- 08-007 :succubusの夜 1/9 ◆YOLph2yTEI
:2012/05/31(木) 10:20:26.47 ID:4feQy5IC
- ヴァルナー・テルスはたった今、己が唱えたばかりの呪文に言い知れぬ不安を覚えた。
アウグスト高等魔術学院の二年次、召喚学の実習授業にて呼び出される「もの」は基本的に、
低位の元素霊――火精【サラマンダー】や風精【シルフ】などに限られる。
この授業を受ける段階にある魔術師の卵たちの魔力量、そして技量で取り扱える程度のそれらは
召喚陣と呪文さえ適切ならば難なくこの世に姿を現し、比較的従順に幼い術師たちと使い魔たる
契約を取り交わす。仮に、幾らか自然界で育ちすぎた大物が引っかかることが稀にあったとしても、
召喚者の立つ魔法陣が予め備える防御結界や、傍らで監督を務める教師がそれらの暴走から
申し分なく守ってくれるはずだった。
そう、術式さえ間違っていなければ。
ヴァルナーはこの魔術学院内での席次としては中の下、下の上に限りなく近いあたりにいる。
両親は共に家柄の高くも低くもない中流の魔術師であり、彼自身の素養、魔力量などをとっても
それなりに中程度の水準であるはずなのだが、どういうわけか彼は魔術を行使するのがあまり上手くはなかった。
やや気弱で周囲に流されやすい気性がそうさせているのかもしれないし、魔術師に必要欠くべからざる
集中力というものが多少お粗末であるのもその一因かもしれない。それをヴァルナー自身も解ってはいたので、
この授業の際も他の学生たちよりもとにかく念入りに召喚学のテキストを読み、呪文の一字一句を
しっかりと頭に叩き込んだのである。
が、その甲斐あって正確に詠唱することのできた呪文が、口に出してみてから気が付いたことなのだが
彼より前に召喚を果たした者たちの唱えたものと、どうも何か所か異なっているように思えてならない。
慌てて手にしたテキストに目を落とすが、確かに呪文はそこに記されたもので間違いなかった。だが――
召喚の呪文を間違える、それは主に二種類の結果を招くはずだった。
一つは「何も召喚されない」だ。そちらならばさほど問題はない。
おそらくは、こんな簡単な実習で下手を打ったヴァルナーに周囲からの憐憫と嘲笑が浴びせられは
するだろうがそのくらいのことだし、馬鹿にされるのは今更だ。
しかしもう一つの可能性、「呼ぶつもりのなかったものが召喚される」だったならばどうすればいいのか。
いま目の前で起こっているように、召喚陣が光り輝いて魔力を巡らせ、平素ならば触れ得ざる異界へと
経路を開いている場合は、もしそこから這い出てくる「もの」が魔術師の卵ごときの手には負えないものであった時は。
ヴァルナーは恐怖と焦燥のあまり、まばゆい光の中で徐々に形を成しつつあるものから、
目を逸らすことが出来ずにいた。
眩い光が薄れ、召喚陣の中央に現れた「それ」は猛々しく二本の角を掲げる、随分と立派な体躯の
牡牛だった。頭から尾の先まで黒一色の毛並みは濡れたような艶やかさを纏い、室内の明かりに
ぬめぬめと照り映える。
次いで、その姿はぐにゃりと歪んで黄金の有翼獅子【グリフォン】へと変わり、更には鮮血を浴びたが如き
赤毛の馬へと変じた。更に続けて白い牡山羊、緑色の大蛇、灰色の大鷲の姿、そして最後に
黒髪を長く垂らした人間の男の形を取る。牡牛でない時も、そこだけは変わらぬままの褐色の双角は
人の姿に変じても勿論、まだ頭の両脇を飾っていた。
『私を招きしは貴様か? 人の子よ』
明らかに高位の、未熟な魔術師では御すどころか相対するだけでも危険な存在と知れる魔物は
長く鋭い爪を生やした手を差し伸ばし、予期せぬ事態にもはや腰を抜かしかけているヴァルナーへと
一歩、距離を詰める。
授業の安全を期すため、召喚者の足元の陣に仕掛けられている簡易防御結界と、学生一人ひとりに
前もって与えられていた護符が本来ならば不慮の事故から彼らを守るはずだったが、その目に見えぬ防壁は
魔物の指先に触れられた瞬間、ちりりと微かに震えて霧散した。
監督役の教師が慌てて退去呪文を唱え術式を放つより先に伸ばされた手は、遂に恐怖のあまり
足の萎えた少年の身体を難なく捕らえ、怯えた拍動を刻む心臓に向けてゆっくりと爪の先を埋め込むかに見え
──不意に、掻き消すように姿を消す。
にわかに大騒ぎとなった教室の中には、囀りざわめく学生たちと間一髪で最悪の事態を免れたことに
