- 04-235 :ステテコ女王:2007/03/12(月) 22:10:19 ID:4Uet8su3
- 一之瀬巧は、身を切るような寒さを感じ、目を覚ました。頭の後ろの辺りに鈍痛が
あり、ぼんやりとした今の気分は、宿酔いの時に良く似ている。
(俺、どれだけ飲んだんだ?)
周りを良く見るとそこは繁華街の一角で、ネオンこそ消えてはいるが、飲み屋の
女やらポン引きなどが、まだうろついていた。時間にすると午前三時くらいだろう
か、タクシーが客を拾うべく表通りを埋め尽くしている。
巧はまず懐に手を入れた。携帯電話と財布、何はともあれ泥酔した時は、この二
つがあるか無いかを確かめねばならない。しかし、どちらも持ってはいなかった。
「やれやれ、そうとう飲んだらしい。記憶がな・・・い」
巧はぎょっとした。懐の中にあるはずの財布の代わりに、艶かしい肉の塊がある。
「なんだ、こりゃ?」
それは、乳房だった。女にしかついていないはずの豊満な果実が、巧の胸にこん
もりと山を作っているのだ。おまけに装いをあらためてみると、いつも愛用している
よれよれの背広を着ていなかった。ピンクのワンピース、ただ一枚限りである。
「まずいぞ、これ。まだ酔いが覚めてないな」
少し歩いて酔いを覚ます必要がある。そう考えて立ち上がると、妙に下半身が心
許ない。何というかあるべきものが無くなって、バランスを欠いているような感じだ
った。巧は反射的にワンピースの裾をたぐっていた。
「な、ない!チンポコがない!」
そんな馬鹿な──とてつもない不安が全身を覆い、冷や汗が出た。酔ってはいな
かった。本人の知らぬ間に巧の体からはあるべきものが消え、無いはずのものが
ついていたのだ。
「一体、どうしたんだ・・・俺、何やってたんだっけ」
懸命に記憶の糸を手繰る巧。まず、自分の素性から思い出してみた。
- 04-236 :ステテコ女王:2007/03/12(月) 22:27:26 ID:4Uet8su3
- 一之瀬巧、二十九歳。地方紙のすっぱおいC新聞の記者で、主に刑事事件を
担当。妻子なし。酒をこよなく愛し、また正義感に溢れたジャーナリストのはず
──と、ここまでは簡単に思い出せた。しかし、昨晩、同僚と別れてからの記
憶が曖昧だった。痛飲した覚えもなく、気がつけば女のように、いや、女そのも
のになっていたのである。
「おかしい。おかしいぞ」
僅かな時間で男が女になりうる事は可能だろうか。いや、無い。あったら、魔法
とかそういう話になる。巧はまず、自宅へ戻る事を考えた。この繁華街から駅五
つ向こうの街に、彼の住まいはあった。まだ電車は出てないので、当然、タクシ
ーを拾う事になる。巧は大通りに出て、タクシーを拾った。
「落日町の三丁目まで」
「はい」
驚いた事に、巧は声まで女性になっていた。
タクシーが動き出した時、バックミラーに映った自分の姿を見て、巧は思わず我
が目を疑った。
(な、何だ、これ・・・)
そこには見慣れた男らしい顔が無く、どちらかといえば男に媚を売る感じの女の
顔があった。鏡の向きから考えて、それは今の自分だと認めざるを得なかった。
(どうなってるんだ・・・悪い夢なら覚めてくれ!)
