06-137 :ぺるそな4:2008/08/24(日) 21:55:44 ID:vztVqrbW
 夢を見た。この町に越してきた時初めて見た夢と同じ夢だ。
 音のない世界。どこまでも広がる虚空。
 果てなど見えなく、ただひらすら無が広がっているかのような、そんな世界。
 霧だらけで視界は全く冴えない。そんな中に自分はいた。

「ああ、また君か。
 二度もここにやってくるとは…どうやら君は想像以上の素養のようだ」
 不意に現れた影が笑う。人の形をしているがそれが誰なのかは分からない。
ぼんやりとしていて、時折不気味に揺らぐ。それはまるで霧。それはまるで漆黒。
ただ「そこにある」ということだけが分かる。これもあの時と同じだ。
お前は誰だ、そう問うても影は笑うばかりだった。
いや、正確には笑ったようだと言うべきか。

「君が『真実』に辿り着くことがあればいずれ分かるかもしれないよ。
尤も、『真実』など無意味なものでしかないかもしれないけど」
 どこか諦めたように笑うその影がゆらゆらと揺れる。まるで人のように。

「君は本当に予想以上に面白い素養だ。もっと君を試してみたくなった。
さて、君はこの試練を越えて『真実』に辿り着けるかな?」
 そう言った瞬間不意に影の形が揺らいだ。
そしてそこから伸びてきた腕が自分の手を捕らえる。
 その手に絡め取られた瞬間、不意に眩暈がした。視界が揺らぐ。
支えきれず膝が地に付く。

「君にもう一つの力を与えてみた。
君がそれを乗り越えるかはたまた自分自身に食われるか…楽しみにしているよ。
それを乗り越えた時…君とはもう一度会えるかもね」
 そう言い捨てると影は霧にかき消され、どこかに姿を消してしまった。
 それと同時についには支えきれず、その体が床に倒れる。
意識がどんどん遠くなっていくのを感じた。


「……またあの夢、か」
 目を開いた瞬間強烈な朝陽が目を焼き、意識が覚醒する。
 夢と分かっている夢。あの夢を見るのは二度目だ。
前はあの夢を見た直後にペルソナ能力が覚醒をし、TVに入れるようになったように思う。
 結局あの場所のこともあの影のことも、数ヶ月経った今でも分かっていない。
 考えていても仕方ない、そう考え下に降りようとした瞬間、不意に体のだるさを感じた。
 夢から覚めたのにまだ眩暈がするような、そんな感覚。
 だが、この時はまだ気づいてもいなかった。自分の体の変化になど。


「あれ、今日リーダーお休み?」
 始業時間になっても現れない隣の席の生徒に、千枝が驚いたように斜め後に座る花村に問うた。
 花村はそれに答えるように深い溜息を吐く。

「わっかんねー。休むとか別に連絡貰ってねーし。
でもアイツの場合サボるとか考えられねーから風邪か何かかもな」
「…彼、今大変そうだもんね。
家には独りだし…私たちのリーダーとしていつも頑張ってるから疲労が溜まってたのかも。
心配だね」

06-138 :ぺるそな4:2008/08/24(日) 21:56:29 ID:vztVqrbW
 花村の言葉を受けて千枝の前に座る雪子が心配そうにそう呟いた。
 いつも彼に頼りきりで考えたこともなかったがそう言えば彼は休む間すらなかったように思う。
 疲労の蓄積でいつ倒れてもおかしくない。

「んー、ま、このまま来なかったら休み時間にでも電話してみんわ。
アイツ今独りだから大変だろうし、なんなら様子見に行くし」
「ん、頼んだよ花村。
あたしら普段リーダーに頼りきりだからこういう時くらいは支えてあげないとね!」
 そんなことを話している間に担任の柏木が教室に入ってきた。
 そして滞りなく出欠確認が終わり、授業が始まるがそこに彼が現れることはなかった。


「あ、もしもし? オレだけど。お前どうしたんだよ、突然休んだりして。
風邪でも引いたか?」
 いつも前の席に座る少年が不在のまま時が過ぎ昼休み。
 花村は千枝に告げたように不在の少年に電話を掛けた。
状況が状況なだけに彼の身が心配だったがいつものように電話に出てくれて内心安堵した。

