- 01-176 :アリス ◆Alice.9wCE:04/02/02 01:02 ID:fOeA8VC/
- アリスの娘たち~ サァラ
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サァラは姉のサヤカと共に、娯楽誌のヴィジョン撮影のためにスタジオにいた。
サヤカとサァラはまったく同じ遺伝情報を持つ双子だった。 サラサラのロング
ヘアに落ち着いた顔立ちの双子の姉妹には、二人同時の撮影の依頼が多かった。
編集長によれば今回のテーマは「マリオネット・シンメトリー」。
フリルやレースをふんだんに使った色違いのドレスを着て、1対の人形を思わ
せる演出だった。コーディネートされた色調は、サヤカは白、サァラは黒。それ
は2人の対称的な性格をも表現していた。誰にでも人当たりが良く、愛されよう
とする性格のサヤカと異なり、サァラは姉以外の人間とはあまり会話をせず、
どこか冷たい印象を感じさせる性格だった。
「じゃ、ドレスを脱いで。少し絡んでみようか?」
カメラマンの指示に、2人はドレスを脱いで、細かな装飾の施されたブラと
ショーツ、ガーターベルトにストッキングという悩ましげな姿で互いに向き合う。
撮影とはいえ、こんな姿で向き合うのは初めてだった。
「じゃ、お互いの頬に手を当てて、見つめ合ってくれないかな」
水面に移る自分に手を伸ばすような仕種の姉妹に、カメラマンも満足げに
シャッターを切る。
「お姉ちゃん……」
「撮影中よ、集中して」
普段と変わらない平常心を保つサヤカと違って、サァラは緊張していた。
まるでキスの直前のような体勢に、サァラは戸惑いと興奮を感じていた。
サァラは生まれたときからのパートナーである姉に、秘めた感情を持っていた。
- 01-177 :アリス ◆Alice.9wCE:04/02/02 01:04 ID:fOeA8VC/
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この双子の姉妹には、生まれる前から"双子のアリスの娘"となるべく、様々な
調整がアリスによって試されていた。しかし姉となる方には適性が発現したも
のの、妹となる方には外見はともかく、性格的には普通だった。外見がそっくり
だからという理由だけで、サァラは"娘"にされることになったのだ。そんなサァラ
が"娘"になることを受け入れたのは、「離れて暮らしたくない」というただ一点だけ
だった。自分と同じ姿を持つパートナーへの特別以上に特別な感情と、将来娘
となるための特別なカリキュラムが、サァラの姉への執着を強くしていた。
同性愛をタブーとする習慣はこの船には無かったが、"アリスの娘"たちがいる
以上、男の性愛の対象は彼女たちに向けられるのが普通だった。
またアリスが人間関係に介入し、生涯何度かパートナーを変える。したがって
特定の人間への執着心は薄められ、誰とでも分け隔てなく付き合えるようになる。
性転換を経験する"娘"たちの場合は事情がやや異なるが、幼少期を共に過ごす
元パートナーは通常は異性のままであるため、親愛の情は性転換後の不安定な
時期をやり過ごせば、伽を勤めるうちに徐々に異性たちへの憧憬を持つようになる。
対立と憎しみと執着を極力排除する努力。それは閉鎖空間内における安定した
営みの中で、もっとも大切なことであった。
サヤカから半年遅れて性転換したサァラは、普通なら年長の義姉と過ごす時期
を双子の姉と過ごした。サァラは親愛の情を目覚めさせる幼少期と、転換直後の
不安定な時期をサヤカと過ごしたのだった。それが彼女の人格形成に大きく影を
落としていた。サァラにとってパートナーは姉のサヤカ一人。それは心を向かわ
せるべき対象を限定してしまうことに、誰も気づかなかった。サァラは異端だった。
姉への背徳の想いに、姉以外に心を開くことを知らないサァラは、一人でじっと
耐えるしかなかった。
サヤカにはそうした妹の、本来ありえないはずの切ない気持ちに気づかないでは
なかったが、それは特殊な生い立ちが生む姉妹間の、屈折した愛情程度にしか
考えていなかった。今日までは……。
