- 06-110 :テイルズオブシンフォニア:2008/07/28(月) 22:29:17 ID:pDcy8u7y
- <裏切りの代償>
これは一人の少年が二つに分かたれた世界を統一させるため、仲間と共に決死の旅を続けていた頃の話。
長い旅の間には沢山の逸話が残されたが、これもその中の一つ。
一度は袂を分かち、敵として幾度となく立ち塞がって来たクラトスという女性が、再び少年の仲間に戻って来て間もなく、王都テセアラで一つの商品が売られるようになった。
クラトス・アウリオン人形。
かつては古代大戦に活躍したと言われる、英雄の一人を模した縫いぐるみである。
フェルト素材で作られた二頭身サイズのもので、元は精悍で麗しい女性と言っていい姿形を上手くデフォルメさせたデザインは
当人と比べて随分と可愛らしく、子供が持ち歩くにちょうど手頃な大きさもあいまって、増してや古代大戦の英雄の一人とあっては売れない筈がない。
誇大な宣伝効果もあってか、発売後は直ぐに多くの店舗で品切れ状態となった。
勿論、そんなキャラクター企画など「馬鹿げている。」とクラトスはいつもの毅然たる態度を崩さず最初こそ突っぱねていたものの
売り上げは全て壊滅した町、パルマコスタを初めとする、被害の復興資金に当てられると聞かされ、彼女も渋々ながら商品化を了承した。
しかし、予想外にも購買層は当初ターゲットとされた子供ではなく、十代↑の男性が圧倒的な比率を占めていた。
どういうことなのか?その理由をクラトス本人が知った時、彼女は販売元であるレザレノ・カンパニー本社に怒鳴り込んだ。
「これは一体、どういうことだ。」
クラトスは何処ぞで手に入れて来た自分の人形を鷲掴みにし、社長室にいた男に突っかかった。
「どういうことも何も、貴公の縫いぐるみだが?」
椅子に座ったままでいるリーガルが答える。会長の貫禄に相応しく、元囚人とは思えない威風堂々たる気品を漂わせながら、書類の処理を行っていたところだった。
「当初の仕上がりからは大きく外れたが、素晴らしい出来だろう? それとも前の方が愛らしくて良かったか?」
「……リーガル殿、私が言っているのはそんなことではない。」
満足げに頷いて会話をする青年の前で、クラトスが怒気も露に、持っていた人形を机の上へと放った。
「そもそもこれは、縫いぐるみなのか?」
「いや、正確に言うと違うな。」
人形はクラトスが普段から身に着けている深青の衣服を纏っている。肌に密着したピチピチとした服で、袖がなく、ロンググローブ着用。
スボンもまた同じように密着したものにブーツ。彼女の愛刀、炎を宿したフランベルジュもセットで同梱されており、他のコスチュームも順次発売予定という話だった。
服の皺まで再現されているそれは、ぬいぐるみとはとても形容し難い。
そう。紛う方無きフィギュアである。あまりに精巧に出来ているため、目の前にいるクラトスと寸分違ぬ姿をしている。
外に若干はねた髪は肩につかない長さで、色はブラウンレッド。前髪に隠れ気味ながら同じ色をした意思の強そうな瞳。
小柄で華奢な体型。新雪を思わせる素色の肌に、すらりと均整の取れた肢体。線には僅かの無駄もなく
芸術的とさえ言える腰と胸の括れが出たボディ。ヒップは小さく引き締まっていて可愛らしい。
端正な顔立ちをしていて、本人同様表情までクールだが、それがまた何とも言えない妖艶な色香を漂わせている。
クラトスの生き写しのような人形だが、それが当人からして見れば気味が悪く、怒りの対象になっているのかもしれない。とリーガルは思った。
だが、自己解決するのも何なんで一応本人に確かめてみることにする。
- 06-111 :テイルズオブシンフォニア:2008/07/28(月) 22:33:27 ID:pDcy8u7y
- 「貴公ほどの人がそこまで憤慨する理由は何だ?」
「……」
