一人暮らしの僕は、さみしさからハムスターを飼っていた。
僕の本当に大切な心の拠り所だった。
よく懐いてくれて、手から喜んでエサを食べた。
嬉しかった。

だけど、学校の帰り道・・・・僕は信号無視の車にはねられ
病院に担ぎ込まれてしまったらしい。

らしいというのは、一月意識がなかったからだ。
気がついた僕は一月後だった。泣いている両親の顔を見上げ・・・
はっと気づいた。
ハムスターは・・・一月もほったらかしてしまった!

それから三日後、僕はアパートに帰る許可を貰った。
両親が付き添うといったが、田舎から出てきていたし、仕事や妹もいる。
帰らせた。なにより・・・ハムスターの埋葬の道のりなんだ。
一人でいたかった。

「・・・ただいま」
誰に言うともなく、部屋に入ると
「ちょっ・・・何やってたのっ?!あきれたわよっ」
という返事が。驚きながらも部屋を見ると、出掛けに散らかっていた部屋は
綺麗に整理され、なにより・・・
ハムスターも元気にこちらを見ていた。
「・・・ふん。貴方のためじゃなくて・・・ハムスターがかわいそうだから」
声はするけど、姿はどこにもない。
でも・・・こちらを見てわさわさと動くハムスターは元気なままだ。
ゲージの中も綺麗に清掃されていた。
「・・・・ありがとう」
「な・・・勘違いしないでよねっ」

ただ・・・ハムスターは一月の間に飼い主を完璧に取り違えていて、僕を忘れていた

噂には聞いていた。
このアパートが安いのは、でるからだって。
でも僕はそういう感覚がなかったし、出るなら出るでいいと思っていた。
寂しくないから・・・・

でも。今は2重の寂しさを味わっている。
僕が寝ている間。学校に行っている間に、ハムスターはエサを食べ、掃除も
されている。僕がゲージを覗き込むと巣に隠れてしまったりした。

「・・・・どうして」
ポツリとつぶやいたとき、誰もいない部屋。僕の背後から声がした
「・・・な、ならっあたしを世話すれば、いいじゃないっ」
「え・・・?」
「だっだからっあたしがハムスターを世話するから貴方がわたしを世話するのっバカね」
      • 姿も見えない。僕はあの日以来おかしくなってしまったのだろうか。
「・・・その・・・悪かったかなって思ってるのよっでもでも、あのままなら死んじゃってたし」
「うん。ありがとう。世話してくれて・・・でも、君を世話って・・・どうすればいいんだろう」
おかしな話だが、僕は新たな拠り所が欲しかったのかも知れない。
「ふんっ・・・自分で考えなさいよっそれくらい」
さっきまでの弱気なトーンから、一転して何か弾む声が響いた。
僕は新たな世話をしなければいけないらしい。たぶん・・・出るといわれていたものの。

早速僕は、塩を持ってみたのだが、夜中えらい剣幕で起こされた。
「あ・・・あんたバカッ?!それともわたしをお祓いしたい訳っ?!」

塩はダメらしい。ひまわりの種もダメだったし。前途は多難だ

同じクラスに、いわゆる霊感少女がいる。
普段は会話もないんだけど、僕は途方に暮れていたので彼女に
相談してみた。彼女は僕の斜め後ろを見やり
「・・・なるほどね。じゃ、耳貸して」
と顔を寄せてきた。耳打ちというやつだが、ドギマギしてると
やっぱり斜め後ろを見つつ、ニヤッと笑い
「・・・早く。・・・ふふっ怒ってるよ?」
といった。斜め後ろにいるのだろうか?ハムスターの世話もせず。

彼女から聞いた知恵を持ち、僕はコンビニでワンカップを買って帰った。
身分証を見せ、親に買って帰るんだとなんとか説き伏せて買ったんだ。
お神酒というらしい。これを部屋に置けばいいとの事だった。

半分封を切り、巣から出てこないハムスターに寂しく思いつつも就寝した。
今日は・・・・黙ったままだったな・・・・・

「ちょっとぉーっ起きなさいよぉーっもぅーっっ」
夜半。午前2時頃、いつのも声で僕は起こされた。
心なしかろれつが回っていないような?
「・・・なに・・・どうしたの?」
「どしたのじゃ・・・ないわよぉっなんなのあの娘はぁー・・・ふぃー」
真っ暗な部屋の中、半身を起こした僕の目の前から声がする。
心なしか酒臭いような感じさえした。
ハムスターの回す回し車のカラカラという音が響いている。
「なんなの・・・って。相談したんだよ、君の世話について」
どぎまぎしながら答えると、ため息のような音がした。
「・・・・考えなさいよぉ・・もぅーっもぅーっっ・・なによもぅーっっ」

翌日。お神酒として置いておいたワンカップは空になっていた。
次は自分で考えよう。右斜め後ろに僕は目を送り、うなづいて部屋を出た

それからしばらくして、僕はインフルエンザで寝込む事になった。
一人暮らしで寝込むのはとても辛い。
病院にも行けず、とりあえずありもので食べつなぎ、衣服もあるのを
着替えて昏睡するかのように寝ていた。
ただ・・・例の声の主が汗で汚れた服を洗濯してくれ、額に濡れたタオルを
あてがってくれていた。
「・・・・ありがとう・・・・」
痛む喉でかすれた声を出し、独り言のようだけどお礼をいうと
「ふ・・ふん。わたしがとり殺すならともかく、風邪で死なれちゃ困るからよっ」
といった。だが何か声が嬉しそうだったのは、気のせいだろうか・・・。

一週間後、お陰様で。本当にお陰様で僕は元気になった。
うちにないはずの桃の缶詰とかが枕元にあったりと、本当に世話になった。
「ありがとう。助かったよ」
いつものように僕は見えない相手にお礼をいった。
そしてふと・・・ハムスターのゲージを見やった。こいつにも心配をかけ・・・
ゲージは荒れ放題で、掃除はおろかエサも満足にやっていなかったようだ。
「な・・・何やってるんだっ?」
思わず声を荒げると、台所の方から声がした。
「え・・・っ?あ、起きたんだ。なっ何よっ」
「僕はハムスターの世話を君に託していたはずだよっどうしてこんななんだっ」
「な・・・・なーっなんですってーっっ」

その後二日口を聞いていない。思えば僕が悪かったような気もする。
ゲージはその後綺麗になり、ハムスターも元気だ。
最終更新:2007年05月01日 03:58