- 01-178 :アリス ◆Alice.9wCE:04/02/02 01:05 ID:fOeA8VC/
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「お姉ちゃん、ボク……」
「どうしたの?撮影中よ。"お人形"がしゃべっていたらヘンよ」
(そうだ、なるべく見ないようにすればいいんだ)
サァラはなんとか平常心を保とうとするが、姉の艶姿にどうしても目がいって
しまう。撮影用で実用性の無い下着は、姉の大切な部分もうっすらと透けて
魅せる。全く同じ体でも、サァラには違うものに見えた。
「……サァラ。私の横に座りなさい」
「え?あ、うん」
サァラはカメラマンの指示を聞いていなかった。姉がフォローしなければ、咎め
られていたところだろう。手がそっとサアラの肩にあてられ、身を寄せあう。姉の
髪がサァラの肩をくすぐり、くっつけられた肩と頬から、想い人の動悸を伝えてくる。
「じゃ、サァラちゃん。今度はお姉さんの背中と腰に手を回して、ゆっくりと押し倒して」
(そ、そんな……ボク)
サァラの緊張がサヤカにも伝わったのか、"落ち着いて"というふうに、サヤカは
やさしく微笑み返す。
(ボク壊れちゃいそう……)
「はい、ストップ、ストップ。どうしたの?サァラちゃん。顔真っ赤だよ?」
「あ、あの、なんかその……」
「大好きなお姉さん見てると、緊張しちゃうよね?サァラちゃん」
撮影の流れを見ていた編集長が、サァラの心を見透かすように言う。
「え、ええと……その……」
「大切なお姉さんを、男みたいに押し倒すなんて……かい?」
まるで、心を覗き見しているような編集長の言葉に、サァラは首まで赤くなる。
「お風呂で鏡を見ていると思えばいいわ、サァラ」
「でも、……鏡はこんなにあたたかく無いよ」
- 01-189 :アリス ◆Alice.9wCE:04/02/08 15:21 ID:nKg7PIK4
- 結局、攻め側(?)の"黒のサァラ"が緊張に身を固くし、受け側の"白のサヤカ"
が落ち着き払っていては絵にならないということで、下着も全部とることになった。
何も身に着けていなければ、どっちがどっちかは見分けがつかないだろう、と
カメラマンが言ったからだ。しかし、攻守入れ替わったおかげで、サァラは姉に
触れられたり、抱かれたりする嬉しさと恥ずかしさで、余計にぼうっとなってし
まった。秘めた想いを閉じ込める殻に、少しずつヒビが入っていく。
「サァラちゃん、そんな恍惚とした表情しないで。男女が絡んでいるわけじゃない
んだからさ。ちゃんと目を開けて、しっかりと相手見つめて!」
カメラマンも当初のイメージとは違う展開に、つい口調が強くなる。
「まぁまぁ。サァラちゃんも慣れないシチュエーションで戸惑うこともあるだろうか
らさ。ここは路線を変更して、男女のように絡み合う双子姉妹なんてのも艶っぽ
くていいじゃない。サヤカちゃん、積極的にサァラちゃんをリードして。サァラちゃん
は、お姉さんに全部任せて、流れに逆らわないでね」
編集長が助け舟を出す。しかし本格的にリードされることになったことで、サァラ
はさらに別の心配をしなくてはならなくなった。
体のあちこちに触れる姉の手の感触や体温に、サァラは心をかき乱され、次第
にセックスのような興奮を感じていたからだ。
「はい、じゃサヤカちゃん中腰になって、サァラちゃんを後ろから抱きしめて、
サァラちゃんは少しおいてから、お姉さんをゆっくりと見上げて、そのままね」
サァラはカメラマンの指示にも上の空だった。背中をくすぐる姉の髪。胸に回される
姉の腕の感触。逆に自分の肩に触れる、姉の胸の尖り。じゅんっ、とした感触を
下腹部に感じて、サァラはそれどころではなかったのだ。サァラは頬を上気させ、
潤んだ瞳で虚空を見つめていた。
- 01-190 :アリス ◆Alice.9wCE:04/02/08 15:23 ID:nKg7PIK4
- カメラマンが痺れを切らせる前に、サヤカは妹の頤(おとがい)に指を添えて
自分に向かせる。急に視界に入った姉の顔に、サァラは身をこわばらせる。
妹の瞳に緊張の色をみてとったサヤカは、落ち着かせるつもりで、そうっと唇