胸を撫で下ろす召喚学教師、そしてみっともなくも白目を剥いて気絶したヴァルナーばかりが、ただ残されていた。
- 08-008 :succubusの夜 2/9 ◆YOLph2yTEI
:2012/05/31(木) 10:25:55.35 ID:4feQy5IC
- -----
「……おい、テルス!」
学び舎の回廊に小さくも険を含んだ声が響き、同時に小柄な少年の体がぐいと腕を引かれて横様によろめく。
召喚学実習で起きた事故から一夜が明けた今日、平素の通り午前中の授業に出席しようとしていた
ヴァルナー・テルスは三人の同級生になかば引きずられるようにして、一階下の鉱石学資料室へと連れ込まれた。
「召喚学の教科書、持ってるだろ? 出せよ。護符もさ」
昨日の授業で失敗した理由を調べてやる、と親切ごかした言葉を並べる彼らへヴァルナーはちらりと
軽蔑の視線を投げる。
今朝の間に、寄宿舎で同室の者から見せてもらったテキスト及び護符と自分のそれとを見比べ、
問題の呪文の一小節と修飾辞二つ、護符の一区画のシンボルが巧妙に書き換えられていることには
既に気付いていた。
初歩の魔術による改竄はヴァルナー程度を騙せはしても、例えば教諭の誰かへとその証拠品を
提出してしまえばそこに他人の手が加えられたことも、施術者が誰であるかも、痕跡として見抜かれて
しまうだろうことは予想に難くない。
「……別に、誰かが僕の教科書にいたずらしたなんて、先生に言いつけるつもりはないよ」
が、普段ならばこうして人気の無い場所で取り囲まれただけでもおどおどと怯え、簡単に膝を屈するはずの
落ちこぼれが常ならず平然と、取り澄ました答えを返してきたことに、三人の同級生は怪訝そうに顔を見合わせた。
「むしろ、君たちには感謝したいくらいかな。おかげでつまらない元素霊なんかよりも、ずっとすごいものと
契約できたからね」
いっそ余裕すら感じさせる口調の中に、どこか見下したような気配を嗅ぎ取った同級生たちは
やにわに苛立たしさを覚え、一人がヴァルナーの襟元を掴む。
「お前みたいなうすのろが、どんなご大層なモノと契約できたって!? 証拠見せてみろよ!!」
召喚術などを用いて呼び出した霊的存在と使い魔の契約を結べば、魔術師の体のいずれか、
多くは胸や背中、腕などにその証が刻まれるはずだ。力を込めて引っぱられた学生用ローブはほどけ、
制服のシャツのボタンが千切れ飛びそうな勢いで喉元から胸の下までが開かれる。
「…………!?」
乱暴に曝け出された胸の真ん中、そこには確かに、魔術的なシンボルが暗い赤色で描き出されていた。
しかし、三人の少年たちの目を奪ったのはそんなものではない。
同年代の少年の衣服の下にあるべきフラットな胸部、ではなくふっくらと丸みを帯びて盛り上がった
柔らかそうなそれ、二つの角持つ牡牛を思わせる意匠の契約印の両側で、外気に晒され怯えたように
震える乳房から、彼らは僅かたりとも意識をもぎ離せなくなった。
「……おい、両側から押さえろよ」
三人の中で、首謀格の少年は固唾を呑み込みながら他の二人に言う。
ヴァルナーが、既に肩の辺りまではだけられたシャツの前を掻き抱くようにして後退ろうとするのを
四本の腕が捕らえ、押さえ付け、もう二本の腕が邪魔な衣服を引きちぎらんばかりに剥ぐ。
壁際の床に引き倒された相手から弱々しい制止の声が聞こえた気がしたが、そんなものは
獲物を前にした獣を煽る効果しか持ちはしない。嫌嫌と首を振る動きにつれ、いつの間にか
長く伸びている赤褐色の巻き毛が床に拡がり、さらりと擦れる音さえも昏い興奮を誘う。
彼らは取り憑かれたような表情で、確かに同級生の少年であったはずの愛らしい少女を組み敷き、
裸にし、代わる代わる陵辱した。
- 08-009 :succubusの夜 3/9 ◆YOLph2yTEI
:2012/05/31(木) 10:28:55.45 ID:4feQy5IC
重い吐息をこぼして、赤毛の少女は冷たい床から裸身を起こす。
小さな採光窓から差し込む外の光は、既に午後もだいぶ過ぎただろう色をしていた。
軽く頭を巡らせれば、床にくずおれるよう昏倒している同級生たちの姿が視界に入る。
三人とも、好き勝手にヴァルナーの体を強姦し、射精した途端に意識を失った、そのままの姿だった。
「……っ、あ…」
姿勢を変えた拍子に、両脚の間からこぽりと粘り気のある液体が流れ出る。
己の愛液と混じった白濁の、床に零れ落ちた子種汁を指で掬い取った少女は不意にこみ上げる
衝動に駆られ、その汚液に塗れた己の指を口に含んだ。
