バカンスへ出発
季節はゴールデンウィークを過ぎた5月の中旬。
神代市内のとあるファミリーレストラン。
日本に滞在中のFBI捜査官であるM・F・ルーダーは、友人である医師・大路正人に呼び出されていた。
大路 わざわざ呼び出してすままいな、ルーダー。
ルーダー No Problemだ、正人。
で、用件は何だ?
大路 実は、一緒に
来渕島に行ってほしいんだ。
ルーダー ほう、来渕島ね・・・
来渕島。
神代市からフェリーで1時間ほどの離島。
風光明媚でリゾート開発が進んでいる。
大路 まあ、私は別の用事があるんだが、バカンス気分で付き合ってほしいんだ。
ルーダー Of Course!!
自分も休暇でこっちに来ているだけだからな。
しかし、何故私なんかを?
大路 いや、最近、夢見が悪くてな。
私の用件と言うのは妻の一周忌の法事なんだが、その妻がしきりに来渕島には来るなという夢を見るんだ・・・
ルーダー ほう・・・
大路 気味が悪いんだが、それで法事を欠席する訳にもいかなくてね。
それで、せめて誰かに来渕島まで付いてきてほしいってだけなんだ。
ルーダー そういう事か、ではバカンスを楽しむとしようか。
大路 そう言ってくれると助かるよ。
では、詳しい日時は後ほど連絡するよ。
そう言うと大路は席を立った。
来渕島に向かうフェリー乗り場。
待ち合わせ通り、ルーダーは大路と合流してフェリーに乗り込んだ。
その近くで騒ぐ数人の男女がいた。
ショートカットの活発そうな少女がスーツ姿の男性に話している。
少女の後ろには白衣を着た褐色で黒く長い髪の女性が立っている。
操 マユさーん
こちら跳躍のすごいコリィさん。
すると褐色の女性は少女の紹介に反応して見事な跳躍を披露する。
紹介されたスーツの男・黛敬一は返答に困った。
黛 (び、美人なのに・・・残念だなぁ・・・・・・)
ど、どうも・・・
操 私たちスゴイでしょwww
そう言うとショートカットの少女・佐々木操も、褐色の女性・猿飛・クレイグ・コリィと2人で曲芸染みた跳躍を始める。
操はサーカスの団員をやっている軽業師だ。
コリィはこう見えても大学の准教授。
世界各地を飛び回っている生物学者だが、操のサーカスの公演を見る機会があって意気投合してしまった。
黛は私立探偵。
だいたい姪の操に振り回されている。
黛 ちょ、ちょっと・・・操ちゃん、ちょっと止めようか!!
え、えっと、コリィさんも、もういいですから!!
人目ッ!!人目がぁッッ!!!
コリィ 私の跳躍に驚くがよいwww
操 そうそう、で、こっちが私の叔父さんのマユさん。
黛 黛と申します・・・
コリィ よろしくお願いいたします。
黛 じゃあ、こっちの紹介もいいですかね・・・
黛の後ろには、さわやかそうな眼鏡の青年、ボサッとした黒髪の青年、おとなしそうな眼鏡の女性が立っていた。
眼鏡の青年は北条優一。
売り出し中のミステリー作家で、作品の取材に黛の探偵事務所を度々訪れている。
黒髪の青年は八星明。
若いが有能な弁護士で、黛の仕事上の付き合いから親交を深めている。
眼鏡の女性は月見里ゆき。
八星明の大学時代の同期。
現在は実家のブドウ農家を継いではいるものの両親は健在なので、こちらに住んでいる。
そこにもう一人の若者がみんなに話しかける。
操の高校時代の同級生だった秋月仁。
来渕島のリゾートのチケットを操に譲った人物だ。
操が「大勢でバカンスを楽しみたい」と騒ぎ出して、黛が予定の空いている人に声を掛けまくった結果、このメンバーが集まった。
黛 秋月くん、だっけ・・・
なんか、ごめんね・・・
北条 同級生の男子からリゾートのチケットもらって、これだけ呼ぶのって、ある意味スゴイよねwww
黛 ニブイよねww
そうこう騒いでいる間にフェリーが出航する。
騒がしい集団の操、コリィ、北条、八星、月見里、黛、少し距離をとってルーダーと大路、さらに観光客の8人組の男女が乗り合わせていた。
フェリーは沖に出るとやや大きな波を乗り越えていく。
30分ほど波に揺られて八星と秋月の顔色が変わっていく。
八星はそこまでではなかったが、秋月は顔面蒼白だった。
その様子を見た大路が声をかける。
大路 大丈夫ですか?