を重ねた。鏡に映した似姿を持つ2人の妖艶なシーンに、カメラマンたちから
もため息が上がる。
(やわらかい、お姉ちゃんの唇。ボク、お姉ちゃんにキスされてるんだ)
抑えていた感情が瞳から溢れだし、頬をつたう。
「すみません、少し休憩させてください。サァラの体が冷えてしまったわ。毛布
を下さらないかしら?」
つうっと余韻を残してキスを終えると、サヤカは妹の体を気遣うように、撮影の
中断を申し出た。
「サァラ、しっかりしなさい。濡れてるわよ」
姉に小声で注意されて下を見ると、内股に光るものが見えた。
感じてしまった証拠を見咎められた恥ずかしさで、サァラはうずくまるように身
を抱える。サヤカは受け取った大きな毛布で、妹の体をいたわるように包んだ。
周囲には妹を気遣う優しい姉という光景にしか見えない筈だった。
結局、撮影はそこで終了ということになった。
機材を片付けながら、カメラマンが話しかけてくる。
「おつかれさま、でもサァラちゃんにも意外な面があるんだね。サァラちゃんと
寝たことはないけど、ホントはあんなに……」
妹への遠慮のない言葉を、サヤカがさえぎる。
「予定通りの撮影にならなくてごめんなさい。サァラはこのところ体調があまり
よくないみたいで、今日はもう休ませてあげようかと思ってるんです。」
サァラはいたわるように肩を抱く姉の手を、ぎゅっと握り締めた。
- 01-191 :アリス ◆Alice.9wCE:04/02/08 15:24 ID:nKg7PIK4
- 自室へ戻る前に食事を済ませよう、というサヤカの提案で、サァラはまだ人の
少ない食堂の片隅の席にすわり、姉がカウンターから戻ってくるのを待っていた。
「少しは栄養つけなきゃね。あなた、最近本当に元気が無いから…」
トレイの上は、サァラの好みを完璧に把握したセレクトで飾られていた。しかし、
サァラは下を向いたまま、料理に手を付けられないでいた。
いつもなら、たわいも無い会話とともに食事を進める姉が、黙って食事を続ける。
(やっぱり怒っているだろうな)
サァラは意を決して……しかし、下を向いたまま姉にあやまった。
「お姉ちゃん、今日はゴメンナサイ! でも、ボクは…」
「あんなに"瞳を"濡らしていたら、撮影にはならないものね」
特に怒っている風でもない声に、サァラは顔をあげた。
「お姉ちゃん、ボクはお姉ちゃんが……」
サヤカはすっと腕を伸ばして、開いた妹の口にポテトを差し入れる。
「お話は部屋でもできるわ。冷めない内に食事をすませましょう」
「……うん」
双子の"娘"は周囲の注意を引く。誰かにサァラの心を聞きとがめられないとも
限らないのだ。
食事中、交わされた言葉はひとつも無かったが、サァラは姉の唇の動きをずっと
見つめていた。フォークやナイフを使う姉の指も、いつもより艶めかしく見えた。
「私が食事をしているのを見るのが、そんなに楽しい?」
姉にはすべて見透かされている。自分の心をどれだけ隠し、ごまかしたとしても
無駄だ、とサァラは思った。
(部屋に帰ったらすべてを打ち明けよう。きっとお姉ちゃんが、行き場を失った
ボクを助けてくれる)
- 01-196 :アリス ◆Alice.9wCE:04/02/10 02:22 ID:42y7RaIX
- 「ボクは、お姉ちゃんが好きなんだ!!」
部屋に戻るなり、サァラは姉にそう叫んだ。
「……それで、どうしたいの?」
「どうって……。ボク、どうしていいのか、わからないんだ」
「私たち、姉妹にならない方が良かったのかしらね。」
「そんな、ボクはお姉ちゃんがいるから……」
「あなたが、本当は"アリスの娘"になりたくなかったのは、知っていたわ。
あなたが私のことを……その、単なる好きじゃないってことも。
私たち、生まれたときからずっと一緒にいるんですものね」
「じゃあ、どうして姉妹にならなかった方が良いなんていうの??
ボクはお姉ちゃんがいないと、ダメなんだよ」
サァラはもう自分の感情があふれ出るのを、止められなくなっていた。
しかし瞳にいっぱいの涙をためた妹の懇願であっても、サヤカは姉として
説き伏せなくてはならないことが、あると思っていた。
「サァラ、なぜこの船には、男と女がいるのだと思う?