「んん……ぁふ…」
感じ入った、という調子の嘆息が鼻から抜け、艶のある音色となって辺りに響く。
ぴちゃぴちゃと音を立てて、自分の股ぐらから溢れた他人の精液を一心不乱に舐め啜る姿は
誰か余人が見れば、ひどい浅ましさと同時に耐え難いほどの劣情を覚えさせられる代物だろう。
しばし陶然とした表情で陵辱の名残りを味わっている女の、背中側の床に落ちた影が
ふと奇妙に広がり、その中から何か黒いものがゆらゆらと立ち上った。
『美味いか? 復讐の味は』
五指に鋭く長い爪を具えた手が伸ばされ、ぼんやりとした顔で肩越しに振り向いたヴァルナーの
顎を摘むように持ち上げる。
人間の男に限りなく似せた姿、頭の両側面から牡牛の角を生やした魔物が、薄い笑みを浮かべた唇を
少女のそれに寄せ、長い舌を出して涎と精で汚れた口元をべろりと舐めた。
「…お……ぃ、しい……」
呆けたような面貌を一転、淫蕩な笑みで彩って女は己の顔から首筋、胸、腹までへと両手を滑らせ、
辿りついた下腹部をさも大事そうに撫でる。肉の内側からじわりと疼く熱さは、傍らに転がる少年たちから
精液を媒介として吸い上げた魔力と精気の渦巻く様だ。
これが、ヴァルナーが魔物との契約で得た、望みのかたち。
『その調子だ、貴様の身ひとつをもって貪り、そして奪い尽くすがいい。背徳と欺瞞の担い手にして
快楽の王たる私が、その術を与えてやったのだから』
獣の喉鳴りに似た笑いを低く響かせ、魔物は少女の額へひとつ口接けを贈ると、再び床へ溶け込むよう姿を消した。
次の瞬間、少女の足元から這い上がった影がその全身を覆い、先刻同級生の手に引き裂かれたはずの
制服とローブへと変じて一分の乱れもなく纏い付く。
再び、痩せっぽちな少年の姿を取り戻したヴァルナー・テルスは僅かの傷も、疲労も感じさせない足取りで
ドアへと歩み、床に倒れた者たちの存在など一顧だにもせずにその部屋を後にした。
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- 08-010 :succubusの夜 4/9 ◆YOLph2yTEI
:2012/05/31(木) 10:32:55.35 ID:4feQy5IC
- ──あの日、ヴァルナー・テルスの身に何が起きたのか、それはこの魔術学院の中にあって
ヴァルナー本人以外には全く知られることは無かった。
召喚学の授業が騒ぎにより中断を余儀なくされた後、念のため学院かかりつけの魔術医に
精密な検査を受け、とりあえずは由々しき問題など無いとの診断をもらったヴァルナーはそれでも、
きょう一日は安静にするようにと寄宿舎へ帰され、自室である四人部屋のベッドの中に
カーテンを閉め切って蹲っていた。
身体はだいぶ疲れていたが、精神は軽い興奮状態にあったため、強いて目を瞑ったところで
眠りの女神の加護を得ることは難しい。
(あれは、何というモノだったのだろう?)
召喚陣の中に現れた禍々しくも強大な魔力の塊。
ひとつひとつはおぞましい程に美しかった姿を、耳元で囁くように聴こえた声を、
脳裏に思い浮かべるだけで奇妙に背筋が騒ぐ。
子供だましの低位精霊など比べ物にもならない、あれほどの存在ともし契約を結べたなら、
あれを統べることが出来たのなら、これまでにヴァルナーが受けてきた不当な仕打ちなど、
これより先は一度たりとも、誰にも許さないものを──
『では、儀式の続きと行くか? 魔術師よ』
耳に滑り込んできた、先程と同じ声音に少年の全身が戦慄いた。
いや、声だけではない、彼の横たわっているベッドからねばついた影のようなものが這い上がり、
絡み付いて全身の自由を、身動きどころか悲鳴を上げることすら封じている。それのみに留まらず
影はこの小さな空間を舐め尽くすが如く拡がり、隙間無く覆い、ヴァルナーはあたかも影色の檻に
閉じ込められた形となった。
『貴様の望みを言うがいい、釣り合うだけの代償を払えるのならば如何様にでも叶えてやろう』
ベッドの足元側に一層濃く凝った影が次第と形を成し、頭の両側に緩く湾曲した角を生やした
美しい男の姿を取る。
両膝と両手を突き、横たわったまま動けない少年を更にその四肢で閉じ込めるようにした魔物は
熾火を宿した瞳で見下ろしながら、蝋人形めいた白皙に場違いなほどの優しげな微笑を浮かべて見せた。
「…ぼ、僕の……願い……叶えて、くれる…の……?」
発声を許された喉は、弱々しい中にも薄らとした懐疑と希望を、そして歓喜を滲ませた声を
