葛西理 小島恵礼希 坂井涼
松沼一二三 黛敬一

好事家の屋敷

     私立探偵の黛敬一と、そのアルバイト松沼一二三はクライアントの下に向かっていた。
     宮内喜助。
     彼は親から受け継いだ会社の経営に辣腕を振るっていた。
     数年前には事業を売却し、その資産で趣味の骨董や希書を蒐集する好事家だ。
     黛は以前にも依頼を受けていた。
     入り口でチャイムを鳴らすと、しばらくして宮内の声が聞こえた。

宮内   はい、どなたですか?
黛    いつもお世話になっております。
     黛探偵事務所の黛です。
     依頼の報告に伺いました。
宮内   おお、ご依頼の件ですね。
     今ちょうど取り込み中なんで、入って待っていてください。
黛    じゃあ、松沼行くか。
松沼   分かりました先輩!!

     2人が応接室に入ると先客がいた。
     小田島コウジという人物だ。

小田島  おや、黛さんじゃないですか、お久し振りです。
黛    どうも、お久し振りです。
     また宮内さんと骨董品の話ですか?
小田島  いやもうお陰さまで。
     あの時の品も高値で引き取って頂きまして。
     また、別件でお話があるんですが、今日は彼のコレクションを見せて頂けるということで・・・
     アルバイトの松沼くんも一緒かい。
松沼   ど~も、こんにちわ。
黛    (まったく、いけ好かないな・・・)
     (早く帰ってくれないかな~)
松沼   黛先輩、顔、顔、顔に出てるwww
黛    やべwww
     何でもないですッ!!

     応接室の3人は雑談をして場を繋ぎながら、主人の宮内を待った。


     市内のファミレス。
     葛西理と、その後輩の坂井涼、葛西の高校の同級生の小島恵礼希、葛西と坂井の大学の先輩である高瀬みゆき。
     その4人が集まっていた。
     4人は、みゆきの叔父がオカルトのコレクションを公開するという事で、見せてもらうために集まったのだ。
     みゆきが葛西に興味のある人に声をかけてくれるように頼んだら、この3人が集まったという事だ。

みゆき  忙しいところ、みんな悪いわね~来てもらって。
     まさか3人も来てくれるなんで。
葛西   大丈夫っすよ先輩。
     オカルトとかも興味あるんで~
みゆき  葛西くんは女の子にしか興味ないと思ってたけどwww
葛西   最近流行ってるんで。
みゆき  坂井くんも、あんまり見習っちゃダメよ~
坂井   あ、はい。
みゆき  小島さんだったかしら、今日は始めまして。
恵礼希  あ、始めまして~
みゆき  今日はわざわざすいませんね。
恵礼希  こちらに修理品とかありましたら是非www
みゆき  叔父の家で電子ロックの部屋を作ったみたいなんですが、それくらいですかね・・・
恵礼希  すごい設備がありますねッwww
     御用命の際は是非とも小島電器店へwww
みゆき  ああ、駅前とかにある大きい電機店ね。
恵礼希  あ、ちが・・・違います違いますッ!!
     もっとですね、お客様の心と生活に寄り添った、町の商店街の電器屋です。
     アナタの心の隙間を電器で埋めますwww
みゆき  小島電器さんね、覚えておくわ・・・
恵礼希  ヨロシクお願い致しマースwww
葛西   ・・・
坂井   ・・・
みゆき  まあ、ここは葛西くんの支払いよね~?
葛西   大丈夫、バイトしてるから。
     今度、お店にも来てくれ(但しファミマだがwww)。
みゆき  じゃあ、注文しましょうか。
坂井   チョコパフェ。
恵礼希  チョコケーキ。
みゆき  私はこのスペシャルセット(¥9,800)を・・・
葛西   ・・・
     大丈夫っす・・・
みゆき  そー言えば、小島さんはやっぱりコジマデンキで働いてるの?
恵礼希  違います!!
     実家の電器屋です。
     実家の・・・小島電器店ですッ!!
みゆき  とにかく葛西くん、ご馳走様でした。
坂井   ご馳走様です先輩。
恵礼希  ご馳走様。
     あ、これウチの500円割引券。
葛西   お、おう、えれぽん。

     自己紹介と説明を交わした4人はファミレスを出て、みゆきの運転する車で叔父の家に向かった。
     40分ほど車に揺られた。

恵礼希  みゆきさんスペシャルセットどーでした?
みゆき  ただ単に全部のせしただけだったみたいでイマイチだったわね。
坂井   何故、高瀬さん頼んだし・・・
みゆき  来年、社会人になったらマックぐらい奢るからwww
葛西   ・・・アリガトーゴザイマス。
     ってか、坂井さっきから静かだな。
坂井   大丈夫っすよ。
みゆき  緊張してる?
坂井   ちょっと・・・