クラトスは黙るしかなかった
「しっかりと口に出して言ってもらわないと、改善も出来ない。」
「そんな、私が……言うくらいなら、いっそ……」
何やら小さな声で、独り言を呟いていたクラトスは、意を決したのか、縫いぐるみの上着に手を掛け
一瞬ためらった後豪快に上へと捲くった。
「…………」
「…………」
気まずい沈黙。
お互い大人とは言え、さすがに赤面は避けられなかった。
「どうして、子供向けの人形に、こんな……」
「あ、いや、その……それはだな……」
「こんな、ひ……ひ、ひわ、ひわ、い……なものが……」
紳士な社長リーガルは、クラトス人形の服を手で直そうするが
当の本人が服に手をかけたまま硬直してしまっているから儘ならない。
人前に晒されてしまったそれは、贅沢にも最新の素材を使っていて、ぷにぷにと触り心地の良い感触をして
瑞々しく手に吸い付いてくる──性的アピール濃厚な胸。
服の下はしっかりと下着までつけていて、白いレースのブラジャーは、それを包むに相応しい洗練された美しい出来。
背中のホックをぷちりと外すとEカップほどある胸がふるっと出てきて
そしてなんとも愛らしい桃色をした乳首までもがお目見えする。
「ま、まぁ、発案者が言うには、細部までよく再現されているということだったし。問題なかろう。」
クラトスは、ずっとおかしいとは思っていたのだ。商品が発売されてからというもの、妙に人の視線が気になることが増えた。
しかも揃いも揃って皆同じ視線。
憧れや慕情といった純粋な感情とは到底言い難い、言ってみれば視姦にも近い眼差しを一様に受けていた。
馬鹿らしい思い過ごしだ。
クラトスが冷静にそう思っていた矢先、人形の重要問題点であるそれに気が付いてしまった。
全てを把握したその瞬間。立ち眩みに襲われ、がっくりと膝を折った。
「問題ない!? じょ、冗談じゃない! くすくすと笑われながら注目の的にされた私の姿、いかに惨めだったことか!
町を歩く小さな子供に至っては『ママー見て、あの人ー』と言い出す始末! 今直ぐ、商品を全て回収しろ!!」
普段は滅多なことでは感情を表に出さないクラトスが、これほどに声を荒げ、激昂を見せる様は珍しい。
今にも斬りかからん勢いで天然ボケを炸裂するリーガルに迫った。
するとそこへ
「そんなことさせるか! 」
実は最初からこの場にいたらしい、ロイドが初めて声を発した。
明るい茶色の髪を幾つかの房に分けて立て、白いボタンが鏤められた朱の服といい
一見すると派手めな配色をしているが、キリっとした心を映す表情には未だあどけなさが残る。
戦隊ものヒーローにいる赤い人にも見えるが
「正義なんて言葉ちゃらちゃら口にするな! 俺はその言葉が一番嫌いなんだよ!」
という名言を残していることから察するに、彼はそういう類の人間ではないらしい。
腕を組み、やけに自信満々な口調で彼女の前まで歩いて来る。
- 06-112 :テイルズオブシンフォニア:2008/07/28(月) 22:35:57 ID:pDcy8u7y
- 「クラトス。あんたは、4000年間の自分の罪を償うために、命を懸ける覚悟で俺達のところに戻って来たんだろ?」
「そうだが、それがどうしたと……」
「事実、そのフィギュアは大当たり、生産が追い付かなくなってるほどだ。既に売上金はレザレノ・カンパニーが設立した復興支援のための基金に回ってる。
それなのに、今になって回収なんてしたら、せっかくの活動に支障が出るだろ。」
「だからと言って、何も、こんな……こんな風にしなくてもいいじゃないか……」
「こんな風にしたから売れてんだよ!」
丈夫な作りをした社長デスクを思い切り叩き、思いのたけをそこにぶつける。
ふふ、と両端のつり上がった唇の隙間から玲瓏な笑みがこぼれる。不敵に。
「認めろ。あんたが突っぱねたところで、欲しい奴は五万といるってことだ。」
