した。
孝志 実は俺たち、結婚するんです。
坂井 おぉ~
操 おおww
坂井 おめでとうございます。
鈴花 ひどい、私は遊びだったのねwww
孝志 センパイ、ナニ言ってるんですか!?
やめて下さいよwww
坂井 センパイwwww
鈴花 冗談はさて置いて、おめでとう!!
そー言えば鵜沼さん、前の彼女さんとはどーなったんでしょうか・・・
孝志 そーゆうことを言わないで下さいよ!!
坂井 信頼がwww
孝志 ちゃんとコイツしかいませんからwww!!!
翠 どー言うコトなの!?
孝志 ちょwww
アナタが言うと本当っぽいからヤメて下さいよwwwww!!
いつものようにくだらない会話を楽しんでいた。
時計は進み、いつの間にか用意した食材も尽きかけてしまう。
鈴花 まあ、食べ過ぎるのがいますからね~
操 え!?誰?
坂井 オマエだよ・・・
操 えwww
翠 じゃあ、足りなくなったもの買ってきますね。
鈴花 私も一緒に行きますよ。
翠 せっかく来てくれたんで、ゆっくりしてて下さいよ。
鈴花 そうですか、じゃあいってらっしゃい。
どれくらい経っただろうか。
翠は一向に帰ってこない。
心配した孝志も翠のケータイに電話をかけるが応答しない。
ふと、坂井は遠目にパトカーや救急車のサイレンの音が鳴っているのが聞こえた。
たまたま付いていたテレビにはニュースの速報が打たれた。
---神代市久我山区の駅前で通り魔事件。
薬物使用者と思われる男が通行人を死傷させる---
坂井 コレ、近くじゃね!?
と、そこに孝志のケータイに翠からかかってくる。
孝志 もしもし。
・・・はい。
はい。
電話に出ている孝志の顔が青ざめていく。
孝志は電話を切って3人に告げた。
孝志 ・・・翠が、通り魔に襲われたらしい・・・・・・
本人確認が出来ないみたいで・・・遺留品が残ってて、ケータイの履歴で電話が・・・
えと・・・なんだろう・・・
とりあえず、警察まで一緒に付いて来て欲しいんですけど・・・
孝志が話すにはこうだ。
通り魔の被害者の身元が不明だったが、その所持品と思われる中に携帯電話があった。
すぐ直前の着信履歴があったため警察が折り返し電話をかけて身元を特定しようとしたのだという。
本人確認のため、警察署に来てほしいという事だった。
こうして4人は警察署に向かった。
左腕
久我山警察署。
4人は警察署内の地下室に通された。
そこには、翠のバッグとその中身が並べられていた。
その横にあったのは、人間の左腕だけだった。
腕は肩から切断されており、血を拭われて青白くなっていた。
その指には見覚えのある指輪が嵌められていた。
孝志 う・・・ああ・・・
警官 非常に心苦しいのですが・・・
孝志 婚約・・・指輪だ・・・
俺が翠に贈った・・・
鈴花 あぁ・・・
そんな・・・そんなハズないわ!!
翠さんは生きてるハズよ!!
鈴花は、この状況を飲み込めなかった。
いや、飲み込みたくなかった。
鈴花 ・・・ほら、そこにいるじゃない・・・
坂井 センパイ!!
気をしっかり!!
操 それは、幻想よ!!
孝志 ・・・・・・
親しかった鈴花は、激しく取り乱したが、孝志はそれ以上に放心していた。
鏡島翠は実家を出て一人暮らしをしていたため、親族が来るまでに時間が掛かるため、婚約者でもある鵜沼孝志をはじめ4人が説明を受ける事となった。
警察官は淡々とした口調を心掛けて、現在判明している事柄を告げていく。
警官 犯人はスデに取り押さえられています。
ですが薬物を使用しているため、取調べは難航しています。
犯人は斧を使って被害者の左腕を切断し、しばし持ち歩いていました。
しかし、その他の部分の遺体が発見されていないのです。
遺体が消えた理由は現在不明で捜査中です。
事件についての詳細は後日説明会を設けさせてもらいます。
事件が起きて間もないため有益な情報はまだなかった。
孝志 すいません・・・気分が悪いんです・・・
受けた衝撃があまりにも大きかったため、孝志は精神的に疲労して、そのまま入院することになってしまった。
3人も付き添って病院に付いて行った。
孝志 明日、事件の説明会があるんですが、俺はこんな状態だから、代わりに説明を聞いてきてくれませんか?