     坂井の緊張もほぐれないままで、目的地に到着した。
     庭に車を停めると、ほかの車が何台か停まっている事に気づく。

みゆき  あれ?
     新田先生の車もあるわ。
     今日は問診の日だったのね・・・
     ゴメンナサイ、少し応接室で待っててもらう事になりそう。
葛西   はい。
坂井   はい。
恵礼希  はい。

     こうして4人は、みゆきの叔父・宮内喜助の家に入っていった。


     宮内邸の応接室。
     先に待っていた3人が待つ部屋に、到着した4人が入ってきた。

黛    あれ?
     坂井くんじゃないか?
坂井   黛さーーん!!
黛    何でこんなところに・・・
恵礼希  坂井くんが元気になったwww
みゆき  黛さんと松沼くんじゃない。
黛    いや~、依頼の報告に来たんだけどね・・・
松沼   あのイケメン、どっかで見たよ~な・・・
     あ、同じ大学の!?
坂井   マユさん久し振りーーー!!

     坂井はじゃれついて黛の脚を蹴った。
     見事に脛に入り、黛は椅子ごと後ろに引っくり返った。

黛    痛ってーーーー!!
坂井   マユさんだマユさんだwwww
松沼   せ、先輩・・・
恵礼希  坂井くんがホント元気になって良かったねー
黛    全力でじゃれつきやがって・・・
みゆき  知り合いなんですね。
黛    親族の知り合いで、以前チョットね・・・

     応接室に集まった7人は宮内邸に訪れた理由を話した。
     黛と松沼は依頼の報告。
     ほかの5人は宮内氏のコレクションの見学だった。

黛    そういうコトなら、僕たちも是非見たいよな、松沼。
松沼   ええ、見たいですね~
     オカルト好きなんですよwww
黛    え、マジでww!?
     僕も好きなんだよね~
みゆき  見てもらえると叔父も喜びます。
松沼   コレクションって、どんな物があるんですか?
みゆき  叔父が集めた古い本とか骨董品の壷とかかな。
     3年前にはコレクションルームには電子ロックを付けたんですよ~
     確か、この時は少し離れた場所の山田電器店さんだったかしらww?
恵礼希  はッwwww
     ライバル店・・・・・
葛西   えれぽんショックだな。
恵礼希  え、えと、ウチは割引サービスとかもあるんでwww
     ってか営業口調になっちゃうな~

     部屋の面々は、みゆきに促されて自己紹介をした。

坂井   ども、坂井っす。
     こー見えてもイタリア語とか少し話せます。
黛    まあ、探偵やってます黛です。
     ここには仕事で来て、ついでって訳じゃないけど、コレクションを見せてもらうことに・・・
     なあ~松沼。
松沼   先輩、相変わらずテキトーっすね。
黛    いやいやwww
     あ、一応、コイツもウチの事務所で働いてるんで。
松沼   オマケ扱いなんすか俺!?
黛    だってお前バイトじゃんwww
恵礼希  貴方の生活のスグ側に冷蔵庫から電子レンジ、貴方の心の隙間も埋めます。
     小島電器店の小島恵礼希です。
黛    !?
     あの・・・もう一度名前を・・・
恵礼希  小島恵礼希です。
黛    お・・・おぅ・・・
松沼   (ド、ドキュン・・・!?)
葛西   あだ名は、えれぽんですwww
黛    め、珍しい名前だな・・・
松沼   黛さんのトコでアルバイト探偵やってます、松沼一二三です。
     神代大学の学生です。
葛西   お、俺らと一緒だ!!
松沼   はい、ウワサは色々とwww
     なんか色々女の子連れてますよねwww
葛西   知ってんの?
     えっと、葛西理でーす。
     オカルトとか、コワイ話とか好きでーす。
みゆき  じゃあ、是非ウチのコレクション見て行ってね・・・
葛西   トークには自信あります。
みゆき  チャラ男だもんね。

     と、そこに2人の男性が入って来た。

何者かの襲撃

     部屋に入って来たのは50代と40代の男性だった。
     黛と松沼は、50代の男性は依頼人の宮内喜助だと分かっていた。
     2人が応接室に入ると40代の男性は部屋を見渡した。

