- 05-505 :497:2007/12/23(日) 02:19:13 ID:08CmXJW5
- 周囲見渡す限り、平野と小さな森しかない平原において二つの軍勢が睨み合っている
片方が鈍く銀色光る甲冑に包まれたどこかの正規軍と思わしき軍勢、
もう片方が艶消し処理を行った鎧主体の、
肌の色が正規軍と思わしき軍勢より少し濃い人種で統一された軍勢。
肌色の少し濃い軍勢はゆっくりと距離を詰めようと隊列を整えて進軍している。
数は正規軍と思わしき方がやや少ない五百人程。
肌色がやや濃い軍勢が六百五十人程である。
正規軍と思わしき軍勢の中心で騎馬にまたがった、
重積層鎧を纏う身長190cm程の大男がどうやら指揮を取っているようで、隣の騎馬に乗馬している
参謀役の文官と会話しているようだ。
「伏撃の用意は完了したか?」
「将軍の指示した箇所に全て配置完了したとの報告が入りました」
「よし、ならばまずは一当てして実力の程を確かめさせてもらうか」
将軍と呼ばれた人物はラークン王国に置いて唯一の勇将と呼ばれるボルクス将軍である。
「ものども続けぇ! 弓を構えろ! 今こそ我が飛射でダークエルフの反逆者を踏み潰すのだ!」
「「「「「「おぅ!!!」」」」」」
ラークン王国の存在する地方は文官・武官共にそれなりの人材が居る地方なのだが、
文官は内政を重視しすぎ、武官は血気に逸る脳筋傾向に偏っている為。
知勇兼備の将が極端に少なかったりする。
「敵が突撃して来ます! 盾と槍を構え! 隊列を乱してはいけません!
槍を並べれば突撃は来ません! 冷静に対処するのです!」
両軍の指揮官が配下の軍勢に号令を掛ける。
正規軍の騎馬隊が相手の軍勢に向かって突進し、急激に距離を詰めていく。
騎馬隊が先頭のボルクス将軍の後に続き、槍の穂先二メートル程の近距離で
方向転換を行い、密集体系を取っている相手の側面に回りこむように騎馬を移動させた。
今だ! 矢を放てぇ!」
騎馬の大地を蹂躙する音の中でさえ良く聞こえる号令により、騎馬隊は次々と矢を放っていく。
しかしその高度な錬度で持って行われた妙技を、
相手は側面に就かせた兵士達が素早く方向転換し、重い盾を動かして矢を防いでいった。
両軍とも錬度が高い熟練の軍勢である。
「被害報告!」
ダークエルフと呼ばれた者たちの軍勢では指揮官が被害の集計を急がせていた。
「被害報告を行います! 死者二名、重傷者十名、軽傷者十二名です!」
艶消しされた軽装鎧を纏った妙齢の女性指揮官が、若い担当官からの報告を受けて唇を噛んだ。
- 05-506 :497:2007/12/23(日) 02:20:17 ID:08CmXJW5
- 「これより反撃を行います! 速度の落ちた相手騎馬隊に矢の雨を降らせるのです!」
剣を振り上げての女性指揮官の号令により、軍勢は各自が腰に下げた弩を構えて、
騎馬隊に向けて狙いを定めた。
「将軍! 敵軍は弩を構えました!」
「よし、合図の火矢を放て! 槍を構えろ! 反転して自慢の突撃をお見舞いするのだ!」
「「「「「「おぅ!!!」」」」」
ボルクス将軍の号令と共に上空に向かって火矢が放たれ、騎馬隊が再び加速を始めようとする。
その様子を確認したダークエルフの指揮官は指示を飛ばす。
「騎馬隊が反転した後加速したら即斉射 第二射は行わずに槍を構えるのです!」
号令の指示を飛ばす間も、騎馬隊は地面を踏み鳴らし突撃してくる。
ダークエルフ達の弩が、狙いを自分たちに向かって迫る鈍い銀色の軍団に定めた。
「放て!」