翠が帰ってきてくれるなら、少しでも情報が欲しいんだ・・・
鈴花 分かりました。
ゆっくり休んでて下さいね。
消えた遺体
翌日。
捜査会議が終わった後に説明会が開かれる。
今回の事件「久我山区覚せい剤中毒者無差別殺傷事件」の説明がされた。
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被害者は4名死亡、1名重傷、2名軽傷。
加害者は、本巣正義23歳、元会社員の無職。
自宅アパートで覚せい剤を使用した本巣は、幻覚症状に陥り誰かに命を狙われていると思い込む。
その後、幻覚から逃れるために外出し街を徘徊した本巣は、久我山駅近くの金物店に押し入り店主の顔を斧で横に薙ぎ払い殺傷。
店を飛び出した本巣は駅前のショッピングモールに走り込む。
本巣は返り血を浴びて真っ赤に染まっており、本巣の姿を見た買い物客は悲鳴を上げて逃げようとした。
本巣は最も近くにいた女性を追いかけ、女性が壁際まで逃げたところで女性の左腕をつかみ肩口に斧を一振り、左腕を切断した。
本巣は切断した左腕をつかんだまま路地から出ると、転倒し身動きの取れない男性の腹部に斧を振るい殺傷する。
その後奇声を上げながら逃げ遅れていた女性の胸部を斧で殴りつける。
女性は病院へ運ばれたが間もなく死亡した。
そのほか3名が斧で割られたガラスの破片を浴びるなどして重軽傷を負う。ここで駆けつけた警察官が応戦。
5分後に取り押さえ事件は終息した。
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刑事 本巣正義の罪状は、殺人、殺人未遂、覚せい剤取締法違反 銃砲刀剣類所持等取締法違反に該当し検察側は死刑を求刑する方向です。
鏡島翠さんの遺体に関しては捜索中です。
遺体については、本巣本人も覚えていないと言っていて・・・
鈴花 ほかの3人の方の遺体はあるんですか?
刑事 ええ。
あと、野次馬の話なんですが、付近の屋根の上に人影を見たそうです。
白い襤褸をまとって、ひどく背の曲がっていたそうです。
鈴花 タキシード仮面さまですかwww!?
操 キッド様wwww
坂井 ダメだ、思い当たるヒトが濃すぎるwwww
警察での説明を受けた3人は、アテを探して事件現場に足を伸ばした。
場所は、久我山駅前のショッピングモール。
事件当時とは違い、平静を取り戻していた。
ただし、モールの入り口には被害者を悼んで献花台などが設けられていた。
一部では規制線も張られている。
警察の人間も何人かいる。
3人はひとまず第一の現場となった金物屋に向かう。
しかし、店主も殺害されており、店は閉まっている。
坂井 鍵開ける?
鈴花 そうですね。
平然と言い放ち、難なく店の施錠を開ける鈴花。
鈴花 あれれぇ~、カギ開いてますよぉ~
坂井 よし、入ってみようww!!
操 おお~www
店内は、未だに血まみれの状態だった。
凄惨な殺害現場で血が拭い取られておらず、3人は血の臭いに多少の気分を悪くした。
雑然とした現場から、犯人は衝動的な犯行だったと見て取れる。
鈴花 ショッピングモールの方に戻りましょう。
ショッピングモールに戻り、翠が襲われたであろう場所を見た。
未だ血の跡が洗いきれずに残っていた。
そこには、警官や刑事が何人かいた。
鈴花 あれぇ~、お久し振りです。
警官 誰ですか?
刑事 あれ、何か用ですか?
幸運にも警官たちの中に鈴花の見知った顔がいた。
不精ひげを生やした壮年の刑事だった。
その刑事、栗山警部に鈴花が事情を説明する。
鈴花 実は、ここで起きた事件の被害者が私の友人なんです・・・
栗山 そうだったんですか・・・
鈴花 何で遺体が消えてしまうなんて・・・
栗山 周りの人も、気がついたら遺体が消えてしまっていたみたいなんですよ。
この事件にも関わらず、白い幽霊だとか、一体どうなっているんだ・・・
って、ちょっと、そこ!!
なに壁を登ろうとしてるんだ!!