巧は頭を抱え、これが悪夢である事を願った。しかし、肌を撫でるタクシーのエア
コンの風も、夢で覚える感じとは程遠い。これは紛れも無く現実だった。巧はほ
とんど絶望的な気持ちになった。
我が家へ戻ると、とりあえず巧は着ているものをすべて脱いで、自分の体を確か
める事にした。驚いた事に、ワンピースの下にはピンクのブラジャーにパンティ、
そしてストッキングも着けていた。勿論、これらの物を着た覚えはない。おまけに
体はまるで女性化し、男らしさは微塵も残っていなかった。
- 04-237 :ステテコ女王:2007/03/12(月) 22:51:43 ID:4Uet8su3
- 「こんな馬鹿な・・・」
姿見に映った己の姿は、悲しいほどに女だった。肩幅も狭くなり、手足が細長くて
やたらと華奢。太っても無いのに胸の谷間が出来て、腰はくびれ、腹の辺りに脂が
少しだけ乗り、尻ばかりが大きくなっている。毛深かった下半身も今は若草がちょろ
りと生えた程度で、脛毛その他が皆、産毛のように細く柔らかい。昨日まで、身長
百七十五センチ体重七十キロ、大学では柔道部でならした自分が、如何にしたらこ
うなってしまうのか、どう考えても異常だった。
巧はここ数日、自分の行動を振り返ってみた。生活の中に何か手がかりが隠され
ているような気がするからだ。いきなり女性になるなど、あり得ない。
「そういえば俺、ここしばらくボスコニアン製薬の聞き込み取材やってたっけ・・・」
先日、巷に溢れる覚せい剤の一部が、どうもボスコニアン製薬の研究室から流れ出
ているらしいと馴染みの刑事から聞かされ、巧は単独で裏を取りに行っていた。
まだ手探りの状態で、デスクにも内密で繁華街に溶け込み、聞き込みに回っていた
のだ。その中で、地回りのギャラガ一家のやくざ者から、有力な手がかりを得た。
「そうだ。それで昨夜、ボスコニアン製薬の研究主任とアポを取って・・・」
樋渡という製薬会社の主任に狙いをつけ、巧は迫った。樋渡は借金があり、覚せい剤
をやくざ者に流しているという疑いが濃厚だった。その裏を取る為に、繁華街のスナッ
クに呼び出して・・・
「何か、おかしな薬を飲まされたんだ!」
水割りを何杯かあおった時、巧は急に眩暈を覚えた。酒豪の部類に入る自分が、これ
しきの酒で酔うはずが無い・・・そう思った時には、意識が消えてしまった。そして気が
つけば、この有り様である。
「とすると、あの薬に何かが」
樋渡はDNAの研究に長年携わり、様々な結果を残しているという。それらは今後の医
療に画期的な治療法を齎す事を期待されているらしい。
- 04-238 :ステテコ女王:2007/03/12(月) 23:06:00 ID:4Uet8su3
- 巧は樋渡に一服、盛られたと確信した。そうとなれば行動に出る。そろそろ夜が明
ける。この体を元に戻して貰わなければならない。そして、樋渡の犯罪を世間に知
らしめる必要があった。
「やってやる」
巧は部屋を出た。体が女なので、着ている物はそのままで行く。これらは恐らく、
樋渡が寄越してくれた物だろう。復讐を兼ねて御礼をせねばなるまい。巧にジャー
ナリスト魂が戻っていた。
しかし、駅まで歩き始めてはたと気がついた。
(俺はどこへ行けば良い?)
女の体ですっぱおいC新聞のデスクか──とても、行けない。一晩で女になった
理由を、いかに好奇心に満ち溢れた記者仲間でも、信じる事は出来ないだろう。
第一、内偵だったので誰一人として、樋渡やボスコニアン製薬の事を知らない。
それ以上に、すっぱおいC新聞本社の玄関を通しては貰えないだろう。社員証は
持っているが、以前の面影は少しもないのだ。
(俺は、誰だ?)
通勤時間が迫り、人々が行き交う街中で巧は自問した。自分には、自分を証明する
物がない。ただの女でしかない。誰がどうやって自分を一之瀬巧と証明してくれる
のか。妻子は──無い。父母は田舎にいるが、この姿を見て我が息子と思うだろう
か。友人は──顔なじみのスナックの女は──考えれば考えるほど、巧は自分が
孤独である事を知った。
「どうしようも・・・ない」
無力だった。ただの女がひとりで何が出来よう。昇りかけた日の光に照らされなが
ら、巧は絶望し、体中から力が抜けていくのを感じた。
- 04-239 :ステテコ女王:2007/03/12(月) 23:19:53 ID:4Uet8su3
- 繁華街の裏通りに落ち武者という名の、安ソープがある。最近、そこに真理奈と
いう名前で、美しい女が入店したと、風俗好きの間でちょっと話題になっていた。