秋月 ちょっと・・・
大路 典型的な船酔いだから、座っていた方がいい。
北条 コ、コリィさん・・・!?
コリィ くぁw背drftgyふじこlp;@:「」
操と一緒に船上で飛び回ってはしゃいでいたコリィにも異変が出た。
ジャンプしながら胃の中のモノを撒き散らしていた。
黛 ひ、ひどいwwww
八星 ふ、船の中で吐くとかマジやめて・・・
コリィ ふ、船は、あんまり好きじゃないの。
地面に足が付いてないと落ち着かないのよ。
月見里 山が得意な方なんですかね・・・
八星 吐く時は海に!!
ルーダー やれやれ、賑やかだな・・・
みんなを乗せたフェリーは来渕島の船着き場に到着した。
船を降りると、シャボン玉のような泡が宙を漂っていた。
月見里 シャボン玉・・・?
北条 何でしょうね、この泡。
操 あわあわ~www
ルーダーはそのシャボンの泡が島の西側から流れてきたように見えた。
コリィ まだ、船酔いが・・・
大路 しばらく安静にしていれば大丈夫だから。
来渕島には宿泊施設はそんなにないし、私は医者だから困った時には呼んでくれて構わないよ。
北条 ありがとうございます。
ここで、操、コリィ、北条、八星、月見里、黛は秋月に案内されて宿泊先のホテルへ。
ルーダーは大路と共に西側の集落に向かった。
姫野家の法事
ルーダーと大路はフェリー乗り場から西に15分ほど歩いて来渕島の集落に到着した。
そこには大路の妻の実家である姫野家があった。
姫野家は一般的な2階建ての民家。
法事なので礼服の人が出入りしていた。
ルーダーは家の排水溝から泡が立っているのを見て取った。
特に気にせず2人は家に入ろうとするが、ちょうど家から出てくる警察官と入れ違った。
ルーダー (警察・・・?)
ルーダーは警察を気にしつつも大路と共に家に上がらせてもらった。
大路を迎えてくれたのは義理の父母だった。
「どうも」と上がる大路と父母の様子はひどくぎこちない雰囲気だった。
ルーダーも過去に何かあったのかと容易に想像できた。
家族席にはもう1人、白い手袋をはめた女子高校生がいた。
ルーダーは女子高生を指して王路に尋ねた。
ルーダー 彼女は誰だい?
大路 ああ、彼女は義理の妹だ。
ルーダー 奥さんの妹さんか。
こんな季節だけど、普段から手袋してるのかい?
大路 そうだな、昔からだったかな。
ルーダー 家族とは何かあったのか?
大路 ああ・・・まあ、色々とな・・・
ルーダー まあ、私が立ち入るトコロではなかったな、Sorry。
私はホテルに行っているよ。
ルーダーは軽く焼香すると席を立った。
すると、女子高生はルーダーが座っていた場所に消毒スプレーのようなものを吹き付けていた。
ルーダーは、そんなに毛嫌いされているのかと、少しヘコみつつ姫野家を出た。
姫野家を出ると、その裏手で事件があった様子で、警察官が現場検証をしていた。
ルーダーは外国人観光客を装って警官に尋ねた。
ルーダー ナニカ、アリマシタカ?
