- 06-440 :まだらのひも ◆xmpqoWnvjw :2009/07/06(月) 01:34:32 ID:QTHZk5AP
- 女ヶ島の港につく半壊の軍艦の甲板。臥待月の上がった空の下にこうこうと明かりがともる。
賑やかな囃し声、調子はずれの歌声が輪になる。囚人達にとって久方の娑婆の宴だ。
その一方、宴を見下ろす豪奢な一室で、ぴんと張りつめた空気が流れていた。
ごろん、と重たげな音が部屋を渡っていく。
話があるといわれて待っていればこれだ。
「何のつもりだ…貴様」
地を這うごとき声にも動じずに、大柄な女は笑っている。
「女帝サマの要請よ。領海に入ってこの島の岸に船をつけるからには、国の掟に従わなければならなッシブル」
男子禁制の島に停泊する船に課せられるものはひとつだ。本来全排除されているところだが、ここは事情が異なる。
悠々とテーブルに腰掛け、濃紺のボンテージに身を包んだ彼女は、子供を諭すように、しかしあきらかにからかいを含んだ声で言った。
差し向かいの暗がりに掛けた女は黒衣だ。肩が落ちて腰が余り、微妙に着丈が合っていない服の所々を、しなやかな細身の稜線が押し上げているのがわかる。
白く握り締めた右手。左袖からは何も覗いていない。顔を横切る大きな傷の上に、柔らかな髪がおちかかっている。
日中の戦闘と、つい先程までつかっていた湯と。その他諸々で重い身体を怒りの気にそめあげて、黒髪の女が睨みをきかせていた。
「怖い顔は変わらなッシブルねえ。ただでも傷物なのに」
ひらひらと手をふるイワンコフ。
これでも譲歩させたのだ。日の落ちた間だけ、女帝の手に少なからぬやっかいをかけそうな男だけでよいと。
「俺だけじゃねェかどう考えても。嫌がらせか」
「ヴァナタ一人だけ?そう思う?」
「……まさか」
「確かめたければどうぞご自由に。ちなみにね、ジンベエなら領海外まで羽を伸ばしに出てるわ」
(逃げたな…)
要人護送目的でしつらえられていた艦の一室を占有するにかまけて危機を察せず、逃げ遅れた身を呪うよりほかない。もっとも、辛くも処刑前に断頭台から拾い上げたエースを筆頭に
酷く消耗し負傷した者も大勢乗せている船だ。
一行を匿うといいながら、この非常事態の最中にふざけた真似に出る女帝とオカマの女王とを読みきれなかったところには何の非も感じない。
夜間の戦力を削っているともいえる行為である。ただしここはアマゾン・リリー。男は弱い生き物と国中が考えている国でもあるわけだが。
「私達はどこの港へ寄り付くにも障りのある船に乗り合ってる。ここに匿ってもらってる身の上で文句言えた義理じゃないね。それにしてもヴァナタ」
強い酒の匂いが近づく。
「意外じゃあないけど…上玉に化けたわねェ」
酒瓶を投げつけるも、派手な女の背中はあっという間にドアの向こうに消えて、むなしく空瓶だけが返ってきた。
すっかりゆるんでしまった指輪をこぼしそうになり、赤く色づいた唇の奥で舌打ちする。いまいましげに全て外してベッドに投げ入れる。
髪が乾ききるまで葉巻を手にする気になれず、といって今の身体で右手を迂闊に使うわけにもゆかない。先程から左手の錘をひとつの中心に、身体感覚が大幅に狂っている。
クロコダイルは憤懣やるかたない思いで頼りなくなってしまった身体を肘掛け椅子に沈めていた。ごろんと重たい鉤爪が、また一方の船室の床を転がっていく様を背に聞いて、重いため息をつく。
開いた窓から入る夜風が心地いい。沖に出たアマゾン・リリーの護国の士たちは静かに任についており、彼女たちに守られる港で囚人たちの無礼講は盛り上がりをみせている。
甘ったるい女ヶ島の果実酒に辟易して、クロコダイルは夕餉の後すぐ部屋に引き上げていた。イワンコフの来訪を無視していれば安息そのものの夜だったはずだ。…否。
それでも奴は入ってきて、やることを済ませて去っていったであろう。