「あ、体調悪い? まあ、最近お前に無理させてたもんなー。で、平気なの?
 今家にお前一人だしなんなら帰りそっち行こうかと思ったんだけど。
え、菜々子ちゃんのお見舞い? うん、大丈夫オレらで行っておくから。
お前のことは部活なりバイトなり適当に言っておくから安心しろって」
 電話先の少年は、今日は体調が悪いこと、
そして見舞いには行けないが入院中の幼い妹を心配していることを親友に告げた。
 入院中の彼の妹の容態はここ最近安定してきているとはいえ彼は毎日の見舞いを欠かさなかった。
 妹想いの彼は毎日仲間と一緒に見舞いに行くことが日課になっていた為、
そんな彼女の見舞いに行けないことを申し訳なく思っているようだった。

「だーいじょうぶだって、菜々子ちゃんもお前に無理されるより早く元気になって
くれる方が喜ぶだろうしさ、たまにはオレらのことも頼ってくれよ、普段お前に頼ってる分。
そんじゃ、休み時間終わるからもう切るけど何かあったら何でも気軽に連絡寄越せよな。
オレらのうちの誰かは絶対暇だろうしさ、仲間なんだから遠慮すんなよ?」
 そう言って電話を切った。
 今にして思えばこの時気づいていれば良かったのだ、彼の声のちょっとした違和感に。


 次の日もまた彼は学校を欠席した。
今度はこちらが掛ける前に彼から昼休みに電話が掛かってきた。
 内容は今日も体調が悪くて学校を欠席すること、
そして妹の見舞いを頼むというものだった。

「お前ほんとに大丈夫なの? マジしんどかったら遠慮なく言えよ、相棒。
…うん、菜々子ちゃんにはうまく言っておくから。
早く治して学校来いよ、お前がいないとつまんねーし」
 そう言って電話を切った。
いつも冷静で頼りがいのある彼のことだ、大丈夫だろうとこの時は思っていたのだ。
 夜に入院中の彼の妹の様子を電話した時もまだどこかで信じていた。
いや、もしかしたら信じたかっただけなのかもしれない。
 しかし次の日になっても彼は学校に現れなかった。

06-139 :ぺるそな4:2008/08/24(日) 21:57:31 ID:vztVqrbW
 流石に心配になりその日は昼休みを待たずに電話をした。

「なあ…お前ほんとはやばいんじゃねーの?
 今まで学校休んだことなかったしさ…マジで心配なんだけど。
お前何でも独りで背負うこむとこあるしさ…今日お前ん家行ってもいいか?
 え、何一人で来て欲しい? 分かったけど…ほんと大丈夫なんだろうな?」
 その後自分以外の仲間を菜々子の見舞いに行かすと告げて電話を切った。
 後の授業のことなど覚えていない。ただ放課後までの時間が果てしなく長く思えた。
 花村にとって彼のいない学校は酷くつまらないものだった。
傍にいるのが当たり前すぎて忘れていたが彼が来る前の孤独を思い出した気がした。
 今では彼を通じて親しくなった相手は何人かいるし以前と比べて千枝や雪子とも「仲間」と
呼べるくらい親しくはなったが、彼が来る前まで花村はクラスでどこか孤立していた。
 人当たりのいい性格が幸いしてか千枝のように分け隔てなく接してくれる相手はいたのだが
商店街を潰した大型スーパージュネス支店長の息子という肩書きは彼から人を遠ざけた。
 この狭い田舎町では噂も早ければ人間関係も狭い。
商店街関係者など学校内外問わず多くいたし、
大人子供問わず敵意の篭った目で見られるのは当たり前になっていた。
 それもどこかで仕方ないと諦め、その環境に対する不満も自分の中で
押し込め都合の悪いものは笑って誤魔化して生きてきた。
 他人に嫌われるのは怖かったし、独りになるのも嫌だった。
それなら自分が我慢した方がマシだと思えた。
 どこかでつまらない毎日だと嘲笑いながらも自分を理解してくれる誰かをいつだって求めていた。
 そんな自分の前に現れたのが彼と想いを寄せていた小西先輩で、
二人に出会ってから自分は変わったとも思う。
 尤も、その内の一人は自分の気持ちを知る前に殺されてしまったのだけれど。
 彼はそんな抑圧された無意識の塊である自分の影を受け入れ、
いつまでも立てない自分の手を引いてくれた。
 おまけにペルソナ能力、なんて信じられないものまで覚醒して、
それからの日々は劇的に変化した。
 あれだけ壊したくてたまらなかったつまらない毎日などどこにもなく、
本当の自分とも向き合えた。
 花村は自然と彼に惹かれたし、すぐに親友になった。今ではかけがえのない相棒だ。