栗山が咎めた先にはショッピングモールの店舗を伝って屋根に上ろうとしていた操がいた。
操 ちょっと現場に・・・
すーずーかーさーーん!!
鈴花 え、この人、知らない人です!!
操 えwww!?
坂井は、その間にも周囲の通行人などの会話に耳を傾けていた。
坂井 (白い幽霊・・・?)
(そんなに、ウワサ話があるのか?)
操の行動に警官たちの視線が痛くなってきたので3人は、その場を去る。
次に向かったのは鏡島翠の自宅だった。
翠の家は孝志と同じ久我山区にある。
戸建てタイプのアパートだ。
鈴花がピッキングツールを使って開錠して部屋に上がり込む。
坂井 翠さんに不審な点ってなかったのかな?
鈴花 う~ん、パソコン見ても鵜沼さんとの式の打ち合わせがメインですね・・・
坂井 通り魔に襲われたってんだから、翠さん自体には何もないのかな?
鈴花 被害者に共通点があるかも、とも思ったんですけどね・・・
翠の部屋には特に不審なものも見当たらなかった。
そこで、付近の住民に聞き込みをする事になった。
隣の部屋。
ピンポーン。
反応がない。
留守のようだ。
その隣の部屋。
ピンポーン。
大学生くらいの男が出てきた。
大学生 なんすか?
鈴花 私たち、鏡島翠さんの友人で・・・
大学生 かがしま・・?
誰っすか?
坂井 えっと、ナナメ向かいに住んでる人なんすけど・・・
大学生 あ~、同じアパートの人ですか?
坂井 あんまり、隣同士とかの関わりって無い感じですか?
大学生 あんまないっすね・・・
坂井 通り魔に襲われて亡くなりまして・・・
大学生 ええええーーーー!!!
鈴花 (知り合いでもないのに驚きすぎ・・・かな?)
坂井 (あ、この人、何も知らないんだな・・・)
操 (おなかすいた!!)
大学生 そんな事言われても、オレ何も知らないっすよ・・・
坂井 それで、翠さんが何か不審な行動があったりとかは・・・
大学生 いや、ホント知らないんで・・・
坂井 じゃあ、白い人影のウワサとかは?
大学生 オレあんま出歩かないし・・・
もういいっすか?
そう言うと、大学生は部屋の扉を閉めた。
鈴花は、腹いせとばかりに即座に鍵を開けた。
鈴花 じゃあ行きましょうか。
操 鈴花さん・・・
次の部屋。
ピンポーン。
20代半ばの女性が出てきた。
女性 はい。
鈴花 あの隣の部屋の方の友達なんですけど・・・
女性 鏡島さんですね。
鈴花 最近様子がおかしくて、昨日から連絡が取れないんですよ。
女性 そうなんですか、結婚するとかで幸せそうだったんですけどね。
鈴花 その婚約者も連絡が取れないって言ってて・・・
女性 それって、マリッジ・ブルーなんじゃないですか?
坂井 最近、変なコトとかはありませんでしたか?
女性 まあ鏡島さんへ電話とかも楽しそうでしたけどね。
変って言えば、最近不審者が出るらしいですね。
鈴花 不審者ですか?
女性 不審者・・・というか、幽霊?みたいなものなんですけど・・・
久我山霊園や地下鉄で見たってウワサが多いらしくて・・・
鈴花 そうなんですね。
突然で失礼しました。
女性 いえ~。
そう言って女性は部屋に戻っていった。
坂井 うーん、白い幽霊が気になるな。
操 久我山霊園と地下鉄だっけ?
鈴花 久我山霊園に行ってみますか?
と、その前に・・・
鈴花は、おもむろにピッキングツールを取り出すと、留守だった部屋の鍵を開ける。
坂井 入るの?
鈴花 入りません。不法侵入でしょ?
坂井 え、あ・・・?
鈴花 情報なんてないでしょう。
坂井 鍵開ける意味はなくねwwww!?
鈴花 こんな時間なんだから居なさいよ!!って腹いせです。
お昼ごはん食べて向かいましょうか。
行列の出来るソースラーメンのお店で昼食を摂り、3人は久我山霊園に到着した。
久我山区にある大型の霊園で、神代市が所管する公営墓地である。
桜の名所でもあり、花見の季節には大勢の見物客が訪れる。
操 うん、異常がないですね。
コレって来る時間を間違えたってヤツじゃwww
鈴花 そんな気がします・・・
坂井 やっぱ幽霊なら夜かな。
鈴花 じゃあ、次は地下鉄ですかね・・・
最寄の地下鉄駅。
慌しく行き交う雑踏。
その脇に佇むホームレスに話しかける鈴花。
思いがけない美人からの問いかけに喜ぶホームレスの男性。
男性 な、なに?