素性は分からないが飛び込みで店へ来たといい、経営者は良い拾い物をしたと
顔を綻ばせた。
「いらっしゃいませ」
真理奈は客が来ると、三つ指ついて出迎えるのを常としている。柔らかで乳白色
の肌に、ピンクのキャミソールを着ていた。
今日はこれで三人目。しかし、真理奈は疲れた顔もせず、にっこりと客を出迎える。
「失礼します」
真理奈は客をマットに寝かせ、自分の体にローションを塗って洗う。大ぶりな乳房
で背を洗われた男は皆、マットに突き刺さらんばかりに男根を昂ぶらせる。そして
一刻も早く、真理奈に濃厚なサービスを求めるのだ。
「真里菜ちゃん、しゃぶってくれる?」
「はい」
ローションをシャワーで流してから、客を湯船につからせて波間に浮かぶ潜望鏡
の如き男根を、唇で愛撫する。ここで長湯をすると肌が荒れるので、客を急かさな
ければならない。真理奈は男根を深く咥え込み、切ない眼差しを客に向けて媚び
を売った。早く欲しいと思わせなければ、肌は油分を失いカサカサになる。それが、
辛かった。
「ベッドに行きません?」
「いいよ」
サービス時間の九十分のうち、いかに長く体を使わせないかが、泡姫には長生き
の条件になる。真理奈はなるべく早く客を終わらせ、後は楽しいお話で凌ぐので
あった。
- 04-240 :ステテコ女王:2007/03/12(月) 23:33:27 ID:4Uet8su3
- 午前二時、落ち武者の看板は電源を落とされ、真理奈も漸く仕事を終える。今日は
四人の客を取り、疲れ果てていた。店の方からあてがわれた部屋へ戻り、タバコに
火をつけてビールを煽った時、経営者がやって来た。
「ご苦労だったな、真理奈」
「いいえ」
「悪いがもう一仕事、頼めるか」
そう言って経営者は、ズボンのチャックをおろした。山田という醜い五十男で、顔はあ
ばたまみれ、結婚はしているが飲む、打つ、買うのどうしようもない人間だった。
「いいけど、心臓の方、大丈夫なの?」
山田は心臓を患っており、あまり激しい運動をするべきではない。真理奈はその辺
の事を慮っているのだ。
「大丈夫だって。さ、わしもあまり時間がないんだ」
青畳の上に押し倒され、真理奈は足を開いた。
(エロジジイめ)
今日、五人目の男を受け入れながら、真理奈こと一之瀬巧は腹の中で毒づいた。
「いいか、真理奈」
「いいわ、山田さん!素敵よ!」
女にされてから数ヶ月が過ぎ、男に抱かれる日々が続いていた。いや、実はほとん
ど、巧は女になりかけていた。
自分という存在を失い、孤独に苛まれた巧は行き場を求めて街をさ迷った。そのうち
金も尽き、借りていた部屋も追い出されて路頭に迷う。冷たい雨に体を責められ、つ
いには風俗店へ飛び込まざるを得なくなった。女一人、身元も保証されないとなれ
ば、働ける所など限られている。巧はここで、泡姫として懸命に働いた。後が無いの
で、それこそ死に物狂いだった。
- 04-241 :ステテコ女王:2007/03/12(月) 23:49:17 ID:4Uet8su3
- 山田が体を入れ替え、巧の両腕を馬の手綱でも引くようにとった。山田はこうして
後ろから女を責めるのが好きだった。
「いいか、いくんだ、真理奈!」
「いくわ、私!山田さんので!」
初めは嫌で嫌で仕方が無かった男根の感触も、今は愛しい物だった。最近は尻
の穴での性交も覚え、女としての自分に目覚めてしまっている。
「わしもいくぞ、真理奈!」
「いって!」
高い階段を一気に駆け上るような感覚が巧の腰から、背中を通った。頭の中が
白くなり、素晴らしい瞬間が訪れる。
「ああッ!いくッ!」
この時ばかりは、膣内へ大量に出される山田の子種の温みも心地良かった。巧
は腰を使い、男根を奥へ奥へと飲み込もうとした。そういう習慣が身についていた。
「良かったぞ、真理奈。じゃあ、わしは帰るからな」
「・・・おやすみなさい」
「明日は休みだったな。しっかり体を労われよ」
「ありがとう」
帰り支度をする山田に巧は口づけを捧げた。もう、おべっかなのか本心からなの
か、分からなくなっていた。女という物の本質的な部分は、こういう物だと思うしか
無かった。
山田が消えてから、再びタバコとビールを口にする。新聞を見ると、ボスコニアン
製薬についての記事があった。巧の目が光った。
「再生医療に救世主。樋渡教授、DNAを自在に操る研究成果を発表・・・か」
紫煙をくゆらせながら、巧は膣から流れ出る山田の子種を、指で拭き取った。
最終更新:2012年01月24日 09:33