「学校、早く終わんねーかなー…」
 どこか心虚ろに外を見ながら花村はひたすら時が過ぎるのを待った。
 今はただ放課後の、その時間だけが待ち遠しい。


 放課後になったと同時に菜々子への見舞いを仲間に託し、
花村は足早に彼の家へと向かった。
 電話では普段と変わりない様子だったが流石に三日も休むとなると心配にもなる。
 今自分の自転車が壊れていることがもどかしく感じるくらいに彼の家までの距離は長く感じた。

「おーい、オレだ! 大丈夫かー?」
 チャイムを連打しながら花村は玄関の戸越に呼びかける。
 今この家は家主の堂島も妹の菜々子も入院していて彼しかいないはずだ。
 何度かチャイムを押すと程なくして戸が開かれた。

「あ、良かったちゃんと生きてた」

06-140 :ぺるそな4:2008/08/24(日) 21:58:16 ID:vztVqrbW
「勝手に殺すな」
 久々に見る彼の姿に安堵し、花村はほっと胸を撫で下ろす。
 見た所欠席前と変わりないようだ。
安堵したまま突っ立っていれば中へと招かれ、誘われるままに堂島家へと上がりこむ。
 この家に来るのは久々だったが菜々子も堂島もいないこの家は酷く静かだった。
 前はあんなにも賑やかだと思っていたのに。

「あ、構わなくていいから。お前の様子見たかっただけだし。元気そうで安心した」
 茶の用意をしようと台所に向かう少年を花村が呼び止める。
 それでも「一応は客人だ」と言って彼はそのまま台所へ向かってしまった。
 いつもと同じようなその光景。それでもどこかに違和感があった。
 いや、今日この家で会った時からその違和感はあったのかもしれない、
今まで気づかなかっただけで。

「その、さ…何かお前変じゃない?」
「―……」
 不意にそんなことを口に出せば返ってきたのは無言の返事だ。否定も肯定もない。
 それを肯定と受け取って花村は言葉を続けた。

「何つーか…うまく言えねーけど違和感あるっつーか…」
 このよく分からない違和感の正体は何だろう。そう考え彼の姿を凝視する。
 心なしか以前より縮んだように思う。いや、一回りほど小さくなったと言うべきか。
気のせいかもしれなかったが確かに違和感がある。

「…お前、縮んだ?」
 それを確かめるべく彼の隣に立てばそれは歴然だった。
 彼は確かに縮んでいる。数日前まで自分と同じくらいの身長だったからよく分かる。
今は前よりほんの少し小さい。
 若干とはいえほぼ同じ身長だったからこそ分かる。
そして、肩幅や腰周り、そんなものも細くなっている。
 彼は顔は整っているがどちらかといえばがたいは割としっかりしている方で、
自分よりも若干がっちりしている印象だったが今は自分よりも細いのが分かる。
 全体的に縮んで細くなったというべきか。
自分とほぼ同じ体格だったからこそそれが顕著に分かった。

「―……分かる、か…?」
「マジで? 何があったんだ?」
 まさかペルソナ能力の酷使のしすぎか? 一瞬そんなことも疑う。
 ペルソナはもう一人の自分とは言え自分の影を受け入れた自分達とは違って
彼は最初からその能力を扱えた。
 それが何故なのか彼自身も未だに分かっていなかったし、
それ故か自分達とは違い複数のペルソナを取り扱うことができるのも彼だけだ。
 彼だけが特異、言うならば何が起こってもおかしくない状態なのだ。
 最初からTVの中に入れる能力を持っていたのも彼だけだったし、
自分達と違い何かしら体に変化が表れても不思議ではない。

「…分からない。ここ二日ほど体がだるくて起きるのもままならなくて…
今日ようやく起き上がれたと思ったらこうなっていた」
「…まー、ペルソナ能力の使いすぎで一時的なものかもしんねーし少し休んだ方が
いいかもしんないな。だーいじょうぶ、もう犯人も捕まったし菜々子ちゃんも今は
落ち着いてるしリーダーが頑張んなくても何とかなるって。こういう時の親友、だろ?」
 そう言って花村は悪戯っぽく笑った。
 その笑みは自然と少年の心を落ち着かせた。

「…だといいけど。ありがとう、花村」
 そう言って笑った彼はいつもと違ってどこか可憐さがあるように感じた。

06-141 :ぺるそな4:2008/08/24(日) 21:58:55 ID:vztVqrbW
 おかしい、男に可憐さなど感じるなど。ましてや相手は親友なのに。

