- 02-150 :名無しさん@ピンキー:05/01/17 22:47:46 ID:MQAeODD4
- いつもの様にいつものごとく、電車がホームに滑り込んでくる。
冷たい風が体を吹き過ぎる。私の名前は、鈴木 光。高校3年生。
電車に乗り込み、空いている席に座る。電車の中は暖かくて眠くなる。
俯いて、目を閉じた。息をふぅと吐き出してリラックスモード。
すると、周りからひそひそ話しが聞こえてくる。
『…おい。あいつ可愛くねぇか?』
『…なに言ってんだ。あれは男だろ。学ラン着てるだろうが。』
『でもよぉ…。なんか…。タイプだなぁ…。ちっちゃいし。
髪はサラサラだし。肌は白いし。目はぱっちりで、なんかこう、
抱きしめたくなるっていうか…』
『お前、そんな趣味が…』
『違う、違うぞ。そんなのじゃない。』
僕『どんなのだ…。』
とか
『きゃー。ほら、あの人。』
『あら、今日はこの車両に座ってるね。』
『可愛い…。ほんとに男の子なのかなぁ…。』
『当たり前でしょ。なに言ってんの。』
『今度、話し掛けて聞いてみようかな。』
『失礼でしょ。止めときな。』
『でもー…。』
とか。
もう…慣れたけどね…。…orz
電車は、緩やかにブレーキをかけ、目的の駅へ停まった。
ドアが開き、人の流れに乗って歩き出した
- 02-151 :名無しさん@ピンキー:05/01/17 22:49:21 ID:MQAeODD4
- 歩いて10分ほどで到着する距離。
しばらく歩き、学校へ到着。冷たい風が頬を冷やし、赤くなっていた。
教室のドアを開ける。自分の席まで歩き、座る。
「おっはよう!!」
誰かが後ろから飛び掛かってきた。
「うぁっ。なんだよ。」
「光が頬を赤く染めて歩いてきてるのに、抱きしめない訳が無い!」
「意味わかんないよ。離して。」
彼は、田中 剛。背が高くて、髪は金髪に染めている。クラスでも
不良の類に入る存在だ。クラスの奴らも、こんな私たちを見て
「朝から熱いな~。」
「なんかさ、男同士で抱き合ってるのに違和感ないよな。」
「やっぱ受けは光なのか?」
などヤジが飛ぶ。
もう…慣れたけどね…。…orz
「俺と光が付き合ってるからって嫉妬するなよ…。」
「そういう事じゃないと思うよ…ていうか僕は男だし。」
「まだそんな事を言ってるのか。これは運命なんだ。諦めろ。」
「もう…。はぁ…。」
毎日こんな感じだ。思わず溜め息もでる。
「とりあえず、この手を離して。」
「嫌だ。」
「苦しいよ。」
「あーいい匂い。」
ガスッ。あごにヘッドバットをお見舞いした。
「うはっ。」
剛は後ろによろけた。
- 02-152 :名無しさん@ピンキー:05/01/17 22:51:52 ID:MQAeODD4
- 「男が好きだなんて気持ち悪いよ。」
「ちがう!俺は男が好きなんじゃない!光が好きなんだ。」
「…僕は、剛が嫌い。」
瞬間、剛は目を見開き、膝から力無く崩れた。
「…心にグサッときた…。」
「もう付きまとわないで。」
「…光。俺はお前の為なら何でもする。だからそんな事を言わないでくれ。」
剛の表情は苦しそうだ。
「じゃあ近寄らないで。」
「わ、わかった…。」
始業のチャイムがなり、先生が入ってきた。
「授業を始めるぞー。」
-授業は終わり、休み時間-
僕はトイレに行きたくなって、友達を連れて一緒に行った。
さっきから視線を感じるような気がするけど気のせいかな…。
用を足して、友達と教室に戻る。
そしてすぐ後から、どこへ行っていたのか剛も教室に戻った。
「………。気のせいかな…。うん、そういう事にしておこう。」
-2時限目の休み時間-
僕は喉が渇いて、冷水器へと向かった。
「なんか視線を感じるんだよなぁ…。」
冷水器の前に立ち、水を飲む。背後に気配を感じて振り返ると剛がいた。
「うわぁっ。なんでここにいるんだよ。」
- 02-153 :名無しさん@ピンキー:05/01/17 22:53:58 ID:MQAeODD4
- 「うわぁは無いだろ。俺は水を飲みに来ただけだぜ。
ちょっと自意識過剰なんじゃないのか?」
「どうだかな…。」
僕はまた水を飲み始める。
剛は僕の横にきて、僕が水を飲む様をじっと見ている。
「………。」
剛は無言で飛び付いてきた。僕はサッと避けた。剛はしつこく飛び付いてくる。
でも僕は、それを華麗に避ける。もう…慣れ(ry
僕が避け続けてると、剛は勝手に壁に頭をぶつけて自滅した。
うずくまって動かない。何事も無かったかのように、スタスタと教室へ戻った。
教室のドアを開け、自分の席へ向かうと、そこには剛が何事も無かったかのように座っていた。
「い、いつの間に…。気味悪いなぁ…。」
「光さん。」
剛が真面目な顔をしてこちらを見つめてくる。
「今度の日曜に、映画にでも行きませんか。」