つっかえつっかえと吐き出す。
「僕の、願いは……」
『ふむ、随分と詰まらぬ望みをこの私に託すものだな、小僧』
天蓋の如く覆いかぶさる魔物の顔が、奇妙に怖ろしく歪んだ。頭の両側から帳のように流れ落ちている
黒髪が、ざわりと揺らめいてヴァルナーの顔を、首筋を撫でる。
「ひっ…………!?」
魔物に心の中を覗かれた、そのことにまず怖れの声を漏らしたヴァルナーだったが、次いで
それまで頭の脇に突かれていた鋭い爪を具える右手がゆっくりと己の胸に置かれ、更には
ずぶずぶと肉体の内側に沈み込んできたことにもはや悲鳴も上げられず、ただ震えながら
相手の顔を窺う事しか出来ない。
『しかも支払えるものはこの矮小な魂しかないと来た。詰まらぬ、詰まらぬなぁ』
「………………ぁ、あぁあ……ゆ、ゆるし、て……!!」
辛うじて口にする事の出来た哀願はしかし、魔物の薄い笑いに一蹴され、紙くずのようにうち捨てられた。
既に手首の部分までヴァルナーの胸に沈み込んだ手は、仔鼠の如くとくとくと必死に脈打つ心臓を
弄びつつ、その肉体へと膨大な魔力を注ぎ始める。
『まあ、貴様の足掻きようによっては暇塞ぎ程度にはなるやもしれぬ。せいぜい、面白くなるように励むがよかろう』
「ぃ…っ!? ゃ、あ、ひぎっ、……ぅ、あ、ああああああああああああ!!」
魔物に握られた心臓から全身に拡がり、侵す痛みと不快感に少年の口腔からは悲鳴が迸る。
濁った叫びはある時点からじわじわとその音色を変えて行き、いつしか甲高い、年若いとはいえ
男の口から出るものではなくなっていった。
- 08-011 :succubusの夜 5/9 ◆YOLph2yTEI
:2012/05/31(木) 10:37:05.37 ID:4feQy5IC
- 同時に、苦痛にのたうつ肉体が、びくびくと跳ねる四肢が震えながら徐々に形状を変じていく。
痩せ細っていると言うほどではないが筋の浮いた手足はふっくらと脂肪を纏って瑞々しい肌に包まれ、
薄い胸部には柔らかな膨らみが盛り上がる。腰は引き締まってくびれ、尻は肉付きを増し、
赤褐色の巻き毛はふわりと伸びてシーツの上に波打った。
『ほう、なかなかどうして、美味そうに変わったな』
満更でもなさげに喉の奥で笑いを鳴らした魔物はヴァルナーの胸から手を引き抜くと、いまや
弱々しく痙攣することしか出来なくなった獲物の喉元から股下まで、鋭い爪の先でつっ、と線を引く。
指に辿られた部分から、衣服が生き物のようにほどけて露わにされたその裸身は、完全に
元の姿からの変質を遂げていた。
柔らかでいてほどよく弾力を具えた肉と、白く肌理の細かい皮膚で形作られた、童女の稚さを
残しながらも淫靡な雌を匂わせる肢体。深い緑色の瞳が瞬いて、一呼吸の後に己の身体に
いかなる変貌が起きたものか理解すれば、その表面には見る見るうちに絶望の涙が膜を張る。
ふと、ヴァルナーの耳はひどく場違いな、いや、常に聞きなれた響きを聴いた。
ざわざわと誰かの話し交わす声。幾つもの靴が絨毯の敷かれた床を踏む音。
授業が終わって、他の寄宿生たちが、彼のルームメイトが部屋に帰ってきたのだ。
『安心するがいい、この結界の中の音は外に聞こえぬし、誰も貴様のことを気には掛けん』
魔物の整った容貌が獣のような笑みを浮かべるのを、哀れな生贄は助けを求めようと開きかけた
唇もそのままに、全ての退路を失った、絶望よりもなお深い空虚の中で見上げる。
寄宿舎の四人部屋の、狭く閉ざされたベッドの上で、誰にも気づかれることなくヴァルナーは一晩中、
魔物に犯され続けた。
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「先生、きょうの授業で少し解らないところがあったので、質問させていただいてよろしいですか」
午後の授業が全て終わった時刻、いかにも自信の無さげな声音と辺りを窺うような仕草で
研究室の入り口をくぐった学生に、中年を幾らか過ぎた魔術史学の教師はおや、と意外そうな顔をした。
魔術史学の授業はテキストを読み上げるばかりで実りが少なく退屈だ、という評判が巷に
定着している事は彼自身にも薄々と伝わっていたし、だからそういった、学習意欲旺盛に質問や
討論をぶつけてくるような学生がこの個人研究室の扉を叩くことなど未だかつてなかったこと。
そして、今しも目の前で彼の薦めた椅子におずおずと腰掛けようとしている少年は、どの授業であれ
