アットウィキロゴ
           終わった。

俺は生徒会だから当然卒業式にはそれなりの立場で関わる必要があった。
司会を俺は担当していたがなんだ?感動も何もない。
ま、当事者の3年でもなければ送辞を読むわけでもない。会計なんだからしょうがない。
6クラス240人、退学者もいれば留年者もいるわけだ。俺には関係ないけどな。
何事にも中途半端に位置する俺は他の奴等と一緒に3年が座っていたパイプ椅子を片付ける。
めんどくさい。3年も教室で使っている椅子使えよ。
5組の一番最後、40人目の椅子を片付けようとした。

「すいません、どいてくれますか?」

あきれた。まだ感傷に浸ってる奴がいるのか。邪魔だ。
彼女は悲しそうな目で式台を見つめていた。5のマークの組章がきらりと光る。

「あの・・・・すいません」
「・・・・チィ」

彼女は舌打ちをすると体育館の隅に行った。糞アマめ。式台を見る目と俺を見る目が明らかに違う。
片付けが終わるといつものように軽く反省会。顧問は同じことしか言わない。
 "来年はお前らも" そんなこと入学した時からわかっている。
反省会が終わり体育館を出ようとした。隅っこに目を向けると彼女はまだいた。
おい、もうどこのクラスでも最後のHRやってるんだぞ。すこしは現実を見ろ。別れだ。
ここまでくると余計なお世話の一つや二つしたくなる。

「悪い、ちょっと先行ってろ。」

他の役員に伝える。俺は大またで彼女の所へ向かう。

「あの・・・・先輩、そろそろHR行った方がいいんじゃないですか?」

どうせ今日限りなんだ。どう話かけようが関係ない。
彼女はまだ式台を見ている。眼中に俺の姿はないようだ。現実へ背中を押す必要があるようだ。
彼女の前に立ち訴えかける。

「先輩、卒業式は終わりました。教室へ行ってください。みんな待ってますよ。」
「 邪 魔 よ、どきなさい。」

肩を掴まれてはらわれた。どうやら動く気はないみたいだ。
ったく担任はなにしてんだ。ここにまだ一人いるのに。仮に彼女が留年だとしても迎えに来いよ。
もうかまってられるか。勝手にしろ。帰る。俺もHRがあるんだ。
生徒会を言い訳にすれば遅れたことぐらい簡単に誤魔化せる。

「・・・・早く戻ってくださいね。」

俺は体育館を後にした。

HRが終わって俺は生徒会室に向かう途中3年5組の担任に会った。
生徒会をやっていれば先生ぐらい覚えるし向こうだって俺のことを覚える。

「こんにちわー」
「こんにちは」
「先生のクラスも大変ですねぇ、一人足りないままHRやっちゃって。迎えに行ってあげれば
 よかったじゃないですか。多分この調子だと先輩、まだ体育館にいますよぉ。」
「いや、俺のクラスは全員揃って感動のフィナーレを迎えることができたぞ?違うクラスと
 間違ってないか?」
「んぁ?でも先生のクラスの組章付けてましたよ?」
「それ多分一年か二年と間違えたんだろ?とりあえず二次試験合格者の会議があるからあとでな」
「あっ、さよならー」

腑に落ちない、彼女は3年だ。靴の色だって3年と同じだったし、なにしろあの席に座っていたんだ。
まだいるだろうか?信じられない自分をたまには信じてみることにした。足は自然と体育館に伸びる。
いた、こんどは式台の上に立っている。遠くから見てもわかる。悲しい目をしている。

「先輩っ!!」

まただ、軽蔑するような視線。冷たい。
しかし俺のことは覚えててくれてるみたいだ。

「なに?またあなた。しつこいわ。」
「失礼ですけど・・・・先輩ってどこのクラスですか?」
「それがあなたに何か関係が?」
「いえ、特に何も・・・・ないです。」
「答える義務はないわけね。帰ってちょうだい。」
「先輩3年5組の生徒ですよね。でもさっき担任に」
「いいかげんしつこいわ。邪魔よ帰って。」

冷たいそんな印象しかなかったが一つだけヒントを見つけた。靴に苗字が書いてある。

「木崎木崎・・・・・・」

俺は生徒会室に戻り生徒名簿で彼女、木崎さんを調べていた。

            ない。

1年、2年、3年、全て該当なし。やっぱりおかしい。
カラカラ、顧問が来たようだ。聞く価値は少なくともある。

「先生、木崎っていう生徒しってますか?」
「ああ木崎か、木崎はな ――」


「先輩、まだいたんですか?」

やはり式台の上にいた。

「いたらなんなの?あなただっていいるじゃない。うっとおしい。」
「先輩、死んでるんですってね。6年前に。」
「だったらなんなの?死んでたらあなたと何か関係あるの?」
「卒業おめでとうございます。」

