08-397 :396:2013/06/24(月) 22:28:26.61 ID:mbkVWzXV
「お父さん転生したから」
父の遺影の前で手を合わせていた俺の背後に、一人の女の子が現れてそう言い放った。

「えっと……?」
そう言い返すのがやっとだった。謎の少女はまるで出来の悪い生徒に説明する教師のような口ぶりで先ほどと同じ旨の台詞を言う。

「だからね、お父さん……転生しちゃった」
(子供出来ちゃったみたいな言い方するなよ……)
俺は白い目でその少女を見る。年齢は俺と同じで16歳くらいだろうか、童顔なのでもしかしたらそれよりも高いかもしれない。

「えと……?」
考えがまとまらず、とりあえずそう言ってみる。

「だからさー、俺。お父さん」
「ああ……うん」
俺の記憶が正しければ俺の父は筋骨隆々、熊とも対等に戦えるのではないかと思ってしまうような大男だったはずだ。今目の前にいるどう見ても150㎝弱の身長のこの少女が父?馬鹿言っちゃいけない。

「あのさ、もう何年も前の話だけどさ、一応俺の父さんはもう死んでるんだけど。不法侵入してまで悪い冗談言うのはやめてくれよ」
「ち、ちがっ」
「違くねぇよ、○田ア○コが言うならまだ現実味があるけどお前が言ったんじゃなぁ」
「お、お父さんだもん……」
あーあ、涙目だよ。俺の記憶上の父は犬にかまれようと笑っていたぞ。……おいおい、本当に泣いてるじゃないか。

「お父さんだもん……」
「いい加減にしろ!!死んだ人間使って冗談言うな!」
つい強い口調で言ってしまう。それと同時に、神成でも打たれたような衝撃が全身に走る。なんだろうか、なんだかとても眠くなってきた……――

08-398 :396:2013/06/24(月) 22:33:09.48 ID:mbkVWzXV
―――ああ、これは子供の時の記憶か。公園で遊ぶ俺と父さんか。ハハ、懐かしいなぁ、俺と父さんが遊んでるあの公園、もう無くなっちゃったんだよなぁ。ん、何の会話してるんだ?

「……!」
「……?」
「……、……」
「! ……」
「……、……」
「!? ……!!」
「……」
「…… !! ……!!!……!!!!」
「!?っ ……!!!」
「……!」
「…… …… ……!」
「……!」
俺が泣きだしたかと思えば、父さんがあやして……俺が嫌そうな顔をして、最後は二人とも笑ってる。そんで、父さんが俺を肩車して、公園を出ようとして……

……あ、そうか。この記憶は、『あの日』か。
この後、公園から出ようとしたところに居眠り運転のトラックが突っ込んでくるんだ。

そして、父さんはこの後―――

―――死ぬんだった。

08-399 :396:2013/06/24(月) 22:33:49.79 ID:mbkVWzXV
俺を何とか放り投げて、父さんは死んだんだった。その時の傷がまだ俺の身体には刻まれているけど、俺はその傷を嫌だなんて思ったことは一度もない。だってそれは、父さんが俺に残してくれたモンだからな。
例え死んじまっても父さんは、父さんの意思は俺の左腕に刻まれてるんだ。

「おお! 目が覚めたか、息子よ」
視界の入る先ほどの少女。ここは……俺の部屋か。

「で、お前……何でここにいるんだ」
「なんでって、俺こそお前のお父さ………」
「ああ、もうそういうのいいから」
ゆっくりと起き上がる。なんだか体がふわふわしてる。心配そうに声をかける少女。ああ、なんか鬱陶しいな。ここはひとつ、きつく言ってやるか。

「お前、警察呼ぶ前にさっさとここから消えろ」
「なっ!貴様一体夢の中で何を見てきたんだ!」
「はぁ?」
夢の中って、父さんが轢き殺されるあのシーンのことか?そりゃ、トラック位なら余裕で勝てると信じていた親父が死んだのは衝撃的だったけどな。

「何言ってるのかわからねぇけどよ、お前本当いい加減に……」
「約束!」
「……は?」
「約束! 見てきたんだろ、あの日の記憶を。約束を!!」
「……約束?」
「ああ、神のやつを説得してせっかくこの身体を買ってきたんだぞ。お前との約束を果たすためにな」
約束?神?身体を買った?何のことかさっぱわからねぇ。……いや、あの日、俺は父とどんな話をしていたんだっけ?