どうして、"アリスの娘"以外の誰もが、何度もパートナーを変えると思う?」
「そんなの……、わからないよ! ボクにはお姉ちゃんだけだよ。
他の誰もいらない。お姉ちゃんさえいれば、ボクは……」
「出かけてくるわ。」
「出かけるってどこへ? 戻ってくるよね?」
「さあね」
「それなら、ボクも連れてって!!」
「お留守番していなさい、サァラ」
「まってよ、置いていかないでよ!一人にしないで!」
泣いてすがろうとするサァラを振り切り、サヤカは部屋を出ていってしまった。
- 01-197 :アリス ◆Alice.9wCE:04/02/10 02:24 ID:42y7RaIX
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「……というわけなんです」
サヤカは、娘たちの中で最年長のハルカに相談するために、部屋を訪ねていた。
「サァラちゃんがねぇ。確かに他の人への態度と比べると、あなたへのそれは
普通じゃないと思っていたけど……」
「サァラは姉としてじゃなくて、恋人として私を求めているみたいなんです。
自分ではその気持ちを抑えていたつもりなんでしょうけど、編集長にも言われ
ていましたから」
「ま、あの人はね」
「ハルカお姉さま、サァラさんはどうして、サヤカ姉さまが好きではいけないの?」
「ヒロミ、大人の話に割り込んではダメよ」
「ボク、もう子供じゃないもん」
「はいはい。それは憧れのアキラ君に"オトナ"にしてもらったらの話ね」
「ヒロミ……ちゃん、だっけ? あなたは好きな男の人がいるの?」
「え?ええ。好きって"大切"ってことでしょ?」
「じゃ、ハルカお姉さまは?」
「もちろん大好き!」
「ふふ、いい子ね、ヒロミちゃんは。サァラにもそんな風に育って欲しかった。
私はダメな姉だわ」
サヤカはヒロミの頭を優しく撫でたが、その瞳はヒロミではなく、まだ性転換
したばかり頃の、サァラの面影を映していた。
「あなたはあなたなりに、役割を果たしているわ。サァラは……、そうね、
まだ成長の途中なのよ。だから、あなたがしっかりと妹を導いてあげなきゃ」
「サァラは、自分でもどうしていいのかわからない、って言ってました。
でも、私にもどうしていいのかわからないんです」
「それで、ここへきたの?」
「ええ。本当は、サァラのことをお願いしたいと、思っていたのですが……」
- 01-198 :アリス ◆Alice.9wCE:04/02/10 02:26 ID:42y7RaIX
- 「うーん、そうしてあげてもいいんだけど、ヒロミはまだ手がかかる時期だし、
伝助先生のお手伝いもあるから、2人も面倒見切れないしねぇ……。シルヴィ
も途中でレイカに預けちゃったから、このコは最後まで面倒見てあげたいと
思ってるのよ」
そういって、ハルカはヒロミの手をとってひき寄せた。
ヒロミはくすぐったそうにしながら、ハルカにじゃれつく。
「こんな風に、スキンシップでもしてみたら?サァラがまだ成長できてないと思う
のなら、もう一度最初から始めてみるのもいいんじゃないかしら?」
「最初から?」
「そう、最初から。あなただって、最初はサァラに教えてあげたんでしょ?
どうしてもらうと気持ちいいのか。どうしてもらうと、人を愛したくなるか」
「それは……」
ハルカの言わんとしていることを、理解したサヤカは顔を赤らめる。
「その様子じゃ、あなたサァラにあまりかまってあげなかったんじゃないの?
だからサァラは行き場を失って、気持ちを自分の中に押し込めちゃったんじゃ
ないかしら?」
「でも、私たちは女同士で……」
「そうね。でも、したいときはすればいいんじゃないかしら」
「お姉さま!ということは……その、ヒロミちゃんにも毎日?」
「やぁねぇ、子供相手にただれた日常送っている、みたいな言い方しないで。
こうしてじゃれあってるだけでも満足するもんでしょ?