俺は先輩に卒業証書を渡す。生徒会室には何も書いてない賞状や証書がある。
それをちょっと拝借、パソコンのプリンターで印刷させてもらった。

「家族が証書もらっても実感ないでしょ?自分がもらったほうがいいですもんね。」

本物ではない卒業証書をまじまじと見つめる先輩の目から涙が流れてきた。
まるで何年も涙を忘れていたようだ。

「うっ、ぅっ、ぅぁああああああぁぁ」

口を大きく開けて泣きはじめた。今まで溜まっていたものを全て流すように。
その姿は幼い子供が泣きじゃくる姿に似ていた。

「ぁあっ、っぅうっ、うっぅ」

泣き止む様子もなく何をしていいかわからない俺はその場で立ち尽くしていた。

何分経っただろうか彼女は泣き止み式台の階段に座り話してくれた。
自分の胸中の悲しみ、不安、期待、希望、その全て。

「私さ、ベタなこと言うけど看護婦さんになりたかったんだぁ。」
「安定した給料・・・・・いいですねぇ。」
「フフッ、もう無理なんだけどね。」
「・・・・・・・・・・」

なんとも言えない、彼女の人生は18歳で止まっているんだ。自分の事でもないのに悲しくなる。

「そんな暗い顔しないでよ。私だって暗くなるじゃない。」

なんで彼女はこんなにも明るくなれるんだろう。死んでるのに。

「先輩、明るいですね。」
「だって嬉しいじゃない、私とうとう卒業したのよ。」
「でも先輩は」
「"でも"じゃないの。死んじゃったのはしょうがないでしょ?そっちのことはもう解決したから。
 あとは卒業したいって思っていたけど・・・・・・・今日したから。思い残す事、ないかな。」
「じゃあ、その、しちゃうんですか?成仏?」
「今日あたりするかもね。よかった。あなたみたいな人がいて。」

彼女はうつむいているが本当に嬉しそうだ。彼女がいくのならば見送ろう。ここまでしたんだ。
義務がある。

「そうですか。ならば見送らせてくださいよ。ちょっと興味があるし。」
「別にいいよ。でもいつだか私にもわからないんだ。だから余所見しないほうがいよ。
 いついなくなるかわからないからね。」
「不安になること言わないでくださいよ。」

不安だから俺は話し続けた。いついなくなるかわからないから。
突然彼女は人差し指を突き出してきた。俺はトンボのようにそれを目で追う。
彼女の右指を追う俺は完全に左を向いた。

唇であろう彼女の一部が俺の右の頬に触れた。

「ちょ!!先ぱ・・・・・い?」

どうやらいついくかわかっていたようだ。

           これで第56回、卒業式を閉会します。

去年の卒業式からちょうど一年。今度は俺が卒業した。泣きはしなかったが胸に息苦しい感覚がある。
やはり感動は当人しかわからないものがある。去年感動しなかった俺が感動してるんだ。

「おまえ達はこの3年間 ――」

担任が語る最中俺は去年の俺になっていた。

死んだ先輩に会って、卒業証書を渡して、泣かれて、キスされて、帰った。

どうしてこんなことしたんだろうと今でも思う。見ず知らずの死んでいる先輩にあそこまで
したんだろうと。俺じゃなくてもよかったのではないか。誰でもいいんじゃないか、と。
担任の話が終わると同時に今の自分に戻る。どうやらさよならの時間だそうだ。

「3年間ありがとうございました!」

ルーム長の合図に俺も合わせる。そのあと一気に友人が数人集まってくる。

「最後ぐらい一緒に帰ろうぜ。」
「今日は打ち上げいきますかぁ?」

「悪い、ちょっと先行ってて。すぐ追いつくから」

結局俺は体育館に向かった。彼女に、先輩に会うために。
しかし誰もいない。そうだ、彼女はとっくに卒業したのだ。いるわけない。
最後ぐらい話がしたかった。この一年の話を聞いてほしかった。でもいないんだ。

俺は先に行ってる友人の元へ向かった。この校門をくぐるのも最後だ。桜が咲いてる。


            「卒業おめでとう」


最後の一歩と同時に聞こえたたった一言。

「先輩!?」

そうか待っててくれたんだ。待たせてごめん、先輩。
先輩に証書を渡した理由はわからない。誰でもよかったかもしれない。
だけど俺が選ばれた。だからそうしただけなんだろうな。
深く考えるのはやめた。俺、中途半端だから。



         俺は最初の一歩を先輩と踏み出した。
最終更新:2007年11月06日 18:11