ヘリオス:話はすんだか?

グラツィア:はい。お待たせしてすみません。
ご飯をいただきましょう。

ヘリオス:(保存食をやわらかく煮込んだスープをよそって)ほら。たいした味じゃないが。

グラツィア:いえ、ありがとうございます。

ヘリオス:(黙って食べる)

グラツィア:私との約束を覚えていますか?(食器を受け取る)

ヘリオス:…いつの約束か、聞いてもいいか?

グラツィア:5年前のです。

ヘリオス:………。
覚えている部分はある。しかし、記憶をなくした人間は、「忘れたかどうかさえわからない」。

グラツィア:心当たりはない、という事でしょうか。

ヘリオス:すべてを覚えているかと言えば、正直、自信はないな。
ただ…。「必ず帰る」と言ったこと。
そして、「一緒に旅に出よう」といったこと。

グラツィア:覚えていらっしゃるじゃないですか。

ヘリオス:それであってるのか?

グラツィア:はい。
叶いましたね。と言いたかっただけなんです。(にこ)

ヘリオス:(大きく息をついて)忘れていると、責められるのかと思った…。

グラツィア:どうして、記憶をなくしていると知っている相手を責めるのですか?
何を覚えていて、何を覚えていないのか、は私では分かりかねますが…。

ヘリオス:そりゃあ、忘れるということは罪だからだ。
相手が悪いとか、原因がどうとかじゃない。忘れると言うこと自体が罪で、そして優しい赦しだからな。

グラツィア:そうでしょうか。私は罪だとは思いません。
忘れてしまう事は人として必要だからこそあるものなのだと思いますから…。

ヘリオス:人間は必ず忘れる。
つまり、罪深いイキモノってことだ(苦笑)

グラツィア:それは大変ですね。

ヘリオス:とはいえ、罪イコール悪、とは俺は考えないけどな。

グラツィア:ヘリオス、いただきますね(口をつける)

ヘリオス:ああ。火傷するなよ。

グラツィア:はい、ありがとうございます。

グラツィア:司祭にとっての罪はイコール悪です。

ヘリオス:司祭にとっては、か。じゃあ、司祭以外にとってはどうなんだ?

グラツィア:さあ、私は司祭でなかった日の方が少ないので、そこはあまり…。

ヘリオス:俺はその逆で、司祭の常識はわからないな。

グラツィア:そうですね。それは当然なのだと思います。
それは分かりやすい司祭以外の常識なのかもしれませんね。

ヘリオス:だが、罪は「人間が作るただの基準」だと言うことを、俺は知ってる。
だからこそ、罪は赦されるものもあるが、悪は赦されないんだろう。(もぐもぐ)
ま、そういうことだ。

グラツィア:(もぐもぐ)

ヘリオス:たとえば、イリスリードとアルティアスでは、罪になる事象が違い、罪状も違い、重さも違う。
立ち位置が変われば、こんなものが罪に問われるのか、ということが罪になる。

グラツィア:はい。

ヘリオス:はたしてそれは悪なのか?と、俺は個人的に考えている。ま、あくまで個人的にだ。

グラツィア:罪に問われるから悪、とは限らないのではないでしょうか。
少し前に言ったことと矛盾するかもしれませんが…。

ヘリオス:罪に問われることが、イコール悪と、俺は思わない。繰り返すようで悪いがな。
だから、忘れることは非常に罪深く人間が持つ罪だが、それは悪意もないし、悪でもないってことだ(苦笑)

グラツィア:結局忘れることは、罪ではあるかもしれないが、悪ではない、がヘリオスの考えなのですね。

ヘリオス:グランに言われると、やはり、忘れた俺が責められてるようでこう、申し訳ない(^_^;)

グラツィア:いえ、責めてはおりません。

ヘリオス:グランは昔から、まっすぐだからな。
たまに、汚れた俺がいろいろ申し訳なくなるだけだ。

グラツィア:私はまっすぐですか?

