「――やあ、久しぶりだね、何年ぶりかな?」
――2年だな。
「へぇ、もう2年も経つんだ……今日はどういう風の吹き回しだい?」
――白々しい事を……まあいい。なに、ちょっと暇が出たんで、暫らくはこっちにいれそうなんでね。
「当てが無いから?」
――そういうことだ。
「しかし2年も何やってたんだい? 君だったら年中暇を持て余してるだろうに」
――食い溜め。
「食い溜めって……あんまり食べ過ぎると生態系に影響が出るよ?」
――お前も一々話が極端だな、俺はグルメなんで食うものは吟味する……。しかし相変わらず物好きなものだな。
「物好きでないと君と付き合うなんて出来ないよ? ……で、何が物好きだって?」
――フン、お前みたいのがわざわざビジネスなんて面倒な事をしてるのか……未だに分からんね、何故だ?
「それ前にも何度か話した気がするんだけど……やっぱり忘れてる?」
――覚えてるさ、今ので27回目だ。
「……暇なんだね?」
――そういうことだ。
「やっぱり。……私はね、人が好きなんだ、人って言うかいきもの全般でもいいけどね。男も、女も、大人も、子供も、善人も、悪人も、正直者も、嘘つきも、天才も、秀才も、凡人も、落ちこぼれも、私のことを嫌う人も、惚れてくれる人ならそりゃあもう大歓迎さ」
「どんなに知識を蓄えたって、どんなに多くのパターンを見つけたって、心の中って言うのは決して測りえない、量りえない、計りえない、図りえない。私は人の心を読むなんて高等テクは身につけちゃいないしね。だから人が何かを考え、見つけ、それぞれの答を出し、心動かす様を見るのが大好きなんだ。そこに私の智と力が入り込めない分、尚更にね」
「だから私はこうやって、人が何かを見つける手助けをするんだ。元々が似非科学者なだけに、やっぱりこう言う方面を突いたほうが個人的にもヘルプしやすいって言うのも大いにあるけどね、だからこうして社長の椅子にも座るし、人間を脅かす存在から地球を守ったり――」
――地球を守ったり?そんなまさか
「あれ、そうだっけ? おかしいな、ビクトリーマザーの存在意義が……」
――それと、それが兵器産業に手を出している奴のいうことかな? それも人の心の一切合財を理解せず、ただ踏みにじるだけの自動人形にだ。
「手厳しいね。それも再確認させるつもりかい?」
――揚げ足を取るのは嫌いでないからな。
「酷い……まあいいけど。そうだなあ……あえて言うなら人の代わりに戦って欲しいからかな、私は世界平和なんてできるるとは思っちゃいないし望みもしない。なら血で血を洗う戦より一方的な蹂躙をしてやった方がそっちのほうが死人は少なくなる。機械同士で代理戦争でもできるようになれば万々歳だけどね、互いにウチのモータードールを買い漁ってくれるようならこっちも儲かるし一石二鳥。まぁ理由なんてまだまだあるけど……今はこれだけでいいや」
――自分勝手なものだな。
「ああ、勝手に世界に貢献させてもらってるよ」
――白々しい事を。
「こんなんでいいかい?」
――まあ、そうだな。どの道俺にとってはどうでもいい。
「つれないなぁ……アイザック君?」
――一語一句変えずそっくり返すよ。しかし、やはりお前は変わったものだな。昔は絶対にそんな事は口にしなかったろうに。
「君が変わらなさ過ぎるだけだと思うけど……」
――いいや違うね、お前が変わりすぎだ。変化の一端を担った奴が言うんだから間違いない。
「うーん……じゃあそういうことにしとこう、どの道私にとってはどうでもいい」
――フン、だろうなアイザック君。
「君ねえ……」
――俺がアイザックならお前もアイザックだ、どうせ適当に呼んだんだろう。
「まあね」
それ以来社長とアイザック様はお互いをそのように呼んでいるようです。
失礼ながら私もアイザック様のことをアイザック様と呼ばせていただいておりますが、彼も別段気にしている様子はないようなので、きっとこれからもその呼称が使われていくのだと思います。
社長は……相変わらず社長ですね、区別をつけるのが難しいですし、社長からもそう呼ぶように仰せつかっていますので。
ええ、アイザック様は相変わらず社長室に居りますよ、相変わらず退屈そうに。
……はい、ではそのように伝えておきます。それでは。
―エルーセラより、MD社EDU研究局長音無へ―
対人、対物用の自動人形。MD社の資金源になっている軍需兵器のひとつ。
戦車砲の一撃にも耐える重厚な装甲が売りだがその代わりに火力が貧弱で、文字通りギリギリ人間を相手にする程度のものしか持ち合わせていない。
コストパフォーマンスに優れ、世界各地の紛争地域で見かける事が出来るためにしばしば「MD社の黒い部分」として揶揄されるが、あまり聞く耳を持たないのがあの人である。
最終更新:2008年02月10日 18:41