- 03-630 :名無しさん@ピンキー:2006/10/21(土) 23:21:20 ID:8h8VJxZs
- ゲーム『ドラゴンクエストⅡ』より、「サマルトリアの王子×女体化ローレシアの王子」です。
- 03-631 :名無しさん@ピンキー:2006/10/21(土) 23:22:02 ID:8h8VJxZs
- 噴き出る溶岩が耐え難い熱気を放つ中、ロトの末裔たちは闘っていた。敵は二
人、この海底の洞窟に祀られた邪神の像を守護する地獄の使いだ。
地獄の使いは多彩な呪文を操る強敵だ。両手のメイスによる直接攻撃、閃光呪
文ベギラマ、補助呪文のスクルトやルカナンはおろか上位の回復呪文たるベホマ
まで使いこなす。
しかし世界の正義と平和のために闘い続ける若者たちの敵ではなかった。
サマルトリアの王子は補助呪文を唱えて地獄の使いたちを牽制し、ムーンブル
クの王女は真空呪文バギを唱えて敵をひるませる。そしてローレシアの王子が飛
び込み、隙を見せた敵に会心の一撃を与える。これが彼ら三人が築いてきた必勝
パターンだ。その円滑な連携は互いの信頼の深さをも物語っていた。
地獄の使いの一人は頭頂から真っ二つにおろされ、返す刀でもう一人も袈裟懸
けに斬られバッタリと倒れた──致命的な一撃だ。勝負はついた。
「ふう、案外早くかたがついたな」
「ははは、それだけローレの剣の腕が上がったということだよ」
ローレシアの王子ローレ──正式な名乗りははるかに長い。しかしわずらわし
さを避けるためと、身分を隠すため、彼ら三人は名前の一部を略して呼び合って
いる──はため息をつきながら腰のサイドパックから薄汚い布を取り出した。愛
用の光の剣についた血糊をふき取るためだ。万事大雑把だと言われることの多い
彼だが、ことさら武具の手入れといったことに関しては丁寧な一面もある。
一方、サマルトリアの王子──通称サマルは呪文を唱えたばかりにもかかわら
ず既に隼の剣を構えていた。ローレが一撃で地獄の使いたちを仕留められなかっ
た場合に止めをさすつもりだったのだ。彼は腕力と剣の技量こそローレに遅れを
とるが、それを補うだけの素早さと呪文の技量、そして確かな戦術眼を持ってい
た。
「そうね。もうすぐロンダルキアに──ハーゴンの本拠地にいくんだもの、私た
ちもいつまでも未熟なままじゃないわ」
三人目の仲間は既に滅びた王国、ムーンブルクの王女だ。彼女──ムーンは女
性の身ゆえ重武装はできないが、高度な呪文をいくつも扱える。冒険に加わった
当初は敵モンスターの一撃で瀕死の重傷をおうほど非力であったが、度重なる経
験によりすっかりたくましく成長している(本人は認めたがらないが、筋肉もつ
いた)。
三人は地獄の使いたちが守っていた祭壇へと進み、邪神の像を囲んだ。
「さて目当ての邪神の像は、と。これか」
「見るからにまがまがしい像ね。ひょっとしたら、持った人は呪われるかもしれ
ないわよ」
「それでは……ちょっと待ってね」
そう言ってサマルは邪神の像の前に立ち、両手で印を結び、何やら呪文をゴニ
ョゴニョと唱えた。そしてほっとしたように言う。
「大丈夫。確かに何らかの邪悪な力を持ってる。だけど別段、手にしたからと言
って即座に呪われるようなことはないよ」
「──それ、本当に『大丈夫』なのか?」
- 03-632 :630:2006/10/21(土) 23:23:43 ID:8h8VJxZs
- ジト目でローレ。
「それ以上のことははっきりと……じっくり調べれば分かるかもしれないけど」
「とりあえずこれを持って戻りましょ。どこかの町の教会で鑑定してもらうとい
う手もあるんだし」
「そうだな……じゃあ俺が持つとするか」
ムーンに促され、ローレは邪神の像を両手でつかんだ。ずっしりとした重量感