女性指揮官の号令と共に無数の矢が、猛進する騎馬隊に吸い込まるように飛び出した。
突撃を行うべく加速した騎馬隊が正面からの矢の斉射を喰らい、
前列の十数騎が次々と落馬していく。
「槍を構え!」
女性指揮官の指示に従い、乱れの無い動作で弩を腰に付け、槍を構えていくダークエルフ達。
しかし、その動作の途中で頭上から数多の矢が飛来した。
飛来した矢により陣形が乱れ、槍の横列の防御に穴が開いてしまった。
しかも、騎馬隊はもう数メートル先まで距離を詰めている。
「陣形を立て直すのです!」
急いで穴を塞ごうと陣形を整えるダークエルフ達だったが、時既に遅く
猛スピードで突っ込んできた騎馬隊に部隊を引き裂かれ、迎撃能力を奪われてしまった。
「指揮官はいずこに! 首を戴きに参った!!」
- 05-507 :497:2007/12/23(日) 02:21:18 ID:08CmXJW5
- 傍ら誰も伴なわず、単騎でボルクス将軍は相手指揮官を探しに敵陣を駆け抜けていく。
弩の矢が肩に刺さっているが、気にする素振りすら見せない。
「そこか!」
陣形の中央まで進んだ所で、周りに指示を出しているそれらしい女性を発見した将軍は
馬をさらに急がせ、女性指揮官の所まで突き進む。
「カレン様には指一本触れさせん!」
途中で複数の護衛と思わしき男達が槍や剣を手に、将軍の行く手を阻もうとするが
「邪魔を、するなぁ!」
ボルクス将軍の巨体から繰り出される力で振るわれたハルバートにより、
鎧ごと体を破砕され、弾き飛ばされ進撃を止められないでいた。
「その命、私が貰い受ける!」
遂に女性指揮官の元までたどり着いた将軍は一際ハルバートを大きく振るい、
ダークエルフの華奢に見える体を両断すべく得物を真上から振り下ろした。
「そう簡単にはいかせません!」
女性指揮官も、死の打ち下ろしを逸らすべく全力で剣を薙ぎ払った。
その抵抗で一撃は女性指揮官の束ねていた髪留めを切り裂くも、かろうじて体には命中せず
地面を大きく抉るだけに留まった。
「ォオオオオオオオオ!!!」
「ハアァァァァァァァ!!!」
ボルクス将軍は渾身の一撃を外したものの、追撃の一撃を繰り出すべく、
兜に隠れた口で猛々しく息を吐き、腰の長剣を引き抜いて薙ぎ払う。
カレンと呼ばれた女性指揮官も今の一撃で砕け散った剣を捨て、短剣片手に突き進んだ。
「グッ!」
将軍の剣に髪を一房切り裂かれながらも自らの間合いに入ったカレンは、
重厚な鎧の隙間に短剣を突き立て、なにやら呪文を唱えた。
- 05-508 :497:2007/12/23(日) 02:22:22 ID:08CmXJW5
- 「人型を決めし神よ、この者に望まぬ姿を与えたまえ」
「貴様‥‥‥何を!」
そこまで言った所で将軍の意識は途切れ、兜が外れて落下し、普通の男の顔と金色の短髪が零れた。
そのまま崩れ落ちようとする将軍をカレンは抱きとめる。
二人の周りは依然合戦の音が鳴り響いており、ダークエルフ側の劣勢が見え始めて来た。
一騎討ちの決着が付いた直後、カレンの元に参謀が参り、戦況の不利を伝えると
カレンは全軍に撤退を指示、意識を失ったボルクス将軍を自らの馬に乗せ、逃走を開始した。
ダークエルフ達が撤退し始める様子を確認した正規軍は、指示を仰ぐべく将軍を探すが
見つからず、追撃を諦めてその場で野営準備をおこないながら将軍捜索を続けた。
結果、見つかったのは将軍の付けていた兜と将軍の重積層鎧を着た
金髪の長い人物が連れ去られたとの目撃証言だけだった。
最終更新:2012年01月24日 09:42