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受け継がれる技」(2009/04/14 (火) 22:22:46) の最新版変更点

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*押し入れと鉈女 「うわああああああ!!!」 俺は持っていたカバンも放り出して、無我夢中で走り出す。 ちくしょう、勘弁してくれ! 俺が一体何をしたっていうんだ。 俺はただ、こんな夜中に道端にしゃがみこんで泣いている 女の子が心配で声をかけただけだって言うのに!! 萎えそうな足腰を奮い立たせて、真っ暗な坂道を駆け上がる。 足を止めたその瞬間、さっきの化け物に追いつかれそうな気がする。 「だれか―――誰か、助けてくれ!」 視界に、突然ほのかな灯りが飛び込んでくる。 見ると、それは古風な屋台の蕎麦屋の灯りだった。 人がいる!助かった!! 俺は息も絶え絶えになりながら、その蕎麦屋に駆け込んだ。 「たっ、助けてくれ! 化け物を見たんだ!!」 取り乱す俺とは対照的に、背を向けた屋台の主人は至極冷静に、 「なんです、やぶからぼうに。一体何を見たって言うんですか」 と答えた。 「みみみ見たって、そりゃ、化けモンだよ!!  信じられねーかもしんねえが、アレだホラ、  顔が、顔がっ」 必死に説明しようとするが、舌がうまく回ってくれない。 「顔がどうかしたんですか?  ………お客さん、もしかしてその化け物というのは―――」 主人がゆるり、とこちらへ振り返る。 「こんな顔じゃなかったのですか―――」 そういう主人の顔は。 「………違ぇ」 「は?」 「違ぇよ! アンタみたいな別嬪さんな顔じゃなくて!  なんていうのホラ、ほらアレだよアレ!  顔が、ていうか目も口も鼻も無い女が道端にさぁ!!」 「ちょ、ちょっと待ってよ。  よく見なさいよ、あたしもそうでしょ!?  なんでアンタ全然驚かないのよ!!」 「だから何言ってんだよ、  アンタにはめちゃくちゃ奇麗な顔がきちんとあるじゃねーか!」 「は―――!?  うそ、あたしもしかしてのっぺらぼうになってない!?」 「そうそれだのっぺらぼう!  ………ていうか、ホントにアンタ奇麗だな。  ああ、なんか落ち着いてきた。  電話番号、教えてくんねえ? めっちゃタイプだわアンタ」 「ききき、奇麗ってやだそんな急にそんなこといわれても!  携帯だって持ってないし困るじゃない―――!」 真っ赤になって身をよじらせる蕎麦屋の女主人。 そこに、雷鳴のような怒鳴り声が響き渡った。 「くぉらぁぁーーーー!!アンタはまた失敗してーーー!!」 「ふぇ? あ、や、きゃああごめんなさいーーーー!!」 「うぇ? う、あ、どわああああああああーーーー!!」 後ろを振り返ると、そこに立っていたのはさっきの道端の女だった! 絶叫しながら腰を抜かす俺と女主人。 女は俺に目もくれず、女主人を引っつかんでずるずると引きずっていく。 「せっかく私が盛り上げたのに、また性懲りもなく失敗したね!?  のっぺらぼうぐらい化けられないのかい、ご先祖様に申し訳がたたないよ!!  しかもアンタはいっつもいっつも標的に口説かれていいご身分だね!?  今日はみっちりお仕置きしてやるから覚悟しときなよ!!」 「いやあああああ、ごめんなさいお母様あああああああ」 ずるずる、ずるずる。 ああ、のっぺらぼうに女主人がひきずられていく。 これは現実の光景なんだろうか。 ひきずられながらも、女主人はビシッと俺を指差して、 「あ、アンタのせいなんだからねぇ!次は覚えときなさいよぉ!!」 「ムダ口叩くんじゃないよこの無能娘っ!!」 「ひええええええ、かんにんしてええええええ」 そんなことをわめき散らしながら、二人は夜の闇に消えていった。 気づけばあたりは真っ暗で、蕎麦屋の屋台も灯りも見当たらない。 ただ、坂の下に置いてきたはずの俺のカバンが、転がっていた。 END ----
