「すいません、お待たせしました」
「気にせずに。私もプライベートな時間が持てましたし」
携帯を閉じて運転準備に。ガヴァナーが遊羽山沿いの探偵事務所に行きたいと言うので前まで。
少し時間があるので、その間どこかへ、とガヴァナーは勧めたのだが、1時間も無いならパスとの事。
ガヴァナーが車に乗り込むとふわっと良い香りが。
「白百合さん、少し香水付け過ぎじゃありませんか?車の中、結構匂うんですが」
「ですね……でも、いい匂いじゃありませんか。付けてから言うのもあれですが、折角貰ったものをいいんですか?」
それは数日前に、ハイゾナス家に寄った際に持ち出した香水であった。
両親から頂いたものであったが、自分が使う事はあまりなく、寮に移る際に部屋の棚の中に閉まっていたものを、どうせあるなら使う人に、というガヴァナーの親切心だった。
「はい、それにあんまり匂いがあると……その、患者さんに何か言われないかと……」
「多少の御洒落も大切ですよ。良ければ女性の好みの奴を貸しましょうか?」
「い、いぇっ!!大丈夫です!!」
「……おー、使わなくても大丈夫とは凄い自信で」
「ふぇっ!?そ、そういう意味じゃぁ……」
顔を赤くしながら否定するガヴァナー。
「ははっ。ま、悩みもスッキリしてるようですし何より」
「え、あ、はい。もう大丈夫で……あれ、わかってました?」
「そりゃもう。行きに私が言ったこと一つでも覚えてますか?覚えてたらご褒美」
「えっと……あ、あれ……?」
思い出そうとするが思い出せない。車を出してもらった事は覚えてるものの、そっから探偵事務所に行くまでがどーしても思い出せなかった。
「ほらみ」
「すいません……」
「気にせずに。悩みを抱えたまま明日の手術なんて怖いですからねー」
「うぅ……ですよね。患者さんは僕達を信頼してくれてるんですから……もう、大丈夫です」
何か一つ乗り越えた、そんな感じの顔つきがバックミラーに映っていた。
「……うし、明日終わりましたら飲みましょう」
「あ、いや、御酒は……」
「じゃ、甘いのでしたら?」
「……あ、甘いのなら……まだいいかな?」
「はい、決定」
次の日、手術は予定通り執刀医はガヴァナーによって行われ、無事に終わった。探偵事務所の相談のおかげ、患者からの応援もあってか。
メスを手にしても前のような震えは無く、一度血が止まらなく焦ったものの、周りのサポートもあり予定時間内に終わらせることができたようだ。
技術はある、前の手術は勇気がなかっただけ。今回は、それはもう彼の中にはあったのだから。
しかし
問題が起こったのはその後だった。
……問題と言っても白百合の問題なのかもしれないが。
「聞いてますかぁ~?しりゃゆりしゃーん?」
「ガヴァナー君」
カウンターで机にもたれながら、酔いに酔って呂律が回ってない状態のガヴァナー。
最初は笑い話程度だった気がするのだが、いつの間にか愚痴に。
「僕の事を可愛いーだの、子供だの、好き勝手に言ってぇー」
「……」
「ちゃんときーてくだ、しゃぃっ!!」
カシスオレンジが半分ほど残ってるグラスをドンッと机に。
怒ってるんだがやっぱり可愛らしく見える。
甘いカシスオレンジを一杯飲ませたんだが、気分がよくなり、今の状態に。
「これほどまで弱いとは……」
先ほどから同じ事を何度も何度も聞かされているのだ。少しムカついてきた。
帰ろうと言っても、恐らく聞かないだろう。
「先生……少し落ち着いて、御冷でも飲んで……」
「まーだー、カシシュオレンジがありましゅー!」
「あぁ、お兄さん。鬼封じEXを一杯。”ストレート”で」
「え? あ、はい。……強いですよ?大丈夫ですか?」
「えぇ」
白百合が飲むわけじゃなかった。彼でも結構きつい部類の名酒、鬼封じ。しかもEX、それをストレートだなんて。
「さ、どうぞ、ガヴァナー君。大人でしたら一気に」
「えっ!? ちょ、先生にんなもん飲ませたら不味……」
「おとょにゃぁ?飲めますよっ!僕わー子供じゃーありま・・・しぇんっ!!」
バーテンのお兄さんが止めようとしたが、酔い状態のガヴァナーは止められる前にグラスを奪い、
一気飲み。
一時停止。
ふらふら。
意識を失ったか、後ろにそのまま倒れかけたのを白百合が用意してた片手で受け止める。
「すいません、勘定を」
「潰さなくてもいいんじゃ……」
「あの調子じゃ帰らないと思いますので」
次の日、ガヴァナーは飲んだ事は覚えてる物の、愚痴を言い始めたあたりから全く覚えていなかったのだった。
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最終更新:2009年04月04日 02:13