「って、なんで人の見た夢の内容がわかるんだよ!」
少女は何も言い返さず俺の瞳をじっと見てくる。

08-400 :396:2013/06/24(月) 22:43:41.27 ID:mbkVWzXV
「……だよ」
「は?」
口元がかすかに動いた気がした。聞き返すと少女は真っ赤になって大きく口を開く。

「き、聞き返すなよ!恥ずかしい」
恥ずかし奈良初めから言わなけりゃいいのに。……しかし、あれだな。不法侵入女のくせして相当かわいいじゃないか。
長い黒髪、くりくりとした可愛らしい瞳、プルプルと柔らかそうな唇、透き通るように白い肌(今は紅葉したように真っ赤だが)、身長は俺よりも20センチ近く低いのに出るとこは出ている女らしい体つき。正直、相当好みだ
「!!」
俺は身体を大きく震わせた。

「お、お前」
「仕方ない、強硬手段にでるぞ」
この女、急に俺の股間をつかんできやがった。

「うっ」
我慢しないといけないはずなのに、体が反応する。ヤりたい……この女と。

「ほらほらぁ、体は正直だぞ」
童顔のくせして妙に色気のある表情と口調で俺に話しかける女。なんなんだよ、一体。

「い、いいのかよ?」
そう聞き返すのがやっとだった。女が恥ずかしそうに頷くと同時に、俺の中の野生が暴走した。薄れゆく理性で俺は、「ああ、母さんが旅行に行ってて本当に良かった」と考えていた。

08-401 :396:2013/06/24(月) 22:44:16.21 ID:mbkVWzXV
―――時計を見ると、この女とやり始めて数時間が立っていた。俺の横で気持ちよさそうに眠る女は自らの名を「優子」となのった。

一体何回やったのだろうか?記憶にない。ただ、掌にはしっかりと優子の柔らかな肌の感触が残っていた。

「D……いや、Eか?」
真剣な顔で考察する。築けば優子は全裸だった。来ていた真っ白なワンピースは俺が破ったのだろうか、びりびりに破れたただの白い布と化していた。

「Fだ。奮発したんだぞ」
「うおぉっ!」
向くりとベッドの上で上体を起こした優子が言う。

「まぁ、あれだ。俺とここまでやったんだから、や以後まで話しを聞いてくれるよな?」
半ば脅すような口調で優子が言う。一瞬にして押し寄せる罪悪感と恐怖、俺はゆっくりと頷いた。

「―――つまり、お前は本当に俺の父さんなんだな?」
聞き返す。いや、その必要はないのだが……
「ああ、殺気から何度もそう言ってるだろ。証明もしたしさ」
「だよなぁ」と言い返す、父しか知らないはずのことを質問したがこいつは即答し続けた。出した問題は軽く百を超えるというのに、これはもう、悪戯とか、そういうレベルじゃできない芸当だ。
こいつが俺の父と信じたほうがまだ現実的である。しかし……設定がなぁ
「どうした、そんな白目で見て?」
「なんでもねぇよ。『お父様』」
わざとらしく言ってみる。
ちなみに優子(父さん)の言っている設定とは
・父さんは天国で働き、天点というあの世のお金のような物を稼ぎ、俺後のこの身体を買った。(しかし、それでは天点が足りなかったので自らの身体を質に出してこの身体を買った)
・その際、神にとても止められた(元々の父さんの身体は天使でもうらやむような高レベルな能力(笑)をひめた身体だった)
・この世には昔の俺との約束を果たしに来た

08-402 :396:2013/06/24(月) 22:45:08.05 ID:mbkVWzXV
うーん、難しい。けど、やっちまったのは事実だし。

「颯太」
悩んでいるところに声をかけられる。考え事を中断されるの嫌いなんだけどな。

「何?」
「俺のことは優子って呼んでくれて構わん。父親扱いもしなくていい」
「……そうか」
「ああ、だから……お前の……」
「ん?」
「お前の……」
え?え?ちょっとまってちょっとまって。お前俺の父なんだよな?男なんだよな?何でそんなに可愛いしぐさでもじもじしてるの?何でそんなに顔赤いの?リンゴなの?