男性   おやおや、これは大勢を待たせてしまったようですね。
     いやぁ、申し訳ない。

     そして大きな手振りで皮肉かかったように話した。

みゆき  新田先生、いつもありがとうございます。
新田   いやいや、こちらは然るべき額を貰ってるんで全然構いませんよ。
     でも、もっと都会の方に引っ越した方が色々と便利じゃないですかねえ?
みゆき  ははは・・・
黛    (カンジの悪い人ばっかだなーwww)

     みゆきは改めて宮内喜助とその主治医である新田医師を紹介した。

宮内   いやはや、私のコレクションに興味があるとは、若いのに見所がありますなぁwww
     その前に探偵のお二方には依頼の件で別室に・・・
黛    はい、じゃあ松沼行くぞ。
松沼   はい。
     資料ちゃんと持って来ました?
黛    え、あれ!?
     あ、大丈夫だ。
宮内   もし宜しかったらお二人も私のコレクションをご覧になっていきませんか?
黛    ええ、もちろん。
     さっきも応接室でその話を伺っていたんですよ。
     でもホント、松沼もまさかオカルトにそんな興味があったとはなー
松沼   オカルト大好きですよww
黛    いやぁ、親近感沸いたわwwww
松沼   え、そんな親近感持ってなかったんすかwww!?

     部屋を出て行こうとする3人に小田島が割って入ってきた。

小田島  どうも宮内さん。
     宮内さんのコレクションを見せていただけるということで・・・
     先日の例の品も大変価値のあるものでしたからねぇ~
     今回のコレクションも楽しみですよ。

     揉み手をしつつ満面の笑みで宮内に挨拶をする。

黛    (コイツ多分、はじめに死ぬなwww)

     3人は別室に行き、依頼の確認をした。

宮内   またしても見つけてくれましたか。
     流石は黛さんです。
     例によって謝礼のほうは、いつもの口座に振り込んでおきますので。
黛    よろしくお願いします。
宮内   ご苦労様です、色々大変だったでしょう。
黛    まあ、今回はそこまで大変ってことでもありませんでしたよ。
宮内   では、私はコレクションの準備をしているので、もうしばらく応接室で待っていてください。

     依頼の話も済ませて黛と松沼が応接室に戻ってきた。
     話の流れで新田医師も応接室に留まっていたが、憮然とした様子だった。

黛    ・・・・
松沼   黛先輩、この空気なんか重くないっすか・・・?
黛    なにがあったんだ・・・

     2人もソファーに座り、松沼は隣の葛西に話しかけた。

松沼   葛西サン、なにかあったんですか?
葛西   あ、えっと、名前・・・なんだったけwww
松沼   (この人覚える気ねーなwww)
     松沼です。
     松沼一二三です!!
葛西   まつぬま・・・じゃあ、ひふみでいい?
     ひふみん?
松沼   ちょwwwww
まゆき  あら可愛くて良いんじゃない?
松沼   男なんで可愛さは要らないです!!
     しかも俺、ハードボイルド目指してるんで!!
新田   いやはや、若い人は賑やかで良いですね。
黛    宮内さんは、どこか悪いんですかね?
新田   患者の事なんであまり話せないが、私は普段から宮内さんを往診しているんですよ。

     などと重苦しい空気の中、会話をして10分ほど経った時。
     突然、宮内の叫び声が響き渡った。
     いち早く黛と松沼が立ち上がり、悲鳴の聞こえた隣の部屋に向かった。
     続いて、坂井、恵礼希、葛西・・・は座ったままだった。

恵礼希  オマエも行くんだよ!!

     5人が部屋に駆けつけた。
     そして黛と松沼がドアを開けて部屋に入る。
     部屋に入った2人の目には獣のようなものが映った。
     しかし、すぐに煙のように消え失せてしまった。
     立ち尽くしている2人の後ろから新田医師が駆けつける。

新田   宮内さん、宮内さん!!
黛    先生、宮内さんは大丈夫ですか?
新田   特に外傷も見当たりませんね、頭を打っている訳でもないようですし・・・
     取り敢えず、ベッドに寝かせないと・・・
黛    じゃあ手伝います。
新田   そうですね力を貸してください。
     せーの。
黛    よいしょ。
松沼   俺、力も弱いんで布団かけるのくらでも手伝います。

     新田医師と一緒に宮内を運んでいた黛には気付かなかったが、松沼、坂井、恵礼希、葛西は部屋の隅に青い泡状の膿のようなものが付着していることに気付いた。
     松沼はボールペンの先で取ってみた。

松沼   先輩、コレなんですかね?
黛    ん、うわ!!
     なんだコレ!?
松沼   先輩気付いてなかったんですか!?
坂井   安定のマユさんだわwww
恵礼希  マユさん?
坂井   黛さんだからマユさんって呼んでる。
黛    許可してない!!
     可愛いからやめろ!!
恵礼希  でも、コレ何だろ?
     ・・・青い。
松沼   何か、部屋に入った時に獣みたいなのが一瞬いたような・・・
黛    松沼も見えたのか?
     部屋にあんな獣がいるとも思えないんだけどな・・・

     と、宮内がうわ言を呟いた。

宮内   ま、まさか・・・
     ティンダロスの猟犬が・・・
松沼   ティンダロスの猟犬?
黛    一体なんだ?