警官 Don’t worry。
一般の方にはお話できません。
警官は現場に張られた“Keep Out”のテープを指差した。
押し問答しても埒が明かないのでルーダーは表の通りに戻った。
そして、排水溝が泡立っている事が気になったが、やはりただの泡のように見えた。
臭いも洗剤のようだ。
一方の観光気分の7人は、来渕アクアリゾートを訪れていた。
宿泊先は来渕リゾートホテル。
ここはアクティビティ施設が充実しており、7人は思い思いに楽しんだ。
とはいっても、秋月は船酔いが酷く、部屋で休んでいるといって6人を送り出した。
黛 アレある?
水圧で飛ぶヤツwwww
アレやりたい!!!
黛は早速、フライボード体験に申し込みに走っていった。
月見里 屋内の施設は何かないかしら・・・
流石に図書館はないんですね・・・
北条 私は、気分転換にその辺をブラブラ散歩してます。
操とコリィは盛り上がって水上スキーを楽しんでいる。
無駄にアクロバティックな曲芸をキメていた。
6人は各々ビーチを楽しみ日も傾いてきたので部屋に戻ることにした。
「302号室」にコリィ、操、月見里の女性3人。
「303号室」に八星、北条、黛、秋月の男性4人。
秋月 お帰りなさい。
スイマセンね、一緒に出れなくて。
ちょっと気分も戻ってきたんでシャワー浴びてますね。
秋月は部屋のバスルームに入ってシャワーを浴びた。
しかし・・・
あああああああああああああああああッッッッッッ!!!!!!
しばらくすると、秋月の悲鳴が響き渡った。
目に見えない脅威
女子部屋。
コリィと操は月見里のブドウの話に興味津々だった。
ガールズトークとは言い難いが、女子部屋ではおしゃべりに花が咲いていた。
一方、秋月の悲鳴が続く男子部屋。
黛 秋月くん!?
何があったッ!?
八星 大丈夫か!?
八星と黛はバスルームに駆けつけ、ドアを叩く。
北条も一歩後ろで様子を見ている。
秋月 ううううッ!!
ああああああああああああ!!!!
なおも上がり続ける秋月の悲鳴に耐えかねて八星がドアを開ける。
バスルームからはシャワーの熱気があふれ出してきた。
それと共に鉄さびのような臭いが立ち込めていた。
八星 血・・・ッ!?
黛 ううぅッ!!
そこには血にまみれた秋月がのたうち回っていた。
よく見ると、秋月の皮膚が溶けるようにただれていた。
北条 傷口に泡が・・・
いや、泡が皮膚を溶かしているのかもしれません!!
北条の言葉に八星と黛は、秋月に付着する泡に注意を払う。
その隙に、備え付けの内線電話でフロントに電話をかける。
北条 すいません、ケガ人がいるので至急医者をお願いします!!
八星 取り敢えず、キレイに洗い流しましょう!!
八星はシャワーで秋月を洗いながし、黛はベッドのシーツを持ってきて秋月を包んでベッドに運んだ。
北条はホテルのスタッフを呼ぶために部屋のドアを開けて待っていた。
そこに、姫野家から戻ったルーダーが通りかかった。
ルーダー キミたちはさっきの・・・
騒がしいようだが、何かあったんですか?
黛 何かあったとかじゃないですよ!!
北条 大変なんです!!
シャワーを浴びていた彼が急に悲鳴を上げて苦しみだしたんです。
傷口には泡が付いていたみたいなんですが・・・
ルーダー 泡?
そういえば、ここに到着した時も、西の集落でも泡は見かけたな・・・
北条は隣の女性陣も呼びに行った。
コリィ、操、月見里もすぐに駆けつけた。
ルーダー 私はFBI捜査官でもあるんだ。
事件性があれば協力できるかもしれない。
彼の状況も確認させてくれ。
ルーダーは身分証を取り出して確認すると、秋月の身体を調べた。
そこにコリィも身を乗り出す。
コリィ 私にも検体を見せなさい。
ふむ・・・普通の薬物の反応ではなさそうね・・・
そうこうする間に警察や救急が到着する。
6人はホテルの一室で警察に事情聴取された。
信じられないような内容だが、すんなり開放された。
八星は、部屋を出るときに「昨日から何でこんなに似たような死体が出てるんだ・・・」という警官の呟きを耳にした。
八星 似たような・・・?