その……、そんなに過激なことをしなくてもね」
ハルカはちょっと頬を赤くしながら、じゃれついてくるヒロミの前髪をかき上げて、
額にちゅっと軽くキスをする。お返しにという風に今度はヒロミがハルカの頬に
キスをする。
(それって、十分過激な気もするんだけど……)
サヤカは同性同士の性愛には、あまり免疫が無かった。
- 01-199 :アリス ◆Alice.9wCE:04/02/10 02:28 ID:42y7RaIX
- 「そうね、相手がサァラちゃんじゃ、キスだけってワケにも行かないだろうし、
いいモノ貸したげるわ。ヒロミはココに座っていなさいね」
そういって、ハルカは部屋の入り口近くのワードローブから箱を取り出して、
サヤカに手渡した。
「何ですか?これは」
「うーん。まぁ開けて御覧なさい」
サヤカがふたを開けて中を見ると、そこには見覚えのある形をした、細長い
"物体"が入っていた。
「ハ、ハルカ姉さま。こ…、ここ、これはいったい……」
「えーと、その。見ての通り。どう使うかはわかるわね?それで、ここのところが
スイッチになっていて、強さも調節できるの。ほら」
ハルカがその"物体"の底にあるスイッチを入れると、鈍い音を立てて振動しな
がら、くねくねと動き始めた。
「う、動くんですか??気、気持ち悪いです」
「形はね。でも確実にイカせられるわよ」
「悪魔だわ……。まだいたいけなヒロミちゃんにこんなモノを……」
「まだ処女のあのコにそんな事しないわよ! レイカが持っていたのを取り上げ
たの。どっから見つけてきたのか知らないけど、それで私を……。いえ、そんな
ことはどうでもいいわ。電源はここにバッテリーを入れるようになってるの。
動かなくなったらチャージしてね」
サヤカはレイカとハルカが、どこでなにをしていたかを想像すると頭が痛くなった。
「…その、娘同士でって、結構あるんですか?レイカお姉さまとは……」
「ん?どうかしらね。私はレイカとしか……、彼女は中身は男のままね。
レイラとは、どんなことしていたのかは知らないけど」
「知らなかった……。お姉さま方がそんなことしてたなんて……」
「ああもう、今は自分たちのことを心配しなさい。サァラちゃんも、もしかしたら、
まだ恋愛感情は男のままで、そういう風にあなたを見てるのかもしれないわ。
だから、女としての悦びってのを教えてあげたら?」
にっこり笑ったハルカの顔は、サヤカには悪魔の微笑みのように思えた。
- 01-200 :アリス ◆Alice.9wCE:04/02/10 02:32 ID:42y7RaIX
- アリスの娘たち~ 反乱の予兆
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「……サァラ?寝ちゃったの?」
部屋へ戻ったサァラは、照明が暗く落とされた部屋の奥に声を掛けた。
照明を付けてみたが、やはり部屋のどこにもいなかった。
(どこへ行ったのかしら?留守番していなさいって言ったのに……)
サヤカは端末を叩いて、アリスを呼び出した。
「アリス。サァラがいないの。どこへいったか知らない?」
「アナタノアトヲオッテ、はるかノ部屋へムカッテイルトチュウデス」
「でも、部屋には来なかったし、帰る途中にもすれちがわなかったわ」
「ソウサクシマスカ?」
「そうして頂戴。今すぐ調べて!」
サヤカは胸騒ぎを感じて、即座にアリスへ要求した。
(どんなに広いといっても移民船の船内、結果は数秒でわかるはず)
「……ドコニモイマセン」
「どこにもいないって、どういうこと?中央ブロックの外にでたってこと?」
老朽化の激しい周辺ブロックには、確かにアリスの感知できないエリアも
存在する。
「ワカリマセン。C-7通路ノせんさげーとヲ通過後、ドノげーとヲ通過シタ
形跡モアリマセン」
「船内放送で呼び出して。ハルカ姉さまの部屋にもつないで頂戴」
「船内放送ニハ、申請理由ガ必要デス」
「行方不明者の捜索よ。あなたの許可があれば、放送できるはずよ!」
「許可シマス。……はるかガ出マシタ」
「ああ、ハルカお姉さま、サァラがいなくなってしまったんです。
アリスに探させても、どこにもいないって。あのコ私の後を追って部屋を
出たみたいなんですけど、どうすれば……」
「落ち着いて、サヤカ。IDカードを置いたまま部屋を出たのかもしれないわ。
まだこのブロックのどこかにいるかも」
「探してみます」