「えぇー…。」
剛の目は真剣で、真っ直ぐ僕の目を見据えてきた。
「うーん…。友達と一緒なら、行ってもいいよ。」
剛は、とてもわかりやすいショックを受けた顔をした。
「いや、俺は光と二人きりで行きたいんだが…」
「じゃあ行かない。」
「なんでだよ!」
「何されるかわかったものじゃないし…。」
- 02-154 :名無しさん@ピンキー:05/01/17 22:55:55 ID:MQAeODD4
- 「俺は、紳士だ。何もしない。」
「じゃあ、さっき冷水器でしてきたアレはなんだよ…。」
「あ、あれは…」
「とにかく、友達と行けないなら、僕は行かない。」
「そ、それは困る。いいよ。友達と一緒に行こう。な?」
「全部、剛のおごりね。」
「光の友達の分もか?」
「もち。」
「ぬぅ…。仕方ない…。いいだろう。」
「おーけー。」
僕はニヤリと笑った。剛は飛び掛かろうと構えたが、鼻にから
何かが出ている事に気付き、手で拭ってみると血が付いていた。鼻血が出ていた。
- 02-194 :名無しさん@ピンキー:05/01/29 19:05:55 ID:XlqLnMYi
- 今日は待ちに待った日曜だ。いやぁこの日が来るまで長かったなぁ。
待ち合わせの時間は朝の10時にポチ公前。今は、朝の6時。
早起きしちまったぜ。フフフ。テレビでもつけるか。んー…。
ニュースばっかりだなぁ…。つまらん…。コンビニにでも行ってくるか。
そして俺はコンビニへ向かった。早朝の空気は澄んでいて、気持ちがいい。
まだ、陽がのぼりきらない薄暗い通りを、足どり軽く歩いていた。
通りに人の気配はない。この通りを一人占めしているような気分だ。
「今日は良い日だなぁ…」
大きなあくびを一つした。
曲がり角からふっと人が出て来た。そいつは俺に真っ向からぶつかってきた。
途端に腹に激痛が走り、膝に力が入らなくなって前のめりに倒れ込んだ。
何が起きたかわからない。腹を触ってみると血が出ているようだ。
「!!!?…。」
背後で走り去っていくヤツの足音が聞こえる。通り魔か。
「いてぇぇ…。ぐ…たすけ…えはっ…」
口に血が溜まってきて声が出せない。これは非常にヤバイ。
俺の人生はこれで終わりなのか。ここで終わるのか。
- 02-195 :名無しさん@ピンキー:05/01/29 19:07:02 ID:XlqLnMYi
- あぁ…母ちゃん…父ちゃん…俺は…いままで…。あぁ…みんな…光……光…!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「剛の奴遅いなぁ。10時はとっくに過ぎてるのに。」
「光のために気合い入れてるんじゃないか?」
僕の友達、大地はニヤリと笑った。
「からかわないでよ…もう…。」
「まぁもう少し待ってみよう。」
しかし、1時間経っても現れない。
「しょうがない、俺が携帯に電話してみるよ。」
「うん。」
「………。ダメだ。でない。電源は切ってないようだけど。」
「何やってんだろ…あいつは…。せっかく来たのに。」
それから、また1時間、2時間と過ぎても剛は現れなかった。
その後、光は、大地と昼ご飯を食べて、ポチ公周辺にある服屋やゲーセンに行って遊んだ。
そして帰宅。玄関のドアを開けると、悲しそうな顔をした母さんが立っていた。
「ただい…ま…。母さん…?どうしたの?」
「今ね、学校から電話があって、剛君が刺されたって…。」
「はぃ?刺された?」
「剛君ね…。亡くなったって…。」
母さんは、こんな冗談をつくような人じゃない。だとしたら…
- 02-196 :名無しさん@ピンキー:05/01/29 19:07:58 ID:XlqLnMYi
- 光は剛の携帯に電話をかけてみた。でも電話からは、無機質な呼出し音がなるばかりだった。
次の日の朝、剛の事件はニュースで流れた。死因は、失血死だったそうだ。
犯人は未だ逃走中。地道な聞き込み調査が行われているらしい。
光は、いつも通りに学校へ向かった。いつも通りに学校へついて、
普通に授業を受けた。何かが違う。今までと違う場所はというと
剛の机の上に、花が添えられている事。いつもの10分間の休み時間をとても長く感じるようになった。
その時、光は剛の存在の大きさを知った。いなくなって初めて気付く事。
光は、心にぽっかりと穴が空いたような気持ちになった。
無機質な時間の中ただ一人光が残されたような、そんな時間が一週間ほど続いた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
色の薄くなった、いつも通りの通学路を光は歩く。ただ歩く。学校へ到着。
机へ座る。光はぼんやりとした眼で前を向いた。
「おっはよう!!」
後ろから誰かが飛び掛かってきた。
あれ?