     宮内のベッドの側に居た黛と松沼はその言葉を聞いた。
     そして、小田島もその言葉を聞いていた。
     それを聞くと、小田島は明らかに動揺しだした。

黛    ん?
     小田島さん?
松沼   どうしました?
小田島  いや、な・・・何でもない・・・
     あ、そうだ!!
     私、急用を思い出して!!
     宮内さんがこんなことになって恐縮なんですが、私はこれで失礼します!!
黛    え!?
     ちょっと!!

     小田島は黛の制止も聞かず、荷物を持って出て行った。

松沼   小田島さん、帰っちゃいましたよ先輩。
     何か知ってる感じでしたね・・・
黛    怪しいな・・・
坂井   忙しい人っすね~
新田   なんだ彼は?
     とにかく、宮内さんは安静にしておいた方が良さそうですね。
みゆき  はい、新田先生ありがとうございます。
黛    宮内さんがこんな状態じゃ、今日はお開きですかね。
みゆき  みなさんには折角来ていただいたのに申し訳ありません。

     みゆきは面々に謝り、5人も帰り支度をしようとした。
     その時。
     外の方から、今度は小田島の悲鳴が聞こえた。

綴化青鎖竜でろんでろん

     悲鳴を聞いた坂井は窓から外を覗いた。
     小田島のと思われる車のドアが開いているように見えた。
     坂井はすぐさま玄関に駆け出した。

黛    あの声は、小田島さん!?

     黛、松沼も玄関に向かう。
     坂井が小田島の車に辿り着いたときに見たものは、小田島の遺体だった。
     それは獣に引き裂かれたかのような傷で、車の窓は内側から小田島の血がべっとりと付着してスモークガラスのようになっていた。

坂井   う、ぐうぅッ!!

     坂井は小田島の車のドアを閉めると玄関に戻った。
     追いついた黛、松沼に言い放つ。

坂井   く、来んなあッ!!
黛    何があったんだ?
坂井   小田島さんが、死んでいた。

     その後、追いついた新田医師の診断で死亡が確認された。
     一旦、状況を落ち着けるために宮内の部屋に戻ることになった。
     部屋に戻ると宮内が意識を取り戻していた。
     しかしその顔は蒼白になっていた。

黛    宮内さん、大丈夫ですか?
宮内   ああ、なんとか・・・
新田   こんな時に言うのもなんですが、小田島さんが亡くなりました。
     なにか獣のようなものに襲われた様子でした。
宮内   そうか・・・
黛    何かご存知なんですか?
宮内   ・・・・・・
     信じられないかもしれないが・・・
     私たちの理解を遥かに超えたバケモノの仕業だ・・・・
黛    バケモノ?
     さっき、うわ言のように呟いていた“ティンダロスの猟犬”・・・というヤツでしょうか?
宮内   ヤツは・・・人間が太刀打ちできる相手ではないだろう・・・
     例え警察を呼んだところで犠牲者を増やすだけだ。
     ヤツはまたすぐにでも襲い掛かってくるだろう・・・
松沼   と、止める手立てはないんですか!?
坂井   しっかりしてください。
宮内   この屋敷の・・・あの、部屋の・・・

     全てを話す前に宮内は再び意識を失った。

恵礼希  あの部屋ってドコですか!?
新田   キミ、もう止めたまえ!!

     宮内を揺さぶる恵礼希を新田医師が止める。
     みゆきは宮内を再び寝かせて布団をかける。
     その際に、宮内の袖に青い膿のようなものが付着しているコトに新田医師が気付いた。

新田   おや、これは?
黛    どうしました?
新田   袖に何かが付いているんで・・・
黛    それは、さっき別の部屋にもあったものです。
坂井   触らない方がいいよ。
黛    そりゃあな。
     とにかく拭き取った方がいいな。
松沼   じゃあ、ハンカチで拭きますよ。
恵礼希  そのデロンデロンなにかな?
     Yahoo!とかで調べられない?
黛    え!?