しかし通路や共有セクションのどこを探しても、サァラもカードも見つからなかった。
- 01-201 :アリス ◆Alice.9wCE:04/02/10 02:34 ID:42y7RaIX
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「嘘つき!お姉ちゃんなんていないじゃないか!縄を解いてよ」
サァラは、姉の行く先を知っているという男の後について、彼の部屋へ入った
が、そこに姉はいなかった。おまけに部屋へ入るなり、縄で縛られて身動きを
封じられてしまった。
「僕は嘘はついていないよ。きみのお姉さんを知っている、と言ったんだ。ここ
にいるとは言っていない」
「詭弁だわ。ボクを捕まえてどうしようって言うの?」
「伽を勤めてもらう」
そう言うと男はサァラの服をナイフで切り裂き始めた。
「バカいわないで、アリスの指示も無しにそんなことできるわけ……」
「僕はアリスに言われて、君を招き入れただけだよ」
男は下着にも刃を滑らせていく。
「そんなの知らない!」
「僕のところにはメールが来たよ。今すぐC-7通路へでて君と落ち合い、自分
の部屋で好きなようにしろってね。あんまり動くと怪我するよ」
「うそばっかり。アリス、アリス、アリス!!助けて!」
3度呼べば、危機を察知したアリスが助けてくれる。その身に危害が及ぶことは
めったに無いが、万が一の事態に備えて、"アリスの娘"たちは護られている筈
だった。
「無駄だよ。好きにしろってことは、君を殺してもいいってことだろ」
無理やりはだけさせられた乳房に、ナイフを突き付けられる。
(アリスが助けてくれない? まさか昼間のことを?)
スタジオにももちろん、セキュリティシステムがある。アリスがモニタしていたとし
ても不思議ではない。移民船のすべてのパーソナリティを把握しているアリス
だから、サァラの行動に問題を感じ、何らかのペナルティを課すことも想像でき
ないことではない。しかし、移民船内で誰かが誰かを罰するなんて、サァラには
信じられないことだったし、いままで聞いたことも無かった。
- 01-202 :アリス ◆Alice.9wCE:04/02/10 02:36 ID:42y7RaIX
- 「ボクはあんたなんか知らない。名前も知らない相手に傷付けられる理由なん
て無いよ!」
「それはどうかな?」
突きつけられたナイフの先から、うっすらと血が滲み出してくる。
老朽船とはいえ、中央ブロックにいれば命の心配など無く、危険な船外作業も
したことの無いサァラにとって、それは真の恐怖だった。
「お姉ちゃんを愛することが、そんなにイケないことなの?」
男の理不尽な行動の理由が知りたかったが、それはむしろアリスへの問いだった。
「何のことだい?僕は君を恨んでいる。君が誰を愛しているかなんて関係ない」
「どいういうこと?さっき言ったように、ボクはあなたを知らない」
「覚えていなくても不思議じゃないけど、冷たいね。同期なのに」
男はサァラの胸に舌を這わせ、滲んだ血を舐めとった。
「同期?」
「きれいな胸だね、柔らかいし。下はどうかな?」
はぐらかすようにそう言うと、男は下腹部へも手を伸ばして、乱暴に下着を剥ぎ取った。
「痛いだけじゃかわいそうだからね。少しは感じさせてあげるよ」
「どうしてこんな酷いことをするの?同期だからって、それが何なの?」
濡れてもいないサァラの中に指を挿れられる痛みに、顔をしかめながら詰問する。
「僕は君のせいで、"アリスの娘"になりそこなったんだよ」
- 02-287 :アリス ◆Alice.9wCE:04/04/10 21:16 ID:16HFpgZh
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「ボクのせい……?」
「そう。君があのまま娘になることを拒否していれば、僕がなれるはずだったんだ」
サァラは双子のサヤカと一緒に、"アリスの娘"になるための特別なプログラムを
受けていた。しかし、サァラははじめから自分の運命が決められていることに反発し、
娘になることを一旦は拒否した。娘になるには本人の意思が絶対であったから、
次の候補者に選択権が移ることになっていた。
「そ、そんなこと……。イタイ!やめて!!」
男は、サァラの乳房をねじ上げるように握りつぶした。
「僕はアリスの娘にならなきゃいけなかったんだ。それなのに、君は気まぐれに!