とともに、何やら寒気に襲われたような気がした。だがサマルの言葉を信じ、そ
のまま一気に持ち上げる。
その瞬間、禍々しい赤い光がローレを包んだ。
「こ、これは……う、ぐ……力が……抜けていく……」
なおも赤い光は強さを増し、ローレの姿は見えにくくなっていく。
「これは邪悪な呪い……どうしてサマル!さっきあなたが調べた時には大丈夫だ
って──」
「ああ、確かに……邪神の像がこんな効果を持っているなんて」
責めるようなムーンの言葉、サマルのとまどい。そこへ笑い声が聞こえてきた
。先ほど倒したはずの地獄の使いの一人が立ち上がっていたのだ。
「くっくっく……それは私の仕業だ。もはやそいつはおしまいさ……」
ローレが二人目に斬りつけた地獄の使いは確かに重傷を負ったが、死んではい
なかったのだ。そして背を向けた三人──その内、彼らが守っていた邪神の像を
手に取ろうとしていたローレに呪いをかけたのだ。
ムーンは慌てて雷の杖を構え、呪文を唱えようとした。しかしその時、サマル
は既に跳びだしていた。
ザスッ
サマルの隼の剣は地獄の使いの体を腹から背中まで貫いていた。
「ぐ、げはっ」
地獄の使いの血反吐を浴びながらも、サマルは隼の剣を引き抜いた。
「お前を倒せば……呪いは消える」
サマルは横に飛びのき、地獄の使いを倒れるままにまかせた。
しかし地獄の使いにはなおも息があるようだった。
「う……私を殺しても……あの呪いは消えん」
「なに!?」
「私の……魔力はもとより……生命力まで注ぎ込んだ呪い……」
その間にもローレの姿は赤い光に飲まれていき、輪郭がうっすらと見えるだけ
になっていた。ムーンはどうしていいかわからないといった様子でとまどうばか
りだ。
サマルは地獄の使いの胸倉をつかんだ。
「答えろ!ローレにどんな呪いをかけたんだ!」
「ふ……醜い姿で……生涯を終えるがよい……もはやラーの鏡も……ある……ま
い」
「そんな……」
事切れた。地獄の使いの首がガクンと垂れ下がり、仮面が外れる。壮年の男性
の顔が現れる。死に際の笑いにより歪んでいたが、整った顔立ちといってもさし
つかえないものだった。
問題は最期の言葉だ。
醜い姿、ラーの鏡。
それは彼ら──特にムーンに忌まわしい記憶を呼び起こさせた。
ムーンはムーンブルク落城時、ハーゴンの手の者により犬になる呪いをかけら
れた。そしてローレとサマルがラーの鏡により呪いを解くまで、屈辱と忍耐の日
々を過ごしてきたのだ。
しかしラーの鏡はもはやない。もしローレが犬に姿を変えられてしまったとな
れば……どうすればよいのか。
サマルとムーンは焦燥感にかられながらローレを見守り続けた。赤い光はロー
レを包んだまましばし光り続けた。そして急速に弱くなり、最期に一瞬だけ強さ
を増すとはじけるようにかき消えた。
後にはローレが──邪神の像を抱えたままぐったりと横たわっていた。犬に変
えられてはいなかった。
「どうしたのかしら。呪いはかかったはずなのに……特に変わったようには見え
ないわ」
- 03-633 :630:2006/10/21(土) 23:24:20 ID:8h8VJxZs
- 「とりあえず、ローレを起こそう──ムーン、左側に回って」
サマルはローレの右側にかがみ、肩に手を回した。
「ん?」
確かにローレの姿は人間のままだ。しかしサマルは、ローレの体に触れてどこ
となく違和感を感じた。鎧の上からでははっきりとわからないがどことなく……
。
「ん、俺は……どうなったんだ?」
ローレが目を覚ました。だがその口から漏れた言葉は──いつもよりかん高い
ものだった。
「え………………ローレ、今の声……ローレの声だよ、ね?」
サマルは震えた声でローレに尋ねた。ひょっとして……。
「もちろん、何を言って……これって俺の声?」
ローレ自身もきづいたようだ。一方ムーンは口に手を当てたまま硬直している