しかも先程の言いようだと、己の腹心の部下も同様の姿になっている可能性があった。
一目確かめるべきなのだろうが正直見たくない。愉快とはいいがたい想像をなんとか追い払おうとしていた、その時だった。
何の前触れもなく、ばちん、と窓枠に跳ねた人影が、そのまま侵入してきた。
「ワーーーニーーーっっ!!!!ここかっ!!!」
巨大な酒樽ごと飛び込んできた男は、まっすぐクロコダイルの……前を横切って、船室の隅に酒樽を叩き下ろし、どっかりと胡坐を組む。
そのまま壁に向かって、
正確にはイワンコフよりも前からいた先客に向かって、渾身の力で叫んだ。
「飲み比べだ、今すぐおれと勝負しろ!!!!」
ごろん。
麦わらと相対している先客は、無邪気なまるい双眸を侵入者に向けていた。
- 06-441 :まだらのひも ◆xmpqoWnvjw :2009/07/06(月) 01:41:30 ID:QTHZk5AP
- 酒樽からは強い花の香りがしている。
「一番強ェやつもって来た」
ごろごろ。しゅるるる…ごろろろん。
「杯をとれっ、さあ!!」
ふしゅるちゅるるる…ごろん。
「こっち向けよお前エェ!!!」
ちゅきゅるるるる……
やっぱり吸うか。葉巻。
乾くのを待つのも億劫になってきたクロコダイルは、ベッドと姿見の間に吊るしたファーコートに歩み寄った。ケースごと一式を取り出しテーブルに戻ると、
麦わらのルフィがあっけにとられた目で、先客とこちらを見比べていた。
「よォ麦わら。飲みすぎか」
麦わら帽子の背後で暢気にきゅるきゅると尾の先を振っているのは、毒々しい桃色の大蛇だった。主に似ずに人なつこい、蛇姫の眷属だ。
風呂を使っている間に部屋に入り込んで、何が楽しいのやら、外していた鉤爪に大喜びでじゃれついていた大蛇を、クロコダイルは結局追い出さずにいた。
得意気に尾を振りたてて、丁度音の鳴らないガラガラのように赤銅色の巨大な鉤を振り回すさまに、何やら思うところがあったらしい。
あいつら餌とれてんのかな。そもそも無事か?特段食って旨いわけじゃなし、始末されてなきゃいいんだが。
「わ…わにが、二匹……??」
口を切る前の葉巻をさすがに取り落とし、クロコダイルはぎらりと麦わらを睨みつける。
宴の前座、数刻前の夕餉の席。
女の姿で食事をしていたイワンコフを、この男は最後まで、イワンコフ当人と認めなかった。面白がったオカマの女王は無理に是正もしなかった。
同席したイナズマの姿にはさらりと首肯していた。「うん、ちょっきり半分だ。間違いねェ。カニちゃんだ」とは本人の言だ。
男が女になったところでたいした驚きもなく受け入れているところがありながら、等身から様変わりしてしまうイワンコフにはどうしてでも納得いかなかったらしい。
まあ…男としてならば、気持ちはよく分かる。あれとこれとは絶対別物だ。そうでなければならないはずだ、と思いたい。分かるのだが。
「てめえこの俺を本気で鉤と傷とで見分けてん…っ!何だ!!」
樽をほいと放り出したルフィは、無言でクロコダイルの胸元に手を伸ばしていた。翠のカフスがはじけて転がっていく。かまわずに黒シャツを引っ張り出しにかかった腕を
払おうと上げた右手が、次に左が捕り返される。ルフィの手はとらえた手首ごと黒シャツの襟を掴みなおして、左右に割り開いた。
びくっ、と息をつめた白い喉元。その下に常ならぬものが…ふっくら柔らかな膨らみが二つ、顔をのぞかせている。
女ホルモンを打ち込まれてものの10分、正真正銘だれにも触らせたことのない処女地であるところのそれは、しかし特段有難がられることもなく踏み荒らされていった。
シャツごと腕をとらえたままの掌でぐいぐいぐいと揉みこまれて、クロコダイルが小さく呻く。今こそはっきりとその所在を確かめたルフィが叫ぶ。
「絶対なかったもんが生えてんじゃん!お前誰だよ!!」
「誰も何もねェだろうが!!これでわからんなら諦めろてめェ、この手離せ!!」