     恵礼希はスマホで“青い でろんでろん”と検索する。
     Googleの検索には“綴化青鎖竜でろんでろん”という謎のワードが引っかかり、まったく分からなかった。

松沼   小島さん、何か分かりました?
恵礼希  ・・・こんなん出ました。
黛    なんとか青鎖竜でろんでろんwwwww
     お、おう・・・
恵礼希  ま、まったく関係ない・・・
葛西   な、なんだそれは・・・
     てか、読めないwww
松沼   コレ・・・じゃ、ないですよね・・・?
黛    これじゃない感ハンパないな・・・
恵礼希  何か手がかりがないかと・・・

     その場を仕切りなおして黛がみゆきに尋ねる。

黛    宮内さんが、「あの部屋」って言っていたんだけど、あの部屋って・・・?
みゆき  すいません、あまり心当たりがないんです・・・

     みゆきの説明によると、屋敷には部屋が10余りあり、書斎として使われているのが2部屋、コレクションルーム、寝室や応接室、客室があるとの事。
     この異常な状況と、襲撃者に関して宮内が知っている事は明らかだったが本人が話せる状態ではない。
     状況を打開する情報を得るため、5人は宮内の書斎に向かうことにした。
     みゆきと新田医師は宮内を看ていることとなった。

部屋の探索

     一方の書斎は鍵が掛かっていたので、もう片方の鍵の掛かっていない書斎に入った。
     部屋の中は壁3面がほぼ本棚で埋まっていた。
     黛と松沼は、並んでいる本を見てオカルトに関連する書物だと分かった。

黛    なんだ、どこかで見たような本だな。
松沼   あ、この本とか書店にも売ってますねww
黛    でも、宮内さん程の好事家が入門書みたいなのを大事にしているのは逆に違和感があるな・・・
     GS美神とかないかなwww
恵礼希  本棚自体は動かないよね。

     恵礼希が本棚を押してもびくともしない。

黛    仕方ない、鍵の掛かっている部屋に行くか。
松沼   どうやって入るんですか?
黛    松沼も来るんだよ。
     コレで開けるからな。

     黛は松沼にピッキングツールを見せると、隣の鍵の掛かった書斎に向かった。
     それを見て、恵礼希もコレクションルームの部屋の電子ロックを外せないか、見に行ってみた。

     本棚の書斎に残った葛西と坂井は部屋を改めて見回した。
     すると本棚から1冊、不自然に飛び出している本を見つけた。
     取り出して本を開いてみると中がくりぬかれており、鍵が入っていた。

葛西   なんの鍵かな?

     一方、コレクションルーム前の恵礼希は電子ロックを眺めていた。

恵礼希  ・・・これは。
     う~ん、難しい・・・
     流石ですね、いい仕事しているwww

     電子ロックは暗証番号を入力すればロックが外れるタイプだ。
     暗証番号は数字とアルファベットの計7ケタ。
     入力を間違えてもペナルティーはないように見えた。
     しかし単純に順番に入力すると780億通りあり、10秒に1回入力する計算でも1万年かかる。

恵礼希  絶望だ・・・

     その頃の鍵の掛かった書斎前の黛と松沼。

松沼   どうですか先輩?
黛    う~ん、予想以上にしっかりした鍵だ・・・
松沼   本棚の部屋は何か見つけましたかね?
黛    そーだな、坂井くんに電話してみよう。

     黛はスマホを取り出して坂井にコールする。

坂井   あぃっす。
黛    そっち何か見つかった?
坂井   あ、うん、なんかでっかい鍵見つけましたよー
黛    今すぐ来い!!
坂井   分かりました~
     葛西さん、なんか呼ばれてるんで行きましょう。

     坂井は葛西を引っ張って鍵の書斎に向かった。
     と、その葛西に恵礼希から電話が掛かってきた。

恵礼希  葛西ー、コレクションルームの暗証番号7ケタ!!
葛西   え、ええ!??
坂井   先輩、どうしたんすか?
葛西   えれぽんが・・・
     良く分かんない・・・
恵礼希  あ、葛西、どこか部屋を見た方がいい?
葛西   あ、じゃ、じゃあ、寝室とか・・・
恵礼希  うん、分かった。

     恵礼希は電話を切ると、寝室に向かった。
     葛西たちも宮内氏のコレクションルームの電子ロックに暗証番号があって、それが7ケタだと察した。
     葛西から鍵を受け取った黛は、鍵の掛かったドアを開錠して開いた。
     この部屋も本棚に囲まれていたが、机があった。
     本棚に並ぶ書籍も、先程の部屋のような入門書ではなく、古書や難しい言語で書かれた書物だった。