他にも似た事件があったんですかね?
黛 ロビーにある新聞で事件がないか調べれるかな?
事件現場となった男性陣の部屋は使えなくなってしまったため、成り行き上、ルーダーの部屋に泊まらせてもらうこととなった。
ルーダー 折角なんで泊まってください。
北条 ありがとうございます。
ルーダー まあ、こんなガイジンの部屋で良ければねwww
HAHAHA
4人と3人で別れたそれぞれは、そのまま部屋にこもって就寝した。
消えた住民
翌朝。
ルーザーは、携帯電話に着信があったことに気付いた。
午前1時半、大路からだった。
ルーダー おや?
ルーダーは目を擦りながら大路に電話を掛けた。
電話先では「お掛けになった電話は電波の届かない所にあるか、電源が入っていないため出られません」と繋がらない。
ルーダー う~ん、不安だなぁ・・・
北条 おはようございます。
どうかしたんですか?
ルーダー 一緒に来ていた友人から着信があったんだが折り返しても繋がらないんだ。
北条 もしかして船で一緒だった方ですか?
ルーダー Of Course、そうだねぇ。
黛 ああ、あのお医者さんですね。
北条 ウチの同行者を助けてくれた。
八星 盛大に吐いてたからなww
ルーダー 私は彼のトコロに行ってみるつもりだが・・・
八星 何かあったら心配なんで私たちも行きます。
北条 良かったらご一緒しましょうか?
黛 友人にも、何かあったらアレなんで・・・
ルーダー Thanks!!
北条 じゃあ、女性陣も声かけてきますね。
北条は女子部屋のドアをノックした。
操 は~い、おはようございますぅ~
北条 なんか、死んだ顔してますが・・・
操 朝弱いんです~
どうしました?
北条 もう、お2人も起きてますか?
操 起きてますよ~
月見里 はい、私はもう朝は早いので。
ブドウ農家の朝は早い!!
北条 昨晩泊めていただいたルーダーさん、一緒にいた方がいたじゃないですか。
大変お世話になった。
コリィ wwwww
北条 その方と連絡が取れないらしくて探しに行かれるそうなんですよ。
準備をしたルーダーも声を掛けた。
ルーダー 観光がてらどうでしょうか?
操 そうですね。
ルーダー 入院している秋月くんのお見舞いもすれば良いんじゃないかな。
結局、姫野家の様子を見てから秋月の見舞いに行くこととなった。
7人は島の西側の集落に向かった。
すぐに違和感があることに気付く。
辺りは妙な静寂に包まれている。
朝なのに雨戸が締め切られており、生活の臭いがまったくしない。
夜のまま時間が止まったかのようだった。
ルーダー ちょっといいか。
ルーダーは昨日気になった排水溝の様子を見に行った。
昨日と同じく泡立っていた。
八星 何か・・・突っ込んだら溶ける・・・かな?
コリィ 分かった。
私が何とかしよう。
コリィは周囲を見回すと、物陰にいたネズミを掴み上げて排水溝に放り込んだ。
ネズミは水に沈んで溺れ死んでしまった。
コリィ ・・・
北条 溶けなかった・・・ですね・・・
八星 ひとつの要因だけで、人間が溶けるって現象が起きたのか、それにプラス何かで溶けるのかってトコロが明確じゃないからな・・・
ルーダー 泡の件は良く分からないな・・・
ルーダーは再び大路に電話を掛けるが、やはり出ない。
そして、姫野家の玄関を叩く。
しかし中からは反応がない。
家の中からも何の音もしない。
都市部でないため玄関の鍵も掛かっていない。
ルーダー ごめんくださーい
正人、いないのか!?
家の中は電気が付いたままだった。
部屋の奥からは水が“ジャー”と流れる音が聞こえてくる。
ルーダー 私は中に入るが、他に誰か来るか?