。
「喉でも痛めたのかな」
ローレは喉に手を当て、発声練習を始めた。
「あー、あー、……やっぱり変だな。もしかしてこれが呪いか……?」
「──ローレ、落ち着いて聞いてほしい」
サマルは沈痛な表情で話し出した。
「とりあえず鎧を脱いでくれないかな?」
「こんな洞窟の最深部でか?もしも魔物がやってきたら……」
「その時は僕とムーンが対処する。とりあえず、どうしても先に確かめておきた
いことがあるんだ」
困惑した様子のローレだが、サマルの思いつめたような顔に押し切られ、しぶ
しぶガイアの鎧の留め金を外し、腕部の装甲から脱いでいった。
そして胸甲を含む胴体の装甲を脱いだ──まだキルティングの鎧下を着ていた
が体形ははっきりとわかる。
「あれ……?」
ここにきてローレも事態の深刻さを理解した。そしてサマルは深いため息をつ
き、ムーンは額に手を当てて上方を仰いだ。
あごはやや細くなり、目もかすかに大きくなったように見える。くびれた腰周
り、大きくなった尻、やや細くなった上腕、そして膨らんだ胸。
そう、ローレは女性に変身していたのだ。元は男らしく、男性の魅力にあふれ
た若者だった。それが今では肉感的で野性味のある美しい女性になっていた。
「………………サマル、これが俺にかけられた呪いなのか」
「恐らく」
顔をこわばらせたローレにサマルは答えた。だが釈然としないものがある。
(あの地獄の使いは最期に「醜い姿」と言ったよなあ。だけど今のローレはきれ
いだ……って男相手に何を言ってんだか)
サマルは頭を振って自問をやめた。
「呪いにかかってしまったものはしょうがないわ。とりあえずここを出ましょ」
それまで無言で考え事をしていたムーンは、すっかり意気消沈した二人の仲間
に声をかけた。
- 03-634 :630:2006/10/21(土) 23:25:08 ID:8h8VJxZs
- リレミトの呪文で海底の洞窟から脱出した三人は船に戻った。そして(なんと
なく)邪神の像を囲みながら善後策を検討した。
「まずは近くの町の教会に行って、呪いを調べてもらうことだね」
「でも教会の神父たちが役に立つのか?ムーンやサマルの時だって役に立たなか
ったじゃないか」
サマルの意見にローレが異議を唱えた。ローレはいろいろなところがきつくな
ってしまったガイアの鎧を脱ぎ、普段着──ローレシアを出発したときから着て
いる服を着ている。しかし男物のため、胸や腰周りなどがきつそうだ。かといっ
てムーンの服ではそもそも身長が合わないため着ることができないのでしょうが
ない。
閑話休題。ムーンが犬になる呪いをかけられた時も、サマルがベラヌールで動
けなくなる呪いをかけられた時も、結局は自分たちで解決してきた。教会の神父
たちの魔力ではせいぜい簡単な呪いを解くぐらいしかできないのだ。
ローレたちは前者ではラーの鏡を、後者では世界中の葉を探して呪いを解いた
。今回の呪いではムーンの件が参考になりそうだが、ラーの鏡はその折に壊れて
しまった。果たして第二のラーの鏡はどこにあるのやら……。
「呪いそのものは解けなくても、呪いの解き方などのヒントは得られるかもしれ
ない。ダメ元で行ってみる価値はあるさ」
「そう言うならまあ……」
ローレは肩をすくめたのち、腕を組んだ。だがどうにも落ち着かないのか、何
度も腕を組みなおしている。
「どうしたの?せわしないわね」
「ちょっとな……胸が邪魔なんだ……こうすればいいかな」
そう言ってローレは胸の下で腕を組んだが、
「う、そのかっこはちょっと……」
サマルは困惑した。ローレのそのしぐさはあたかも腕で胸を寄せ上げて強調す
るかのようだったのだ。
「ん?ああそうか」
ローレもそれに気づき、腕組みを解いた。そしてにやりと笑みを浮かべた。