娘にならないといったり、なるといったり!!」
「ボ、ボクだってお姉ちゃんと、離れ離れになりたくなかったんだ!」
性転換装置は1台しかない。だから双子のアリスの娘を誕生させようとしても、
同時にはできない。性転換の為にサヤカと別れ、一人残されたサァラはその寂しさに
耐えかねていた。そして大好きだったサヤカと離れ離れになるよりは、同じ娘となって
暮らしていくことを選んだのだった。
「だから、気が変わったっていうのか?」
サァラは頬を強く叩かれた。口の中に血の味が広がる。憎悪と敵意を持った相手に頬を
叩かれるなど、アリスの娘にはありえないことだった。
経験したことの無い暴力行為に、サァラは震え上がり、声も出なかった。
「ふん、おまえさえいなければ。僕だって彼と……」
恐怖に色を失ったサァラの瞳に、男の握るナイフの光が映った。
- 02-288 :アリス ◆Alice.9wCE:04/04/10 21:18 ID:16HFpgZh
- (助けて、お姉ちゃん!)
必死で探すサヤカの耳に、確かにそう聞こえたような気がした。
サヤカは立ち止まって、もう一度耳を澄ませたが、聞こえてくるのは空調の音
だけだった。
「どう?見つかった?」
ハルカが通路の反対側からやってきてたずねる。
「いいえ、どこにも。ハルカ姉さま、私どうすれば……。サァラを一人にするんじゃ
なかった。あの子、泣いていたのに……」
「しっかりしなさい、サヤカ。さっき伝助先生にもお願いしてきたわ。
船内にある全ブロックの緊急救急設備要員にも声を掛けてくれるって。
あと30分探して見つからなかったら、評議長へも連絡が行くわ。そうしたら、
船のみんなが協力してくれるはずよ。」
「まさか、自殺なんて……」
「バカなことを言わないで!ねぇ、良くわからないんだけど、サァラはそんなに
思いつめていたの?」
「わからない。わからないんです!お姉さま。あのコはずっと、今日まで何も
言わなかったから。う、うぅっ……」
「双子の姉妹の間にも、わからないことがあるなんてね……」
「緊急警報!005発生。Cぶろっくノ保安要員ハ、大至急C7-310ヘ突入セヨ。
252ハ955モシクハ954。救急要員ハ蘇生術準備。」
唐突にアリスの基幹要員向け音声警報が通路に響き渡った。
事態の深刻さを聞き取ったハルカは、厳しい表情でサヤカにいう。
「あなたは自分の部屋へ戻って。後で連絡するから!」
「待って、ハルカ姉さま!私も行きます。サァラなんでしょ?サァラが危ない目に
あっているんでしょう?私も行かなきゃ!」
「まだサァラだと決まったわけじゃないわ。ついてきちゃダメよ!」
ハルカはこの時、サヤカを押し止めることができなかったことを、あとで後悔する。
- 02-289 :アリス ◆Alice.9wCE:04/04/10 21:19 ID:16HFpgZh
- 「助かりますか?先生」
ハルカは医療室でレイカとともに、伝助医官の蘇生術を手伝っていた。
「うむ、危険な状態じゃ。このまま再生槽に入れるわけにはいかん。
欠損部分を仮組織に置き換えんとな。しかし今の状態では手術もできん」
「サヤカの方は?」
「今は薬で眠らせてるわ。明日の昼まで目覚めないと思う」
「それまでには結果がでるじゃろう。おまえさんたちは一度部屋へ戻りなさい。
何かあればすぐに呼び出す。明日は長い一日になるじゃろうからな。少し寝ておけ」
「そうね、そうさせていただきます。ヒロミが心配だし。でも、明日はどうしようかな。
ヒロミをそんなに長時間一人にはできないし……」
「ウチにつれてくれば?」
「レイカのところへ?」
「シルヴィに世話させる。明日はお勤め無い筈だし」
「うーん、あのコ。まだ私以外の人間と過ごしたこと無いしね。大丈夫かしら」
「妹想いのハルカ姉さまには不安でしょうが、その……いずれはシルヴィと
パートナーになるんだから、今から慣れておいてもいいんじゃない?」
「いずれは……か。シルヴィが、というよりあなたのところに預けるってのが不安
なんだけどね」
「どういうイミ?だいたい私だって一緒に、ここに詰めなきゃならないんだから」