鈴花 最近、不審なものを見かけませんでしたか?
男性 不審っつったら、オレらも不審だけどなwww
鈴花 そんなことナイデスヨーwww
男性 不審な事件ってのはないな・・・
鈴花 白い幽霊っていうものは?
男性 ああ、都市伝説みたいなので聞いたことあるぜ。
オレは乗らねぇけど、地下鉄に乗ってると窓の外に白い影が見えるとか、久我山霊園でも夜に白い人影が出るってウワサだぜ・・・
鈴花 死体が消えるって話は知りませんか?
男性 ん?
葬式で死体が消えたって話が何件かあったらしいぜ。
鈴花 そうですか、お忙しいところありがとうございました。
男性 お忙しくねぇけどなwww
新しい情報「死体が消える」という事件を図書館で調べることにした3人。
神代市立図書館に到着。
鈴花は司書に声をかけた。
鈴花 すいません。
死体が消えるっていう事件を調査してまして。
ここ最近のニュース記事をピックアップして頂きたいのですが・・・
司書 はい。
司書は、内容にいぶかしんだものの、鈴花の物腰と対応に30分ほどで記事をピックアップしてくれた。
当事者はスデに死んでいるため、死体が消えたという事件は大きく報じられていなかった。
身元が分かったのは、町田ウメさん、金沢秀次さんの2件だった。
鈴花 じゃあ、こちらのお宅で話を聞きますか。
3人は、記事に書かれていた町田さん宅に向かった。
ピンポーン。
インターホンを鳴らすと男性が出てきた。
鈴花 こちら、町田さんのお宅でしょうか?
男性 はい、町田はウチですが。
鈴花 私、法律関係の仕事をしております藤田鈴花と申す者です。
実は先日、友人が亡くなったんですが、葬儀の際に消えてしまって・・・
そちらでも似たような事があったと聞いて、お話を伺えないかと・・・
男性 そうなんですか。
ウチのバアさんも葬式の時に消えて慌てたんですけど、遺産相続でそれどころじゃなくなったんですよ。
正直、オレとかも分かんないんですよ。
遺産のコトでまだゴタゴタしてるんで、バアさんよりそっちが大変なんですよ。
坂井 あぁ・・・
鈴花 そうですか・・・
続いて金沢さん宅。
ピンポーン。
すると女性が対応してくれた。
女性 はーい。
鈴花 突然すいません。
私、法律関係の仕事をしております藤田鈴花と申す者です。
実は先日、付き合っていた彼が亡くなって、その遺体が消えてしまって・・・
そちらでも似たような事があったと聞いて・・・
すると女性は憤りを隠せない様子で答えた。
女性 そうなんですよ!!
ウチの人が事故で亡くなって大変だったのに、葬式前に遺体が消えてしまったんですよ。
警察にも探すようにお願いしたのに、調べてくれないの!!
鈴花 そうですよねー
警察は全然動いてくれませんものね。
女性 葬式の前に白い布を被ったような人がいたらしいんですよ。
絶対怪しいのに警察は取り合ってくらないんですよ!!
鈴花 お互い大変ですが、突然すいませんでした。
坂井 やっぱり夜を待つしかないか・・・
死者の棲み家
その夜。
3人は久我山霊園に来ていた。
昼間と違って若干の違和感を覚える。
しばらく中を進むと、操は遠くから何かを掘り返すような音を聞き取る。
さらに、操と坂井は霊園の奥に白い影が動いているのを見つけた。
操 よし・・・
その白い影に向かって忍び足で近づく操。
しかし・・・
パキッ
木の枝を踏んでしまう。
その音に鈴花の方が驚き、見事に尻餅をついてしまう。
鈴花 きゃあ!!
いたた・・・
しかし、そんな物音を気にすることなく白い布を被ったものは作業を進めている。
穴を掘ると布に包まれた死体のようなものが出てきた。
一旦、ここに埋められたかのように見て取れる。
白い影たちは、掘り返した死体を抱えて霊園の奥のほうに進んでいった。
その先には大きな木があった。
白い影は、その木の裏に消えていった。
3人もその木の裏側を見ると、穴が開いており、奥に続いている。
坂井 追いかける?