「なるほど、サマルって実はむっつりスケベだったんだな」
「ちょ……!なんてことを言うんだよローレ!」
サマルは慌てた。
「ほうらその慌てぶりがまた怪しい。なんだなんだ、女の子に興味がないような
振りしても、やっぱり男の子なんだなあ」
ははは、とローレは笑う。しかしサマルとしてもドキッとしたのは事実だ。反
論しようがない。そこへムーンの助け舟が入った。
「二人ともよしなさいよ。今日は熱い洞窟に入って疲れているんだから、もう寝
ましょ」
「それもそうだな」
「じゃあお開きということで」
三人はそれぞれの寝室に帰っていった。
- 03-635 :630今回はここまで:2006/10/21(土) 23:25:52 ID:8h8VJxZs
- 翌朝早く、サマルは寝ぼけ眼で甲板へ上がっていった。日課の早朝稽古を行う
ためだ。この習慣はローレと旅をともにして以来、彼に付き合わされる形で続け
ている。
甲板はまだ薄切りが立ち込めている。その中からブンッブンッと棒状の物体を
振る音が聞こえてくる。
「おっと、ローレは先に起きてたのか」
昨日の奮闘に加え、呪いをかけられるという苦痛を味わったのに元気なものだ
。半ばあきれ果てながらサマルは歩を進めた。
「おーい、ローレ。朝から元気だね……ってなんだよその格好は!」
サマルは驚愕と羞恥と困惑と──とにもかくにも、眠気が吹き飛ぶほどの衝撃
を受けた。
なんとローレは上半身素っ裸で素振り稽古を行っていたのだ。稽古用の重い木
剣を振るたびに豊満な双丘もブルンブルンと揺れ……。
ローレはサマルに気づくと稽古を止め、サマルへと向き直った。その汗に塗れ
、湯気さえ立つ引き締まった体はなまめかしさを感じさせる。
「おおサマル、今日は遅かったな。俺はもう2セット目だぞ。なんか朝から元気
がありあってなあ、今朝も早く目が覚めたんだよ」
「……!!」
サマルは口をパクパクとさせ、全身を震わせながらローレに指を向けた。
「どうしたんだ。何かへんなものでも見たのか?」
深呼吸。サマルは気を落ち着かせると一気に行動に出た。
近くの樽の上にローレの上衣が無雑作に置かれているのを確認し、ひったくる
ように掴み取る。そして早足で──なるべくローレの体を見ないように目をそむ
けながら歩いていき、ローレの体に押し付ける。
「なんてはしたない格好をしているんだ!さっさと着てくれよ!」
サマルの顔が紅潮していたのは怒りからか、それとも羞恥からか。
その勢いに押され、ローレは渋々といった様子で上衣を着た。
「はしたないと言ってもなあ……いつもと同じ格好なんだが」
「それは男だった時の話だろ!今じゃあ……その…………女の体なんだから」
サマルの声は消えるように小さくなっていった。
「だが俺は俺だ。心は前のままだ。サマルは考えすぎじゃないか?」
「そうは言っても女性が男性の前で肌を露にするのは道徳上問題がありをりはべ
りいまそがり……」
ハァァ
サマルの嘆息。
(何でこうローレは無神経なんだ)
サマルは心中でつぶやいた。
(しかしそう僕が考えるってのは、僕がローレを女性のように見ているからであ
って、て、ええっとローレは確かに男だけど今は確かに女の体であって……ああ
、もう!!)
「と・に・か・く!」
サマルはドンッと甲板を踏んだ。
「少なくとも僕のいるところではそんな格好をしないでくれ!」
ローレはきょとんとした様子でサマルを見ている。先ほど着た上衣は汗でべっ
とり濡れ、体の線はおろか肌の色や胸の先端部の色まで透けている。
それを見たサマルはわなわなと体を震わせ、ローレに背を向けると急ぐように
船室へと続く階段を下りていった。
残されたローレは……
「あいつ……朝の稽古さぼるつもりなのかな」
サマルの気持ちなどさっぱりわかっていなかった。
最終更新:2012年01月24日 09:27