- 07-167 :lenso ◆caHNbmR6wA :2011/04/03(日) 02:49:10.37 ID:TpXmd4jM
- 「―――誰?」
そんなことを唐突に言われたのは今朝のこと。
彼此18年も面倒を見てきてもらっている実の親に唐突に言われたから、正直驚いたっていうのが本音だ。
どうしてそんなことを言われたかって? 簡単。俺が女になってしまったから――――。
どうしてそんなことになったかなんて分からない。俺が聞きたいくらいだ。
昨日の晩までは至って普通だったのだ。
「望(のぞむ)ー、ご飯食べるー?」
一階から母さんの声が聞こえてきた。俺の家はなんら変わりない一般的な2階建ての一軒家である。
「おーう、食べるわー」
「珍しいね、お兄ちゃんが一緒に食卓に来るなんて」
そう言ったのは3歳下の妹の愛美(まなみ)。今年の春、もうすぐ高校生になる。
猛勉強の末、目指していた高校に受かったそうな。
俺はというと・・・
「引き篭もりみたいに言うなよ・・・」
「だってほんとにそうみたいなんだもん」
「好きでやってねーよ」
そう、一ヶ月前の大学試験で見事に滑り浪人生となったわけだ。
自分で言うのもあれだが割りといい大学を目指してた。父さんが男なら絶対にいいとこ行けってうるさかったから。
あれから色々と考えて浪人という道を選んだんだ。親も自宅浪人することを条件に許してくれて心機一転頑張っているところだ。
- 07-168 :lenso ◆caHNbmR6wA :2011/04/03(日) 02:51:13.84 ID:TpXmd4jM
- 「あ、望ぅ 久しぶりー!」
そうやってこっち手を振って笑っているのは姉の瑞希(みずき)。姉ちゃんは今大学2年生だったっけな。
「そういう冗談まじで傷つくから」
「あはは、ごめんごめん」
まあこんな感じで家では受験失敗でからかわれている。もともと兄妹で冗談を言い合う仲だったから特に気にはしないが。
「―――いただきます」
父さんはいつも帰ってくるのが遅いから、普段は母さんと姉と妹が三人で食べている。
そこに珍しく俺が加わったということだ。
もしかしたら俺がこの食卓に加わった時点で既に何かが狂い始めていたのかもしれない。
「ちょっとトイレ」
「あんた食事中にトイレいくのやめなさいよー」
「しょうがないじゃん生理きてるんだから」
そう言って愛美が立った。
俺は女の人の仕組みとかそういうのには疎かったから、何がしょうがないのか分からなかったが、
とりあえず兄弟といえど男の前で口にするべき言葉ではないのは確かだと思った。
「女の体ってめんどくさいな」
「望にはわからないだろうねー」
「男にだって特有の悩みとかあるんだぜ?」
「何かあるのー?言ってみ言ってみ?」
こういうのに食いつきがいいうちの姉。
「いや、やめとく・・・」
何か面倒なことになりそうな予感がした俺はそう断った。
- 07-169 :lenso ◆caHNbmR6wA :2011/04/03(日) 02:53:14.61 ID:TpXmd4jM
- 「ごちそうさまっと」
久々の4人で食卓を囲んで食べるご飯はおいしかったなーなんて考えながら立ち上がった瞬間、
「イッ痛!!」
睾丸に激痛が走った。
「望の悩みって・・・それ・・・?」
痛さの余り反射的に掴んでしまっていた俺に姉ちゃんが言ってきた。
「ち、ちがう・・・関係ない・・・」
なんだかばつが悪かった俺はさっさと自室に戻ることにした。
「―――それにしてもさっきの痛み・・・なんだったんだろう」
今まで経験したことのない重い痛み。
「まあいっか。寝よう」
少し不安だったが、すぐに痛みは鎮まったし、何よりやたらと身体がだるかったから気にせず寝ることにした。
明日も痛みがあったら病院を考えよう――そして眠りについた
- 07-172 :lenso ◆caHNbmR6wA :2011/04/03(日) 03:48:20.94 ID:TpXmd4jM
- 「望ー?ちょっとお父さんが話あるって」
階段を上がってくる音がする。
まだ眠い・・・。起きたくない・・・。
そんな気持ちにはお構い無しに母さんが上がってくる。
「望!聞いてる――――誰?」
部屋に入るなりいつまで寝てんの!とか言われるかと思っていたら、
誰?とか聞かれた。
「え?」
「あなた誰よ。まさかっ!望の彼女?あの子ったら私の知らない間に!」
なんか目の前で母さんがわけのわからないことを言いながら、自分の頬を押さえている。
「母さん何を」
「あれ?でもおかしいわね。望はどこに行っちゃったのかしら?」
「だから俺はここに!って え・・・?」
ここにいるぞと胸に手をやると何かふにっとしたものが手に当たった。
「なに、これ・・・」
そこには兄妹関係上、見慣れた二つの小さな山があった。
そういえば何か声もおかしい。俺ってこんな声してたっけ。
「ちょっとどいて・・・!」
「ちょっとあなた!」
母さんを押し退けて洗面台に向かった。
自分の姿を一目確認しようと・・・。
だが鏡に映っていたのは俺ではなく、色白で髪が茶色の美少女だった。
「――なんでえええええええ!?」
- 07-173 :lenso ◆caHNbmR6wA :2011/04/04(月) 04:13:00.71 ID:z6b1yPyJ
- そうして今に至るわけだ。
今はというと元は父さんが話があるからということだったから、リビングのソファに腰をかけて話している。
「――それで?なんで呼び出したの」
「お前がそんな風になってしまったから忘れたわい」
手を腰にかけて驚いた、というより呆れた様子で父さんが言った。
「はは・・・」
俺だってどうしてこうなったのかわからない。
ただ今は何も考えたくない気分だった。思考がついていかない。
「困ったな。うちから男がいなくなってしまったじゃないか」
「いいじゃない。私は娘が増えて嬉しいわ」
リビングに戻ってきてぼやいていた父さんに母さんが言った。
息子がいきなり娘に変わったっていうのにどうしてそんなに楽観的でいられるんだ・・・。
そんなことを独り思っていると、二階から愛美と姉ちゃんが揃って降りてきた。
「あら!ほんとに女の子になっちゃったのね~」
どことなく楽しそうな姉。勘弁してほしい。
「むむ・・・」
何故か俺を睨む愛美。何も悪いことなんてしてないはずなんだが・・・。
「なんだよ・・・」
「ちょっと可愛すぎない」
どうやら悔しいみたいだ。言い方からなんとなくだがそう伺える。
いつもならどうだ羨ましいだろなんて言ってやるんだけど、今日はもうそんな気には当然なれなかった。
「望、服はどう・・・の前に"望"って女の子の名前じゃないわね・・・」
「望ちゃんでも可愛いと思うけど?」
「いやそこはやっぱり女の子っぽい名前でいこ!」
この女3人、とても楽しそうである。父さんは端っこの方で男がとかなんとかぶつぶつ言ってる。
「希(のぞみ)なんてどうかな!」
パッといかにも閃きましたという感じで指を立てて姉ちゃんが言った。
「いいかも」
「かわいいわね~」
「男が・・・」
父さんは会話には参加していないが、どうやら決まったらしい。
今日から俺の名前は"希"だそうだ。もうどうにでもなれ・・・。
最終更新:2012年01月24日 10:16