操 ・・・うん。
鈴花 まあ、ね・・・
3人は穴に入っていった。
入り口の部分は四つん這いになって何とか通れるくらいだが、中に入れば天井は2mほど、横幅も人二人が横並びになれるくらいには広げられているのがわかる。
歩いていくと、道が3つに分かれている。
右に向かう道には、新しい足跡があった。
3人はその道を進んでいった。
ひたすら一本道が続き、およそ2kmほど歩くと、開けた空間に出た。
そこは居住空間のようになっており、食堂のようだった。
天井は3mほどの高さがある。土をくりぬいて成形された壁は、でこぼことしていて汚い。
室内には木製の汚れた長テーブルが4つと椅子が16脚ほど置かれている。
調度品の類は置かれておらずとても簡素だ。
正面には両開きの扉、左右には小さな扉がある。
室内には何とも言えない腐臭が充満しており、胸が悪くなるような不快な雰囲気を醸し出している。
正面の扉の奥からは数人の声が聞こえる。
なにやら儀式を行なっているようだ・・・
操 えーと、覗いてみる?
鈴花 ここは、唯一の男子である坂井くんが・・・
坂井 え、俺!?
鈴花 男の子でしょwww
坂井 えwwでもwwww
・・・仕方ない。
俺が開けるから2人は下がってて。
坂井は扉をこっそり開けた。
扉の先には地下墓地が広がっていた。
手前にはどこの誰かもわからぬ人の墓石が並んでいるが、奥はそうではない。
最奥には石作りの祭壇。
祭壇の横にはかがり火が焚かれており、墓所の中を淡く照らしている。
祭壇の前にはローブを纏った者たちが祝詞を上げている。
その後ろに五つの石台。
それぞれの石台には白く清潔な衣服を着せられた死体が安置されている。
そこには鏡島翠の姿も見えた。
血は拭われているらしく、青白い肌をして寝そべる姿は、まるで眠っているように見える。
その儀式からは禍々しさが伝わってくる。
白い影は合計8人。
祝詞を唱える5人と、手前でそれを見ている3人だった。
坂井は、これが何かを召喚する儀式だと感じた。
召喚される何かは、非常に危険なものだと分かる。
と・・・
鈴花と操がスッと扉を閉める。
極力、物音を立てないように引き下がる。
坂井 儀式やってた・・・
翠さんの遺体もあって、祭られてた・・・
警察呼べばいいんじゃね?
鈴花 ・・・警察とか・・・・・・
鈴花はスマホを取り出して警察に電話をする。
警察 はい。
鈴花 緊急の要件がありまして、栗山警部お願いします。
警察 ・・・少々、お待ちください。
しばらくして栗山警部が電話口に出る。
栗山 はい、なにか?
鈴花 鏡島翠さんの件なんですが、怪しい人影を追っていたら翠さんの遺体を発見しまして・・・
栗山 え?
あなたたち、今どこにいるんですか?
鈴花 えっと・・・
久我山霊園の・・・奥の・・・地下?
坂井 久我山霊園の中央付近にある木の裏側に穴があって、そこから奥に・・・
栗山 君は誰だね!?
坂井 坂井です!!
鈴花 ちょwww
操 私も話すー
鈴花 待ちなさい!!