松沼   黛先輩、超オカルトの本がありますッwwww
黛    マ・ジ・で!?
松沼   すげーありますッ!!
黛    うわー、気になるなww
葛西   俺も気になります。
黛    葛西くんも、実は興味があるのかい?
葛西   オカルトいいっすよねwww
坂井   (なんだこのひとたち・・・)

     盛り上がる3人を尻目に坂井は机の引き出しを調べた。
     その引き出しには鍵が掛かっていた。

坂井   なかなか開きそうにないな・・・
葛西   あれ?
     この本は・・・

     葛西が本棚を眺めて見つけたのは、ティンダロスの猟犬に言及した本だった。
     何かの手がかりがあるかも知れないと、葛西はじっくりと本を読み始めた。
     一方の恵礼希は、宮内の寝室に入った。
     一通り見回した後、おもむろに再び葛西に電話をかけた。

恵礼希  あのさ葛西、寝室に来たんだけど、なに探せばいいか分かんないから、誰かよこして。
葛西   なるほど・・・
     (俺は今、本を読んでいる!!)
     ああ、誰か寝室に行くように言うよ。
     そうだな、坂井が行くよ。

     葛西が坂井に指示を出している間に、松沼は引き出しの鍵をいじっていた。
     すると、カチャっと音を鳴らした。

松沼   あwwww
     先輩、開いちゃいましたーwwww
黛    な、なんか悔しい・・・

     引き出しの中には宮内の手記が入っていた。
     松沼は黛にも手記を見せて、2人はその手記を読み始めた。
     宮内の寝室では坂井と恵礼希が何かないかと調べていた。
     寝室にはミステリー小説が何冊かあり、ベッドの脇の引き出しには小さな鍵が入っているのを見つけた。
     さらに宮内の書いたものと思しき日記が見つかった。

葛西   読み終わったー
     これ、ヤバかったっすねー
松沼   ちょ、ちょっと待って、葛西くん。
     えと、どうします、先輩?
黛    見るよ!!
葛西   ココっす。

     黛と松沼は葛西の示した箇所を読んだ。

     ■本の内容■

     読み終わった黛は葛西にも手記の内容を伝えた。
     内容は、宮内は小田島から投影機のようなものを購入したと言う。
     それは、過去や未来を見ることが出来るものだったが、その映像を見た者はティンダロスの猟犬に襲われてしまうという。

黛    という事で、恐らくその投影機の映像を見た2人が襲われたんじゃないかな。
葛西   ヤバいっすねー、めっちゃオカルトっすねー
松沼   退治するというか、捕まえるには丸い球体のようなものが必要らしくて・・・
     宮内さんは、一応、そんな球体も持っているみたいですね。
     コレクションルームにあるんじゃないですかね?
葛西   なるほどー
黛    ってコトは、コレクションルームか・・・
葛西   でも、暗証番号が・・・
黛    取り敢えず、向こうにもこの事を知らせるか。

     黛はスマホを取り出して坂井に電話をかけた。

坂井   はいはいはい?
黛    軽いなwww
     今、取り込み中?
坂井   今ねー、宮内さんの日記見つけて読んでるんだー
     そっちは、何か見つかったんすかー?
黛    ああ、さっき聞いたティンダロスの猟犬ってヤツの概要と対処法が分かったんだ。
     その対処法がコレクションルームにあるみたいなんだけどね。
坂井   ふ~ん。

     打っても響かない坂井に代わって恵礼希が電話口に出た。

恵礼希  もしもし小島ですー
黛    あ、どうも黛です。
恵礼希  こっちで宮内さんの日記を見つけたんですけど、その中にですね、パスワードじゃないかと思う記述がアリマシテ・・・
黛    パスワード?
恵礼希  コレクションルームの電子ロックの暗証番号に入るであろう数字とアルファベットです。
     宮内さんは養子を取ってるんですよ。
     その養子を引き取った日にちが7ケタなんです。
黛    養子・・・?
恵礼希  養子を引き取った日付を暗証番号にしたと書いてあるんですよ。
坂井   この日だろ。
黛    養子って、みゆきさんじゃないよね?
恵礼希  みゆきさんですー
     みゆきさんを引き取った日付ですね。
黛    取り敢えず、分かった。
     コレクションルームで合流しよう。
     いいかな~?
恵礼希  いいとも~!!