黛 僕も気になるので行きます。
八星 私も行きます。
月見里 私はちょっと・・・他所様のお宅ですし・・・
操 そーだよね・・・
北条 状況的に外を見張っています。
ルーダーと八星、黛は姫野家に上がりこんだ。
水の音は居間の奥から聞こえている。
それ以外は何も聞こえない。
ルーダーは居間のふすまを開けて覗き込んだ。
そこには血の混じった泡の塊がいくつかあった。
それは衣服だけが残り、人間だけが泡になったかのようだった。
その泡はテーブルを囲んでいた。
水が流れっぱなしの台所にも流しにもたれ掛かる泡がある。
八星 この泡はどこから・・・?
黛 いや、むしろ人間が泡になった感じだ。
ルーダー 取り敢えず水は止めよう。
八星 う~ん、蛇口から水を出そうとして、その後に何かが起きたのは確実なんだよね・・・
水道のメーターが回り始めた時間は分かんないかな・・・?
っていうか、大路さんから電話あった時間は?
ルーダー 1時半頃だったかな。
黛 ってコトは、その時間から明け方にかけて何かがあったということになるな。
この辺にケータイはないよな?
ルーダー コールしても鳴らないからな・・・
黛 この服たちに見覚えは・・・って言ってもな。
居間に散らばっているのは全て喪服だった。
ルーダー ・・・
女子高生の制服がないな・・・
取り敢えず3人は手分けして部屋を見て回った。
黛は北条に電話を掛けて中に来るように言った。
外で待っていた4人も家の中に入ったが、操はふと、2階に続く足跡があることに気付いた。
人間の足跡には見えない。
水掻きが付いているように見える。
操 なんか足跡があるよ。
操は一人で2階に上って、足跡の続いている部屋に入った。
ほかの部屋に比べて部屋の中が散らかっている。
というか、荒らされている。
操の声にみんなも集まってきた。
良く見ると、その部屋は女の子の部屋っぽかった。
北条 ここは、少女の部屋だ!!
黛 ワクワクするなww
北条 してない、してないよ!!
ルーダー 制服がある・・・
ルーダーは壁にかかっていた制服を見て、大路の義理の妹の部屋だと確信した。
ルーダー ここは正人の義理の妹さん、つまり奥さんの妹さんの部屋だ。
八星 しかも、もう一つ言える事があるね。
下のみんなが喪服を着てた時間帯って、その女子高生も制服を着てたハズなんだ。
その制服が、ここに置いてあるってことは、事件が発生した後に着替えたってことだよね。
その子は無事だってことだ。
黛 そいういや、妹さんの名前ってなんていうんだ?
ルーダー ええと、確か・・・姫野真魚という名前だったかな。
7人は姫野真魚の足取りの手がかりがないか部屋を見回した。
操はゴミ箱の中を覗いた。
丸められたメモ帳を広げると「村のはずれの空き地」と書かれていた。
北条、ルーダー、黛は本棚を調べる。
いかにも女の子の本棚で漫画やら雑誌が詰まっている。
その中には1冊、古い本が混じっているのが分かる。
それは童話の本でタイトルは『人魚姫』だった。
残りのコリィ、八星、月見里は学習机の上を確認した。
机の上には姫野真魚のものと思われる日記帳があった。
コリィ 日記帳があったぞ。
八星 どれどれ・・・
■□■□■□■□■□■□■
お姉ちゃんのお見舞いに病院に行ったら捨て猫を見つけた。
ケガをして、どうしたらいいか困っていたら先生が助けてくれた。
先生が私の潔癖症について聞いてきた。
お姉ちゃんが入院したとき、私は消毒をしないで病室に入ろうとして担当の先生にひどく怒られたことがあって、
それからキレイな状態じゃなきゃ耐えられなくなったと言った。
お姉ちゃんと先生が2人で話しているのを見かけた。
それだけなのに、すごく悔しかった。
先生と先に出会ったのは私なのに・・・