「お嫁さんにしてくれ」
「……」
「……颯太?」
「……ああ、そういう……」
思考停止、もう一ぢょく考えよう。

「颯太!!」
うおっ!思考停止中断、無理やり意識戻された…… 

「なんだよ」
「俺はお前の父であって、父ではない」
「は?」
「確かに今はお前の父『源次郎』としての人格しかないがな。俺は天界で純白の魂を買った」
「純白の……魂?」
「ああ、その名の通り、今は何の意識も持っていない、まっさらな状態の魂だ。すごい高いんだぞ」
何でドヤ顔なんだよ…… 

「……で?その純白の魂とやらがなんなの?」
「コホン、それはだな」
あ、わざとらしいくしゃみの仕草くそ可愛い。

08-403 :396:2013/06/24(月) 22:45:41.83 ID:mbkVWzXV
「これから俺は女の子らしく振舞う。そうすれば『お前を好き』という気持ちが純白の魂に書き込まれる。そして次第に純白の魂は成長していき、新しい魂『優子』が生まれる」
「つまり?」
「俺は優子が生まれるまでの代役みたいのもんさ」
「……そうか」
これから父さんと(少女の姿だけど)会えるかと思ったのにな。

「そんなさびしそうな顔をするなよ。約束したじゃないか」
「ああ、うん。でも、その約束の内容が思い出せないんだ」
「ははは、なんせ俺が……わ、ワタクシがシんだヒでありますからね」
は?どうしたんだ急に
「い、いや、言葉使いにも気を付けなくちゃと思ってだな……」
小声で優子が言う。ああ、それで急に口調が変わったのか。

「むしろすごい不自然だろ。変な性格になったらどうする」
「うっ……」
むぅ、涙目は反則だ…… 

「まぁ、そこはお前の方からもフォローを頼む。可愛い彼女GETのためにもな」
にやりと笑う優子。ああ、なんかすっげぇ可愛い。しかし、約束の内容って一体……?


――その日から俺と優子の生活は始まった。優子は何でもお目付け役の天使と一緒に近くのアパートに住んでるらしい。学校であまり目立たない俺と、謎の美少女転校生のカップルの噂は数日もせずに学校中に轟いた。
初めこそ女の子らしい言動ができずに戸惑う優子だったがお目付け役の天使が色々と面倒を見てくれてなんとか3か月の時がたった。


「しかし、変われば変わるもんだな」
俺が言う、優子は微笑み返す。

「うん、颯太に気に入られた一心で頑張ったからね」
屋上で優子の作った弁当を食べる、美味い!本当に美味い!初めこそ弁当という名の兵器だった優子の手作り弁当は今やどこに出しても恥ずかしくないレベルまで上達していた。

08-404 :396:2013/06/24(月) 22:46:25.98 ID:mbkVWzXV
「しっかし、あれから3か月かー。私たちの関係に騒ぐ人も減ったし、お母さんとお父さん(の遺影)へのも済ませたし、あとは優子の人格が完璧に自立すればいう事ないね!」
優子が微笑む。頬に着いた米粒をとって、それを俺の口に運ぶ。

「え!?ヤダ、ついてた?」
「うん、かわいかった」
「かっ……! そういうんじゃないでしょ!ついてたんだったら言ってよ、もぉー」
「わりぃわりぃ」
「あー、反省してないなー」
「ばれた?」
「もうっ」
頬を膨らませむくれる優子。ああ、可愛い。可愛いなぁ……キス、しちゃおう。

「こらこら、屋上と言えど、ここは学校ですよ」
突如目の前に天使が現れた。いい所だったのに!
「なんの用だよ」
ふてくされた感じでいう、邪魔虫が……!
「私、心読めますけど。あなた、地獄に落ちたいんですか?」
ごめんなさい。超かわいい天使ちゃん、許して。

「……ふん、まぁ、いいでしょう。それより、明日ですよ」
「何が?お前の燃えないごみの日?」
「……燃えないごみの日も明日ですがね、そうじゃありません」
「どうしたの?ルーちゃん」
説明しよう、ルーちゃんとは優子のお目付け役の天使である。なんだか最近天上に復帰したばかりの問題児(だった)らしい。復帰一番目の任務として重要性の低く、ルーちゃんが長く過ごした下界が舞台の優子のお目付け役に任命されたらしい。