「まー、病み上がりだしあんま無理すんなよ? 明日から学校は来れるわけ?
 お前いないとつまんねーからさ、早く治して来いよ。
大丈夫、そんくらいの違和感なら誤魔化せるって。
縮んだのはまあ…苦しいけど他は体調崩して痩せたとでも言っておけばさ」
 ポンと肩を叩いて花村は笑った。
若干の問題はあったものの彼が元気であったことが嬉しかったのだろう。
 安心したように戻ると自分の鞄をごそごそと漁りだした。

「まー、そんなわけで景気付けにお前への見舞い品の鑑賞とでも行こうぜ。
じゃーん、どうよこれそそらね?」
 嬉々として鞄から取り出した物はAVビデオだった。
花村は俗に言うイケメンという容姿に似合わず意外とこう言った類の話やネタが好きだ。
 以前自分の部屋に来た時もエロ本やAVのチェックをされた。
花村曰く、ベッドの下に隠すと親に見つかるからやめておけオレなんて見つかって
母親に家族の前でタイトルを読まされたぞ、ということらしい。
 空気が読めるくせにこう言った年相応の若干の品の無さが彼が女の子に「ガッカリ王子」と
評される原因だろう、以前千枝が夜中に下ネタの電話を掛けられたと愚痴っていた。

「……お前…」
「あれっ、こういうの好みじゃなかった? 淫乱な同級生とか良くね?」
 女子高生物のAVを得意げに掲げながら花村は嬉々として少年の部屋へと続く階段を駆け上がる。

「先行ってるからなー、ティッシュの用意しとけよー」
 などと叫んでさっさと上へと上がってしまう。

「…まったく」
 そんな花村の陽気さに溜息を吐きつつも少年はお茶を持ちながらゆっくり上へと上がった。


「おお、すげー。これモザイク取る方法とかねーのかな。
ネットで探すと親に見つかるんだよなー」
 甘ったるい女の嬌声やぱんぱんぶつかる肉の音が響く部屋で花村はそれを食い入るように見ていた。
 菜々子ちゃんや堂島さんいたら遠慮してできねーけどたまにはいいだろ、
と言った彼は無遠慮に部屋でそれを再生し始めた。
 一々感想を言っては騒ぐ花村とは対照的に少年は酷く静かだ。

「うおっ、やべえオレ、トイレ! 悪ぃーけど借りるな!」
 AVが丁度絶頂を迎えた直後花村は大急ぎでトイレに駆け込む。
 その姿をどこか冷静に少年は見ていた。

「ふいー、すっきりすっきり。
やっぱ女子高生物はいいよなーってお前抜かなくて平気なの?」
「別に…」
 AVを前にして平然とした様子の少年を見て花村は訝しげに首を傾げた。
少年の反応はどこまでもクールだ。

「え、お前ってもしかしてこういうの興味ない人? もしかして完二と同じ趣味?
 オレって貞操の危機?」
「殺すぞ」
「すみませんでした」
 完二、というのは自分達の仲間の一人で一つ下の後輩だ。

06-142 :ぺるそな4:2008/08/24(日) 21:59:37 ID:vztVqrbW
札付きの悪と言われている割に本当は裁縫や可愛い物が好きで、
それを女子に気味悪がられて以来女子が苦手になっていた。
 それが極端な形で暴走し、一時期ホモではないかと思われていた。
尤も今では彼は直斗という同じ仲間の少女に惚れている健全な男子なのだが。
 その直斗が男装の麗人だというちょっと変わった所を抜かせば彼は極々普通の男子高校生
なのだがそんな過去のせいか今でも時折先輩である花村にそれをネタにされる。
その度本人はキレるのだが。

「まあ、そーんなクールな顔してるけどほんとはこっちはビンビンだったりするんじゃねーの?
 はーい、じゃあ身体検査いきまーす!」
「ちょ、花村…!」
 ぬふふと悪代官の様な笑みを浮かべ、花村は少年に飛び掛った。
 思わぬ不意打ちに少年の体が床に沈む。

「はっは、相棒恥ずかしがるなって! 俺たち親友だろ、クールでカッコイイ先輩がAV見ておっ勃ててるなんて誰にも言わねーって」
「花村、やめろ…!」
 ぐふぐふとまるで仲間のクマのように下品に笑って花村は少年の下半身に手を伸ばした。
 ちなみにクマは大の女好きだが修学旅行で完二の唇を奪った猛者である。

