想いは積み重なっても、テト〇スの如く消える事はなく

 初めて会った時は参拝者だった。孝道と少し揉めて、止めたのが始まり。挨拶を交わした後によければ、とクロードが働いてる店を紹介してもらった。
 その喫茶店のケーキはとっても美味しくて、学校でも評判だった。
 ウェイターがカッコよかったりウェイトレスが可愛かったり、服が可愛い、ということで結構な人気である。
 問題があるとすれば店主が男嫌いだったり、ただの一部の人たちの溜まり場になってる事だったり、盗撮があったり、それを懲らしめたり、と少しうるさいぐらいか。

 その時は…… 特に意識してなかったのだが。




―――公立創尾高校、体育館裏

「好きです!付き合ってください!!」
「えーっと……気持ちは嬉しいけど、ごめんなさい」

 告白場所がベタ過ぎないかって思うけど、学校内で人目の付かない所ってこんなところぐらいしかない。
 手紙とかで放課後どこどこの教室で~とかって他の奴等に見られるかのせいもあるもので。

 好みじゃない……どちらかというと兼昌に似た感じな人だったので、丁重にお断り。
 帰ろうと校門に向かってると、同じクラスの友達が。見てたのか、見てたのかあんたら。

「沙羅ー…… 一人身辛くないの?結構いい感じだと思うんだけど」
「う、五月蠅い。なんか違うの」
「ふーん…… ったく、何も言わなくても寄ってくるから良い身分ですねー本当に」
「沙羅ちゃんの好きなタイプって体育系じゃないもんね」
「筋肉質はねー……」
「なぁ、沙羅って好きな人とかいるの?」
「……なに突然」
「そうよねぇ。今まで断って…… 誰かしら、沙羅ちゃんのハートをゲットしてる人は」
「う、五月蠅い!」
「おー……ムキになるのが怪しいですなー」
「だぁぁぁっ!!」





―――喫茶、シャ・ノワール

「クロたーん、宿題教えてー」
「あのな、そんな数学なんぞ、式を覚えて数字をあてはめるだけだろうが……」
「むがーっ!!」


「お待たせしました。本日のケーキ、桃のタルトです」
「ありがとうございます」
「では、ごゆっくり」

 いつも通り優しい笑顔で渡される。
 普段からあんな感じの人なのだが、寮の人達や、店員さんとの会話を見てると、沙羅や孝美に向けられた笑顔は作ってるのように見える。
 特に、セレナには一瞬だけ、素の表情が。……孝道とかカイルとかにも素の表情を見せてるのだが。
 ――羨ましい。兄貴とかじゃなくて、セレナさんが。

「……」
「姉さん?……どうかしました?」
「へ?えっと、何だっけ?」
「……晩御飯、何にするか決めたんですか?」
「んー……特に。食べたいもの…… ある?」
「日々考えるのも難しいものですよね」
「そうだねー……」

 頭の中は晩御飯の事は全く考えてなかった。晩御飯の事は。





―――沙羅の部屋

 風呂上りにベッドに横たわる。

(一人身辛くないの?)
「……」

 以前孝美とアッシュが家に来たが、幸せそうだった。

(誰かしら、沙羅ちゃんのハートをゲットしてる人は)
「……はぁ」

 好きな人……好きな人はいるけれど、けれども。





 既に、手遅れ。







―――夕食後 沙羅の部屋

「これぐらいしてくれてもいいのになー……」

 孝道と兼昌は晩酌中なので二人は部屋で恋愛ドラマを見ながらお茶。
 画面には女性を引きよせ、キスをした男性が。大抵の恋愛はこんなドラマチックじゃないけども、やっぱり羨ましいものだ。

「アッシュってそんなにヘタレなの?」
「私からしなきゃあんまり…… って何言わせるんですかっ!?」
「ごめんごめん、でも羨ましいな。そういう人が傍にいるって」
「姉さんはいないんですか?その、好きな人って」
「私の事を好きって人はいるけど、私が好きなってのが……」
「贅沢ですね。面食いなのもどうかと思いますよ?」
「だって…… そう、思える人がいないなら別にいいかな、って思うけど……」
「なるほど…… で、どなたですか?」
「……そ、その」
「ちょっと待って。えーっと、うん。姉さん…… あの人に、惚れちゃったのですか?」
「う、うん……」

 一時停止。再生。

「……知らないの?あの人には――」
「こ、恋人でしょ?知ってるよそれぐらい…… 諦めようとしたけど…… でも傍に居たいというか……」
「あんな美人がいる人を好きになるって…… 本気なんですね」
「……わ、忘れられないの。ほら、前に御茶奢ってもらった時とか。あの時は意識してなかったんだけど、今になったら……」

 みるみる顔が赤く。飲んでるのは御酒じゃありません、未成年ですから。御茶です御茶。

「姉さん、当たって砕けましょう。……いえ、砕けてはダメですね」
「へ?」
「勇気を出さずに動かなければ何も変わりませんでしょう」
「……」
「想いを伝えなければ、姉様はずっと苦しいままです」
「だよ、ね……」
「明日にでも、クロードさんを呼んで――」

 と、クロードの名を出した途端

「クロードさん、ってあの年がら年中発情期の変態すけこまし野郎の事ですかっ!?」

 壁に耳を当てて聞いてたのか、名前が出たとたん思いっきり障子を開けた孝道。
 相手が相手だったからかものすごい興奮してる様子。孝道の中でも危険人物ワースト5に入る人物だったからか。

「兄様五月蠅いですよ、夜なんですから」
「沙羅、考え直しなさいっ!!あんなメイド服が大好きでセレナさんのような人がいても他の人に手を出そうとする最低野郎じゃ――」
「うっさいっ!!」

 あっぱー、あるいは、しょーりゅーけん。なんかひでぶって聞こえたけど孝道なら大丈夫、きっと。

「はぁ、はぁ……」
「兄様…… 大丈夫?」
「……さ、沙羅、いや、本当にやめておきなさい」

 むくっと起き上がり、真面目モードに。

「恋人がいる奴を好きになんて、彼女のセレナさんが怒らないわけがないだろう」
「でも兄様、こんな姉様初めて見ました」
「……」
「困りましたね…… 相手が悪すぎます。……孝美、お前の彼氏が他の女性と付き合ってたらどう思う」
「……そ、それは嫌」
「……」
「それと同じだ。仮に上手くいっても、クロードはなんだかんだでセレナさんを愛してる。どちらにしろ虚しくなるのは……沙羅、お前だ」
「……」

 先ほどから何も言わず、ただ俯いたままの沙羅。孝道の言ってる事は正しい、それを認めなければならないのが辛いのか。

「……姉様」
「……だよね、言う通り、だよね」
「姉様……?」
「沙羅?」

 確かにそうなのかもしれないけど。

「伝えないと…… ごめんなさい、諦めれないよ……」

 ゆっくりと顔をあげる。その表情は自信に迷いはなく。

「ごめん、兄さん。孝美、私明日言ってみる」
「沙羅っ!」
「孝美に言われてさ。言わなかったらこのまま苦しむ、それよりも言って断られた方がスッキリしそうだから」

 見せたのは、少し悲しげな笑顔。

「……姉様」
「最初から、上手くいく訳無いって分かってるよ…… それでも、言いたいの。お願い」
「告白するかどうかはお前の自由だ…… 好きになさい」


 沙羅の判断はすでに決まった。明日、どうなろうとも沙羅の決めたこと


 結果は、目に見えてるのに。



 二人はそう思った。

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最終更新:2009年05月18日 01:05
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