自ら積極的に質問し、理解を深めんとするような種類の学生では、おそらくなかったはずであり──
「お時間は、たぶん、そんなに取らせません」
殊勝な言葉を耳にして、思わず迷惑そうな顔をしてしまっていただろうか、と慌てて顔を上げた
教師は次の瞬間、そこで起きていた予期せぬ事態につい反応を失した。
椅子に座った小柄な少年が、自らの肩を覆うローブの紐を解いている。まだ未成熟で
ほっそりとした指は次いで喉元のタイを弛め、シャツのボタンを上から順に外していく。
制止する暇もあらばこそ、見る間に一番下まで開かれたシャツはゆっくりと左右にはだけられる。
色白い胸の中央に浮かび上がるのは魔力を帯びた暗赤色の印紋。
これは魅了と催淫の術式だ、と脳裏に警告が閃いた時には既に男の眼と心は、目の前に晒された
柔らかな肌へと完全に囚われていた。
「先生も、これに触りたいですか?」
するりと、肌を滑った衣服が床に落ちる。邪悪な印を刻み付けられた、瑞々しくも華奢な肢体は
ひどく蠱惑的で、豊かに肩を流れる赤褐色の髪も、若木のような手足も形よく膨らんだ乳房も尻も、
薄らと色付いて誘う唇も、全てがこの手に触れられ、蹂躙されるのを待っているのだと言わんばかりだった。
「あ、ああ……」
魔術学院の教師である事などもはや忘れた、男はふらふらと夢の中を彷徨う足取りで少女に近付き、
貪欲な衝動の唆すままに汗ばんだ手を伸ばす。
毒の花を手折った代償は、魔術師として、人としての破滅を彼にもたらしたが──
男がそれを後悔する事は、遂に無かった。
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- 08-012 :succubusの夜 6/9 ◆YOLph2yTEI
:2012/05/31(木) 10:41:47.60 ID:4feQy5IC
- それからもヴァルナーは半日と無駄にすることなく、学院内で「狩り」を行った。
レストルームで、空き教室で、資料室で、教授の個人研究室で、魔術競技のクラブハウスで
次々に男を誘い、その肉体を差し出しては犯される。
はじめの内は勝手がわからず、男たちの獣欲に為されるがままだった拙さもいつしかこなれ、
二日目には既に熟練の娼婦のごとき手管で複数の相手からも手際良く精を搾り取るまでになっていた。
『随分と楽しそうだな』
足元の影から蛇のように現れた双角の魔物が、精気と魔力を奪われて昏倒する男子学生たちの
ただ中に白濁塗れで座り込んでいるヴァルナーへと、揶揄めいた言葉を投げる。
「……うん……」
べたつく顔を拭って、精液で汚れた指や掌をじっくりと舐めしゃぶりながら、赤毛の少女は
どこか熱に浮かされたような表情で首肯した。
実際、とても楽しいのだ。
教師も、上級生も、誰も彼もがこの女の身体の前では理性を失い、ただの雄と化す。
卓越した頭脳を持った者、鍛えられた肉体や優れた魔術の才を持った者、そんな連中が己の上で
猿のように腰を振り、間抜け面を晒して精を吐く姿を見るのがたまらなく愉快で仕方ない。
それに比べれば、精液とともに交合のたび取り込まれ、身の内に溜まっていく魔力などは
ついでのようなものでしかなかった。
『……だが、もうこれしきでは満足できないようだな?』
笑みを含んだ魔物の声に指摘され初めて、ヴァルナーは自分が六人ほどの男に輪姦された上で
なお、物足りなげに片手を股座に遊ばせていることに気付く。
「だって……もっと、欲しい……」
色に溺れた眼差しで見上げてくる少女を、魔物は指で差し招き、己の前に跪かせた。
飢え渇いた可憐な唇は、奉仕せよと命じられるが早いか、目の前に取り出された赤黒い逸物へと
嬉しげに舐りつく。
淫らな水音を立てて長大な性器を咥え、小さな舌を精一杯這わせる娘のところどころ粘液に
ごわついた髪を、鋭い爪を生やした手が優しげに撫でていった。
「…っふ、ぁむ……ん、んぅ……ふ…」
喉元までを使っても半ばほどまでしか収められない、太逞しい肉で口の中をいっぱいにし、
すぼめた頬と舌で必死に擦り上げている女の顔は滑稽なほどにだらしなく蕩け、歪んでいる。
髪を撫でていた手が一転して強い力で頭を掴み、乱暴に前後させる段になっても、喉の奥を突かれて
息も絶え絶えとなりながらも、ヴァルナーの口腔はもう一つの性器としての務めを嬉々として果たし続けた。
『口の方も随分と躾が進んだな』
埒を開け、歓喜の悲鳴を漏らす喉奥へ濁液を注ぎながら魔物は腰を退き、名残惜しげに吸い付く唇から