「さーて、検査タイム! …ってあれ…?」
「―……」
 無遠慮に股間に触れた花村は驚きのあまりその手を止めた。
 そこにはあるべきものがなかったのだから。

「あれっ…おかしいな、あるべきものがなくなってるぞ…?」
「……」
 もう一度確かめるようにそこを撫でる。股の辺りを手で弄ればその体がぴくりと反応した。

「っ…!」
 小さく殺したような声が漏れるとその顔が羞恥で紅く染まる。

「あのー…男の大事な物がなくなってるんですけど…もしかして、もいじゃった、とか?」
「そんなわけあるか」
「え、あのじゃあ直斗みたく最初から女だったとか…?」
「そんなオチは直斗だけで十分だ」
 はあと重い溜息が漏れ、花村は混乱したようにその動きを止めた。
 そんな花村の様子を見て少年は諦めたようにもう一度溜息を吐く。

「…今日朝起きたらこうなってた。原因は分からない」
「え、ちょっと待って…それってお前女の子になっちゃったってこと?」
「…そういうこと、だな」
 その言葉を聞いたと同時に花村の手ががしっと胸へと伸びてきた。

「ちょ、花村!」
「うおおお、この感触本物! すげえ柔らけえ! このむにむに感たまんねー!」
「ちょ…花村やめろって…! んっ…!」
 無遠慮に胸を鷲づかみにし、
揉みしだく花村はその感触に感動しこちらの話など全く聞いていない。
 夢中になってその感触を味わっているようだ。

「こ、これが生乳の感触…!
 しかもなかなかのサイズです、これは期待できそうです…ってふごっ!」
 まるでクマのように実況する花村に見事な右ストレートが炸裂する。

06-143 :ぺるそな4:2008/08/24(日) 22:00:10 ID:vztVqrbW
その勢いに花村は後ろに吹っ飛んだ。

「このケダモノが!」
「い、いてぇ…ちょ、ちょっとは加減しろよお、腫れるだろ!」
「勝手に人の乳を揉みまくってなにを言う、これが里中や天城だったらお前死んでるぞ」
「里中や天城にセクハラできるほど僕勇気ありません。ってか、本当、なんだな…」
 感触を確かめるようにもう一度手を見て花村は呟く。
そして確かめるようにその姿を見るがよく見ると確かに女性らしい膨らみがないわけではない。
男物の大き目の服で随分と隠されてはいるが。
 まさか女になっているとは夢にも思わず意識していなかったから気づかなかっただけだ。

「……一応男物の服で誤魔化せるかなって思ったけどちゃんと隠せてるか不安で
今日学校行けなかった。でもお前見る限り案外大丈夫そうだな」
「まあ直斗君っていう前例がありますからね…もう誰が女の子でも驚かねーよ。
あ、完二は無理だけどな」
 本来は女の子である直斗の男装にすっかり騙されていた過去を思い出し花村は溜息を吐いた。
 何故あの時すぐに女だと気づけなかったのか。
目の前の少年は最初から気づいていたというのだから情けない。

「しかもお前の場合文化祭で一回女装したじゃん?
 その印象強いせいかあんま違和感ねーっつーか…。
あの女装結構イケてたし、お前元々顔がキレーだから今もそんなに抵抗ないし」
 これが完二とかだったら悲惨だったけどな、
と付け足す花村はどうやら文化祭の女装完二が忘れられないようである。
 少年はがたいこそ割とガッチリしていて制服の着こなしや振る舞いが男っぽいせいか
男前という印象を抱きがちだが顔そのものは整った美形である。
 男らしい顔というより美人系の顔立ち、と言った方が正しいだろうか。
そのせいか今でもあまり違和感がない。
 元々肩幅などががっしりしていても細身だったせいか女になっても迫力のある美人と言った感じだ。

「そうか…なら良かった。けど…お前あんまり驚かないんだな」
「驚くも何もお前、出会ったばっかの頃にいきなりTVの中に手突っ込んだ挙句中に
入り込んだりペルソナなんていう得体の知れない化け物召喚したりするような奴ですよ?
しかもシャドウとか自分の影とか現れるしさ。驚きにも慣れたっつーか、
むしろあっちのがビビったつーか。
しかも直斗が女だったんだからもう何があってもおかしくねーよ」
 それにお前はオレたちと違ってちょっと特殊だし、と付け足して花村は笑った。
 こんな風にどんなことでもすぐに順応し受け入れるのが花村の美点だろう。

「気持ち悪い…とか思わないのか?」
「やー、吃驚はしたけど別に? 外見変わってもお前はお前じゃん?
 オレの親友には代わりないし、女だろうがオレたちの友情は変わらないだろ、相棒?
それにオレはむしろお前が冷静なことに吃驚だよ」
 そう言って花村は笑った。こんな風にどんな相手にでも気を使え、
友情に厚い男だからこそ少年いや、少女は花村を信用しているのだ。
 花村はこう見えても酷く優しく繊細な面がある。
他人の機微に敏感で自分を殺してでも相手を立てることを忘れない。
 多少感情的な面があるが基本はいい奴なのだ。
だから少年、いや彼女も彼をかけがえの無い相方だと思っている。

