男『なァ、いつまでここに居るんだよ』
霊『………オマエガシヌマデサ』
男は深いため息と共にうなだれた。
事の始まりは三日前。友達とノリで行った心霊スポットで、見事に憑かれてしまったのだ。
声しか聞こえない相手は不気味ではあるが、特にこれといった実害が無い為に
イマイチ恐さが無く慣れてしまっていた。
男『随分と気の長い話だなオイ。そうだ、お前姿現せられないのか?』
霊『…?』
男『退屈だしさ。どうせ死ぬまで憑くっつーなら、俺も顔ぐらい知っておくべきだろ?』
霊『デキル……オマエカワッテル。コワクナイノカ?』
数秒ほど間を開けて答えた霊。わずかに戸惑ったように男に尋ねた。
男『いや、何されてるってワケじゃないしさ。物とか触れるのか?ゲーム付き合えよ』
そう言って男はテレビ台の下からゲーム機を取り出した。
霊『タブン……デモ、ヤッタコトガナイ』
男『んじゃ覚えろよ。教えてやるからさ。結構面白いんだぜ?さ、姿見せろよ』
霊『ウン………』
おずおずと言う返事が聞こえるや否や、男の目の前に白いモヤが発生した。
そのモヤは段々と濃くなり、人間の形を帯びてくる。
男『おぉっ!SFみてーだな!』
さすがに驚きながらも感動の声を上げる男。
そして、ついに霊はその姿を現した!
霊『どうだ?見えるか?』
そう言って手足を確認する霊。
黒い髪は肩まで伸び、白く透き通るような肌(実際僅かに向こうが見える)。
パッチリと大きな瞳の女幽霊が現れた。
霊『どうだ?』
それまでの声はくぐもっていてわからなかったが、今は完全に普通の女の声だった。
男『見えるぞ!おまえスゴいなー。こうして見ると普通の人間と変わらないじゃん』
霊『そ、そうか?』
感心して言う男に圧倒され、霊は戸惑いながら答えた。
男はそんな霊をまじまじと見て口を開く。
男『女幽霊か……しかも結構可愛くないか?』
霊『なっ!何を言ってるのだ!』
男の発言に白い肌を紅潮させ、慌てて怒鳴る霊。
男『だって幽霊らしいって言うよりも、普通の可愛い女のコって感じだし』
霊『え?あ、あーっと………うらめしや~』
男『古ッ!』
男は霊が苦し紛れに出した【幽霊らしさ】に突っ込みを入れた。
霊もさすがにハズしたのがわかったのか、さらに顔を紅くして俯いてしまった。
幽霊としての尊厳を傷つけられてショックだったのか、唇を噛み締めて目には涙を
浮かべている。
男はその様子を見てさすがに慌て、バツが悪くなったのか台所に移動した。
男『な、なんか飲むか?お茶で良いか?』
霊『…………』
霊からの返事は無く、男は頭をポリポリと掻いて茶を煎れた。
霊『わ、私は幽霊だぞ!それを可愛いなどと……』
ようやく少し落ち着いたのか、霊が強い口調で台所にいる男に言った。
男『悪かったよ。だって可愛いと思ったからさ。可愛いって言われんの……嫌いか?』
男は台所から戻り、自分と霊の前に茶の入った湯飲みをそっと置いて言った。
すると霊は俯いたままの紅い顔をプイっと横に逸らし、震える唇を動かす。
霊『私は幽霊なんだぞ……でも、嬉しくない訳じゃ…ない』
最終更新:2008年01月03日 06:10