私のほうが先に先生を好きになったのに・・・
お姉ちゃんと先生が結婚するのだと聞いた。
結婚を決めてお姉ちゃんは少し元気になったようにみえた。
お姉ちゃんが心臓移植のために東京の病院に転院するらしい。
先生の付いて行くんだって。
夫、だから仕方ないよね・・・
だめなのに・・・先生はお姉ちゃんの旦那さんで、もう諦めなくちゃいけないのに・・・
お姉ちゃんが死んだ。
移植手術は成功したのに、術後の経過がよくなかったみたい。
先生は、もう来渕島には来ない。
お姉ちゃんも、もう二度と帰ってこない。
不思議な夢を見た。
黒い影が聞き取れない声で何かをささやく夢。
それは日本語じゃないのに、夢の中の私には分かっているみたいだった。
同じ夢を繰り返して見る。
だんだんと近づいてきているような気がする。
もう少しで、私にも聞き取れるような気がする。
ようやく聞こえた。
カレは私の願いを叶えてくれる存在。
私に“しもべ”を与えてくれた。
明日はお姉ちゃんの一回忌。
先生が帰ってくる。
そして、私の願いを叶える。
泡は全てを洗い流してくれる。
全て無かった事にできる。
このチカラがあれば、きっと・・・
■□■□■□■□■□■□■
黛 なにか、事件に関わっていそうな気がする・・・
月見里 “願い”ってなんだろう・・・
ルーダー 玄関に彼女の靴はなかったな。
黛 じゃあ、メモ帳のしるしの場所に行くしかないか。
八星 そこしかないよね。
北条 取り敢えず、病院にも行ってみますか?
八星 警察にも連絡しとく?
ルーダー ああ、じゃあ私が警察の応対をしよう。
その間に病院に行ってきなよ。
病院から出たら合流しよう。
八星 じゃあ、そういう流れで。
ルーダーは姫野家に残って警察に通報し、6人は秋月の搬送された病院へと向かった。
歪んだ祈り
しかし、秋月は面会謝絶の重傷だった。
結局6人はルーダーと合流して、真魚のメモの場所を目指した。
そこは来渕島の集落のはずれの空き地だった。
何本かの高い木があるだけで開けた場所だった。
集落の反対側には木立、というか森が広がっている。
コリィ よし、登るか。
私は東を見る。
西は頼んだ!!
操 よし、西を見る!!
他の者が制止する間もなく2人は木に登っていった。
北条 あれ?
北条は足元から大きな足跡が木立の中に続いているのに気付いた。
八星 おーい!!
降りといで!!
コリィ ・・・・・
操 ・・・・・
木に登った2人はスゴスゴと戻ってきた。
操 お騒がせしました。
7人は足跡を辿って森の中に踏み込んだ。
しばらく進むと、森の中に小屋が建っていた。
小屋の中からは物音はしない。
操はドアをノックする。
返事がない。
ドアノブを引いても鍵が掛かっていたが、操がガチャガチャすると鍵が開いてしまった。
小屋の中に入ると、一面に悪趣味な収集物が並んでいるのが分かる。
古びた本や、謎の模様の刻まれた文鎮のようなもの、触手を象った置物など、いかにも“魔術”といった部屋だ。
黛 重苦しい空気だ・・・
コリィ 珍しい検体ね・・・
小屋に入った7人は、この部屋の異常さに立ちすくんでいたが、すぐに入り口のドアが開いた。
入って来たのは雨合羽を目深に被った猫背の男性だった。
足元には水が滴っており、水を被った上から雨合羽を着ているように見えた。
雨合羽の男は7人に襲い掛かってきた。
しかし、北条は身を翻して襲い掛かる男にキックした。
走ってきた男に、ちょうどカウンターのようにみぞおちに命中する。
畳み掛けて黛も殴りかかる。
体勢を崩した雨合羽の顔面を床にまで叩きつけるかのような勢いだった。
八星も駄目押しとばかりに殴りかかった。
雨合羽は、たまらず背後に飛びのき、そのまま外へ逃げ出した。
北条 な、なにしに来たのッww!?