「はは、俺が取り乱したりとかそっちの方がらしくないだろ。

06-144 :ぺるそな4:2008/08/24(日) 22:01:24 ID:vztVqrbW
でも、花村…ありがとう。お前に気味悪がられたらどうしようかと思った」
「何言ってんだよ、そんなことで嫌う程オレたちの友情ヤワくねーだろ?
 何てったって殴り合いまでした仲だし? それでだ…殴り合いまでした仲だからこそ言う!
 お願いします、オレの一一世一代のお願い聞いて下さい!」
「―……一応聞いてやる」
 何だか物凄く嫌な予感はしたが真剣な様子で手を合わせられては無下にできない。
しぶしぶ承諾すれば花村の目が輝いた。

「マジでか!? よしじゃあお願いします、この場でストリップを…ってぶはっ!」
 ストリップという単語を吐いた瞬間凄まじい勢いで蹴りが顔面に炸裂し、
花村は再び吹っ飛んだ。
容赦のない一撃はどうやらクリティカルヒットだったらしい。

「死ね」
「だ、だってこんな機会滅多にねーんだしよお…お前いい体してるみたいだし
独占生ストリップなんてとんでもなく滾るだろお…」
「りせに頼め、りせに。
それに親友の…しかも元男の裸見て楽しいか、お前は女なら何でもいいのか」
「ちょ、おま、りせちーこえーんだぞ。オレあの冷たい目で見られたら泣いちゃう。
まあそこは…脳内変換っていうか、さ!」
 りせというのは一つ年下の後輩のことだ。
準トップアイドルだったが今は休業して田舎に帰ってきている。
 命を救われたことがきっかけで彼女はこの元少年だった少女に惚れているのだが
彼女の内面を表した場所がストリップ劇場だったことは印象深い。
 彼女の影は随分と大胆であり、
そのことは彼女自身若干トラウマになっているようであった。

「じゃ、じゃあせめて胸揉ませて下さい! ラブホすらない田舎で燻る青少年に愛の手を!」
「…俺の胸揉んでお前楽しいか? 里中とか天城に頼め」
「ぷりんなら楽しいです。そしてオレはまだ死にたくない」
「むしろ一回死んだ方がいい」
「た、頼むよ~。彼女いない身としてはこんな機会ないんだしさ~」
 女と認識していないからの気安さというのだろうか。
こんな風にあけすけに物を言えるのは相手が元男の親友だからだろう。
 花村は決してモテないわけではない。顔はいいし性格もいい、
ただジュネス支店長の息子という肩書きからそれをアピールできない子が多いのだろう。
 商店街の敵と仲良くすれば商店街関係者から白い目で見られるのは目に見えている。
 それに彼が殺された小西早紀に惚れていたのは結構有名な話らしく、
それゆえアプローチできない子も多かったのだろう。
 彼は片想いだったけれど真剣に小西早紀に恋をしていた。
この町に来て常に孤独だった彼を初めて理解してくれたのが彼女だったという。
 尤も、それは彼女の死と彼女の花村に対する本心を知ってしまうという最悪な形で
幕を閉じてしまったのだが。
 花村は少し前まで小西のことを引きずっていた。
決して表には出さなかったが彼は彼女の死に深く傷ついていた。
少し前自分の胸で泣き、全てを吐露することでようやく自分自身と向き合い今まで
溜め込んでいたものを吐き出しようやく決着を着けることができたのだ。
 花村の明るい笑顔に隠された誰にも言えない哀しい想いを知っている。
彼はその傷が癒えるまできっと他の誰かと付き合うようなことはしないだろう。
 そんな彼の一途さと不器用さを思えば邪険に扱うのは酷く躊躇われた。

06-145 :ぺるそな4:2008/08/24(日) 22:04:43 ID:vztVqrbW
「……服、脱ぐのはなしだからな」
「え!?」
「少しだけだぞ」
 諦めたように少女は溜息ながらにそう答えた。
 それに花村は目を輝かせる。