電話に勝手に入ろうとする操に鈴花の裏拳が見事に入り、操は吹っ飛んだ。
鈴花 はぁはぁ・・・
自らを落ち着かせて、鈴花は再び栗山警部に説明をした。
その間に、ほかの部屋を捜索する3人。
左の部屋に進み扉を開くとワラが見えた。
点々と配置されたワラ。
ここはどうやら寝床のようだ。人間が寝ることができる程度に敷かれたワラがそれを物語っている。
隅に置かれたワラの山を見る限り、定期的にワラは取り換えられているのかもしれない。
右手奥には扉があった。
そこは小さな個室になっている。
正面にはつくりのしっかりとした机があり、机の上には羽ペンとインク壺、羊皮紙や厚みのある本にランプも置かれている。
左右には本棚が置かれており、ほのかにかび臭いにおいが鼻孔をくすぐる。
本棚に並んだ本は日本語だけでなく、英語、フランス語、ドイツ語、中国語も見て取れる。
鈴花は、日本語の本を見てみたが、死者の復活について記述されており、オカルトの本であると分かった。
机の上には様々な筆跡で書かれた勉強ノートがある。
日本語のアイウエオや英語のアルファベットが汚い字で書かれている。
どれも汚いが、筆跡から複数人が同じように書いたものだとわかる。
誰かが文字の練習をしていたかのようだ。
さらに、書きかけの羊皮紙がある。
英語で書かれていたが、操は感覚で翻訳した。
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モルディギアンは絶対的な死を統べる神である。
彼は死者にしか興味がなく、死を冒涜するものを決して許すことはない。
彼は吹きすさび跳ね、自由に変形する生ける屍と暗黒の塊のような姿をしており、その神々しい闇は不可思議なことに眩く輝く。
モルディギアンは地下や墓所の中でこそ絶対的な存在である。
生者が営む世界は彼の神の力の及ぶところではなく、モルディギアンは地下・墓所から出ることはできない。
我々は神を慰撫するために、一万の宵闇が過ぎるごとに死体を捧げており、捧げものは死した時間が新しいほど良いものとされているようだ。
捧げるための死体は丁重に扱い、モルディギアンを呼び出す祭檀を置いた墓所に安置する。
すべての準備が整えば神への祝詞を途切れさせずにあげつづけ神を墓所へと迎える。
神は墓所へやってくると捧げものである死体を飲み込み、自身の体に取り込む。
こうして死体は神の身へと溶けその魂が二度と生を受けることはない。
モルディギアンの信者において、不死者の存在や死者の復活は最大の禁忌とされている。
生命が途切れた存在はすべて彼の神の支配下に置かれ、それを覆すことは何人足りとて許されることはない。
ゆえに我々は死を冒涜する魔術を研究し、それらに対抗する術を日夜研究し続けている。
すべては敬愛する神のために。
我々は神の思想とその存在に心酔しており、行動はモルディギアンの理念に基づいている。
すなわち、極力生者とのかかわりを避け、すべての死者を神に支配下に置くことだけを目的としているのだ。
我々は彼の神の存在を知ったとき、心の底より己の種を恥じた。
我らは生きながらにして、その身に死の臭いを孕む【食屍鬼/Ghoul】と呼ばれる死肉を口にする種族だったのだ。
我らは己が存在を神の前で懺悔した。
死を統べる大いなる神はそれを許した。
こうして我ら食屍鬼は神に仕え、いつの日か神へとその身を捧げ一体となることを夢見て・・・・・・。
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坂井 ふ~む・・・
鈴花 これを見る限り、地上に出ればモルディギアンとやらのチカラは及ばないみたいですね・・・
坂井 外はまだ夜?
取り敢えず、もう片方の部屋も行ってみる?
3人はもう片方の部屋に向かった。
土をくりぬいて成形された壁は、でこぼことしていて汚い。
石を重ねて作った机のようなものがあり、上には血にまみれた鉈や斧がある。
脇にはゴザの上に複数の腐乱死体が寝かせられていた。
坂井 うえ・・・
鈴花 でも、大丈夫・・・
もう何もなさそうね。
坂井 あとは、警察が来るのを待つだけか。
警官隊の突入
しばらくすると栗山警部が到着した。
部下の警官が3人いる。
鈴花 警部なのに少なくないですか~?
栗山 こんな眉唾なタレコミにそうそう人員が割けるか。
鈴花 あちらにも死体があって、奥で変な儀式をやっているんです。
栗山 何だこれはッ・・・!?
死体を見た警官の何人かは気分を悪くしたようだった。
栗山警部たちは、異常な儀式を行なう者供を確保すべく突入した。
鈴花、操、坂井の3人は後ろからこっそり警察を見ていた。
栗山 警察だ、動くなッ!!
栗山警部たちが突入すると、手前の白いローブの3人が振り返った。
突然入ってきた闖入者に向かってローブのフードをめくり上げる。
その顔は犬のようで醜く潰れ、皮膚も汚れ、カビが生えていた。
そのバケモノは、鋭いかぎ爪のついた両手を警官たちに向けて迫ってきた。
坂井 (突入しなくてヨカッタ~www)
---警官隊のキャラメイク中---
食屍鬼たちは、警官たちに向かってかぎ爪で襲い掛かる。
警官もバケモノに対して拳銃で応戦するが、動揺で照準が定まらない。
警官 ひいぃぃ!!