黛 くそッ!!
追跡するぞ!!
月見里 追いかけるのは得意ですッ!!
北条 そうなの!?
月見里 一次生産者は大変なんですッ!!
イノシシとかww
黛 逃がすかッ!!
月見里と黛は雨合羽を追いかけた。
水の滴る足音はくっきりと残り、木立の奥へと進んでいる。
そして、少し開けた場所に出る。
そこにいたのは、大きな水掻きを持った怪物だった。
しかも、6体。
追う者が一転して追われる者となる。
黛の精神が焼き切れた。
黛 あああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!
宇宙人!!!!!
地球を征服しに来た宇宙人だあああああああああああああああああ!!!!!!!
月見里 ちょ、ちょっとwwwww
黛と、それを追いかける月見里は、再び小屋に戻ってきた。
黛 大変だ!!
宇宙人がいるッ!!!
月見里 え、えっと、追っかけて行ったら、同じような水掻きの怪物が・・・
しかも6体も!!
それを見たら、黛さんが変なこと言い出して・・・
黛 何を言ってるんだ、宇宙人がいたじゃないか!!
地球防衛軍をッ!!
一方その頃。
小屋の中の4人は、机の上には呪文のようなものが書かれた本とレシピのようなものがあったのを発見していた。
北条、八星、ルーダーは覗き込んだ。
ルーダー Oh!Yes!!
北条 これ、何の本ですかね?
ネイティブな言い回しなんで、私はちょっと・・・
ルーダー これは、オカルト的にヤバイ・・・
北条 聞かない方がいいですか・・・?
ルーダー これは、オカルトの領域の本だ。
コリィ なんだ私は興味ないね。
ルーダー この本のタイトルは『Cthulhu in the Necronomicon』・・・
八星 オカルトは専門外なんで。
北条 一級品の魔術書じゃないですか!!
ルーダー その方面では超有名な魔術書だ・・・
八星 魔法・・・って、人を生き返らしたり、そういうヤツ?
さっきの日記に「全て無かったことに出来る」って・・・
コリィはもう一つのレシピを手に取った。
コリィ ィネァ グシャナ ェ デイム コトゥリィ セミェリィ ウ レム ニ ィ ナナ ツァァ
読めません!!
そこに黛が駆け込んできた。
黛 宇宙人だ!!
北条 ちょ、ちょっと、一体なんなんですか!?
月見里 雨合羽の人物を追って行ったら、大きな水掻きを持った怪物が6匹もいて。
黛さんが駆け出したので、そのまま戻って来ちゃいました・・・
6人は再び小屋を調べたが、これ以上の情報は出てこなかった。
北条 ほかには何もないか・・・
黛 結局、真魚ちゃんはいないんだよな・・・
八星 日記と照らし合わせられないかな?
月見里 でも、その魔術書の言葉が分からないと・・・
八星 一旦、ホテルに戻るしかないのかな。
北条 そうですね。
魔術書はルーダーが持ち、6人はホテルに戻った。
ちょうど、フロントに到着した瞬間、島中が異様な雰囲気に包まれた。
ホテルの中や外、あちこちから悲鳴が響き渡りはじめる。
見える範囲では、のたうち回っている人の身体には泡が付着していた。
そして、どこおからともなく湧いて出た泡は6人も包み込みはじめた。
泡に触れた部分は焼けるように激痛が走る。
あまりの痛みによって6人の意識は消えてしまった。
消え行く意識の中、目にしたのは海の上に霧が立ち込めている風景だった。
目が覚めると、真っ白な天井があった。
病院のようだった。
全身は傷だらけで身体中が痛い。
6人は、奇跡的に救助され、病院に搬送されていた。
後に知った事だが、来渕島で原因不明の大規模な地殻変動があったという。
来渕島は西側を中心に大半が海に沈み、住民の多くが行方不明となった。
その中には大路正人、姫野真魚の名前もあった。
最終更新:2015年03月02日 01:34