     こうして5人はコレクションルームに向かった。

コレクションルーム

     宮内のコレクションルーム。
     5人は入手した情報を交換した。
     さっそく恵礼希は電子ロックの暗証番号を入力した。
     “H200520”
     ガシャンという音と共に電子ロックが解除された。

     コレクションルームの中には様々なものが収められていた。
     壷や皿、人形などの骨董品やアンティークに混じり、用途のよく分からないものなども並べられていた。

恵礼希  あれ?
     宮内さんの日記に小田島さんが不思議な品物を持って来たって書いてあるんですよ。
     ゲーム機のようなタブレットって・・・
     地球の歴史が映像で流れるって書いてあるんですよ。
葛西   それって・・・

     5人がコレクションルームを散策しようとした瞬間、男性の悲鳴が聞こえた。

黛    新田先生!?

     聞くと同時に黛と松沼が駆け出した。
     宮内の寝ている客室の扉を開くと、そこには先程のバケモノ“ティンダロスの猟犬”がいた。
     そこには新田医師が倒れていた。
     みゆきも恐怖で立ち尽くしている。

黛    新田先生!!
新田   だ、大丈夫だ・・・
     な、なんだあのバケモノは・・・襲われてしまった・・・
黛    新田先生は“投影機”を見ましたか?
新田   と、投影機・・・?
     なんだね、それは?
松沼   3人とも狙われているんすかね?
黛    いや・・・恐らく宮内さんが狙われて2人は巻き添えなだけだ。
松沼   取り敢えず、どちらかが残ります・・・?
黛    こうなるとコレクションルームも危険だな・・・
     松沼は、ここに残って3人を見ててくれ!!
松沼   は、はいッ!!
     (また来たらどーしよう・・・)

     松沼はビクビクしながらも、部屋の隅にあった花瓶を抱え込んだ。

這い寄る恐怖

     黛は再びコレクションルームに戻って来た。
     その間、3人はコレクションルームを調べていた。
     小田島のタブレットPCのようなものや、謎の球体のようなものも確認した。
     球体は黒く野球ボールくらいの大きさだった。
     戻ってきた黛も球体を眺めた。

黛    ひとまず宮内さんは大丈夫だったけど、早くティンダロスの撃退法を見つけないと・・・
     この球体って、どうやって使うんだ?
葛西   そういえば、書斎の本の中にも、この球体の挿絵があったような・・・
黛    書斎!?
     戻るか!!

     4人は急いで書斎に向かった。
     そこで球体の挿絵が書かれている本を探した。
     葛西は記憶を辿って見覚えのある本から挿絵の本を探し出した。
     しかし、それは英語で書かれていた。

葛西   俺スペイン語なら分かるんだけど・・・
坂井   俺、イタリア語・・・
黛    僕は日本語しかできない・・・
恵礼希  同じく英語分かりませーん
黛    よし、ここで一旦客室に全員集合しよう。
     読める人もいるかもしれないし。
葛西   色々、知識を総動員するんですね。
黛    正直、新田先生たたき起こすとかwww
恵礼希  「これ、ちょっと読んでくださーい」ってwww

     4人は新田医師を頼りに客室に戻った。

黛    新しい情報を見つけてきたぞ!!
松沼   あわわわわ
     戻ってきたー!!
黛    新田先生、申し訳ないんですが、ちょっとこの本を読んでくれませんか?
新田   う~ん、何だって・・・?
恵礼希  新田センセーーー!!

     恵礼希は新田医師の肩を掴んで揺さぶった。

松沼   だめーーー!!
黛    ちょ、ちょっと待てッ!!
恵礼希  え?

     無理に揺さぶる恵礼希を押しのけて黛が新田医師に話しかける。

黛    新田先生、気分の悪いところ申し訳ないんですが、ちょっと読んでもらいたいものが・・・
新田   うん?
     なんだその本は・・・?
     英語か、まあ読めるが・・・

     新田医師は片手で頭を抑えながらも、黛が渡した本を読み始めた。

新田   一体、何が書いてあるのかさっぱりだな・・・

     新田医師が本を読み始めてしばらくすると客室の隅から再び煙のようなものが立ち上り始めた。
     その煙の中から痩せ細った犬のようなバケモノが姿を現した。
     シルエットはまさに犬だが、頭部は骨ばっており肉がほとんどなく、ただその凶悪な顔と醜悪な舌がチロチロと存在感を主張していた。
     身体とおぼしき部分も同様に肉がなく、たてがみとも骨ともつかない背中は天に向かって伸びており、その身体は青い膿のようなものに覆われていた。
     間違いなく、宮内と小田島はこのバケモノに襲われたのだ。

黛    あ、あれは、さっきのッ!!
松沼   ああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!