ヘリオス:お前はまっすぐだ。
曇りのない水晶みたいに、素直で、純粋で、……なぜか、俺が知っている頃から一片も変わっていないように見える。

グラツィア:先ほどの話ですが、少しニュアンスが違うとは私は感じています。

ヘリオス:ニュアンス?どのへんが?

グラツィア:「罪に問われる」は、罪が確定はしていません。
罪が確定したとなれば悪ともいえるのだと私は思います。
人がすること、間違いがない、とは言えませんが…。

ヘリオス:じゃあ、色が薄いってだけで死罪になった子どもは、罪が確定したから悪なのか?

グラツィア:その国では悪なのでしょう。
それが万国共通ではない、というのが一番罪深きことなのかもしれませんね。

ヘリオス:その国では悪、か。
じゃあ、悪も、人間が作ってるってのがグランの言い分か?

グラツィア:それ以外何がありましょう。

ヘリオス:なるほど、司祭という考え方を学べた気がするな。
グラン、ありがとうよ。
各地を渡り歩く俺のような人間は、世間様と違う認識なのかもな。

グラツィア:私は何も知らない、狭い世界を生きている者だと思います。
純粋だと言うのであれば、物を知らないからでしょう。
司祭の考え方なのでしょうか。
あくまで私一個人の意見なのかもしれませんよ…。
たくさんの物事を見れば、知れば、きっとより多くの選択肢ができるのでしょう。

ヘリオス:俺も一回死んだとは言え、たいして生きてないからな。
それがお前個人なのか、司祭の総意なのかは、判別が付かねえし、ま、どちらでもいい。

グラツィア:…嫌いになりましたか?(じっと見る)

ヘリオス:いいや?
お前はお前の思うことを言った。
そういうお前を、俺は…。

グラツィア:(じっと聞いている)

ヘリオス:……話を戻すか。
俺は、「悪」には二種類あると思っている。

グラツィア:…ヘリオス、言いかけた事、最後まで言ってからにしてください。

ヘリオス:言いかけたことはあとだ、あと!

グラツィア:わかりました(むー)

ヘリオス:お前の意見を否定しないと前置きして、俺の意見を言おう。
ひとつは、たぶん、グランの言う悪。罪だから悪。つまり人間が人間に与えた悪という称号であり認識だ。
でも、それは地方ごと、下手をすりゃあ隣の家でも違ってるかも知れない、なんともかたちがあやふやな悪だ。

ヘリオス:もうひとつは、「真の悪」。
歴史が流れようと、世界が変わろうと、人が入れ替わろうと、揺らぐことのない絶対悪。

グラツィア:絶対悪?

ヘリオス:誰が罪に問わなくても、誰に責められなくても、時代によっては賛美されもてはやされることがあっても、「絶対の悪」だ。

グラツィア:例えば?

ヘリオス:たとえば、を言うのが難しいな。
なぜって、俺が言うことは、すなわち「俺が生きる時代の悪」でしかないかもしれないからな。

グラツィア:「絶対悪」なのにですか?
???(首をかしげる)

ヘリオス:俺という個人が、ただ「こいつは悪だ」って言うのは私見にすぎない。
それでも、あえて言うとしたらだ。
「他者を陥れる目的の嘘」
「無垢な命を殺すこと」
「自らの命を奪うこと」
「私徳のための裏切り」

グラツィア:(手で口を覆う)

ヘリオス:ま、俺が考えつくのはこんなもんか。他にもいっぱいありそうだがな。
王様だろうが、神様だろうが、魔物だろうが、バケモノだろうが、これをするヤツは俺は悪と見なす。
まあ、俺もいくつかやってるがな!(苦笑)

グラツィア:……。

ヘリオス:それに、悪だからって裁かれるとは限らないしな(笑)

グラツィア:(じっとヘリオスを見る)

ヘリオス:…どうした?

グラツィア:…いえ…(目を伏せて、手でペンダントを触る)

ヘリオス:そのペンダント…大切なものか?

