―――大佛家
「孝美嬢に呼ばれたんだが……」
「い、いま出かけてますので……待ちます?」
「そうだな」
そのまま居間へ。御茶と和菓子を出し。……妙な雰囲気。
クロードもやっぱり人の家なので下手に動けないのか、何かしら考え込んでいる。
「あ、あのー……」
「ん?」
「い、いえ…… なんでもないです……」
試しに色香を漂わせてみたけど、クロードには何の変化もなく、そうか。の一言で再び考え事を。
クロードに思いを伝えよう、としても寮や喫茶店だと他の人もいて…… と、神社まで来てもらおうと電話をしてみようとも、恥ずかしくてかけれず。
結局、そんな沙羅を見た孝美がクロードを家に呼び、後は沙羅次第、ときっかけを作ってくれた。
そう、あとは沙羅次第なのだが、この程度じゃ駄目なのかと。クロードの傍には常に女性でも惚れてしまいそうな美人がいるのだから。
「はぁ…… 魅力ないのかな……」
「……何を言ってる?」
「ほえ!?ああああの、それはっ!?」
心の中でーのはずが、つい思わずボソッと小さな声で言ってしまったのだ。
「耳は良くてな、特に女性の声は聴きやすい。……小さな声で悩みを言うのは聞いて欲しいと願うからだ」
「……あぅぅ」
「一応、魅力は十分だ。ったく、香水か?少し普段とは違ういい匂いもするしなぁ。自信は持っていい、僕が保障しよう。一人身だったら既に襲ってるぞ」
「……お、襲います?」
冗談交じりに。でも少し望みを持って。
これで襲われたら…… うん、それはそれでOK?多分。
「一人身だったらの話だ。セレナとの約束でな」
「……それは残念です。でもちょっと自信が持てたかな?」
「……そうか、それは良かった」
クロードの隣へ、静かに近寄り。
「……わ、私が好きになるのは勝手だよね んっ……」
「……っ、沙羅嬢」
ダメ元で、口付け。
唇と唇が触れ合った瞬間、やっぱり駄目だと沙羅の中で気づく。
何をしても、クロードは襲ってこない。
セレナさんが好きだから。
思いを断ち切るキス?断ち切れない。
そう思った瞬間、目から涙が溢れ出た。
私―――何してるんだろうって。
「わ、私は、あ、貴方がっ…… 好きで…… す…… ぐすっ…… こ、答えてくれなくても、良いですから……」
「……沙羅」
「クロードが…… セレナさんを愛して…… わかってても……そ、傍に居れるなら居たいです…… ぐすっ」
「……」
「駄目、ですか?あ、愛人とかでも…… そ、それだとセレナさんが…… め、妾とか」
「妾?」
「あ、そ、その、愛人、のっ……奥さんが知ってる人のっ……事」
「はぁ…… とりあえず、落ち着け」
「妾、と言ったか。セレナがいても構わないと……、辛いぞ?」
「舐めたら駄目です…… じゃなきゃ言いません。でも…… セレナさんは……」
「あいつも耐える…… だろうなぁ。そう、信じたい。少し楽しみだ。何せ…… 相手は本気だからな。」
「魅力があるんです……」
この先、いばらの道を歩む事になるだろうか。でも、自分に正直に。
そんな覚悟をしてたのだが、その覚悟には合わない、軽い声が。
「ま、そんな事気にしなくても大丈夫だろう」
「え?」
「セレナとはまだ正式には籍を入れてないから妻云々はまだ未定。それに、一夫一妻という誰かしらが決めた糞ルールなんぞ無視してやる。僕は欲張りでなぁ、美女は多いほど嬉しい」
「ふふっ……それが素のクロードなの?」
普段の紳士的なクロードではなく、沙羅が見たかった、素の、少し意地悪なクロード。
「ぁ…… あぁ、そうだな。くくっ…… 沙羅。お前の愛想が尽きるまで…… 欲張りで自分勝手な僕の傍にいてくれるか?」
「……はい。ねぇ、もう一度……クロード」
「ん?」
「ん――」
今度は確かめるように。
先ほどは悲しみが襲いかかってきた。
でも、今は。嬉しさが込み上げてくる。
込み上げてきたものは、そのまま涙として流れる。
―――嬉し涙、として。
最終更新:2009年06月22日 02:15