「よっしゃ、流石は親友、心の友よ!」
 そう言うと犬が尻尾を振り乱すようにがばりと覆い被さってきた。
その姿は耳まで見えるようでまるで犬だなと思った。

「花村、この体勢は…」
「まあ、雰囲気雰囲気」
「…脱がすのはなしだからな」
「約束はちゃんと守るって」
 そう言いながら花村は無遠慮に胸へと手を伸ばしてきた。
 しかし存外その手つきは先ほどと違って壊れ物を扱うみたいに繊細であった。

「ん…っ」
 服の上から花村の大きな手が胸を揉みしだく。
服の上からとはいえ愛撫など一度もされたことの無い体だ、その手の動きに敏感に反応する。

「すげ…ほんと柔らかいんだな…。しかもお前結構でかいし…」
「そういうこと、言うな…」
 相手が元男の親友ということより年相応の興味と好奇心が先にくるのか、
花村は夢中になって愛撫した。
 自分の手の動きに合わせて豊かな乳房が形を変えるのは女性経験のない花村を酷く興奮させた。

「は…ん…っ」
 時折漏れる声は確実に色を滲ませていて興奮を煽る。
 目の前の相手は元男の親友のはずなのに、そんなことを全て忘れてしまいそうになる。
 快感に耐え、頬を上気させるその顔はまさに女のものだ、
今ではもう男であったなど考えられない。

「お前って結構えろい体してる? 服の上からでも感じてるみたいだし」
「えろいのはお前だ、そのいやらしい触り方やめろ」
「健全な男の子だから仕方ないんですぅー。つーか、お前でもそんな顔するんだな」
 クールという言葉がよく似合う元少年は乱れる姿など想像もできなかった。
 勿論自分同様エロ本やAVで抜いているのだろうがそんな姿を想像できない、
そんなタイプだった。
 だからこそ下級生にクールでかっこいいと人気があるのだろうが。
今のこんな姿を見たらその子達がどんなに嘆くことか。

「悪い、か…」
「いや、むしろ安心した。お前もちゃんと人間なんだなーって」
 こんな状況で言うべき言葉ではないのかもしれないがそれが正直な気持ちであった。

「お前は俺をどんな人間だと思ってたんだって…ちょ!?」
 服の中にするりと手が差し込まれ彼女は焦った。
思わず手が出そうになるのを強引に押し留める。

「お前、服の上からだけって…!?」
「脱がしてない脱がしてない! お前脱がさなきゃおっけーって言ったじゃん!」
「それは…確かに……」
 屁理屈のような気もしたが確かに花村は約束を守っている。
理不尽さ感じつつ約束は約束だからと渋々耐えることにした。

「ふあ…」
 汗ばんだ手と何にも覆われていない乳房が直に触れ合う。

06-146 :ぺるそな4:2008/08/24(日) 22:06:44 ID:vztVqrbW
 指の腹で乳首を捏ねられ、その体がピンと反った。

「ん、んー!」
「やべえ…相手お前なのにすげえ興奮する」
 花村の息遣いが荒くなっているのが分かった。
繊細だった手の動きも今は荒々しいものに変わっている。
 少女もまた初めての感覚に翻弄されるばかりでそれに耐えるのが精一杯で
最早表情を取り繕う暇も無い。
 お互いに余裕が無い、そんな状態だった。

「は、なむら…やめ…」
「お前そういう声出すんだ、もうほんと女なんだな。こんな興奮するとは思わなかった」
 頬を上気させ、快感に薄く涙を浮かべる少女は男だった頃の面影を残しつつも
その表情はもう完全に女のものだ。
 先ほど見たAVなんかより余程興奮する。

「ふああ…っ!」
「…っ、トイレ、行ってくる…!」
 花村は突如愛撫をやめると前屈みになりおもむろにトイレに向かって走って行った。
 その場に放置され、少女は蕩ける様な快感の余韻に少し浸った後ふと我に帰る。

「…最低だ……」
 花村に愛撫され、下半身がぐっしょり濡れている事に気づき、自己嫌悪する。
 よりにもよって男の愛撫で感じてしまったのだ。
しかもあんな女みたいな反応をして。自分は男なのに。
 それも相手はあの花村だ。親友の愛撫で感じるなんて汚れている。
花村との友情を汚してしまったような気がして自分が情けなかった。
 男なのにあんな風に感じたことも情けない。
女の体なのだから不可抗力だと言われればその通りなのだが女みたいに感じたことが許せない。
 気持ち悪いと、思えなかった自分が許せない。拒めなかった自分が情けない。
 そんな感情でいっぱいになる。自分は男なのに。
どうにかなりそうで怖くてたまらなかった。