グラツィア:はい。

ヘリオス:…俺の記憶にないってことは、誰かからの贈り物か。

グラツィア:いえ、あなたのいなかった5年のうちに買ったものです。

ヘリオス:買った?自分でか?
一人で買い物するのもおろおろしてたのに、頑張ったな。

グラツィア:これはどうしても必要だったので…。

ヘリオス:だったら、大切にな。旅でものをなくすと、二度と見つからないぞ。

グラツィア:魔法がかかっていますので、よほどの事がないと落とすことはないと思います。

ヘリオス:なら、安心だな。御守りみたいなものか?

グラツィア:この5年、私を支えてくれたものです。

ヘリオス:………そうか。
俺がいなくなった後、誰かがお前を支えてくれたのか。

グラツィア:いいえ。
私にはヘリオスだけでしたから。

ヘリオス:(少し赤くなって)だからお前は、真っ直ぐすぎるんだってばよ…。

グラツィア:(首をかしげる)

ヘリオス:そのペンダント、中に何か入れるタイプのものだろ?

グラツィア:はい。

ヘリオス:中に入ってるものを教えてくれたら、俺も言いかけた話の続きをするが、どうだ?
(大事なものだから言わないだろうと思っている)

グラツィア:構いませんよ。
あなたの左手の骨の一部です。

ヘリオス:!?
……なん、だって…?

グラツィア:薬指だと思います。

ヘリオス:そりゃ、どういう…。

グラツィア:どういう…?

ヘリオス:俺の遺体を、お前が埋葬したということか…?

グラツィア:いいえ。

ヘリオス:(心:というか骨持ってんのかよ!ペンダントに骨!しかも俺の!!)

グラツィア:私の手元に届いたのはあなたの左手だけでした。

ヘリオス:届いたってなんだ。

グラツィア:アルティアスが見せしめに私のところへ送ったのです。

ヘリオス:……っ!!!………。

グラツィア:……ヘリオス?大丈夫ですか?

ヘリオス:(ぎゅっと抱きしめる)

グラツィア:ヘリオス?

ヘリオス:お前は…どんな思いで…。俺の手を受け取って…。
しかも、骨なんか後生大事に持ち歩いて…。
馬鹿だろう、お前は…!

グラツィア:…私は…。
再びあなたに会えると信じていました。
何としてでもあなたに会うと。

ヘリオス:そんな訳ないだろう!俺は確かに死んだ!今こうしてるのが奇跡だ!

グラツィア:はい、左手は死後切り取られたものだと分かっていました。

ヘリオス:だったらお前は、いったい何を探していた…?

グラツィア:あなたを探していました。

ヘリオス:………(はあーーーっと大きな溜め息)

ヘリオス:(こつんと頭を軽く軽く叩く)馬鹿野郎。

グラツィア:?

ヘリオス:「メルリース」とやらの、何の気まぐれかと思っていたが…。
「蘇って」、本当に良かった…。
お前に、一生、見つかりもしない亡霊捜しをさせるところだった。

グラツィア:エル様は「メルリース」は何でも叶えるものだと言っていました。
だから、願えば叶うと思いました。

ヘリオス:グラン。

グラツィア:はい

ヘリオス:…「ただいま」。

グラツィア:(ぱああああ)おかえりなさい。お待ちしていました。

ヘリオス:(ぎゅう)今度こそ、もう約束を破らない。
さっさとメルリースを倒して、その後は、あの時言ったとおり、お前と世界を旅しよう。

グラツィア:はい!!(ぎゅう)

ヘリオス:まだ、記憶がたどたどしいから、思い出せないところに気づいたら教えてくれよ?

グラツィア:はい、私に分かる事であれば。

ヘリオス:…あの時、言えたんだったか。それとも、言いそびれたんだったか。

グラツィア:何をですか?

ヘリオス:グラン。…愛してる。
あああ、旅の途中で言うことじゃねえな!(照)

グラツィア:…私をですか?

ヘリオス:お前以外に誰がいるんだ、森の野だぬきにでも言うのか!?

グラツィア:私は男ですが、よろしいのですか?

ヘリオス:お前も男性だろ、どうなんだ!!

グラツィア:どうとは?

ヘリオス:男に告られて、気持ち悪いならこう、ずばっと振るとかだな…!