*受け継がれる技 「うわああああああ!!!」 俺は持っていたカバンも放り出して、無我夢中で走り出す。 ちくしょう、勘弁してくれ! 俺が一体何をしたっていうんだ。 俺はただ、こんな夜中に道端にしゃがみこんで泣いている 女の子が心配で声をかけただけだって言うのに!! 萎えそうな足腰を奮い立たせて、真っ暗な坂道を駆け上がる。 足を止めたその瞬間、さっきの化け物に追いつかれそうな気がする。 「だれか―――誰か、助けてくれ!」 視界に、突然ほのかな灯りが飛び込んでくる。 見ると、それは古風な屋台の蕎麦屋の灯りだった。 人がいる!助かった!! 俺は息も絶え絶えになりながら、その蕎麦屋に駆け込んだ。 「たっ、助けてくれ! 化け物を見たんだ!!」 取り乱す俺とは対照的に、背を向けた屋台の主人は至極冷静に、 「なんです、やぶからぼうに。一体何を見たって言うんですか」 と答えた。 「みみみ見たって、そりゃ、化けモンだよ!!  信じられねーかもしんねえが、アレだホラ、  顔が、顔がっ」 必死に説明しようとするが、舌がうまく回ってくれない。 「顔がどうかしたんですか?  ………お客さん、もしかしてその化け物というのは―――」 主人がゆるり、とこちらへ振り返る。 「こんな顔じゃなかったのですか―――」 そういう主人の顔は。 「………違ぇ」 「は?」 「違ぇよ! アンタみたいな別嬪さんな顔じゃなくて!  なんていうのホラ、ほらアレだよアレ!  顔が、ていうか目も口も鼻も無い女が道端にさぁ!!」 「ちょ、ちょっと待ってよ。  よく見なさいよ、あたしもそうでしょ!?  なんでアンタ全然驚かないのよ!!」 「だから何言ってんだよ、  アンタにはめちゃくちゃ奇麗な顔がきちんとあるじゃねーか!」 「は―――!?  うそ、あたしもしかしてのっぺらぼうになってない!?」 「そうそれだのっぺらぼう!  ………ていうか、ホントにアンタ奇麗だな。  ああ、なんか落ち着いてきた。  電話番号、教えてくんねえ? めっちゃタイプだわアンタ」 「ききき、奇麗ってやだそんな急にそんなこといわれても!  携帯だって持ってないし困るじゃない―――!」 真っ赤になって身をよじらせる蕎麦屋の女主人。 そこに、雷鳴のような怒鳴り声が響き渡った。 「くぉらぁぁーーーー!!アンタはまた失敗してーーー!!」 「ふぇ? あ、や、きゃああごめんなさいーーーー!!」 「うぇ? う、あ、どわああああああああーーーー!!」 後ろを振り返ると、そこに立っていたのはさっきの道端の女だった! 絶叫しながら腰を抜かす俺と女主人。 女は俺に目もくれず、女主人を引っつかんでずるずると引きずっていく。 「せっかく私が盛り上げたのに、また性懲りもなく失敗したね!?  のっぺらぼうぐらい化けられないのかい、ご先祖様に申し訳がたたないよ!!  しかもアンタはいっつもいっつも標的に口説かれていいご身分だね!?  今日はみっちりお仕置きしてやるから覚悟しときなよ!!」 「いやあああああ、ごめんなさいお母様あああああああ」 ずるずる、ずるずる。 ああ、のっぺらぼうに女主人がひきずられていく。 これは現実の光景なんだろうか。 ひきずられながらも、女主人はビシッと俺を指差して、 「あ、アンタのせいなんだからねぇ!次は覚えときなさいよぉ!!」 「ムダ口叩くんじゃないよこの無能娘っ!!」 「ひええええええ、かんにんしてええええええ」 そんなことをわめき散らしながら、二人は夜の闇に消えていった。 気づけばあたりは真っ暗で、蕎麦屋の屋台も灯りも見当たらない。 ただ、坂の下に置いてきたはずの俺のカバンが、転がっていた。 END ----

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