「あした、完璧に優子様は自立します」
「マジで!?」
「やったぁー、これで私も一人前!」
「ええ、それで……その。颯太様とお話がありまして」
「……なに、ルーちゃん。別れる前に颯太に愛の告白?颯太の事寝取る気ね」
優子の視線がルーちゃんにグサグサと刺さる。ああ、ヤンデレ属性はつけたくなかったのに。

08-405 :396:2013/06/24(月) 22:47:44.81 ID:mbkVWzXV
「安心してください。そんな気はありませんから。ただちょっと、お父様……源次郎様のことで少し場からお話がありまして」
「父さん?」
「そっか、おっけー。じゃあいいよ。でも、それって……」
「ええ、あなたがいてはダメな話です」
「……仲間外れ」
リスのように頬を膨らます優子。うん、可愛い。

「ほら、見とれてないで。早く来なさいエロ太……颯太様」
「おい、今のわざとだろ」
「失礼、噛みました」
絶対嘘だ……。
……と、結構念いりに優子と離れるんだな。なんお用事だ?

「用事と言うのはですね、颯太様。お父様のこれからの事です。お分かりでしょうがあの場所にいるのはもうすでにあなたのお父様である源次郎様とは別人。正真正銘の優子様です」
「知ってるよ、この前も教えてくれたじゃん。確か、99.9%優子なんだろ?」
「ええ、そうです。ですから私があなた達の関係をホモ呼ばわりしていたのはお父様が50パーセント以上を占めてた初めのひと月だけであります」
割と最近まで言ってなかったか?こいつ……
「さて、明日の朝。優子様は優子様になります。もう何日も優子様の中で眠り、その身体を形成するために優子様の中に居続けたお父様も解放されるのです」
「うん、いい事じゃないの?それ」
「無論、いいことですね。私も晴れて展開に戻れますから」
「じゃあ、なんでそんなことわざわざ……」
「このままじゃ、お父様は

―――消えます」


え、マジで?

08-406 :396:2013/06/24(月) 22:48:21.13 ID:mbkVWzXV
「マジです。大マジのマジ。本気と書いてマジと読」
「もういい。で、なんで父さんは消えるんだ?」
「お父様が下界に降りてくるのを神様が止めたこと、ご存知ですよね?」
「ああ、知ってる。なんでも父さんの元々の身体は天使たちから見ても…」
「違います。……いえ、それもあるのですが。違います。神様がお父様を引き留めた本当の理由……」
「本当の……理由?」
「え、口止めされてましたけど、一応言いますよ」
「おう、頼む」
いつになく真剣な表情で俺たちは会話をする。ルーちゃんも今日はやけにシリアスモードだ。いつも和菓子を食べながら昼どらを見るルーちゃんからは想像もできないくらいに。いつもスーパーで割引商品を狙う姿からは想像も
「もういいです。本題に移りますよ」
「おう」
「お父様はすべての天点を消費して、下界に降りてきました。天点とは、魂の値打ちです。もとい、魂そのものなのです。あの世は素晴らしい所でしてね、ずっと過ごしていたいと皆が思うのです。しかしそれでは魂は輪廻の輪には戻らない」
「うん」
「ですから、天点を基準として判断するのです。まず、死ぬまでに行った善行に相応した天点を与え、あの世で仕事をすればさらに天点を渡します。天点はこの世じゃ「運」とか「才能」とかと呼ばれることもあり、持っていればいるほど良い物とされます」
「おう」
なんつーか、分かりやすいようでわかりにくい説明だ。

「あの世で過ごせば過ごすほど天点は消費されてゆきます。そして、天点が残りわずかになれば、生き物は魂だけの存在となります。この時、失った体に相応した天点を渡します。その天点だけは特別で輪廻の輪に持ち込むことができます」
「つまり、特別な天点を失った父さんは輪廻の輪に入っても沸くな生き物には生まれ変わらないってこと?」
「―――それどころか、輪廻の輪にすら入れないでしょうね」
「!! な、なんでだよ!」
声を荒げてしまった。しかし、父さんのためだと思えば、恥ずかしくもなんともない。まったく、困ったもんだな、俺も。