栗山 バケモノめ!!
栗山警部は奮い立たせ、拳銃で食屍鬼の頭部を打ち抜く。
しかし、その隙を突いて食屍鬼のかぎ爪が栗山警部のわき腹を切り裂いた。
栗山 く、くうぅぅぅ!!
警官 警部!!
栗山 わ、わしに構うなッ!!
重傷を負いながらも発砲を続ける栗山警部。
その気迫を見て、部下の警官も奮い立つ。
警官 死にさらせぇ~!!
警官 バケモノめ!!
パーン。
3体目の食屍鬼も倒れた。
警官たちは、立ち尽くしている。
奥にいる食屍鬼たちは儀式を止めようとはしない。
鈴花、操、坂井も地下墓地の中に入る。
納骨堂の神モルディギアン
坂井 翠さんの遺体を持ち出せるんじゃね?
鈴花 まず、この儀式を何とかしないと・・・
警官たちは、なおも儀式を続ける食屍鬼たちを制止しようとした。
その時・・・
辺りは冷たい空気が立ち込め始めた。
死の冷気と臭気を伴った超常の存在である納骨堂の神モルディギアンが顕現したのだった。
それは、黒い芋虫のような身体をしていた。
洞窟の中でありながら、目を開けていられない不思議なまぶしさを放つ、それは、黒くて朦朧とした大きな闇の塊だった。
先端の顔らしいトコロには目がなかったが、こちらを確実に認識している。
煙のような息を吐き出している口は、人間を丸呑みできるほど巨大だった。
見ただけで、死を実感できた。
鈴花、操、坂井は、一瞬背筋が冷たくなったが、友人を助けなければという使命感の方が打ち勝った。
モルディギアンは祭壇の脇にある死体を飲み込み始めた。
警官 あーーーーーーーーーーー
警官 ぎゃーーーーーーーーー
その現実を無視した光景を見て警官たちは発狂して倒れていった。
栗山警部も意識を失っている。
ただ一人、立っている警官も動く事ができない。
鈴花 !!?
警察の人たちが・・・
坂井 死体から離れた方がいいの!?
操 担いで逃げる?
坂井 担ぐか?
鈴花 それは、あの文にあった“死体を冒涜すること”にはならないかしら?
坂井 それは・・・そうだけど・・・
だって、孝志さんが可哀相じゃん!!
操 うん、可哀相・・・
鈴花 でも、追いかけられるかも・・・
坂井 佐々木、どーしたらいい?
操 え!?
鈴花 もう遺体は動かさない方が良いですよ!!
坂井 でもッ!!
連れて帰らないとッ!!
鈴花 仕方ないですけど、この状況下では、死んでいる人よりも生きている人が優先ですッ!!
坂井 う~ん・・・
だって、トモダチじゃん・・・
鈴花 ここにいる全員で手を貸せば、警察の人もみんな連れて帰れます!!
分かって、坂井くん!!
あの人たちも見捨てるんですか!?
坂井 あーーー
もう、分かった!!
3人は祭壇から引き下がり、警官たちのもとに駆け寄った。
そして、一人立ち尽くしていた警官に声をかける。
鈴花 ここは危険です!!
逃げるから!!
早く、手伝ってください!!
警官 あ、は、はい。
坂井は栗山警部を担ぎ上げた。
警官は倒れていた警官1人を、鈴花と操でもう1人の警官を担いで地下墓地を逃げ出した。
しばらく走り続ける。
3方向に分かれていた道も、元来た道を引き返す。
背後から何かが追ってくるのが分かるが、全員で走り続けた。
不意に月明かりが差し込んできているのが分かった。
出口だ。
全員は、無事に地下道から脱出することが出来た。
外には生暖かい空気が漂っている。
そこには、死の臭いはなかった・・・・・・
その後、警官隊が突入しようとしたが、穴は見つからなかった。
数日後、警察にあった左腕はDNA鑑定の結果、鏡島翠と判明したが、胴体は見つからなかった。
鏡島翠は左腕のみで葬儀が執り行われた。
鵜沼孝志は失意のまま入院している。
左腕のみだったが、3人は鏡島翠を精一杯弔った。
最終更新:2014年09月27日 03:04