「貴方が嫉妬してくれるのは嬉しいですけど…… 私が嫉妬したら嬉しい?」
「今のセレナは可愛いが…… 沙羅と会った時少し怒ってただろ。……嬉しいけどな」
「ちょっとだけ。貴方に抱きついてたのを見て、悔しくて…… 痛かったです」
「……嫌いになったか?」
昼間の事を思い出していたのか下を向き少し悲しげな顔を。
好きな男性が他の女性とくっついてたら怒るものを、微笑みで返す。
「いいえ。じゃなきゃ今こうしてませんよ?」
「……そうか。今後続くぞ? 嫌になったら何時で――」
セレナの人指し指がそれ以上言わないで、と言うかのようにクロードの口を塞ぐ。
「約束、守ってくれるんでしょ?」
「っ…… あぁ、女性との約束は守るとも。それが好きな人との約束なら尚更な」
「なら…… いつまでも貴方の傍に」
ソファーに座ってるクロードの隣に座り、もたれかかる。
「……いい子だ」
「良い子じゃありません。我儘な悪い子ですよ。沙羅ちゃんとかの前だと。貴方と二人っきりだともっと」
「でも僕の我儘よりマシだろう?」
「ふふっ…… そうかもしれません。でも、お互い様です」
「……」
「どうかしました……? ……ご主人様」
セレナの優しさと微笑みに、普段と違う表情が出てしまった。それを見たセレナはクロードを貴方からご主人様に。
クロードがそう呼ばれるのが好きなのもあるのだけども、そう呼んでると安心できたのだ。
「……いや」
軽くあしらってるが、クロードの中では複雑な気持である。明らかに間違ってる事をしている、それをわかっている。
普通信じてた男が浮気なんてしたら、喧嘩。悪ければ別れるほどなのだが。
私も貴方の傍に居たいです。こうしていられるのなら、何でも応えます。
ただ、一つお願いが。
……貴方から好きなるのは、私だけにして下さい。そう思われてさえいれば、何でも我慢できそうですから。
セレナがクロードと交わした約束。美女好きのクロードが女性に手を出そうとすると殴られるのはこの為のようで。
いつもと違う弱気なクロードをセレナはぎゅっと後ろから抱きしめる。
「間違ってるのは自分でもわかってる……セレナに甘え過ぎだな。すまん。……どうすればよかったんだろうな」
「……私が良いって言ってるんですから、これで良いんです。沙羅ちゃんもそれで良いって言ってるんですから」
クロードの耳元で語り続けるセレナ。
「貴方は…… 貴方は、優しすぎます…… 嫌いじゃないですよ?むしろ良い事です。今悩んでるのも、私の為。あの時断らなかったのは沙羅ちゃんの為。……沙羅ちゃんもわかってると思いますよ。私がいるのにOKするなんて、って」
「……すまん」
落ち込んだクロードを慰めるように、ぽてっとセレナの手がクロードの頭に。そして撫で撫で。普段ならそんな事恥ずかしがるが、今はそのまま甘えてしまう。そんな気分。
「今のご主人様、可愛いですよ」
「はっ……可愛いなぁ。似合わなさ過ぎる」
こんな所を折原や白百合に見られたら茶化されそうだ。普段の女性相手の紳士か、一部相手の俺様か、それとも今が素のクロードなのか。
……そのクロードを、人形を抱くがの如く。セレナのちょっと目が可愛い物を見つけた時の目に。
「そんな事は……普段とは逆で……ギャップが……」
「そう、か」
「へ?」
そのままセレナをソファーに押し倒し、胸元に蹲る。良い匂いと柔らかさを感じられる。
セレナも子供を抱くかのように優しく手で包み込む。
「御主人様…… 私や沙羅ちゃんの為を思うなら、悩まないでください。悩んでる貴方は可愛いけど、やっぱり物足りないんです」
「物足りない?」
先程まで、優しい母親のような雰囲気だったはずなのだが、いつの間にか顔は赤くなっており。
「わ、私は…… ドSなクロードが好きなんです。きっと、沙羅ちゃんも。……だから、ね? 悩まないで下さい。『僕を好きになる女性はみんな幸せにしてやる』っていつもみたいに笑ってください……」
「ドSなぁ、くくっ…… わかった。美人のお願いは聞かないとな。……ありがとう」
普段通りのクロードに戻る。常に自信満々、自己中心的、美女好きの、クロードに。
「いえ。な、悩んでないか、試させていただいても…… いいですか?……ご主人、様」
胸元で甘えるように寝ていたクロードが、のそっと枕元へ。視線がほぼ同じになる。瞳がゆっくりと近づいていき、隣へ。
「あぁ。たっぷりいじめてやる。泣いても止めないからな」
そう、耳元で囁かれる。
「っ……はい。お願い……しまひゅ……ひゃっ!?んっ……んっ……ふぁ、ぁ……」
この状態になると、触れられるだけで反応してしまう。衣服越しから、直に。そう触れるに従って鼓動が速くなり、息も荒くなる。
反応してしまう度に、少し疲れるけど嫌じゃなかった。むしろもっと触ってほしい、そう思ってるからか自然と体を寄せてしまう。
離れたくない、何があっても離れたくない。
ずっと、ずっと、こうしていたい。
いつまでも、貴方の、下で。
私の、ご主人様。
最終更新:2009年06月22日 02:13