肉の柱を引き抜く。まだ放出の続いていた精が少女の口元のみならず顔も胸元も汚し尽くす様を
細めた眼差しで一瞥すると、犬に芸をさせるような手振りでその体の向きを変えさせた。
「……ご主人さま?」
己の招いた魔物との立場などとうに逆転し、隷従の身に堕ちた魔術師は次にどんな仕打ちを
与えられるのかと、かすかな不安とそれを遥かに凌駕する期待の篭った眼で、媚びに満ちた仕草で
肩越しに振り返る。
『床に伏せて尻を上げよ。もうひとつ、男を食う場所を増やしてやろう』
- 08-013 :succubusの夜 7/9 ◆YOLph2yTEI
:2012/05/31(木) 10:46:07.84 ID:4feQy5IC
- 「──────!!」
声無き叫びを嗄れた喉から放って、未成熟な肢体が過度の快感に跳ねた。
少女はうつ伏せに床へ這い、腰だけを高々と掲げた姿勢で背後から身体の内側を暴かれている。
白く柔らかな尻房は両側から掴む手に大きく割り開かれ、その中心でひくつく窄まりには今、
長く肉厚な舌がねじ込まれていた。
ざらりとした感触の魔物の舌は直腸の内壁をじっくりと舐め、唾液を擦り込みながら何かを探すよう
肉の道を辿る。
「ぃ…っ、ア!?」
それは快楽よりも違和感ばかりの募るものだったが、不意に、舌先である一点をくすぐられた途端に
下腹の奥で灼熱が弾け、がくがくと腰が踊るのを止められなくなった。
『男の体からここだけは残しておいたのだがな。楽しめているようで何よりだ』
肉の内側にしこる粒を執拗に嬲り尽くした舌を引き抜いて、魔物は満足げにヴァルナーの痴態を見下ろす。
僅かの間、尻穴を弄られていただけで前の穴からは粗相でもしたかと思うほどに粘度の低い淫水が
溢れ、滴り落ち、血の色を透かせて淡く染まる肌のあわい、陰裂の前端では鮮紅に色付いた肉の芽が
幼い陰茎のごとく勃起し、ひくひくと震えている。
責め苛むものが抜け出ても未だ、息づくように薄らと口を開けていた肛華に熱の塊がやおら先端を
押し当てれば、上気した顔に虚脱の色を浮かべていた少女は怯えたように全身を竦ませ、
哀願の眼差しを背後に投げた。
「あ、ぁあ、ア……あーっ! ぁひぃっ! ぃい……ッ、あ、ぁアアアー!!」
ごり、と肉の擦れる音が幻聴されるほどの圧迫感で押し入ってきた剛直はひといきに隘路を抉り、
入り口の襞から、快楽の源である小さな突起から、奥深い結腸の継ぎ目までもまとめて擦りたて侵略する。
今までの弱い火で炙られるような刺激とは全く違う、暴力的な抽送はヴァルナーの全身に電流を奔らせ、
腰椎から駆け上がった信号が激しく脳裏を灼いた。喉からはもはや壊れた悲鳴だけが止めどなくこぼれ、
見開かれた眼は既に焦点を結ばず時折ぐるりと裏返る。腰を掴まれて揺さぶられるたび、
触れられてもいない雌穴からは後ろの刺激に押し出されるよう蜜汁が飛沫き、床を濡らしていた。
『ほう、前を使うより悦さそうだな。元が雄だからか?』
「…っわ、わかりま、せ……っ、ぁ、ひぁあ!?」
突き上げられている最中の身体を浮かされ、四つん這いから魔物の膝に乗せられる形へと体位を変えられた
少女は自らの重みで一層深く串刺しにされた衝撃と、胸に回された手でふるふると揺れていた乳房を
鷲掴みにされる感触を同時に与えられ、遂に苦痛と快楽の境目も見失ってただすすり泣く。
『言え、貴様が身体のどこで悦がっているのかを』
「…おっ……おしり…ですっ、お尻の穴っ、ひっ、拡がって…い、いっぱいに、ァ、きも、ち、気持ちい……ィっ!!」
細い眉根を寄せ、緑色の瞳を涙と欲情に濁らせて肛虐に悶える表情は哀れでもあり、同時に
言いようのない艶を湛えてもいた。かつては卑小な劣等感と鬱屈を抱えていたにせよ、それ以外は
全くの無垢だった魂が思うさま肉欲に汚れ、堕ち行かんとする様子を掌中に弄びながら魔物は薄く笑う。
『私の与えた体を存分に楽しむがいい。されば、貴様の詰まらぬ懊悩など爪の先程も価値のないことが知れよう』
囁いた耳元にぞろりと舌を這わせて薄い耳殻のふちから内奥までを舐め、同時に掴み締めた乳房を
指が食い込むほどに甚振れば、いまや自ら腰を揺らして肛悦を貪っている女が調子外れな声で啼いた。
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- 08-014 :succubusの夜 8/9 ◆YOLph2yTEI
:2012/05/31(木) 10:51:39.51 ID:4feQy5IC