グラツィア:どうしてですか?
こんなにも待っていた人から告白をしていただけたのに、振るということはないのではないですか?

ヘリオス:ど、どっちなんだ!?

グラツィア:私は、あなただけです。
あなたさえいてくれればそれでいいとさえ思っています。

ヘリオス:グランは結局、その、なんだ、あーーーーー、俺のことを好きなのか、恋人として!

グラツィア:もちろんです(にこ)

ヘリオス:(全身の力が抜けた)

グラツィア:ヘリオス?

ヘリオス:ものすごく緊張した自分が…。なんつーか…。
約束破りで、ゾンビで、記憶も欠けてるようなヤツで、しかも男で…。
よくお前、俺を平気で受け入れるなあ(笑)

グラツィア:ヘリオスであれば、何でも。

グラツィア:告白は緊張しますね。
神殿でも告白をしたいと言う方が来られてました。

ヘリオス:神殿の告白は意味が違う!!!

グラツィア:いえ、好きな人に告白したいが、振られるのが怖い…と…。

ヘリオス:グランはそれになんて答えた?

グラツィア:言わないままを選択されるのなら、それは今のまま変わりません。
そして、その方の命がもし明日突然なくなったとしても、あなたは後悔しませんか?と。

ヘリオス:………。グラン。

グラツィア:はい。

ヘリオス:俺と出会って、俺より先に、お前は俺が「ヘリオス」だと気づいたな。

グラツィア:はい。

ヘリオス:でも、俺には最低限しか接触しなかった。

グラツィア:はい。

ヘリオス:「そのままでもよかった」のか…?
なんつーか、その、近づかないほうがよかった、か…?

グラツィア:私は…。
あなたが私を忘れている、という事実を受け入れられなかった。
私はこの5年間、あなたを片時も忘れたことなどありませんでしたから…。
だから、私は「はじめまして」から始めるべきなのかどうか迷いました。

ヘリオス:………。
忘れて当然だったからな。
俺は、死の直前まで、お前を想っていた。
死に直結したことは記憶から完全に抜け落ちていたそれは、死という記憶に人間が耐えられないからだろう。

グラツィア:はい、左手が握っていたイチゴのチョコレートが物語っていましたから。
あの時は私だけのあなただった。

ヘリオス:(左手が握っていたイチゴのチョコレート → 自分が渡したものだと思っている)

グラツィア:(中:イチゴのチョコ…聞かないのが身のためなのか…)

グラツィア:でも、今は他の方々に囲まれ、私を忘れている、ということは私だけのあなたではない、そう判断しました。

ヘリオス:………お前だって、神殿で世間知らずで外を出歩くのもへろへろだったのに、逞しく冬山なんて登って。仲間に囲まれてたじゃないか。

グラツィア:私にとっては、あなたを探すためのキッカケでしかありません。
神が与えてくださったのであれば、あなたの足取りを追えるかもしれない。
あなたを知っている人に出会えるかもしれない。
ただ、それだけを思っていました。
なので、他の方々は私が一定の距離をもって接している事に気付いているのかもしれませんね。

ヘリオス:そんなもの、口できっちり相手に伝えなきゃ、なにも伝わらないぞ。
見ている光景だけで、お前も判断し、俺も判断した。

グラツィア:口で伝える…。

ヘリオス:人間がしゃべりが上手なのは、口で『言わなきゃわからない生物』だからだ。

ヘリオス:(心:こいつはメルリースの任務を遂行する気があったのか。不安になってきたぞ)

グラツィア:ヘリオス、ずっと傍にいさせてください。

ヘリオス:………。
今度こそ、約束、やぶりたかねえなあ…。

グラツィア:伝わりましたか?

ヘリオス:(額にキスして、もう一度抱きしめる)ああ。傍にいろ。

グラツィア:あ…。
はいっ!(ぱあああああ)(ぎゅうう)

ヘリオス:ほら、飯の皿!片付けるぞ!!

グラツィア:はい(手伝う。食器洗いくらいはできるはず!)

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最終更新:2017年02月13日 19:38