     松沼は宮内を守ろうと極度に張り詰めていた緊張を押さえきれなくなった。
     そして何もないはずの部屋の隅の角度から現れたバケモノを見た瞬間に思考が焼き切れた。

黛    松沼ぁッ!!
松沼   松沼ぁッ!!
黛    くっそ、どーした!?
松沼   くっそ、どーした!?
黛    メンドくさいわーーー!!
松沼   メンドくさいわーーー!!
葛西   な、何だこいつはッ!?
黛    おい、しっかりしろッ!!
松沼   おい、しっかりしろッ!!

     松沼は目の前にいた黛の言葉を繰り返すしか出来なくなっていた。
     現れたバケモノ、ティンダロスの猟犬は騒いでいる者には目もくれず、恵礼希に向かっていった。
     そしてその前足で襲い掛かった。

黛    小島さん!!
松沼   小島さん!!
恵礼希  きゃあッ!!

     その爪は恵礼希を引き裂いた。

恵礼希  い、痛いッ!!
葛西   えれぽん!!
坂井   このッ!!

     坂井は部屋にあった花瓶をティンダロスの猟犬に投げつけた。
     花瓶は見事にティンダロスの猟犬に当たったが、まったく意に介していない様子だった。

黛    効いてないみたいだ・・・
松沼   効いてないみたいだ・・・
葛西   ヤベッ、だめだ!!
坂井   効果がない・・・?

     しかしティンダロスの猟犬は、今度は花瓶を投げた坂井に向きなおした。

坂井   くっそ!!

     ティンダロスの猟犬の爪は坂井のわき腹を深くえぐった。
     痛みに耐え切れなかった坂井は意識を失って崩れ落ちた。
     次は誰に襲い掛かってくるのか、残りの者が身構えたが、2人を襲って満足したのかティンダロスの猟犬は再び部屋の隅に消えていった。

葛西   た、助かった・・・
黛    と、とにかく手当てを・・・

     時間を置いて正気を取り戻した松沼を含め3人は坂井、恵礼希の手当てをした。
     再び、新田医師に本を読んでもらい、その内容を訳してもらった。

新田   良く分からんが、書いてある通りに訳すぞ。
     「この球体は、内部に広大な空間を持っている。
     空間内部も球体になっている。
     球体から出るためには内部の空間を破壊するか空間を渡るなど、特殊な手段が必要となる。
     現在の地球上の生物では、例えどれほどの強大なものであったとしても、この空間を破ることは出来ないだろう。
     尤も、邪悪なる神々の前においては、このようなものは玩具にすぎないだろう。
     逆に言えば、邪悪なる神々以外の存在に対しては絶大な力を発揮する。
     使用者が自らの精神を捧げ、呪文を唱え、然る後に球体を対象に当てる。
     対象に当たれば、たちまち球体の中に取り込まれてしまう。
     使用できるのは1度きりである。
     但し、使用者が精神を捧げることで中のものを取り出すことも可能であり、その場合は再度使用できる。」
一同   これって『モ○スターボール』じゃんwwwwww

     話し合いの結果、黛が球体を持ってティンダロスの猟犬にぶつける役となった。

黛    よし、やってやるぜ!!
     みんな、角を見張れッwww
松沼   角を見張れー!!
恵礼希  両方向を見張れッ!!
黛    ダッシュには定評あるからなwwww

     黛が部屋の中央に陣取り、松沼、葛西、恵礼希、坂井が部屋の四隅を監視した。

     しばらくして・・・

     松沼が見張っていた壁際に煙が立ち昇り始めた。

松沼   で、出ましたーーー!!
     先輩、出ましたーーーー!!
黛    ま、松沼ッ!!

     煙から現れたのは先程のティンダロスの猟犬だった。
     正面で向かい合うと、やはり醜悪な相貌のバケモノに黛の足は一瞬すくみかけた。
     しかし恐怖に耐え、ティンダロスの猟犬に向かって走り、球体を投げつけた。
     その球体はティンダロスの猟犬に当たると、そのバケモノを吸い込んでしまった。
     球体はしばらく跳ねるように揺れていたが、やがて動かなくなった。
     そこには、本当にバケモノがいたのか信じられないような静寂だけが残った・・・

     その後、小田島の遺体はすぐに警察の鑑識が調べた。
     明らかに獣の爪などによるものだったので、近隣では野生の動物狩りが行なわれたが、そのような動物は見つからなかった。
     ティンダロスの猟犬に襲われた宮内、新田医師共にケガは回復に向かった。
     宮内は懲りずに再び怪しげな骨董品の蒐集に精を出しているという。
     みゆきも事件後はショックを受けていた様子だったが、すぐに大学でも見かけるようになったという。


     こうしてそれぞれの日常が再び動き始めていった。


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最終更新:2014年10月31日 23:06