08-408 :396:2013/06/24(月) 22:50:45.43 ID:mbkVWzXV
「言ったでしょう、すべての天点を消費して下界に来たと。天点を全く持たない者は輪廻の輪にすら入れず、消滅するのです。あのブッタも、人々の幸せを祈るために数千人分はあろう自らの天点をこの世に残しまし、輪廻の輪から外れました」
「……」
「残念ですが、源次郎様が選んだ道です。伝えるなと言われましたが、それでも、伝えるべきだと思い、不肖私(ワタクシ)……お伝えしました」
「……そうか、ありがとう」
父さんの選んだ道か…… 

「ルーちゃん、一つだけ頼みがある」
真剣な表情で言う。ルーちゃん、頼むぜ。この前かしたDVDの借り、返してもらって名からな。

「ええ、いいでしょう」
にこりと笑ってルーちゃんが頷く。こんなかわいい顔して神様殺そうなんて企てるとは……恐ろしいね。

「余計なことは考えなくて結構です」
「余計なひと言と行動こそが、俺野アイデンティティーだ」
「3か月も一緒にいて端的来ましたよ、それ。……でも、気に入りました。私もしましょう、『余計なこと』。なんせ、この前お借りいただいたDVDの借りと、それ壊してしまったお詫びがまだでしたからね」
DVD壊したのか、こいつ。微笑んで言うなよ。しかしなんだ、こいつが言うと「余計なこと」ってセリフ妙に怖いな。

ルーちゃんと別れ。俺は優子の所へ戻る。

「なぁ、明日。お前の誕生日をしないか?」
「誕生日?」
「ああ、盛大に祝おうぜ」
「うん!」
さて、誕生日の前に、父さんに別れを告げないとな。 どんなことを考えていると、優子がものほしそうに俺を見てくる。

「颯太、私、明日頑張るね!勝負下着はいちゃうからね!」
「ああ……、うん」
鼻息を荒くする優子、別にそう言う展開を期待していたわけじゃないんだけどな…… 正確形成の段階でエロことしすぎたか……しかしあれは、高校生の性というものだ。仕方ない。うん。

08-409 :396:2013/06/24(月) 22:51:16.91 ID:mbkVWzXV
――翌日、優子の部屋にて
「さて、優子様には少々眠ってもらっている」
「ああ、ありがと」
「そして、颯太様にも眠ってもらいます」
え?……え!?あ、なんかい意識が遠く…… 

「さて、さぁ、起きてください源次郎様。お別れの挨拶ですよ」
「ん……ん!?」
「お話ししましたよ、あなたのこと」
「余計なマネしよって……」
「まぁ、いいじゃないですか。女の子のイロハをあなたに叩きこんであげたのは私ですよ」

「……お早う、父さん」
俺はゆっくりと起き上がり言う。ルーちゃんめ、粋なマネしやがって。

「父さん、思い出したぞ。約束」
優子……いや、父さんの眼を見てはっきりとお言う。ありがとうルーちゃん、やっと思い出せた。

「父さん、父さんがここまでしてくれたのは、全部あの時の……」
約束……

『お父さん!』
『なんだ?』
『僕ね、告白したんだ』
『何! 誰にだ』
『由美子ちゃんだよ、振られちゃったけど』
『!? 泣くな!!』
『だってぇ……』
『えぇっと !! そうだ!!!いいこと思いついた!!!!』
『!?っ 聞かせて!!!』
『俺が女になって颯太と付き合う!』
『うげー、きも。泣くのやめるから自分で探す!』
『ははっ、そうか。頑張れ!』

「ああ、最期の約束だったからな」
「……そうか、そうか。ありがとう!」
ああ。まだ言いたいことたくさんあるのに、まだ伝えたいことがたくさんあるのに……言葉じゃなくて、涙ばかりが溢れてくる。