「ワニに乳とか普通に無ェだろ何だこれ!?あれ、いやでもワニだよな!?この匂い…」
Fカップマシュマロにワニが生えてるなどといわれなかっただけでルフィの中ではわりと好待遇である…という絶望をクロコダイルは知らない。
鼻先を首筋に突っ込まれて、クロコダイルは今度こそ悲鳴をあげかけた。身を引こうとして椅子ごと倒れる。蹴りのけようとした片足をゴムの腕がくくりとる。
そのまま乗りかかられてはひとたまりもない。半乾きの身体から鉤爪を離したことを本気で悔やんだのと同時に、もう一度ドアが開いた。
「ルフィ!ここにおったの…か……」
花の香りが濃くなる。またしても来訪者だ。どいつもこいつもノックなしに入ってくる。
振り返ったクロコダイルは、背にした窓越しに、甲板いっぱいの囚人と女たちとがその一瞬で静まり返り、次々に倒れ伏すのを感じた。
世にもおぞましい覇気を立ち上らせて、島の女帝がゆっくりと扉をくぐる。
床に組み倒した女の、派手に裂けたシャツの合わせから、むくりとルフィが顔を上げる。
「おう、…蛇女!」
見たまま言うな。この命知らずが。
- 06-453 :まだらのひも ◆xmpqoWnvjw :2009/07/12(日) 17:30:18 ID:jsVWFOdN
- なぁ聞いてくれよ。こいつなんか混じってるんだ。ワニが女とまざってる。
おれワニに用があんだけど出てこねェんだ、でも絶対、こいつでさ…間違いねェんだよ。
おれは勝負がしたいんだ。
子供のように訴える麦わらに寄り添って、夜目にも艶な姿の女がたおやかに頷く。
『そうじゃな。では』
ごく優しく髪を撫でてくる、白魚のような手が恐ろしい。
『上手く化けたこの皮を…剥いでやればよい』
むせかえるような蘭の香りが覆いかぶさる。
『わらわに任せよ、ルフィ』
すでに頭痛のとまらない頭をかかえて、クロコダイルはあえかな息をついた。
熱帯夜の気にあてられた床の上に、見事な黒髪が流れる。
ぬるりと紅い、絶世の美女の唇が蠢いて、首から肩のそこかしこに降りてくる。
目を閉じるとその裏に、たたえられた紅が満ちてくるようで、いっそう息が苦しくなる。
身体さえ元のままであったなら大歓迎のはずだが、今は悪夢だ。
昼の姿は見るかげもない無惨な格好になって、白い身体が組み敷かれていた。
腕に走る痛みに、クロコダイルが眉根を寄せる。
「何を考えておる?」
「…別に。女に縛られるの久しぶりだと、思っ、…っぁ」
「ふふ、どんな具合だったのじゃ」
「は、興味、ねェだろ?…っく、んんっ…」
軽口も限界だ。
目を下げたすぐ前でむにゅりと、生白い乳房に良く磨がれた女の爪がつきたてられている。荒い呼吸に
あわせて波打って、はっきりと揉みしだかれる感覚を伝える。
異様な光景に思考がついていかない。
麦わらと違ってもののわかる女帝は、身体がどうあれ、見知らぬ女の中身が誰であるかは即座に見て取った。
それでも。恋を知った身になってはじめて今宵、不意打ちで火をつけられた女帝の嫉妬心は、その矛先を納められずにいる。
初見の一撃で戦意喪失させられていたクロコダイルに退路はなく、
苦しまぎれに理不尽さを指摘したところで、きつく組みついてくる柔らかな手は止まらなかった。
「わらわの不興を解くに尽力するのは、あたりまえであろう?」
「島の女どもじゃ、あるまいし…、っ割りにあわね…んだよ」
「では耐えぬいたら褒美をとらせようか…名案じゃな。夜が明けたら当代憲章に加えよう」
「おれ、冬島でお前みたいな王様見たことある」
「ルフィ!?わらわのようなとは、ど、どのようなおなごじゃ…!?」
「や、男だし。ていうか」
ワポルのことであるが蛇姫の知るところではない。
ルフィは興味津々といった態で動向を見守っている。ベッドに腰掛けて、
晴天の下で闘牛士と暴れ牛の入場を待っているような眼だ。
何が始まるかまるで分かっていない顔がにゅっと覗き込む。