「だから私はヒロミよりも、自分の心配をするべきなのよね」
「あのねぇ……」
ハルカとレイカは、隣室のベッドに寝かされているサヤカの様子を伺う。
「サヤカ、大丈夫かしらね。もし明日起きたとき、彼女が錯乱するようなことに
なっていたら……」
「心配しても始まらない。私たちはベストを尽くすだけ」
- 02-290 :アリス ◆Alice.9wCE:04/04/10 21:21 ID:16HFpgZh
- 翌日の昼頃、幸いにもサァラは危篤状態を脱した。昏睡状態ではあったが容態が
安定したため、再生槽へ入れる前に手術をすることになった。
サヤカも目を覚ましたが、妹の凄惨な光景に立ち会ったショックで、感情のない
様子だった。心配したハルカが飲み物を勧めながら話しかける。
「あの男だけど、どうもアリスの娘になれなかった逆恨みで、サァラを
襲ったみたいなの。だから、サァラが何か悪いことをしたから、酷い目にあった
わけじゃないのよ」
「アリスの娘になれなかった逆恨み……?」
それまで"ええ"とか"はい"とかしか答えなかったサヤカが問う。
「ええ、そうらしいわ。警備官が……」
「私のせいだわ!私の!!」
「何を言ってるの、あなたが悪いなんて。サァラが運び込まれたときにも自分のせい
だとか言っていたけど、悪いのはあの男で……」
「いえ、やっぱり私のせいなんです!ハルカ姉さま」
「どういうことなの?ちゃんと説明してくれなきゃわからないわ」
「あのコはアリスの娘になるのを嫌がっていた。だから、私たち本当は一緒に暮らせ
無かった筈なんです。でもね、お姉さま……私、サァラと離れて暮らしたくはなかった。
そしてそれはあのコも同じだったと思っていたんです。だから……」
「だから?」
「だから、アリスに頼んだんです。私が性転換槽に入っている間、サァラに新しい
パートナーと組ませないでって」
「それって……」
「そう、さびしがり屋のあのコが、私がいないことに耐えられる筈が無いって思ったん
です。だから一人のままにすれば、きっと私と娘になるって、そしたら……
ずっと一緒に……、暮らせるって…、そう決めてくれるって……」
最後の方は、もう涙声になって、ハルカにもはっきりと聞き取れなかった。
その後は、もう何もいっても、泣きじゃくるだけだった。
- 02-291 :アリス ◆Alice.9wCE:04/04/10 21:22 ID:16HFpgZh
- 「どう?サヤカの様子は」
診察室に戻ったハルカに、先に部屋を出たレイカが心配そうにたずねる。
「うん、サァラが酷い目にあったのは自分のせいだって、泣いてるわ」
「何でそうな風にサヤカが思いつめてしまうのかわからないけど、悪いのは、
あの男でしょ? まぁ、死んじゃった奴にこれ以上罪のかぶせようも無いけどね」
「死んだ、ってどういうこと?レイカ、いくらなんでも処罰されちゃうなんて早すぎるし、
あの男を取り押さえた時だって、たいしてケガなんかしていなかった筈でしょ?」
「それが外周ブロックの独房に閉じ込めている間に、自殺って言っていいのかしらね。
外壁との間にある動力伝達パネルの蓋をこじ開けて。
その……中はメチャクチャだったらしいよ」
「そんな、工具もなしに? だいいち、アリスが監視しているのにそんな手間の
かかることが、できるわけがないでしょう?」
「うん、良くわからないんだけど、パネルが勝手に開くわけは無いから、やっぱり
こじ開けたとしか。もっとも私が見たわけじゃなくて、知り合いに聞いただけなんだけどね」
「妙じゃの……」
「あ、先生いらしたんですか?」
「うむ、そろそろ始めようかと思っての。2人とも頼むぞ」
「はい先生」
3人とも奇妙な疑問を感じたが、手術室に入り準備を始めることにした。
今は目の前で助けを必要としている、サァラに集中すべき時だから。
手術室に入る時、ハルカは視線のようなものを感じた。
(誰かが監視しているわけでもないのに……、しっかりしなくちゃ!)
手術中の記録をとるために、ハルカはモニタカメラをSTBYからRECに切り替えた。
最終更新:2012年01月24日 16:23