- 室外からの干渉を封じる結界香と、ランプの中で灯芯が焦げる臭いがぬるく交じり合う部屋の中、
アウグスト高等魔術学院の教職員及び理事の面々は困惑と焦りに彩られた顔を突き合わせたまま、
はや数時間を徒に費やしている。
ここ四日の間に学院内において発見された、何らかの霊・魔的傷害を負わされた被害者の数は
既に20名を越え、どころか今現在も増加しているのかもしれなかった。
学生と教職員とを問わず、学内の各所から心神喪失状態で発見される彼らはみな共通して
体内の魔力が完全に底を尽き、同時に精気、生命力といったものまでも徹底的に奪われている。
医療魔術の手を尽くしたところでせいぜいが昏睡状態を維持する程度の効果しかなく、今後の回復、
ましてや魔術師としての活動などは、望みという言葉を口にするのももはや空しい。
発見された被害者たちが共通して裸ないしは下半身を露出した姿であること、現場に明らかな
性交の痕跡があることなどから淫魔の仕業である可能性が最も高いが、仮にも魔術師の学府、
施設内外に対する魔術的防護を幾重にも備えた学院内にそのようなものの侵入を本来ならば
許すはずがない。唯一考えられるのは、内部の者が召喚魔術を行い、呼び出した魔物を使って
意図的に他者を害した、もしくは制御できずに暴走させているといった場合だが、対魔結界に邪魔をされず
召喚儀式を実行できる場所は限られ、また厳重に管理されている。
管理責任を疑われた召喚学の教師はひとしきりの釈明に時間を費やした後、そういえば五日前の
実習で奇妙な召喚失敗の仕方をした学生がいたことを、幾らか辺りを憚るような口調で報告した。
「……ですが、直後に校医の診断を受けさせた時には問題となるような兆候はありませんでした。
出現した魔物は契約を完遂する前に消え、また当該学生の魔力量及び技能習得段階では
あのクラスの魔物との契約を維持することは不可能なはずです」
「防御結界が破られたとの記録があるが、そのまま魔物が室内に滞留し、学生のいずれかに取り憑いた可能性は」
「学生ひとりひとりには指定階位以上の魔を拒絶する護符の着用を義務付けていました。
実習に用いた低位精霊より僅かでも力のあるものは肉体、魂いずれにも干渉できません」
「しかし、今こうして現実に……」
教師たちの間で実のないやりとりが激しく交わされ、それでも辛うじて、明日の早朝から学院内の
全ての人間──あらゆる教職員、学生、並びに庭師や厨房のコックに至るまで何人たりとも逃さず
徹底的に調査し、魔物との契約の形跡を探し出すことだけは決定された、それとほぼ同時刻。
寄宿舎の学生たちが夕食を済ませ、それぞれ自室や談話室、浴場などで過ごしているその時、
まさにヴァルナーはこれまでとは段違いの大規模な「狩り」を実行に移していた。
最初に標的とされたのは初老の舎監【ハウスマスター】だったが、独りで自室にいるところを誘惑され、
この施設内では最初の犠牲者となった。
その後も一、二時間足らずの間に監督生や最上級生、魔術師としてはそれなりに力があり、
かつ個室ないしは二人部屋を割り当てられている者が一人、また一人と淫魔の手に落ちていく。
自分たちが魔物の淫らな餌場にいることなど露とも知らぬ少年たちは、学年が上の者、
優秀な者から幾人かごとに順繰りと罠の糸に絡め取られ、魔力と精を啜り取られていった。
そうして、残された二年次以下の学生たち二十数人は不意に、とある部屋へ行かなければ
という意志に衝き動かされて廊下を進む。
下級生のための四人部屋、奥のベッドに腰掛けた、一糸纏わぬ美しい少女が抗しがたい媚態で
誘うままに少年たちは室内へ歩み入り、その肉体へと我先に奮いついた。
「みんな順番にしてあげる……いいよ、どこでも使って……」
慈母のごとき微笑を浮かべてヴァルナーは全ての穴に男のものを受け入れる。性器と尻穴を
同時に突き上げられ、両手に握らされた雄肉を代わる代わる指と口で愛撫し、それら全てから精液を搾り取る。
射精を終えた者は途端にその場で意識を失い崩れ落ちるが、後から押し寄せた別の学生が
その体を脇へ引きずり、押し遣って、待ちきれぬとばかりに空いた場所へすぐさま己の猛りを捩じ込んだ。
入れ替わり立ち代り、尽きる事など無いかに思える姦淫の宴は夜半を越えて続き、
さして広くもない室内はむせ返るほどの熱と呻き声、汗と精液の臭いで満たされていく。
- 08-015 :succubusの夜 9/9 ◆YOLph2yTEI