「それ何がどうなってんだ?痛くしてねえんだろ?」
全身に血をのぼらせて、背後から絡みつくハンコックの腕のなかでもがく肢体。女の身体をしたクロコダイルは、まだ着衣のままだった。
- 06-454 :まだらのひも ◆xmpqoWnvjw :2009/07/12(日) 17:36:32 ID:jsVWFOdN
- 緩んだ裾から肌をつたって這い進む女の掌。じっとり汗が浮いた上に裂かれたシャツが黒くまといつく。
薄い肌をひたすら撫で回されている、ただそれだけで身の奥の熱に呼吸が絞られてゆく体が疎ましかった。
甘く首筋を食む唇がじりじりと背をはぐり下りはじめて、後ろ手の拘束もかまわずに、しなやかな背筋が強張る。
音を立てて女の両手に食いつく革紐一本を戯れに引き、ハンコックが微笑む。
「起きよ。ルフィが見たがっておる」
「…」
「出来ぬか…?」
低く囁きを注がれた耳から脳裏が真っ赤に塗られていく感覚に、クロコダイルがぞくりと震える。
ベルトから深く入り込んで膝頭を引っかいていた爪が止まり、汗と体液でとうに濡れた太腿の内側をなぞりあげてゆく。
逃げ場がない。ふいと顔を伏せるクロコダイルの頬に、ハンコックの唇がちゅ、と吸い付いた。その指が動く。
秘裂のはじまる箇所を親指が押さえ込んだ瞬間、背筋からつま先まで打たれたように電流が伝った。
ハンコックの手を太腿に挟み込んだまま、がくがくと膝がわななく。ぬめる裂け目に沿わせた二本の指が無造作に曲げられ、
ずぷりと沈み込む。尖る爪が浅いところを引っかいてくる。その度に痙攣の波がおきて止めることができない。びく、びくん、と跳ねる身体を
利用して、上体が引き起こされる。女帝の足が片方絡んで、支える両膝が開いたままになる。
ちゅぷり、ぬぷ、と音を立てて、這入りこんだ内側がかき混ぜられる。腰をよじっても指は抜かれずについてきて、狭い内壁を押し揉むように
奥まで探られる。滑らかな肌から酷い汗がふき出して、服ごとぞっくりと全身を浸し、クロコダイルから力を奪う。
中はまだ青いな、と嬉しげに肩口に吹き込むハンコックの囁きを、何かが邪魔してよく聞こえない。
乱れに乱れた自身の呼吸だとわかるのにだいぶかかった。
「どうした…先は長いぞ?クロコダイル」
「趣味悪ィ…」
「聞こえぬな。こっちは嬉しがって涎を垂らしているというのに」
「やめ…っ、どこのオヤジだ」
「減らぬ口よの。ルフィ、どうじゃ?分かるか?」
「分かんねェ。降参。脱がしちまっていいか」
「なっ……」
ルフィがベルトごと着衣を掴み、床についた膝まで引きずり下ろす。
制止する間もなく、布きれとなって肩にかかっていたシャツの裾の前を無遠慮にめくりあげられて、息が詰まる。
ハンコックがいたずらに埋めた指を蠢かせている。みえない、と、その手首を男の手がとった。
一気に引きずり出す。
内壁に絡みとっていた指を引き剥がされ、痛みだけではない衝撃に身を反らせて、クロコダイルは声も上げずに悶えた。
震えをおさめられない白い太腿が掴まれる。濡れた女の指が、柔らかな毛をさらに湿らせて巻き取り、くいと上に引いてくる。
かすむ視界の中で睨みつけた先には、裾の下に半分潜りこんだ麦わらが見えた。
見られている。
指がひいて空になったはずのそこが勝手に窄まり、奥から沁みる熱い滴りに埋まってゆく。
「なんか漏らしてんぞ?…」
砂人間から水漏れ、というのがルフィには理解できない。
茫洋と熱にうかされるクロコダイルの頭は別の意味を汲みとっている。
難しい顔で濡れそぼるそこを覗き込む麦わら帽子に、クロコダイルは本気で死にたいと考えた。
ふと麦わらが目を上げる。ナミんときみてえだな、とつぶやく声がする。
熱い男の指が前髪を分けて、頬にふれてくる。
「こんな熱いのに震えてんのか」
背後でじわりとふくらむ、蛇姫の微妙な殺気。
止まない頭痛がまた増した。
最終更新:2012年01月24日 10:03