蓋しロイドの台詞が戯言などではないことは、現実においての売り上げが如実に示している。
つまり
「世界を復興させるためには金が必要。それを稼ぐためにあんたが協力するのも、償いの一つじゃないのかよ!」
「……はっ!」
クラトスは唐突に思い出した。
この縫いぐるみの企画を最初に発案したのは、ロイド。彼自身であったことを。
「ロイド、まさか最初から……」
「あんたは4000年間、ずっとミトスの側で世界の滅びを見逃していた。そんなあんたの罪は、決して軽いものじゃない。
増してやその間に地上で起こった悲劇の数々からすれば、これくらい、大したことじゃない。」
「……」
言葉もない。全ては、初めから計画されていた、云わば懲罰(?)だったのだ。
愕然とするクラトス。
「だけどな。たかが人形ごときにムキになって妄想を膨らましているあんたの頭の方がよっぽど卑猥だぜ?」
ロイドはそう言って、机の上で置き去りになっていたクラトス人形を掴み、頭を優しく撫でた。
「ほら見ろ。ただの人形だ。」
「…………あぁ。」
確かにそうなのかもしれない。自分が考えすぎていたのか。元々フィギュアというものを知らないから……
体の細部まで表現する、彫刻のようなもののことを指しているのか。
では、周りの人々から痛々しい眼で見られていたのも気のせいか、ロイドの言う通り、私の頭の方が、いたいたし……いや、いや!しかし……
嫌な汗を掻いてクラトスが自分と葛藤していた、その時だった。
「ち な み に。」
ロイドは爽やかに笑う。17歳の少年に相応しい笑顔。
だが、実際にはこの場にいたクラトスもリーガルも、感じていた筈だ。
恐怖という名の戦慄を。にこやかに笑みを作る彼の背後に波打つ、深遠の闇。
ゆらゆらと揺れながら、彼女ら二人を呑み込む勢いで広がり漆黒に染まる――絶対的な、見る者の慄きを誘うに有り余るほどの迫力を。
「胸なんて、そんな甘っちょろいことでぴーぴー言ってるあんたに、面白い物見せてやるよ。」
絶句している二人を他所に、笑みを湛えたままでいるロイドは、付属アイテムでもある剣、フランベルジュを手に取った。
次いでクラトス人形の穿いているズボンとショーツを一気にずり下ろし
可憐な両足を割って、そして、なんというか、女性器を模っている場所へと剣の柄を突っこみ一定のリズムで突き上げた。
体内の素材はシリコンとゼリーの層になっていて、柔らかく包み込む仕様。柄で突くたびに絡みつくような、ぷちゅんぷちゅんという卑猥な音が静かな部屋に響いて──
「……ちょっ……無理……」
掠れた声でそれだけ言ったクラトスは、社長室の床へぱたりと横になって倒れた。
1.何故そんなところまで再現してあるのか、己の理解を超えたフィギュアという存在。
2.ロイドの言っていた通り、不覚にも人形如きにあらぬ妄想を膨らませてしまった愚かな自分。
3.それに伴ってくる購入者の目的。
それ等が頭の中一杯になったクラトスは、ついに考えることを放棄し、現実から逃避するが如く気を失った。
「哀れな……」
「見ろよリーガル。こいつ、散々犯された後みたいな顔してるぜ? おもしれー。」
人には誰しも、決して勝てない相手が存在するものだ。
4000年を生き、英雄と呼ばれた四大天使のクラトスも、こうしてロイドにだけは逆らえなかった。
その後人形のオプションとして、様々な衣装と意味深長な小道具が追加発売された。
着物を初めに様々な私服、パーティースタイルなどの普通のものから、レースの付いたゴシックロリータなドレス、際どいラインのビキニの水着。
果てはコスプレ系の定番ナースやバニーガールといったなものまで売られ、その全てが三日も経たずに完売した。
そしてついには、等身大人形の開発案が出たその瞬間、クラトスは静かに剣を抜いたという。
最終更新:2012年01月24日 09:50