:2012/05/31(木) 10:57:46.05 ID:4feQy5IC
いつしか窓の外では猫の爪ほどの月が大きく傾いて、薄暗い部屋の中に蠢くものはただ独りの姿しかない。
「あはぁ…っ、みんなの精液でべたべた……すてき……」
累々と倒れ伏した少年たちにはもはや何の興味も示さず、少女は妖艶に微笑んで、己の顔から首筋、
胸乳にこびりついた白濁を肌に塗りこめるよう手で拡げた。
顔や胸元にとどまらず、その体は手も足も腹も背も、豊かな赤い髪まであらゆる場所が精で汚され、
両脚の間の二穴からは腹が膨らむほど注ぎ込まれた子種汁がだらだらと溢れこぼれている。
凄惨極まるほどの凌辱を一身に受けながらもその表情は陶然と、快楽のみに彩られていた。
『満足か?』
床に広がる影と汚濁の中から現われた双角の魔物が、男の欲望に塗れ尽くしたヴァルナーを
値踏みするよう眺め回す。
問いへの答えは、首を横に振る仕草で表された。
「まだ…欲しいの……ぼくの、ここ、ご主人様の…ください……!」
大きく開いた脚の間、白濁と愛液の涎を垂らす場所を自ら両手で拡げて情けを乞う姿に、魔物は
双眸を細めて頷く。
床に胡坐をかいて手招けば、満面に喜色を湛えた女が獣のごとき四つん這いですり寄り股間の逸物に
甘えついた。
大きく舌を出して肉の柱を舐めしゃぶり、細やかな指遣いで幹を辿り、また根元の嚢をやわやわと揉む。
膝を突いて高く掲げた腰を淫らに振りながら、硬く大きく育てた陽根を両手で捧げ持ち、ヴァルナーは
期待に満ちた眼で己の支配者を見上げた。
『来い』
短くも心待ちにしていた許しを得て、女は歓喜のままに股を開き、すっかりと勃ち上がったものの上に
泥濘みきった肉穴を宛がう。
一息にずぶりと貫かれ、馬の如き巨根に胎の奥を叩かれればその口からは、狂おしいまでの嬌声が跳ね上がった。
「ぁ、ぁあ、んっ、おっきぃの…ごしゅじんさまの…っ、きた、ぁ……!!」
『あれだけ男を咥え込んでおいて、まだこれ程に喰らい付くとは、貴様には随分と淫魔の素質があるようだな』
ことさらに揶揄を浴びせられたところで、派手に水音を鳴らしながら尻をくねらせるヴァルナーの目に、
とうに正気などはひと欠片も残っていない。
熱に浮かされたような忘我の表情で、口角から涎を垂らしながら魔物の雄を貪る姿は確かに、
女の淫魔としか喩えようのない婀娜と肉欲に彩られていた。
魔物の指が、唾液に濡れた唇をなぞれば桃色の舌が這い出してねろりとその爪先を舐めしゃぶる。
次いで与えられる口接けにも、女は喜悦の内に喉奥まで魔物の舌を迎え入れ、思うさま口腔内を
蹂躙される感触に酔いしれた。
『こちらにも欲しいのだろう?』
胎を抉られ、咥内を犯されながらも、もっともっとと強請る眼差しに魔物は喉奥で笑い、ぬるりと伸ばした
蛇の如き尾を紅く腫れた肛華に押し当てる。
何らの抵抗も与えずに太いものを尻に呑み込ませ、ヴァルナーは正体なく蕩けた瞳にただ快楽だけを
映して、容赦なく体内を掘削される感触に踊り狂った。
「あはぁッ、からだの…なか、ごしゅじんさまでいっぱい……! きもちい、ぃイっ! おなかの奥、
あつく…てっ……ぃ、いいよぉ!!」
『ああ、なかなかのものだぞ、貴様の堕落した魂と肉の味は』
痴れた声と共にだらしなく涎をこぼす唇を舐め、両の掌で乳房と尻たぶを弄びながら、
魔物がどこか慈しみに似た色を面に湛えて女を見る。
『思いの外にいい仕上がりだ、ヴァルナー・テルス。我が膝下に侍るがいい、閨で永劫と可愛がってやろう』
じわりと囁く声に、身の内を掻き回される肉悦に、女は両の眼を限界まで見開き、背を弓なりに撓ませ全身を震わせた。
炎天下の獣の如くに舌を突き出し、声無き叫びを上げるその口腔内で不意に犬歯が尖って伸びる。
同時に頭の左右より緩く捩れ巻いた小ぶりの角が生え、反りかえる白い背には皮膜の翼が、
腰椎の先からは逆棘の先端を持った細長い尻尾が、あたかも蝶の羽化めいて現れる。
『ぁ…ああ…うれしい……ずっと、ご主人様の、おそばに……』
人として生まれた肉と魂より完全に変成した、かつてヴァルナーという名の少年だった雌淫魔は
艶然と微笑んで両腕を差し伸ばし、愛しい快楽の王へと縋りついた。
顎を掴み上向かされた唇に深い口接けが降りて、全てを闇に捧げる誓いと共に、魔なる婚礼が成就する。
アウグスト魔術学院にとって最悪の夜が明ける前に寄宿舎からは一人の学生が姿を消し、
その行方は以降、杳として知れることはなかった。
最終更新:2012年09月05日 14:47