「……ごめん」
 自己嫌悪に襲われていればそう呟いて花村がバツが悪そうに部屋に入ってきた。

「花村…」
「ごめん」
 もう一度その言葉を繰り返す。そしてその場で土下座する。

「オレ、最低だ、お前にあんなことするなんて…。
お前のこと大事な親友って思ってたのに興奮して無理やりあんなことして…。
自分のことばっかでお前のこと全然考えてなかった。
はは、最低だな…親友とか言っておいて襲うなんて」
「花村…」
 謝るのは自分の方だ。
花村だってあそこまでする気はなかったのだろう、たぶん冗談半分で。
 それなのに自分があんな反応をしてしまったから。
男の癖にあんな風に感じてしまったから。
 こんな自分が気持ち悪い。今すぐ殺してしまいたい。花村に申し訳ない。
 けれどそう告げる前に花村が先に言葉を続けていた。

「嫌だったろ…俺にあんなことされんの。オレ、お前のことすげー傷つけた。
勢いでお前の信頼裏切って…もう親友なんて言う資格ないよな。
しかもお前で抜いたとかって変態にも程があるだろ…ほんと最低だよ、オレ…」
 その声は少し震えていた。表情は見えなかったが泣いているのかもしれなかった。

「トイレで冷静になって…自分のやっちまったことに気づいて死にたくなった。

06-147 :ぺるそな4:2008/08/24(日) 22:08:06 ID:vztVqrbW
しかもこんな最低なことやらかしておいてお前に嫌われたくないとか思ってて…
ほんとオレもうサイテー…」
 ははっと自虐的に笑っているがその声は相変わらず震えていた。
彼もまたあの時間に自分を責めていたのだろう。

「ごめん、ほんと。こんな言葉じゃ償えないって分かってるけど。
オレのこと何発殴ってもいいから…でも嫌わないでほしーとかほんと勝手だけど
ごめん、オレお前に嫌われんの嫌なんだ。オレ、お前が来るまで腹割って話せる
友達とか誰もいなかったからさ…お前失うのすげー辛い」
「花村…」
 花村の気持ちは酷く分かった。自分も花村に出会うまで親しい友人はいなかったから。
 いつもいつも遠巻きで見られていた。
何でもできるから羨ましい、お高くとまりすぎてて近寄りがたい、
クールですかしてて気に食わない、何考えてるか分からなくて怖い、
そんな陰口を叩かれるのはいつものことだった。
 元々感情表現が巧くなくて、友達はできにくいタイプだった。
 仲良くなりたくてもいつもどこか嫉妬と羨望混じりの目で見られた。
そんなものは望んでいなかったのに。
 好きでこんな顔に生まれたわけじゃない。
そんなにこの顔が気に食わないのならばいっそ焼いてしまえば皆満足なのか。
そんなことを思ったこともある。
 けれど花村は違った。純粋な好意で接してもらえるのは初めてで酷く嬉しかった。
 花村もまた拠り所を探していたから優しくしてくれただけかもしれない。
それでも自分は嬉しかった。
 自分のことを心から信頼してくれて頼りにしてくれる。
そんな花村はかけがいのない友達だと思った。
 親友、なんていう少しくすぐったい言葉も花村とだったら言える気がした。
 花村を失うのが怖いのは自分も同じだった。

「花村ごめん…謝るのは俺の方だ。
お前相手なのにあんな声出して…気持ち悪いと思っただろ、俺は男なのに」
「気持ち悪いとか…全然思わねーし…。
そりゃ完二とかオレみたいなのだったら絶対引くけどよ、お前顔キレーだしさ…。
ってか、お前は何があってもオレの親友なんだからぜってーそんなこと思わねーって!」
 大慌てで少女の言葉を否定し、顔を上げた花村はやはり泣いていた。
それは自責の涙なのだろう。

「お前…情けねー面」
「う、うるせー…オレほんとお前に嫌われたかもって本気で…」
「嫌いになるはずないだろ、俺たち親友なんだから」
 そう言って笑ってやったら花村は少し驚いた顔をした後へへっといつものように笑った。

「サンキュ…お前ほんと優しいよな。オレさ、お前のこと大事な親友だと思ってるから
もうしない。絶対こんな真似しない。だから今日のことも忘れる。…これでいいよな?」
「うん、これからもよろしくな、花村」
「おうよ、これからも頼むぜ、相棒!」
 そう言って笑い合った後花村は不意に立ち上がる。

「…じゃあオレもう帰んわ。何かこのままいてもまたヤベーことしちまいそうだし。
また明日学校、でな」
「うん」
 下に降りて出て行こうとする花村を玄関まで見送る。

最終更新:2012年01月24日 09:55