負けるな比呂美たんっ! 応援SS第17弾
『完全勝利と追加点』
雲の殆んど無い強い日差しが照りつけるグラウンド。今は夏休み、練習中の運動部の部員達の姿がちらほらみえる。グラウンド脇の木陰のベンチ、二人の少女がへばっている。片方の少女は腰掛けていたがもう片方の少女はベンチに寝転んでしまっている。「もうダメ…」「あつーい」「珍しい、比呂美がだらけてる」比呂美と呼ばれた少女は、先程濡らしてきたタオルを顔に掛けて涼をとっている。「さすがにねー、きっつーい」「そんなだらけたカッコ誰かさんには見せらんないね」腰掛けているほうの少女がニヤニヤしながら傍らの友に言葉をかける。「なーに、それ」「分かってるくせに」「だから眞一郎くんはなんでもないんだってば」「あれー、誰も仲上君だなんて言ってないのになー」「朋与!」「わっかりやすーい」「ホントに、そんなんじゃないんだから」比呂美は暑さとは違う顔のほてりのせいでタオルをはずせなくなってしまったようだ。ちょうどその時、朋与と呼ばれた少女はベンチ脇の通路をやってくる少年に気付いた。このあたりはもうお約束である。「ねえ、あれ、ちょっと、仲上君じゃない」「もう引っかからないんだから」「ちょっと、比呂美、比呂美」朋与の声色は迫真の演技のようだ。「もう、少しは休ませてよ」「比呂美ってば」「もー、いい加減にして」比呂美が友のおふざけに抗議の声をあげた途端、ベンチの背後から少年が声を掛けた。「よお、どした」「あはは」「し、眞一郎くん!」比呂美はがばっと身を起こし、落ちたタオルをあわてて背中に隠した。「練習大変なんだ」「う、うん、これはね、違うの」「暑いもんな、顔、すごく赤くなってるぞ」「違うんだってばぁ」「気持ち良さそうだ」少年の表情にからかうような素振りは無かったものの、比呂美はとにかく話題を変えようと試みる。「し、眞一郎くんは? 何しに?」「今日は図書室開放日だから…、冷房効いてるし、弁当持参で」「絵本の関係?」「ああ、デッサンとかそんな本とかは貸出禁止の本が多いんだ」「ふーん」「今日も夕方まで?」「うん」「じゃあ、俺のほうが先だと思うから、貰いもんの水羊羹あったはずだから、冷やしとくな」「う、うん、ありがとう」「じゃあがんばって」「うん、眞一郎くんも」眞一郎と呼ばれた少年はニコッと笑いを残し校舎の方へ歩み去る。「ふーん」「な、何よ」「水羊羹、楽しみだねぇ」朋与は顔をニヤニヤさせがら比呂美に顔を近づけ、ワザとらしく耳打ちポーズで囁く。「べ、別に冷蔵庫に入れてくれるだけじゃない」「でも、もうちょっと女の子が喜びそうなものを用意してくれても良さそうなのにねぇ」「み、水羊羹だって、風流でいいじゃない」「うんうん、いいよねえ 水羊羹、いいなあ、私も用意してくれる人がほしいなぁ」「な、なに言ってるんだかわかんない」ここで朋与はニヤニヤ笑いを引っ込め、別方向から攻める事にした。「お昼さあ、図書室に涼みに行こうか」「と、すず、だ、だめ、邪魔しちゃ悪いし」朋与は相変わらず食いつきのいい友の反応に気をよくしながら、先程までのニヤニヤ笑いを復活させた。「図書室に涼みに行くだけなんだけど? 誰の邪魔になっちゃうのかなー」「と、図書室は静かにしないといけなくて…」比呂美はもう自分でも何を言ってるのか分からなくなっている様だ。「じゃあ、私一人で涼みに行っちゃおうかなー」「だ、だめ」「えー、どうしてー」比呂美はバツの悪そうな顔をしながら降参することにした。「ホントに涼みに行くだけ?」「他に何か用があるのかなあ?」「す、涼みにいくだけなら」「え?」「涼みに行くだけなら、朋与につきあってあげる」「うんうん、仕方なくつきあってね」「しらない」朋与は完全勝利に気をよくし追加点をあげる事にした。「明日さ、今日二人で仲良く一緒に食べた水羊羹の味を教えてね。」「朋与っ!」「ほら、そろそろ戻ろ? 時間来ちゃうよ」朋与は潮時とばかりにベンチを立ち上がり集合を始めている仲間達の元へ歩き出す。「うー」比呂美は嬉しさと恥ずかしさを同時に感じながらも、友の後に続くしか選択がなかった。
朋与はこの後の練習で比呂美の闘志がどういう訳か通常の3倍増になっていることを身をもって知る事になる。が、それはまた別のお話。
了
●あとからあとがき6話まで視聴済み
本編は寒い季節なんで暑い時期をイメージしたらこんなおハナシができました。パーフェクトな女の子がみせる可愛い隙はいかがですか?
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