「颯太」
なんだよ、父さん。そんな、寂しそうな声……出さないでくれよ

「優子ちゃんと、末永くな」
「……ああ、あんたもな」
涙で揺れる視界の先で親父が気を失った。

「……源次郎さんの魂が、あの世へ行きました」
「そうか……そうか」
涙をぬぐう、ふとルーちゃんの方を見ると、とても驚いた顔をしている。

「は……はは……ハハハ!やってくれるじゃないですか神様!」

08-410 :名無しさん@ピンキー:2013/06/24(月) 22:51:59.03 ID:mbkVWzXV
「は?ついに全ての頭の螺子がすっ飛んだのか?」
「失礼な!一本も外れちゃいませんよ」
「つまり元からポンコツか」
いつもの調子の口調で話すが、むなしさがぬぐえない。そんな俺の心情を察したか(つーかコイツ、心が読めるけど)、ルーちゃんはニコリと笑った。

「大丈夫!神様、なかなか粋なまねをしました」
「粋なマネ?」
「えぇ、『優子の前身』として過ごした時代に稼いだ、ほんの僅かな天点は源次郎さんに加算されました。勿論、それだけで輪廻の輪には加われませんが。神様は、源次郎さんに天使として、ある仕事を託しました」
「ある……仕事?」
「ええ、その仕事には私も同伴です」
「は?」
何言ってんだ、こいつ。とりあえず父が助かったぽいから別にいいけど、もっとわかりやすく説明してもいいのに、とも思う。

「仕事内容は…」
「優子の親」
……あれぇ、ルーちゃん以外の声が聞こえたぞ。なんか、男の声だぞぉ。

「父……さん?」
振り返る。そこにいるのは天使の身に着けるローブのような物に身を包んだおっさんが立っていた。

「久しいな、宗助!」
「颯太です」
ああ、この面白くないギャグ……間違いない、父さんだ。見た目は全然違うけど、父さんだ。これからは父さんに会うことができ
「さて、記憶を消しましょう」

08-411 :396:2013/06/24(月) 22:52:34.78 ID:mbkVWzXV
……ん?

「記憶、消しますよ。颯太様の」
「あー……なんで?」
「死人でも天使でもない颯太様がこのことをずっと覚えておくことはできませんから」
「そういうことだ」
父さんまで…… はぁ、……そういう事かい。

「オッケ、んじゃぁ……優子も?」
「ええ、忘れますよ。記憶は周辺の人も含めて都合よく書き換えられます」
そうか、そうなのか、……残念だな。

「……大丈夫ですよ。颯太様が忘れても私たちは覚えていますから」
そういう問題じゃないけど……まぁ、いいか。

「さて、私たちは出てきます。旅行している、と言う名目でこの家を数日空けます」
? どういう意味だ。

「正真正銘、完璧に自立した優子様と……最初は二人きりがいいでしょう?」
「そりゃ、ありがたいけど。いいのか?娘の誕生日に家を空けるなんて?」
「問題ない、お前がいるからな。まぁ、あれだ。俺の事なんて忘れて優子と仲良くやれよ」
「……あぁ、そうかい。しかーし、父さんのことは忘れねぇな、一生。なんたって、これがあるからな」
俺は誇らしげにあの時の事故によって出来た傷を掲げた。津さんが微笑み、ルーちゃんが覚悟を決めた目になる。俺も覚悟を決める。さぁ、優しくしてくれよ。るし……ルーちゃん
***
なんだか頭がさっぱりしてた。そういうことをする気なんて全くなかったのに、純粋に優子への愛があふれ出た結果だったんだ。と、俺は思う。お互い同意の上だし、避妊もしてる。問題はない。俺と優子はベッドの上で横になっていた。

「優子、好きだ」
わかりきってることを言ってみる。「私も」と優子も返した。そして優子が意味有り気に微笑む。

「……なんだよ」
聞いてみる。この優子の微笑みの理由は、俺には分からない。誕生日に一緒になれたからか?

「颯太、裸だ」
「……は?」
裸だって……、お前だって裸じゃないか
「初めてした時、颯太……上着着てた。傷……あるから」
ああ、そういう事か。何でだろう、こいつと付き合ってからこの傷をさらすことにも抵抗を無くなったんだよな。

「……」
「……え、なに!?」
俺の視線に藩王氏、優子の顔が赤くなる。

「いや、なんつーか…… 優子と付き合えて、良かったと思ってさ」
ああ、うん。そうだよな。それだけだ。

俺は優子の手を握り、優しくキスをした。
END

最終更新:2013年06月29日 11:25