何時かの光景が脳裏を貫いた。光は固まって後ろを振り返らない。振り返れ無い。
- 02-197 :名無しさん@ピンキー:05/01/29 19:09:22 ID:XlqLnMYi
- 「元気だったかよ!光!」
光は後ろを振り返った。そこにいたのは…。美しい女の子だった。
細く真っ直ぐな黒髪は、腰まで流れ、勝ち気な瞳に、白く透き通るような肌。
桜色の唇から、曇りのない澄んだ声か響く。
「え、誰?」
「オレオレ。」
クラスのみんなが見慣れない女の子に気付き、クラスの視線が集まる。
「…どちら様ですか。」
「俺だよ。剛だ。」
クラスの空気は固まった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺は、通り魔に刺された後、走馬灯が頭の中を駆け抜けた。
…光……光!
視界が狭まっていき、意識は闇に飲み込まれた。
俺は、その中で必死にもがいた。まだやりたい事がたくさんあったし、
なにより光を待たせたままだったから。まだ死ぬ訳にはいかなかった。
暗闇のなかで、もがいてもがいて、一点の輝きを見つけた。
それは、暗闇の中では小さすぎてよくわからない程度の光りだった。
俺は求めた。必死で望んだ。もがいてもがいてもがいてもがいてやっとたどり着いて、
その光りに触れた瞬間に俺は砕け散った。
- 02-198 :名無しさん@ピンキー:05/01/29 19:10:17 ID:XlqLnMYi
- 気がついたら病院のベットの上にいた。頭がぼーっとする。
身体を動かそうとするが、身体が重い。
ここはどこなんだ。俺は…。
腕を見ると点滴が刺さっている。針を抜いた。腕に鋭い痛みが走る。
痛た。あぁ…。俺は生きているのか。
重い身体を起こした。なにか身体に違和感がある。しっくりこないというか…。
胸に重みがある。…!?こ、これは…。お、おっぱい…か…?なんだこれは…。
…体中に色々なケーブルが繋がれている。それをブチブチと引きはがした。
ベットから降りて廊下を歩き出した。トイレはどこだろうか…。
そこへ看護婦さんが駆け寄ってきた。
「上田さん…。起きてる…。ベットに…ベットに戻って下さい!」
上田…?俺の事か?
そして俺は先導されるままベットに戻された。
「今、先生をお呼びしますから、ここでまっていて下さいね。」
どうなってるんだ…?あぁ…。ぼーっとして頭が回らない。俺の身体はいったい…。
- 02-199 :名無しさん@ピンキー:05/01/29 19:11:41 ID:XlqLnMYi
- 身体を確認してみると、髪は長く伸びていて、胸は膨らんでいた。
何となく下の息子ね様子を見てみた。
ない…!あれ!?どこだ!俺の息子は!?
そこへ先生がやってきた。
「大丈夫ですか上田さん。」
「せ、先生!息子が!」
「落ち着いてください。上田さん。あなたに息子さんはいません。」
「いや…そうじゃなくて…。」
「上田さん。これは何本に見えますか?」
先生が、人差し指と中指を立てた。
「2本です。」
「こごどこだかわかりますか?」
「わかりません…。」
「あなたの名前は?」
「田中 剛です。」
「もう一回聞きます。あなたの名前は?」
俺は怪訝そうな顔をして答えた。
「…田中 剛です。」
それから、先生から、あなたは女であること。名前は上田 葵であること。
「脳死状態」で、生命維持の措置がとられていた事を告げられた。
当然ながら、はいそうですか、と納得できるはずもなく、
「先生!そりゃ何かの間違いだ!」
「何が間違ってると思いますか?」
「俺は、田中 剛だ。上田じゃない。」
「しかしですね。あなたは女性なのですし、剛なんて名前ではありません。」
俺の第二の人生は始まった。
最終更新:2012年01月24日 08:59